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今、多くの人が、さまざまな方法でさまざまな音楽を聴いています。SNSプラットフォームから家庭用フィットネスアプリまで、人々が音楽を見つけ、消費する方法は変わり続けています。そこからは、音楽著作権保有者が活用できる新しいライセンシングとマネタイズの機会が生まれています。
そうした中、現在のマクロ経済環境は、資産としての音楽著作権の今後の展望に影響を及ぼすのでしょうか。また、将来の音楽鑑賞スタイルの形成に最も大きな役割を果たすのは、どのトレンドでしょうか。
TikTokは今や月間ユーザー数が約10億人という巨大な視聴者基盤を持ち、極めて影響力の大きいプラットフォームになりました。 TikTokのトレンド入りを経てビルボード・ホット100にランクインした楽曲の数は、2021年には前年比約2倍の175を超え、TikTokは視聴者が新しい曲を見つける手段としても定着しています。今やTikTokなどのSNSプラットフォームとメジャーレーベル各社の間で締結されるライセンス契約は、新曲や旧譜カタログが収益を生むための重要なパイプラインとなっています。
近年、コロナ禍のロックダウンによる追い風を受け、ホームフィットネスの人気が高まっており、テクノロジーに注力した幅広い事業者がこの分野に参入し、コネクテッドフィットネスのサービスを提供しています。コネクテッドフィットネスプラットフォームはレコードレーベルと契約を結びますが、彼らは以前から、他のストリーミングプラットフォームよりも高いロイヤリティを支払っています。
ビデオゲームもコロナ禍が成長を後押しした分野です。音楽ゲームの人気は高く、音楽業界とビデオゲーム業界は長年にわたって関係を築いてきました。また、ほとんどのゲームでサウンドトラックは重要な要素であり、人気のあるゲームのサウンドトラックは世界中の膨大な数のユーザーに届きます。2023年6月までの1年半の間にビデオゲームのユーザーを対象としたコンサートや楽曲のリリースにイノベーションが起き、音楽とビデオゲームの関係はこれまで以上に活発で直接的なものになりました。
こうした新しいプラットフォームは、消費者に音楽との新しい繋がり方や新しい消費の方法を提供するだけでなく、リリースから長い時間が経った楽曲を発見しやすくして曲の寿命を延ばし、ロイヤリティの低下を遅らせる可能性もあります。近年、新しいプラットフォームからのロイヤリティは、非現実的であるとか、音楽著作権の資産評価を押し上げる可能性はある、などとやや曖昧に語られてきました。しかし、今後、こうしたプラットフォームやチャネルの潜在的メリットが市場でより深く理解されていくにつれ、音楽著作権保有者にもたらされるロイヤリティ収入はさらに精密に予測・評価されるようになると考えられます。
テクノロジーはとどまることなく進化を続け、既に人工知能(AI)という新しい技術が音楽市場にも参入しています。AIはアーティストのクローンを作ったり、自ら音楽を生成したりして音楽業界に揺さぶりをかけています。これに対して音楽業界は、AIをどう管理し、アーティストの収益につなげるかを模索しています。
音楽業界の中でコロナ禍の打撃が最も大きかったセグメントがライブ音楽消費です。その一方で、WaveXRやVeeps(2021年1月にLiveNationが買収)など、ライブパフォーマンスをストリーミングするさまざまなプラットフォームが躍進しました。ライブ音楽業界が復活し始めた今、こうしたストリーミング用のプラットフォームは視聴者数を維持する方法を模索し、消費者にバーチャル視聴体験を届けるクリエイティブな方法に目を向けています。
ビデオゲームではメタバースが進化し、音楽業界もこれに合わせて進化しようと積極的に取り組んでいます。メタバースのイベントの中で最も人気を集めているのが、著名なアーティストやコラボレーターが登場するゲーム内のコンサートです。例えばFortniteはTravis Scottなどのアーティストを迎えた他、RobloxにはLil Nas Xが参加して年齢が少し高いユーザー層へのアプローチを目指すRobloxの戦略に貢献しました。
ビデオゲームのメタバースが現実のライブコンサートやイベントに取って代わる可能性は高くありません。むしろ、ライブを補完する消費チャネルとして定着していくでしょう。そうなると音楽著作権の保有者にとっては、消費チャネルとロイヤリティの収益源がひとつ増えることになります。ビデオゲームにおけるメタバースの将来性に対する市場の期待の大きさを考えれば、音楽著作権の評価額や権利保有者の潜在的収益が大きく上昇する可能性があります。
2022年初頭から2023年にかけて、英国、米国、ユーロ圏では金利が上昇しました。個人・家計の財政負担が高まるなか、どの企業も顧客エンゲージメントと顧客維持を実現する最適な方法を見つけようと懸命に取り組んでいます。
価格の設定には慎重さが求められており、音楽ストリーミングのサブスクリプションでは、Netflixなどビデオ・オンデマンド・サービスに比べて価格の引き上げが遅れています。言い換えれば、サブスクリプション料金を慎重に引き上げることができれば、それが音楽著作権の資産価値を上げるもうひとつの要因にもなり得るのです。最近では、ファンエンゲージメントをより強く反映したスマート価格の導入の可否が議論されています。
ストリーミング、新しいプラットフォーム、バーチャル空間でのライブ音楽は将来のロイヤリティに好ましい影響をもたらしますが、足元では株式市場や債券市場の変動が激しく、マクロの世界経済動向全般も音楽著作権評価に影響すると考えられます。音楽著作権はレバレッジの高い資産であることが多いため、金利が高い時期は投資家にとって資金調達やプライシングが課題になることもあります。ただ、音楽資産の魅力に鑑み、エクイティ投資家は音楽著作権評価が被る影響のいくらかを吸収することも可能と思われます。
2020年と2021年には大型で著名なカタログなど、音楽著作権が多数売買されました。2022年の取引は近年の高水準には届きませんでしたが、景気循環の影響を受けにくく、安定的にキャッシュフローを生み出す資産クラスとして、音楽著作権は引き続き高い関心を集めています。PwCでは、バリュエーションを裏付けるキャッシュフローも、投資家の購入意欲も、いずれも力強さが継続すると予測しています。買い手はこれまで以上に綿密に評価すると考えられ、質の高い資産ならば必ず勝ち抜くことができるでしょう。
結論として、音楽の新しい消費方法とデジタルプラットフォームは今後も成長が予測され、過去10年間に高まってきた勢いは続くでしょう。それによって音楽の出版権や原盤権といった資産のプライシングとリターンは上昇が期待されます。
上段の記事では欧米の音楽消費マーケットの変化を起点に、それに伴う音楽IP資産価値について述べていますが、ここではその変化を踏まえ、音楽業界に携わる企業のIP戦略としてどのような考慮が必要かについて述べていきます。
ストリーミング、SNSを含む新しいプラットフォーム、バーチャル空間でのライブ音楽等、デジタルおよび先端テクノロジー活用による音楽提供シーンの変化がもたらした音楽消費マーケットへの影響は、大きく分けて以下の3つの視点で捉えることが重要です。
1つ目は、動画配信プラットフォームやストリーミングサービスのプレイリスト等に代表されるように消費者の楽曲発見手段が多様化したことです。この結果、従来、新譜楽曲リリースで主たる収益を稼ぐことに注力していた業界プレイヤーは、旧譜カタログの活性化および収益向上施策も重要な戦略課題として認識する必要が生じました。
2つ目は、SNSの影響拡大によりファンエンゲージメントの重要性が増加したことです。SNSを通じた消費者(ファン)の情報発信力が増したことにより、今まで以上に炎上頻度・スピードが高まり、アーティストのSNS上での情報発信リテラシー教育が必須になるといったネガティブな側面が生じました。しかし、より重要なのはファンのエンゲージメントを高めることにより、時には企業のコントロール可能な範囲を超えた領域にまで拡散効果が及ぶといった期待ができるようになった点が大きな変化と言えるでしょう。
3つ目は、ファンと企業間、ファンとファン間のデジタル上の繋がりが強化されたことです。小売店に対するCD卸販売事業の時代と異なり、企業が直接ファンとデジタル上で繋がることができるようになっただけでなく、デジタル上のファンコミュニティにおける他のファンとの交流に価値を見出すファンの増加により、従来把握できなかったファン間のコミュニケーションの内容まで見える化された点は大きな変化です。これにより、企業はこれまで以上にインタラクティブにファンとの接点を持つことができ、データ分析によるファンエンゲージメント向上施策やマネタイズポイントの拡大等のチャンスが広がりました。
これらの重要な3つの変化に対し、有効な打ち手として以下の3つの方策が考えられます。
レーベル企業は概して注力アーティスト(新人、既存にかかわらず)による新譜リリースで稼ぐモデルが戦略の中心となっているため、旧譜カタログの活性化にまではなかなか手が回らない事情があります。しかし、旧譜といっても若い世代にとっては未知の楽曲であり、レーベル企業はIPの権利を保有しながら待ちの姿勢で思わぬヒットを期待するのではなく、楽曲発見手段が多様化した今のマーケット環境に合わせた旧譜IPカタログのマネジメントのあり方を再検討していくべきと考えます。
例えば、SNS上でのトレンド分析を行った上で、アーティスト軸よりはテーマ軸でトレンドとフィットしそうな楽曲を旧譜カタログを含めて選定し、配信プラットフォームとの連携やスポーツ、ゲーム、アニメ等他業種とのタイアップ施策を実行します。こうすることで休眠資産化している楽曲を掘り起こし、世代を超えた認知獲得施策を積極的に展開していくといったことが考えられます。
一方、これらの施策に十分なリソースが割けない場合やアーティスト本人の稼働も期待できない場合は、思い切ってIPの権利自体を他社に売却し新たなマネタイズの機会を創出するといった検討も必要でしょう。この場合の買い手企業は、音楽制作力よりもむしろコンテンツ再生/リブランディング戦略策定力、視聴動向のデータ分析力、プロモーション力に強みを持つ企業が候補となります。獲得したIPのバリューアップによって、成り行きの将来キャッシュフロー以上のリターン確保を狙うプレイヤーの登場により、IP権利の売買ディールが成立すると考えられます。
いずれにせよ既存レーベル企業が今のマーケット環境に合わせた旧譜カタログのIPマネジメントのあり方を検討し、このようなアクションが標準化すれば、結果として新たなエコシステムが生まれ、業界全体の活性化に繋がるのではないでしょうか。
海外(特に韓国)において、ファンが推しアーティストを応援したい気持ちから自然発生的に生じた現象として、非公式素材を使ったビルボードサイネージ、ライブ会場内で撮影されたコンテンツの拡散、公式ミュージックビデオにファンが自ら字幕を付けて諸外国ファン向けに配信、等が挙げられます。これらはいずれも公式ではない自律的なファン組織または個人の活動であり、プロダクションが本来持っている権利を無視した行為であるため日本においては現実的には実施し得ないものですが、プロダクションサイドはこれらのファン行動をプロモーション活動の一環として容認しています。つまりファンダム形成の重要性を認識した上で一定の権利開放スタンスが徹底されているという点が最大の特徴と言えるでしょう。
一定のコアファン層を獲得するまでのフェーズにおいてはレーベル企業とプロダクションの協働、特にアーティスト担当者の熱意とリーダーシップが必要不可欠である点は従来同様変わりませんが、ファンの規模を飛躍的に拡大させるフェーズにおいては従来のマスプロモーションとは異なる手法として、ファンダム形成によるライトファン層への波及を狙うことが必須の時代となりました。SNS上でのファンの情報発信力やUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)を後押しするような仕掛けや場の提供等、既に存在するコアファンのエンゲージメントを最大限利用し、新たな潜在ファンへの波及効果を組み込んだIP価値創造プロセスの設計が再現性の高いヒット創出に欠かせなくなったと言えるでしょう。その際、日本企業はこれまでのようにIPの権利を守ることにのみ着目するのではなく、SNS上でのファンの情報発信力やUGCを後押しするよう、IPへの寛容度を高め、ファンに「委ねる」視点を備えることも鍵になりそうです。
また、将来的には、ファンのIP価値向上への貢献をより積極的に取り込んでいく試みとして、個々のファンの貢献度を可視化し、プレミアム体験等の権利をトークン形式で発行する等のインセンティブを付与したアーティストファンDAO(Decentralised Autonomous Organisation:分散型自律組織)を組成し運営する等も、既に存在する自律的なファン組織の発展型として検討に値するのではないでしょうか。
お金を払わない無料コンテンツだけを楽しむ無償ファンは、将来お金を払ってくれる有償ファンになる潜在重要顧客であり、個々のファンの影響力がどのように新たな無償ファンを生み(非ファンの無償ファン化)、無償ファンから有償ファンへとコンバージョンしていくのかのメカニズムをきちんと把握することが重要です。そのためには、既存の無償ファンや有償ファンのそれぞれの属性データや行動データ等社内外にあるデータを分析し、非ファン・無償ファン・有償ファンの差異を把握、その差異を埋めるための有効な施策(すなわちそれがコンバージョン施策となる)を考え、施策の実行結果から得られた示唆を次の分析と施策に反映させるPDCAサイクルを継続して回すことによってノウハウを蓄積してくことが必要です。
また、ファンコミュニティにおける他のファンとの交流に価値を見出すファンの増加に鑑みるに、ファン間コミュニケーションを楽しむ場としての価値をどのように提供するか再検討すべき時期に来ていると考えられます。従来型のファンクラブ運営を例にとれば、ライブチケット先行予約権の特典付与を主たる提供価値とした会費徴収モデルから、将来的にはメタバース上での新たなサービス展開とサブスクリプションモデルの導入等、無償領域のサービスと有償領域のサービスをリデザインすることも必要になるのではないでしょうか。
ファンクラブ運営に限らず既存サービスについて音楽消費マーケットの変化に合わせ、各ファン層に対する有償・無償サービスの再構造化とファンのコンバージョンメカニズムを踏まえた有償サービスへの誘因施策によりキャッシュポイントを最大化し、強固なプロフィットプールを作り上げることが重要と考えます。
音楽ビジネスは、アーティストの生き様や考え方といった世界観とクオリティの高い楽曲をセットにして消費者に届けるビジネスです。そしてこれらが時代の空気感や消費者の心情と噛み合った時に消費者(ファン)の共感を生みだし、その共感量の大きさがビジネスの大きさに繋がることになります。
この音楽ビジネスの本質自体は時代がどんなに変化しても変わらないものですが、楽曲と消費者(ファン)の関係性は、上述の「楽曲発見手段が多様化」や「ファンエンゲージメントの重要性が増加」で見てきたように大きく変わりつつあります。
また、「企業とファン間、ファンとファン間のデジタル上で繋がりが強化」されたことにより従来以上にデータ利活用の機会が増えていますが、音楽業界では「データを分析してもヒットは生まれない」という言葉を今でもよく耳にします。クリエイティブの要素がヒットの大きな要因であることは否定しませんが、IPの価値を高めていくには、クリエイティビティを発揮する領域とデータ分析を駆使して施策に活かす領域を適切に見極めたオペレーション構築が、より重要になってきているのではないかと考えます。
マーケットの変化に合わせた新たなIP戦略立案とアジリティの高い運用(データ分析と分析結果をスピーディに次の施策に活かすオペレーション)を行うことが、今後の音楽業界において非常に重要になってくるのではないでしょうか。
※本コンテンツは、New ways of consuming music and the impact on music rights valuationsを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。