製薬企業の2050年脱炭素達成への道

ネットゼロへの挑戦

はじめに

昨今、世界的な気候変動問題の深刻化を受け、これまで以上に企業における排出量削減に向けた取り組みの重要性が高まっています。
そして近年では、自社の排出量を削減するだけでなく、サプライチェーン上の各企業を巻き込んだ排出量削減の取り組みを行うことも求められてきており、企業の気候変動問題への姿勢が問われています。
本レポートでは製薬業界に焦点を当て、ネットゼロ達成にむけたCN(カーボンニュートラル)移行計画策定の要諦をまとめました。

1.製薬企業における排出状況

製薬企業の排出削減目標や排出状況を整理するにあたり、本レポートでは内資系製薬企業10社、外資系製薬企業15社を調査対象として選定しました。
内資系企業と外資系企業を比較するとネットゼロ達成目標年やSBTネットゼロ申請状況に差があり、内資系企業に比べて外資系企業の方がネットゼロ達成に向けて、より積極的な姿勢を取っていることが分かります。
一方で、実際の排出状況では内資系企業と外資系企業に顕著な差は見られませんでした。いずれの企業においてもScope1やScope2と比較して、Scope3の排出量が多く、またScope3の中ではカテゴリ1が大きな排出割合を占めていることが分かります。このことから、製薬企業のネットゼロ達成にはScope1やScope2の自社排出だけでなく、カテゴリ1をはじめとしたScope3に係る排出量をいかに削減できるかが重要であり、サプライヤーと連携して対応を進める必要があると言えます。

図表1:ネットゼロ達成目標年(Scope1+2+3)
図表2:SBTネットゼロ申請状況
図表3:製薬企業の排出状況(Scope1~3)
図表4:製薬企業の排出状況(Scope3 カテゴリ1~15)

2.各Scopeの排出に対する削減施策

2.1 Scope1

Scope1では、自社の事業活動の「研究開発」、「製品製造」、「コーポレート部門(財務、人事、法務、総務等)」、「販売・営業」において温室効果ガス(GHG)排出量100%を削減可能な施策を、技術革新状況、インフラ整備状況、コスト、安全性の4つの観点から評価した上で、2035年までと2035年~2050年の2つの期間での施策導入のタイムラインを検討しました。
現状は技術革新が既に進んでいる電力の使用が優位であり、今後の技術革新状況によりその他の脱炭素燃料の活用可能性が高まると考えられることから、2035年までは、まずコーポレート部門と販売・営業でのネットゼロ達成を目指し、電力を使用した施策を導入します。研究開発・製品製造については、ネットゼロ達成予定は立てないものの、一部拠点にて電力使用設備を試験的に導入、また他脱炭素燃料の技術革新状況やコストの変化をトラッキングします。2035年~2050年は、2035年までの試験導入や技術革新結果を踏まえ、研究開発・製品製造でのネットゼロ達成を目指します。
Scope1の削減施策検討では、活用する燃料により削減施策の技術革新状況が異なることから、各施策のコストの比較だけでなく、技術革新状況の観点を組み込むことが重要となります。

図表5:研究開発・製品製造、コーポレート部門における削減施策の評価
図表6:販売・営業における削減施策の評価
図表7:削減施策導入のタイムライン(Scope1)

2.2 Scope2

Scope2における主な施策として、再エネ発電設備を用いた自家発電の実施、コーポレートPPAの導入、再エネ電力メニューの選択、再エネ証書の購入等が挙げられます。これらの施策を追加性、調達可能量、コスト、リードタイムの観点から評価しました。
自社の置かれている状況を鑑みながら、各施策の特徴を踏まえた施策検討を行うことが望ましいですが、例えば、長期的にScope2を削減していく場合は、自家発電やコーポレートPPAを最大限に活用して自然エネルギーの電力調達量を増やしながら、不足分を再エネ電力メニューや再エネ証書の購入等で補う対応が一案として考えられます。一方で、短期的に再エネ比率を高めたい場合は、追加性の有無に留意しつつ、再エネ電力メニューや再エネ証書の購入を優先的に検討することも考えられます。

図表8:Scope2における削減施策の評価

2.3 Scope3

Scope3の削減では、サプライヤーと協働して削減に向けた取り組みを実施することや、次世代技術の開発動向等を捉えながら削減施策を導入することが重要となります。現時点で検討できる取り組みとして、カテゴリ1ではサプライヤーの意識向上に寄与する取り組みやサプライヤーへの支援等が、カテゴリ4、9ではモーダルシフトや共同輸送等の輸送方法の変更等が、カテゴリ6、7ではEVの使用促進等の移動手段の変更等が検討できます。製薬企業にとってカテゴリ1の排出量削減が最も重要であるため、まずはカテゴリ1の削減を優先しつつ、短期的にカテゴリ6、7の排出量を削減する等、自社の状況に合わせた削減方針を検討することが求められます。

図表9:カテゴリ1、4、6、7、9における削減施策例

3. まとめ

気候変動問題の深刻化を背景に、これまで以上に企業による排出量削減への取り組みが求められており、それに伴い、ネットゼロ達成にむけたCN移行計画策定の必要性が高まると考えられます。PwCコンサルティング合同会社では、CN移行計画の策定前、策定時、策定後の各段階における要諦を整理しました。特に、計画策定前にいかに計画の策定・運用を見据えた対応を行えるかが重要になると考えられます。

図表10:CN移行計画策定の要諦

4.おわりに

昨今、あらゆる業界において気候変動対策の実施に対する社会的要請が強まっていますが、それは製薬業界も例外ではなく、気候変動対策の実施は製薬企業にとって必要不可欠だと言えます。また近年では、Scope3における削減の重要性が高まっていることから、今後は企業個別の取り組みだけでなく、サプライチェーン全体での排出量削減にむけた取り組みの重要性が増していくことが予想されます。このように、企業による気候変動対策は今まさに過渡期にあり、排出量削減の取り組みとして、CN移行計画を策定することの意義は大きいと言えます。今後、各企業がネットゼロ達成に向けてCN移行計画を策定することにより、企業やサプライチェーン全体での排出量削減の取り組みが加速していくことが期待されます。

ネットゼロへの挑戦 ―製薬企業の2050年脱炭素達成への道

執筆者

倉田 直弥

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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曽根 貢

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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西渕 雄一郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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坪井 千香子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山野 収

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 かれん

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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