諸外国では、国際情勢の変化や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延などを「経済社会の在り方を見直す契機」として捉え、政府や企業の役割を変化させようとしています。
例えば、政府の役割についてみると、成長戦略が中心であった時代を経て、「成長と分配の両立」が重視されるようになりました。
その結果、「経済的・社会的格差を可能な限り縮小する」という命題を前提としたうえで、成長を実現するための「国家的投資」の重要性が高まっています。加えて、外交や経済安全保障を通じ、「国益を保護」する必要性も増しています。
他方、企業の役割としては、これまで担ってきたような、雇用保障や賃上げを通じた分配といった経済的機能に加えて、SDGsへの貢献や社会単位での人材育成など、社会的な機能が一層重視されています。
そして、社会的機能は個社だけで取り組むものではないことから、産業単位での取り組みや産業を越えたつながりの必要性が高まっています。
本レポートでは、諸外国が抱えている社会課題やそれにアプローチするための政策方針を概観し、産業政策の機軸となっている考え方について考察します。
本レポートをお読みいただくことで、政府や企業の役割の変化に加えて、政策対象のスコープが産業だけにとどまらず、「企業」や「家計」まで含まれる動向を把握できます。また、「経済的領域」だけでなく、「社会的領域」にもアプローチの範囲を拡大する傾向を見て取れるでしょう。
詳しくは、下部にある無料ダウンロードのPDFをご一読いただければと思いますが、ここでは諸外国の動向を簡単に紹介します。
米国
「過度な自由市場依存による貧富の格差拡大(勝者総取りの経済構造)」という社会課題を受けて、「企業を介した間接分配と政府の直接分配の両立による中間層の拡大」というビジョンを実現するための産業政策が展開されています。
英国
「ロンドン一極集中による都市と地方格差の拡大」という社会課題に対し、「地方活性化などを通じた国全体での生産性向上」をビジョンとして掲げ、産業政策を展開しています。
ドイツ
「デジタル化の遅れとそれに伴う成長産業の育成」が社会課題となっていることから、「デジタル化の推進による付加価値の向上とサステナビリティの両立」というビジョンを実現するための産業政策を行っています。
フランス
「若年層の就業率の低さおよび全年齢を通じた失業率の高さ」が社会課題であるため、「ナショナル・チャンピオン中心の経済への回帰を通じた雇用環境の改善」をビジョンとし、これに資する産業政策を展開しています。
これらの諸外国における産業政策の動向の概観を通じ、本レポートでは今後日本における新たな産業政策の在り方に必要な3つのポイントをまとめています。
1. 「分配にかかる企業の役割」
現在日本では「賃上げ税制」のように、「企業を介した分配」が前提となっていますが、諸外国の動向をみると、企業を介さない「分配」の在り方について、その政策オプションの充実が重要であることがわかります。
2. 「大規模な産業政策における力点の在り方」
近年では、諸外国において大規模な財政出動を伴う産業政策が展開されていますが、それらは単純な「企業支援策」ではなく、地域や個の多様性を維持するための中長期的な投資と位置づけられて展開されています。
3. 「公平と公正」
諸外国の分配政策の考え方は、「課題領域に対し、ミッション志向で、コミュニティを豊かにする複数の政策オプションを実行し、結果として、『公正』な分配政策となっている」というものでした。この流れの中で、今後日本でも公平から公正へのシフトが生じる可能性があると考えられます。
本レポートを通じ、諸外国の産業政策の動向を踏まえた企業の意思決定や政策の立案に役立てていただければ幸いです。