2024年DX意識調査 - ITモダナイゼーション編 -

~期待通りのDX成果が出ている企業は全体の41%。「先進」の企業から見えたDX成功のポイント~

サマリー

本レポートでは、ITモダナイゼーションを既存システムのダウンサイジングにとどまらず、「プロセス、人材、組織の視点も含めて、従来の枠を超える抜本的なIT変革」と定義しています。レポート作成に際しては、アジャイル開発、パブリッククラウド、クラウドネイティブ技術の活用状況に応じて、「先進」「準先進」「その他」と3つのカテゴリに分類し、詳細な分析を行いました。

本調査でDXの成果に関して質問したところ、「期待通りもしくはそれ以上」と回答した割合は全体の41%でしたが、「先進」では96%に達しました。また、デジタル人材育成の成果では、「期待通りもしくはそれ以上」の回答割合が全体で13%にとどまる中「先進」では80%に達しており、顕著な差が見られました。「先進」の取り組みを詳細に分析すると、DXの推進にあたって複数部門(DX推進部門、業務部門、IT部門)が連携している割合が89%、システム開発・運用のほぼ全ての役割を自社社員が担当している割合が91%、システム開発・運用における自動化が進んでおり、定期的なシステム運用作業の自動化比率が93%に達しているなどの特徴が見られました。

これらの特徴を踏まえ、DX成功のポイントを探るとともに、今後取り組むべき4つの具体的な施策について提言しています。

はじめに

多くの企業がDXを実践しているにもかかわらず、「思うような成果を挙げられていない」と感じている方は少なくありません。今回の調査でも約60%が「期待通りの効果が出ていない」と回答しています。

技術は大きく進化し、市場の動向も激しく変化していますが、従来のやり方のままでDXを実施し、思うような成果が出ていないケースが見受けられます。このような状態を避けるためには、変化する時代に適した新たなやり方で取り組む必要があります。

例えば、企画から実際のサービス開始まで1年以上かかり、サービスリリース直前で認識齟齬が発覚し、手戻りが発生してしまうケースです。このようなケースでは、業務部門が要件定義を行い、IT部門がそれを受領して外部業者にシステム開発を委託し、IT部門の確認後に業務部門が最終確認するという従来のアプローチを採用しています。この手順では、前工程が終わってから初めて次工程に進むため、プロジェクトが長期間にわたり、また、全ての開発が終わってから最終確認を行うため、認識の齟齬による手戻りや、不要な機能の開発が発生します。

このような状況を避けるために、業務部門とIT部門が一体となったチームを形成し、要件を都度確認しながら小さい規模に開発を分割して、プロジェクトを進めることを推奨します。そして、短いサイクルで業務部門に内容を確認し、その結果を適宜開発に反映するというサイクルを繰り返しながらプロジェクトを推進します。これにより、必要最低限の機能を開発した段階でサービスを立ち上げることが可能になり、コミュニケーションロスが削減されるため、手戻りや不要な機能の開発を最小限にすることができます。

他にも、DXの企画がまとまり、いざパブリッククラウドを活用してシステム開発を開始しようとするも、環境準備に数週間かかってしまうケースも見受けられます。このケースでは、利用者が開発環境構築依頼を申請後、手作業で内容を確認し、セキュリティ確認など従来の社内手続きが必要となり、実際の環境構築作業も手作業で行うなど、従来のオンプレミスにおけるやり方を踏襲していることが多いです。このような手順を踏むと、申請内容を転記する作業、承認待ちの時間、環境構築の際に再度内容を確認するなど無駄な時間と工数が発生してしまいます。その結果、実際に利用者が開発に着手可能な状態になるのに数週間かかるだけでなく、手作業による作業ミスが発生してしまう可能性があります。

このようなケースでは、システム開発環境をテンプレート化した上で、テンプレートに社内で規定されているセキュリティ基準などをあらかじめ設定しておき、申請から環境構築にかかる作業を自動化します。これにより、承認プロセスの簡略化が図れ、開発環境リードタイムを大幅に短縮できるだけでなく、社内規定の確認漏れや作業ミスも防ぐことができます。

このように、従来のやり方を踏襲するのではなく、新しい技術や新たなプロジェクトの進め方の採用、時代遅れになったプロセスを見直すなど、時代に即したやり方に変えることがDX推進において重要です。昨今のDXプロジェクトを見ていると、「デジタル技術を活用して、いかに新たなビジネスやサービスを創出するか」という、「やること」に議論が注力されがちですが、「やり方」自体の見直しも不可欠です(図表1)。

図表1:DXを成功に導く必要な2つの視点

図表1 DXを成功に導く必要な2つの視点

このような背景を踏まえ、本調査では“やり方を変えること”に着目し、ITモダナイゼーション(近代化)の日本における動向に関して考察しています。本レポートではITモダナイゼーションを、既存システムのダウンサイジングにとどまらず、「プロセス、人材、組織の視点も含めて、従来の枠を超えた抜本的なIT変革」と定義しています。

調査は2021年より実施し、今年で4回目となります。Webアンケートを通じて、売上高500億円以上でITモダナイゼーションに関与している企業/組織の課長職以上500名を対象に、2024年9月に調査を実施しました(詳細はAppendix参照)。

分析にあたっては、過去3年間と同様に、「アジャイル開発手法の展開状況」「パブリッククラウドの活用状況」「マイクロサービス、コンテナ、サーバーレスなどのクラウドネイティブ技術の活用状況」の導入度合いで、成熟度を判断しました。これらの活動は、ビジネスが変化した際に迅速に対応できるITの俊敏性や、需要に応じてITリソースを速やかに拡大・縮小できる弾力性に大きく影響を与えるためです。これら3つを全面的に採用している組織を「先進」、部分的ではあるが3つ全てを本番で活用している組織を「準先進」、これらの条件に該当しない組織を「その他」と定義しています(図表2)。

図表2:「ITモダナイゼーション成熟度」の定義

図表2 「ITモダナイゼーション成熟度」の定義

第1章 ITモダナイゼーションは2023年に大きく進展したが、2024年は足踏み状態

回答者全体をITモダナイゼーションの成熟度別に分類すると、「先進」が9%、「準先進」が48%、「その他」が43%という結果になりました。「先進」レベルに達している企業の割合は微増しており、特に「準先進」レベルの企業は2022年から2024年にかけて大幅に増加しています。しかし、2023年と比較すると、「先進」は微増、「準先進」は微減しており、2024年は全体として進展が見られません。また、「その他」の割合が依然として高いことから、多くの企業がまだ初期段階にあることが示されています(図表3)。

図表3:回答者の ITモダナイゼーションの成熟度内訳および過去3年との比較

図表3 回答者の ITモダナイゼーションの成熟度内訳および過去3年との比較

活用が定着し始めたアジャイル開発とクラウドネイティブ技術

ITモダナイゼーションの成熟度を分類する指標である、アジャイル開発、パブリッククラウド、クラウドネイティブ技術の活用状況を個別に見ると、アジャイル開発は72%、クラウドおよびクラウドネイティブ技術は約80%となりました。昨年から大きな進展は見られないものの、高水準を維持しており活用が定着しつつあることが確認できました(図表4)。

図表4:アジャイル開発、パブリッククラウド、クラウドネイティブ技術の活用状況の過去4年の推移

図表4 アジャイル開発、パブリッククラウド、クラウドネイティブ技術の活用状況の過去4年の推移

昨年までは、アジャイル開発活用における社内の障壁として「過去の失敗のイメージが払拭できない」が上位に来ていましたが、今年はその割合が大幅に減り、過去のトラウマから脱却したようです。これは、企業がアジャイル開発を活用し、実際にその効果が実感できた結果ではないかと推察されます(図表5)。

図表5:アジャイル開発における阻害要因として「過去の失敗のイメージが払拭できない」と回答した割合の推移

図表5 アジャイル開発における阻害要因として「過去の失敗のイメージが払拭できない」と回答した割合の推移

IT部門におけるさまざまな業務で広く活用/検討され始めた生成AI

生成AIのIT部門における活用に関する調査では、さまざまな領域で広く活用・検討されていることが確認されました。結果を見ると、文書作成の効率化、規定遵守と品質管理の強化、顧客対応の効率化、プログラムの解析やレビューにおいて期待値が高いことがわかります。

生成AIの採用はまだ初期段階にありますが、IT部門の効率とイノベーションを向上させる可能性を秘めており、各企業がさまざまな業務への適応を試行錯誤している状況がうかがえます(図表6)。

詳細を見ると、「打合せなどの議事録作成」(13.1%)および「要件定義書、設計書、テスト仕様書などドキュメントの作成支援」(12.9%)が最も高い割合を占めました。これは、生成AIが文書作成において有効であることを示しており、生成AIの自然言語処理能力を活用することで、時間のかかる文書作成作業を効率化し、従業員がより高度な業務に集中できる環境を整えることができます。

また、「既存システムの仕様の解析」(7.5%)、「プログラムコードの生成」(6.8%)および「プログラムコードのレビュー」(5.0%)の割合は他の業務に比べて低いですが、生成AIのシステム開発領域への適用および検討が始まっていることが見て取れます。生成AIを用いることで、コードの自動生成やレビューが可能となり、開発効率とコード品質の向上が期待でき、今後この領域での活用が増えると予想されます。

図表6:システム企画、開発、運用における生成AIの活用状況

図表6 システム企画、開発、運用における生成AIの活用状況

期待通りの成果を出している企業は全体の41%にとどまるDX

DXの取り組みにおける成果については、「期待以上の成果が出ている」と回答した割合が14%、「期待通りの成果が出ている」が27%、「期待通りではないが、一定の成果が出ている」が49%、「ほとんど成果が出ていない」が9%、「まったく成果が出ていない」が1%となりました。「期待通りでない」割合を合計すると59%となり、未だ半数以上の企業がDXに関して想定通りの成果が得られていない実態が浮き彫りになりました。

DXにより実現した効果は、「業務効率化」「従業員の生産性向上」「コスト削減」など、守りのDX関連が上位を占めています。多くの企業がまずは内部の効率化やコスト削減から着手していることがうかがえます。一方で、「企業文化の変革」「顧客満足度向上」「売上向上」といった攻めのDXも一部で進んでいます。この傾向から、今後は内部効率化だけでなく、顧客満足や売上向上などの外部への影響を重視するDXにシフトしていくことで、企業が期待以上のDX成果を得られる可能性が高まると考えられます(図表7)。

図表7:DXの取り組みの成果 およびDXで実現した効果の内訳

図表7 DXの取り組みの成果 およびDXで実現した効果の内訳

日々の業務に忙殺され、スキル向上や新しい取り組みに必要な工数が確保できない日本企業

デジタル人材育成およびシステム開発・運用の自動化推進に関する社内の障壁を調査したところ、前者に関しては「対象社員が日々の業務に追われ、育成に時間が割けない」が1番多い回答となり、後者に関しては「日々の業務に追われ、自動化に取り組む工数が捻出できない」が2番目に多い回答になりました(図表8)。

この状況を打破するには、業務の非効率な領域を洗い出し、無駄を排除し、必要な業務領域も生成AIを活用して効率化を図るなど、現行業務を抜本的に見直すことが重要です。これにより、スキル獲得や新しい取り組みを実施するための時間を現場で確保できるようになります。これらの活動をDX推進の最重要事項と認識し、現場に任せるのでなくトップダウンで確実に対応する必要があります。

図表8:デジタル人材育成、およびシステム開発/運用自動化における社内の障壁

図表8 デジタル人材育成、およびシステム開発/運用自動化における社内の障壁

第2章 96%が期待以上の成果を得ている「先進」に学ぶDX成功のポイント

DXの取り組み成果は、「期待通り、もしくは期待以上の成果が出ている」と回答した割合は全体の41%でしたが、「先進」ではその比率は96%に達しており、大きな差が見られました(図表9)。また、デジタル人材育成に関しても、「期待通り、もしくは期待以上の成果が出ている」と回答した割合が全体で13%にとどまる一方で、「先進」ではその割合は80%に達しており、顕著な差が出ています(図表10)。

詳しく分析すると、「DXの社内推進体制」「システム開発やアジャイル開発における自社社員の担当範囲」「システム開発・運用における自動化領域」において、特徴的な「先進」の取り組みが見て取れました。以下にその3つの特徴を述べます。

図表9:DXの成果に関して、「期待通り」もしくは「期待以上」と回答した割合

図表9 DXの成果に関して、「期待通り」もしくは「期待以上」と回答した割合

図表10:デジタル人材育成状況に関して、「期待通り」もしくは「期待以上」と回答した割合

図表10 DX人材育成状況に関して、「期待通り」もしくは「期待以上」と回答した割合

1.組織の壁を超えてDXを推進している「先進」

DX推進体制について、「DX推進部門、業務部門、IT部門が連携して実施」と回答した割合は、「先進」が89%、「準先進」は42%、「その他」は27%でした(図表11)。この結果から「先進」が組織の壁を超えて協業し、DXに取り組んでいることがうかがえます。

DXは、新規サービスの立ち上げやデジタルツールによる業務課題の解決を目的としており、業務部門とIT部門の協業が不可欠です。しかし、現場は日々の業務に追われており、従来のやり方を抜本的に変えることが困難です。日常業務から切り離された専任メンバーで構成されるDX推進部門を設立することで、従来のやり方にとらわれず新しい試みを行うことが可能になり、DXが加速すると推察されます。すでにDX推進組織を設置している企業は一般的であり、DX推進組織の組成が有効であることが確認できました。

「先進」はDX推進組織を設置するだけではなく、積極的に業務部門やIT部門と連携することにより、DXを成功に近づけていることがうかがえます。

図表11:DX推進体制に関して、「DX推進部門、業務部門、IT部門が連携して実施」と回答した割合

図表11 DX推進体制に関して、「DX推進部門、業務部門、IT部門が連携して実施」と回答した割合

2.システム開発やアジャイル開発において、ほぼ全ての領域で自社社員が実施している「先進」

システム開発・運用体制について、「企画、開発、運用全てを自社社員が実施している」と回答した割合は、「先進」が91%、「準先進」は29%、「その他」は16%となり、顕著な差が見られました。この割合を昨年と比較すると、全体で9ポイント増、「準先進」は15ポイント増の29%となり、「先進」「その他」は微増であるものの、全体的にシステム開発・運用の内製化が進んでいることが判明しました(図表12)。

図表12:システム開発・運用の体制において、「企画、開発、運用全て自社社員が実施している」と回答した割合の昨年度との比較

図表12 システム開発・運用の体制において、「企画、開発、運用全て自社社員が実施している」と 回答した割合の昨年度との比較

また、アジャイル開発における体制についても、スクラムマスター、プロダクトオーナー、開発者などの主要な役割に関して、「全て自社社員が実施している」と回答した割合は、「先進」が85%、「準先進」は20%、「その他」は10%との結果でした。昨年と比較してみると、それぞれ微増ではありますが、アジャイル開発においても内製化が進んでいることが見て取れます(図表13)。

図表13:アジャイル開発において、「主要な役割全て自社社員が実施している」と回答した割合の昨年との比較

図表13 アジャイル開発において、「主要な役割全て自社社員が実施している」と回答した割合の昨年との比較

「デジタル人材育成における社内の障壁」に関しては、「座学の研修は実施するが、実践の場が少ない」との回答が2番目に多くなりました(図表14)。デジタル人材育成において、「実際に現場で経験する機会を多く提供すること」が重要であり、システム開発や運用、アジャイル開発を内製化することで、その機会を増やすことが可能になります。

しかし、システム開発・運用を内製化していると回答した企業のうち、「デジタル人材育成が期待以上もしくは期待通り」と回答した割合は36%に過ぎません。単に内製化を推進するだけなく、「先進」のようにアジャイル開発やクラウドネイティブ技術を全面的に活用することにより、デジタル人材の育成が加速することが示唆されます。「先進」は内製化比率が高く、多くの社員に実践で経験を積ませることにより、デジタル人材を順調に育成していると考えられます。

図表14:デジタル人材育成における社内の障壁

図表14 デジタル人材育成における社内の障壁

3.システム開発・運用において多くの領域で自動化を実施している「先進」

システム開発・運用における自動化では、「先進」は今回調査した全ての項目で「準先進」「その他」を上回り、自動化を積極的に実施していることが判明しました(図表15)。

バックアップやパッチ適用などの「定期的なシステム運用作業」の自動化比率は93%に達しており、ほぼ自動化されています。次の取り組み対象として、「アプリケーションのビルド・テスト・デプロイ」、「インフラ構築・構成変更」、「障害検知」に取り掛かっていますが、障害からの復旧のような不定形な作業は自動化がなかなか進んでいない状況がうかがえます。

図表15:システム開発・運用において、自動化している対象領域

図表15 システム開発・運用において、自動化している対象領域

また、自動化の期待効果については、「先進」は「作業の効率化」と回答した割合が89%に達した一方、「準先進」「その他」は、「サービス提供のリードタイム短縮」「サービス信頼性向上」に回答が分散しました(図表16)。このことから、「先進」は、自動化可能な領域で積極的に自動化を推進することで業務の効率化を図り、自社社員をより付加価値の高い領域へシフトさせ、DXの成果を得ていると推察されます。

図表16:システム開発と運用の自動化における期待効果として「作業の効率化」と回答した割合

図表16 システム開発と運用の自動化における期待効果として「作業の効率化」と回答した割合

第3章 ITモダナイゼーションを加速させ、DXを成功に導くためのPwCからの提言

ここまでの分析から、「先進」は組織の壁を超えて協業し、自動化を推進し、業務の効率化を図ることで自社社員をより付加価値の高い領域へシフトし、内製化によって多くの実践の機会を提供することで、デジタル人材の順調な育成と、DXの成果を得ていることが見て取れました。一方で、「先進」の比率は全体の9%にとどまり、調査を開始した3年前からほぼ変わりません。2023年から「準先進」は大幅に増加したものの、多くの企業は依然としてその変革の途上にあります。

多くの企業が「先進」にさらに近づくために、ITに関する組織、プロセス、テクノロジー、人材の4つの観点から以下の提言を行います。

1.組織の観点:組織の役割を再定義し、利用者起点でサービス志向型組織に移行せよ

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2.テクノロジーの観点:デジタルプラットフォームを構築し、デジタルの前線化をサポートせよ

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3.プロセスの観点:アジャイル開発の適用を拡大し、組織運営にもアジャイルの考え方を適用せよ

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4.人材の観点:内製化を推進し、実践を経験することでDXけん引人材を育成するとともに、企業全体のデジタルリテラシーを向上せよ

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1.組織の観点:組織の役割を再定義し、利用者起点でサービス志向型組織に移行せよ

従来の企業では、業務部門内で企画と実行が分かれ、IT部門でもアプリとインフラ、開発と運用が分かれる組織構造が一般的です。このような機能別の組織構造は、人的リソースの効率的な配置には有効ですが、組織間のコミュニケーションコストが増加する傾向があります。

顧客のニーズが明確で、そのニーズを満たす製品の提供が求められる時代には、この効率重視の組織形態は効果を発揮していました。しかし、顧客の期待が多様化し、市場の変化が激しくなる中で、企業は単なる製品の販売から、継続的に優れた顧客体験を迅速に提供することへと重心を移しています。このような状況下では、従来の機能別組織では情報共有や意思決定がスムーズに行えず、市場変化への対応に速やかに、かつ柔軟に対応することが難しくなっています。

顧客の期待や市場の変化に迅速に対応するためには、機能別組織から利用者起点のサービス志向型組織への移行が必要です(図表17)。

図表17:機能別組織とサービス志向型組織

図表17: 機能別組織とサービス志向型組織

サービス志向型組織では、顧客体験を最優先に考え、業務部門の企画と実行、IT部門のアプリケーション、インフラ、運用などの異なる機能を統合し、企画から実行、運用まで一貫して管理するクロスファンクショナルなチームを編成します。これにより、情報の伝達がスムーズになり、迅速な意思決定が可能となります。また、顧客からのフィードバックを直接受け取ることで、サービスの改善や新しい価値の創出が迅速に行えます。

しかしながら、大企業においては組織構造を抜本的に変えることは困難です。そこで、変化への対応力を向上させるために、各組織の役割を段階的に変えていくことを推奨します。具体的には、従来の業務部門は「DXのシステム化要件を整理する」役割から、デジタル技術を駆使して「DXのシステム化をリード、実装する」役割へと変える必要があります。IT部門も「業務部門から受領したシステム化要件を実装する」役割から、「業務部門がシステム化を容易かつ迅速に進められるようにデジタルツールを提供し、セキュリティや脆弱性への対応などによってリスクを最小限にしながら、安定したシステム稼働をサポートする」役割に変更する必要があります。

また、第1章で述べたように、現場は日常業務で忙しく、新しい取り組みに時間を割くのが難しいことが明らかになりました。多くの日本企業で既に採用されているように、日々の業務から独立した専任メンバーで構成されるDX推進部門を設置し、業務部門およびIT部門と密に連携しながらDXの先導役として位置づけます。DX推進部門は「専門領域でのDX支援、パイロットプロジェクトの実施、最新の動向調査とスキル習得、デジタル人材育成、社内のナレッジ共有」などに関連した活動に責任を持ち、各DXプロジェクトを支援するとともに、その活動を全社に広げていく役割を担います(図表18)。

「先進」の約9割がそうであったように、DX推進部門、業務部門、IT部門の密な連携は、DX推進において有効であることが確認されています。しかしながら、部門を超えたチームが一体となって活動するためには、評価指標なども変更しなければ、従来の組織の論理でメンバーは活動せざるを得ません。そこで、クロスファンクショナルチームのリーダーにインセンティブ付与の権限を与えるなど、人事的な施策も合わせることが必要です。これにより、部門の壁を超えて連携しやすくなり、DX推進における組織の壁を取り除くことが可能になると考えられます。

図表18:業務部門、IT部門、DX推進部門の役割分担

図表18: 業務部門、IT部門、DX推進部門の役割分担

2.テクノロジーの観点:デジタルプラットフォームを構築し、デジタルの前線化をサポートせよ

1つ目の提言では、業務部門はデジタル技術を駆使して「DXのシステム化をリード、実装する」役割へ変化する必要性について述べました。変化の激しい時代には、デジタル技術とデジタル人材は、これまで以上に事業の前線である業務部門に配置される必要があります。しかし、システム化が前線で行われるようになると、セキュリティやコストに関するガバナンスが難しくなり、品質に関するリスクの増大や、運用の複雑性などの課題が発生します。

今回の調査でも、パブリッククラウドが普及するにつれ、「運用が複雑化し、ガバナンスやデータ連携が困難」「障害時の対応が困難」「コストの増加」などの課題が指摘されています。前線での利便性を高めると同時に、これらのリスクを最小化することが求められます。

そこでIT部門における、前線にいるデジタル人材が迅速かつ安全に開発できるルールづくりとデジタルプラットフォームの構築を推奨します。具体的には、データ連携に必要な定義と基盤を整備し、システム開発に関する規約を策定します。そして、必要な機能群(例:モバイルアプリ、データ解析ツール、ダッシュボード機能など)をテンプレートとして用意し、ポータル化して提供します(図表21)。また、開発に関する規約に基づいた、プログラムの管理ツール、テストや本番環境へのリリース自動化ツールなども提供することで、開発速度と品質を向上させ、合わせて効率化と標準化を実現します。これにより、前線は技術的な細部に煩わされることなく、ビジネス価値の創出に集中することができます。

さらに、このプラットフォームに社内で規定されているセキュリティポリシー、脆弱性検知、コスト管理などの機能をあらかじめ設定することで、統一されたプラットフォームを通じてガバナンスを強化し、リスクを最小限に抑えることが可能になります(図表19)。

図表19:デジタルプラットフォーム

図表19 デジタルプラットフォーム

一方で、サイバーリスクは日々高まり、クラウドの普及に伴いシステム構成がますます複雑化しています。このような状況においてもシステムの安定稼働は不可欠であり、万が一、障害が発生した場合にも迅速に対応し、いち早く復旧させることが求められます。これらの課題に対応するためには、運用の効率化と信頼性の向上が必要です。以下、課題にどのように取り組むべきかを示します。

  1. 運用の自動化:
    手動の運用作業を自動化(例:CI/CDパイプラインの導入によるデプロイの自動化、IaC化によるインフラ構築の自動化など)することで、エラーのリスクを減少させ、効率を向上させます。これにより、開発者はより戦略的なタスクに集中できるようになります。
  2. 信頼性の向上:
    システムの信頼性を高めるための評価指標(例:SLO、SLA、SLI)を設定し、継続的に監視・改善します。これにより、システムの安定性とユーザー満足度が向上します。
  3. インシデント管理と学習:
    インシデント発生時の対応プロセスを体系化し、発生した問題から学び、再発防止策を実施することを重視します。これにより、システムの堅牢性が向上します。
  4. 開発と運用の連携:
    開発チームと運用チームの間のギャップを埋め、協力してシステムの信頼性とパフォーマンスを向上させることを目指します。これにより、開発と運用が一体となった(DevOps)文化の推進が促進されます。

デジタル技術とデジタル人材の前線化が求められる中で、前線がより多くの時間とリソースを企画および開発業務に集中できるような環境を用意することが重要になります。そのためにも、IT部門が役割を再定義し、DXに必要なプラットフォームサービスを提供するチームに移行することは、企業全体のデジタル戦略を支えるための重要なステップになります。これにより、IT部門はDXを支え企業の成長と競争力強化に直結する重要な役割を果たし、デジタル時代における持続可能な成功を実現するための中核となるでしょう。

3.プロセスの観点:アジャイル開発の適用を拡大し、組織運営にもアジャイルの考え方を適用せよ

アジャイル開発の活用効果としては、「利用者視点での開発や利用者との関係強化」、「ビジネス部門とIT部門の連携、変更要件への柔軟な対応」など、サービス志向型組織で必要な要素となる回答が挙げられています。また本調査でDXの成果が「期待通りもしくは期待以上」と回答したうち、90%がアジャイル開発を実際に現場で活用していることが確認されました。これらのことから、DXを推進するにあたって、アジャイル開発は有効な手段であり、その適用範囲を拡大することで成果がさらに大きくなることが推察されます(図表20)。

図表20:アジャイル開発活用により得た効果とDX効果が出ている企業のアジャイル開発活用の割合

図表20: アジャイル開発活用により得た効果とDX効果が出ている企業のアジャイル開発活用の割合

アジャイル開発がDX推進に必要な理由を考察すると、アジャイル開発の代表的なフレームワークであるスクラムでは、「透明性」「検査」「適応」の三本柱が掲げられており、具体的には以下のポイントが重要視されています。

  • 透明性:利用者価値をもとに優先順位付けされたタスク、活動状況、課題等をチーム全員がリアルタイムに把握できるように情報をオープンにする
  • 検査:毎日の状況確認と1カ月以内のサイクルでのレビューを通じて、合意されたゴールに向けた進捗状況と作成物に対して必要な改善点を見つけ出す
  • 適応:ステークホルダーやチームメンバーからのフィードバックをもとに、プロダクトとプロセスを継続的に改善する

このように、アジャイル開発は、常に利用者視点に立ち、関与者が一堂に会して取り組みを推進し、定期的に振り返りながら改善を重ねてプロジェクトを推進します。その結果、利用者へより良い価値を届けるだけでなく、チームが抱える課題を解決し、パフォーマンスを向上させていくことが可能になります。DXは全ての要件を初期の段階で定義することは難しく、試行錯誤を重ねながら推進する必要があります。そのため、上記のようなアジャイル開発の特徴は、DXと親和性が高いと考えます。しかしながら、アジャイル開発を活用するにあたり、新たな課題も見えてきました。アジャイル開発における社内の障壁に関する調査では、「プロジェクトに専任メンバーをアサインできない」「品質管理や予算申請などの社内プロセスがアジャイル開発に対応していない」「発注先の外部ベンダーがアジャイル開発を採用しない、提案しない」の3項目で、昨年より回答が5ポイント以上増加しています(図表21)。

図表21:アジャイル開発における社内の障壁に関して、昨年より5ポイント以上増加した回答

図表21 アジャイル開発における社内の障壁に関して、昨年より5ポイント以上増加した回答

これらの障壁を解決するための方向性を以下に示します。

「プロジェクトに専任メンバーをアサインできない」

アジャイル開発を推進するためには、専任メンバーをアサインすることが望ましいとされています。しかし、日々の業務に追われている現実を考慮すると、兼任もやむを得ないと考えられます。この場合、担当者が一定期間作業に集中できるように、他の業務を行わない曜日や時間帯を設定することを推奨します。例えば、日次で行うスクラムを毎日午前中の決まった時間に行い、1~2週間のスプリント終了後に行われるスプリントレビューも曜日を決めて予定を押さえる、などです。また、担当者の作業が過剰にならないように、上司が状況を把握しながら他の業務も含めて作業量を調整することが求められます。

「品質管理や予算申請などの社内プロセスがアジャイル開発に対応していない」

アジャイル開発を活用していても、社内プロセスが従来のシステム開発を前提としているケースは少なくありません。本調査でもアジャイル開発向けの社内プロセスを導入している割合は全体で30%に過ぎません。従来のウォーターフォール型の品質管理では、要件定義後、設計終了後、開発終了後、テスト終了後など、フェーズの終了時にレビューを行う「ゲート型の品質管理」が採用されています。しかし、アジャイル開発では開発対象を細分化し、それらを順番に短いサイクルで開発するため、フェーズの区切りが日々発生します。もし、ゲート型の品質管理をアジャイル開発に適用すると、以下のような問題が発生します。

  • どのタイミングでレビューを実施するべきか判断が難しい
  • レビューの頻度と回数が多くなり、レビューに係る工数が増加する

このような状況を避けるために、「品質管理は日々担保されている」という状況を構築する必要があり、以下のような「仕組み」で品質を担保することが求められます。

  • 受入基準と完成の定義の明確化
  • テスト自動化によるエラーの早期検知および品質の継続的な確認
  • 設計書やプログラムのデジタル管理基盤、自動化ツールなどの環境整備

品質管理部門は、プロジェクトで実際に行っているプロセスやツールなどの「仕組み」をレビューすることで、品質が担保されていることを確認します。このように、社内の規定や体制・役割を見直し、最新のテクノロジーを活用することで「品質管理は日々担保されている」という状況を構築します。

「発注先の外部ベンダーがアジャイル開発を採用しない、提案しない」

外部ベンダーにシステム開発を委託する場合、事前に合意したシステム機能について外部ベンダーが完成責任を負う「請負契約」が主流です。しかし、アジャイル開発では開発の優先順位が変更されたり、新たな機能が追加されたり、当初予定した機能の開発が見送られたりすることが通常です。これに対応するためには、外部への発注形態を「準委任」に変更することを推奨します。この形態では発注側がシステム開発の完成責任を負うことになりますが、アジャイル開発を実施するためには責任を負う覚悟が必要です。準委任契約に変更しても外部ベンダーがアジャイル開発を提案しない場合、ベンダーを切り替えるか、思い切って内製化に舵を切る必要があります。

アジャイル開発は「利用者起点で考え、活動状況の透明性を高め、短いサイクルで成果を確認し、優先順位をつけて価値の高い作業から実施し、継続的な改善を繰り返す」ことと言い換えられます。このアプローチは、システム開発だけではなく、通常の一般業務においても適用可能です。また、アジャイル開発の代表的なフレームワークであるスクラムのガイドにも、「スクラムは、スクラムが誕生したソフトウェアプロダクト開発の領域を超えて、本質的に複雑な作業を必要とするさまざまなドメインで採用されている」と記載されています。

アジャイル開発の考え方を組織運営に適用することで、顧客のニーズや市場の変化に柔軟に対応し、迅速にフィードバックを反映することが可能となり、より大きなDXの成果が得られると考えられます。また、チームの協力とコミュニケーションが促進され、イノベーションの創出や問題解決能力の向上にもつながるため、組織全体でアジャイルの原則を取り入れることを推奨します(図表22)。

図表22:アジャイル開発の考え方の組織運営への適用

図表22 アジャイル開発の考え方の組織運営への適用

4.人材の観点:内製化を推進し、実践を経験することでDXけん引人材を育成するとともに、企業全体のデジタルリテラシーを向上せよ

DXを成功させるためには、デジタル人材の育成が不可欠であることに異論はないでしょう。しかし、デジタル人材育成に関して「期待通りもしくは期待以上」と回答した割合は13%に過ぎません(図表10)。デジタル人材育成における障壁は、「座学の研修は実施しているが、実践の場が少ない」、「デジタル人材育成の推進主体が不明確」、「社員のモチベーション不足」、「育成した人材が退職してしまう」が上位を占めました(図表23)。

図表23:デジタル人材育成における社内の障壁

図表23 デジタル人材育成における社内の障壁

デジタル人材の育成は、会社全体のデジタルリテラシーの向上と、DXけん引人材の育成を明確に分けて考える必要がありますが、混在して議論されているケースが見受けられます。これらを踏まえて、以下にデジタル人材育成の推奨案を紹介します(図表24)。

図表24:DX人材育成における2つの視点

図表24 DX人材育成における2つの視点

DXけん引人材の育成

DXをけん引する人材は、高度な専門知識とリーダーシップスキルに加え、技術をビジネスに翻訳するスキルを持ち、企業のDXを推進する役割を担います。このような人材は市場にもなかなか存在せず、1人で全てのスキルを有することは難しいため、必要なスキルを因数分解し、役割を分割して育成することを推奨します。育成にあたっては、まずどの領域の人材を育成するかを明確にする必要があります。例えば、スクラムマスター、データサイエンティスト、システムアーキテクトなど、具体的な役割や求めるスキルレベルを設定することで、育成の目標が明確になります。

そして、その役割やスキルレベルに応じた具体的な研修コンテンツを作成し、業務部門およびIT部門と調整して、実際のDXプロジェクトを立ち上げます。伴走しながらプロジェクトを通じて実践的な経験を積ませることで、理論だけでは得られないスキルや洞察を身につけてもらいます。これを繰り返し、社内でのDXけん引人材育成を広げていきます。

内製化を進めながら人材を育成するにあたっては、高度なスキルが求められるため、外部の専門家を活用してスキル移転を行うのが現実的な方法です。具体的には、外部専門家によるワークショップやオンザジョブトレーニングを活用し、既存社員が実際のプロジェクトを通じて新しいスキルを習得する機会を提供します。また、メンタープログラムを設け、経験豊富な外部専門家が社員のスキルアップをサポートする仕組みを構築することも有効です。

DXを継続的に行うためには、これらのスキルを有する人材を社内で保持し、自社社員でプロジェクトが実施できるように内製化することが望ましいです。しかしながら、全ての領域で内製化することは現実的ではなく、アジャイル開発やクラウドネイティブ技術など新しい手法を活用するような領域に絞って内製化することを推奨します。例えば、消費者向けのモバイルアプリの開発や、工場のスマート化など、試行錯誤と高速かつ継続的な改善が必要な業務領域に特化して、内製化を進めると良いでしょう。第2章で述べたように、単にシステム開発を内製化するだけでなく、アジャイル開発やクラウドネイティブ技術を活用することによって、よりデジタル人材の育成成果はあがります。

一方で、育成した人材が退職してしまうという課題も顕在化してきました。どの企業もデジタル人材を必要としており、きちんとケアしないと、より魅力的な企業に転職してしまいます。このような状況を避けるためには、評価と報酬を見直すだけでなく、企業内でのキャリアパスやキャリアアップの機会を提供し、長期的な成長を支援する環境を整えることが重要です。

企業全体のリテラシー向上

企業全体のデジタルリテラシーを向上させるためには、人事部が主導する基本的なデジタルスキルやツールの使い方を学ぶ研修プログラムの提供は一定の効果があると考えます。例えば、生成AIの基礎、データ分析の基礎、基本的なプログラミングスキルなどを学ぶことが挙げられます。この際に、オンラインで提供されている研修コンテンツを最大限活用することを推奨します。日進月歩で進化するテクノロジーや新しい概念を踏まえた研修コンテンツを自社で作成することは、スキル的にも工数的にも厳しいと考えられるからです。

一方で、研修だけでは不十分で、実際に現場で活用する機会がなければ、スキルは定着しません。単なる座学に終わらず、実践で試せる場を提供することで、学んだスキルを業務に応用できるようになります。例えば、社内でデータの見える化を支援するBIツールや生成AIなどを導入し、社員が日常業務の中でスキルを磨く機会を提供することは、社員全体のスキル向上という観点では有効な施策です。

また、社員のモチベーションを向上させるためには、上司が社員の自己研鑽を推奨するとともに、評価の際に加点するなどの工夫が効果的です。例えば、期初の面談でスキル習得に関する目標を明確にするとともに、目標達成時にインセンティブを付与します。上司の指示と評価を連動させることにより、社員のスキル習得に関するモチベーションが向上すると考えられます。

人材育成は一朝一夕で実現できるものでなく、また確固たる正解がないため、早期に着手し、定期的に振り返りながら課題を洗い出して改善していくことを推奨します。また、企業のトップが自ら新たなスキルを習得することで、会社全体の変革気運が高まります。

DXの波は既に多くの業界に押し寄せており、これに対応するための人材育成は企業の競争力を左右する重要な要素です。未来を見据えた持続的な成長を実現するためには、組織全体で一丸となってDX人材の育成に取り組むことが不可欠です。

おわりに

今年で4回目を迎えた本レポートは、「日本企業のDXは、従来のやり方のまま取り組んでいるので、思うような成果が出ていないのではないか」という仮説に基づいて作成しました。

2024年の調査結果を見ると、「先進」の比率は3年前から大きな変化は見られませんが、昨年大幅に「準先進」が増加し、その流れは今年も維持されています。多くの企業がアジャイル開発やクラウドネイティブ技術を活用し、DXの道を歩み始めていることがわかります。特に、アジャイル開発に関しては、一昨年や昨年に見られた「過去の失敗のイメージが払拭できない」という障壁が、今年の調査では克服されていることが判明しました。今後アジャイル開発の適用は、より広まっていくと予想します。

一方で、現場の実態として「現行業務に追われてデジタルスキル獲得や新しい施策に割く時間が確保できない」という新たな課題が明確になりました。このような状況を打破するために、生成AIや自動化ツールなどの新しい技術を活用し、組織の壁を超えて会社全体で、新しい「やり方」の導入に挑戦していただきたいと考えています。「先進」の成功事例を参考にしながら、自社に適した取り組みを進めていただけると幸いです。現場主導での変革には限界があるため、リーダー陣主導のトップダウンで取り組むことが重要です。

本レポートが、皆様のDX推進の一助となり、今後の企業活動において具体的なアクションを起こすための参考資料として活用されることを心より願っております。また、DXの取り組みは一過性のものではなく、継続的な改善と学びのプロセスであることを念頭に置いていただきたいと思います。

最後に、本調査にご協力いただいた皆様、および本レポートの作成に関わった全ての方々に深く感謝申し上げます。今後も引き続き、DXの進展を見守り、皆様とともに新しい未来を築いていくことを楽しみにしております。

Appendix 調査概要 ‐ 回答者のプロファイル

本調査では、売上高500億円以上のさまざまな業種で、自社のITモダナイゼーションの取り組みに何らかの関与をしている部門・役職の500名の方々から回答を得ました。回答者の上位5つの業界は、製造業38%、金融業20%、流通業15%、通信メディア7%、テクノロジー6%となり、回答者の所属部門を見ると、経営企画14%、IT/デジタル推進27%、事業部門42%、コーポレート管理部門15%となっており、売上規模としては500億円以上から1兆円以上の企業まで網羅的な回答を得ることができました(図表25)。

  • 調査実施時期:2024年9月
  • 回答者数:500名
  • 調査方法:Web調査
  • 対象:売上500億円以上のITモダナイゼーションに関与している企業/組織の課長レベル以上

図表25:回答者の内訳

2024年DX意識調査 - ITモダナイゼーション編 :調査概要

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主要メンバー

中山 裕之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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鈴木 直

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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岡田 裕

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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