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近年、国際的な潮流として、大学のあり方が大きく変化しています。大学は、知的財産の社会実装に向けて、多様なステークホルダーと資源の共有を伴う関係性を深めていくことが求められており、大学内に閉じた研究者の集合体といったイメージから、イノベーションの起点としての存在となってきています。
科学技術・イノベーションの進展は経済成長にとって不可欠なものであり、産学官での共創の促進は、日本においても長らく重要なテーマとなってきました。同時に、2004年には国立大学法人化がなされ、競争的資金獲得の重要性が増すなど、高等教育政策においても、大学を巡る重要な制度改正が行われてきました。
大学の変容は、産業の高度化や経済社会の複雑性の増大により、イノベーションのあり方が変化していることにも起因しています。2000年代以降に社会を一変させた大学発のITやバイオ系技術などの破壊的イノベーションは、知的財産権によってある種独占的な事業を構築しており、旧来の日本企業の成長を支えてきた連続的イノベーションとは大きく異なる考え方と事業構造を備えています。日本においては、大学の研究成果や知的財産の社会実装が十分に達成できているとは言えず、研究論文も量・質ともに低調な状況にあるため、科学技術イノベーションの促進は産学官が共創をもって取り組むべき課題であると言えます。
他方で、大学における知財の商用化に対する忌避感は以前に比べ薄くなり、それとともに、研究ビジネスとしての持続性を実現し、研究領域の卓越性をもって外部資金を獲得する動きやイノベーションに基づく収益源を大学自ら構築する動きが高まっており、確実に変化は起きています。
PwC Japanグループでは2023年の調査レポート「持続可能な地域共創のための産学官連携構築に向けて」において、産学官連携における共創実現のための諸条件を検討し、持続可能なエコシステム創出に向けた体制構築について論じました。続く本稿では、イノベーションのあり方が急速に変化し、同時に大学経営基盤の強化も求められるなか、産学官共創が生み出すイノベーションの観点から国立大学と諸組織の連携のメカニズムについて考察します。
まず、国際的な科学技術・イノベーション政策の動向については、3段階の時期区分で分析されています1(図表1)。世界の政策を見ると、具体的には、戦後から1970年代にかけての第1フェーズでは、基礎研究への投資拡大が科学技術振興へつながる、という考えが主流でした。その後のイノベーション創出は、より複雑な、基礎・応用・開発・生産といった複数のプロセスが相互に連動するナショナル・イノベーション・システムから生まれ、その最適解を実現することが重要だと考えられるようになりました。さらには産業の発展が環境問題や社会格差拡大の誘因となるなか、現在はEUの研究・イノベーション枠組みプログラム「HorizonEurope」に代表されるように、科学技術イノベーション政策自体が、社会課題への対処という、より複合的な視点をも含むようになってきています。
一方で、日本では、これらの潮流と必ずしも同期してフレームが変化してきたわけではありません。日本では、1995年に科学技術基本法が制定され、1999年には政府の委託研究開発成果について、参加企業や研究機関が権利を保有することを認めた日本版バイドール制度2が制定されるなど、科学技術の振興や大学知財の社会実装を進展させる動きが見られました。科学技術・イノベーション政策としては、これらが起点となります。日本の第2フェーズに関しては2000年代後半から開始したとされていますが、この時期に国際的には、社会的インパクトの受け手である受益者視点も包含した第3フェーズが始まっています。
現在進行中の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」においては、第3フェーズとしての人文社会科学が振興対象となるところまで議論が進んでいます。しかし日本の研究大学が置かれている環境は、欧州や米国の環境に比べ政策的な遅れが影響している面も存在しており、産学官それぞれが責任と役割をもって共創に取り組むことがより一層重要であると言えるでしょう。
科学技術・イノベーション政策が社会情勢や産業が置かれる環境によって変化するなか、特に米国においては2000年頃までに、バイオ・医療分野の民間企業が大学の知財や研究開発、事業PoC等を通した協働の過程で、大学の財政面に大きな影響を与えています。それに伴い、大学は人材育成と知的財産の創出にあたり、自立的に経営を行う研究ビジネスとしての持続可能性を獲得しています。また、米国社会では大学はイノベーションが生まれる知の創出拠点であって、大学への連邦政府や産業界からの投資は次の新しいイノベーションへの期待としての意味を持ち、大学には資本投資の対象としてリターンが期待されています。この「大学の市場化」の動きは、大学運営に世界的な影響を及ぼしたと言えます。
一方、日本の国立大学においては、2001年、小泉政権下で実施された大学構造改革によって国立大学は「知の集合体」から「知の企業体」への変革を加速させることとなりました(図表2)。2004年の法人化に伴い、教育・研究をビジネスとして行う企業と競合する環境に置かれることとなり、市場化を伴う経営へと組織全体を改革することが求められています。その後は、引き続き高等教育政策の枠組み内で大学の機能分化が進み、第2次安倍政権以降の直近約10年間は、特に科学技術・イノベーション領域の成長戦略と結びついた大学改革が進められています。
2022年には国際卓越研究大学法とその基本方針が定められ、大学ファンドによるトップレベルの研究大学への支援が始まりました。同年、地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージも定められ、地域の中核大学や特定の強みのある大学への支援制度が整えられました。特に国立大学では、卓越的な研究力強化やイノベーション、地域課題の解決といった目的の達成に向かって、自身の大学組織としてのビジョン・ミッションの定義を明確にし、ステークホルダーに対するリーダーシップを発揮することで、大学自身が知と富を生む、国内のプロフィットセンターとしての経営が求められています。
なお、本稿は、九州大学 副理事/学術研究・産学官連携本部 大西晋嗣教授との共著として執筆しました。
1 Johan Schot, W. Edward Steinmueller
FRAMING INNOVATION POLICY FOR TRANSFORMATIVE CHANGE: INNOVATION POLICY 3.0(University of Sussex,2016)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2024/assets/pdf/industry-academia-government-collaboration02.pdf
2 https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/bayh_dole_act.html
これからの日本が対峙する課題解決のためには、産官学の3つのプレイヤーが独立しつつも相互に作用する「産官学連携」が必要です。PwCは解決に向けた手段の構築と、新たな形でのコラボレーションを促進するための「場」づくりを進めます。