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国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)の開催を前に、この1年間の世界の状況を振り返ると、必ずしも意欲的な気候変動対策が展開されたとは言えません。PwCのネットゼロ経済指標の最新の分析によると、この12カ月間の世界の脱炭素化率はわずか0.5%にとどまるという厳しい結果であることが分かりました。この数字は、地球の気温上昇を1.5℃に抑えるために必要な15.2%の脱炭素化率を大きく下回るものです。残された時間は少なく、イノベーションを加速することがこれまで以上に重要です。では、近年の気候テックへの投資は、この課題の緊急性に見合ったものでしょうか。
答えはイエスでもあり、ノーでもあります。楽観的な意見としては、次のようなものがあります。
気候テック市場はこの10年間で最大の試練に直面しましたが、力強い回復を見せています。欧州での紛争、インフレ、資本市場の急激な調整により、10年前のクリーンテックをめぐるバブルとその崩壊に似た状況が再び起こり、投資家の信頼感が急低下するのではないかとの懸念がありました。しかし、この危機は回避されました。今年の調査に参加した投資家の10人に8人は、今後2年間に環境・社会・ガバナンス(ESG)分野への投資を増やす計画があると回答しています。PwCが話を聞いた投資家は、市場の見通しについても楽観的な見方を維持していました。
気候テックの動向を市場全体と比較すると、この見方を裏付ける傾向が見られます。2021年が非常に好調だったことや、特別目的買収会社(SPAC)の活動が縮小していることを考えると、2022年に気候テック投資がやや落ち着きを見せることは十分に予想されましたが、2022年の投資全体に占める気候テック投資の割合は歴史的な高水準で推移しました。実際、2022年第3四半期までの12カ月間については、ベンチャーキャピタル投資額全体の4分の1以上を気候テック投資が占めました。これは過去16四半期のうち12四半期よりも大きな割合です。事実、投資額の12カ月移動平均は2021年以降、ほぼ一定の水準にあります。
一方、不安材料もあります。
気候テックへのベンチャーキャピタル投資が縮小しているのは、企業投資全般に見られる周期的な変動、つまり急成長の後に鈍化するという自然な周期を反映したものかもしれません。2021年に起きた気候テック投資の急増は、主に特定買収目的会社(SPAC)による少数の大型案件に牽引されたものと言えます。当時、PwCが話を聞いた投資家の多くは、SPACが流動性の向上に与える影響に肯定的でしたが、SPACが中期的に投資の主要な促進要因であり続ける可能性については懐疑的でした。この予想はPwCのデータでも裏付けられており、SPACによる気候テック投資は、2021年第3四半期に過去最高の93億米ドル(25件)を記録したものの、1年後にはわずか8億米ドル(3件)に減少しました。
2021年第3四半期の記録的な投資額はSPACが牽引したもので、今考えれば外れ値であったことを考慮すると、今年の気候テック投資の減少はそれほど劇的なものではないと言えるでしょう。2022年の投資額は、四半期ベースでは150億米ドルから200億米ドルの範囲で推移しました。これは2021年上半期と同等の水準です。2018年以降の気候テック投資の累計額は2,600億米ドルに達しています(2022年の500億米ドル超を含む)。
興味深いことに、気候テック投資の水準は、経済環境の悪化や最近のベンチャーキャピタル市場全体の減速にもかかわらず、ほぼ一定となっています。実際、直近の四半期を含む過去12カ月間の気候テック投資はエクイティ投資全体の26%を占めており、これは2018年以降の実績(20~30%)の中では高い部類に入ります。
たとえ気候テックへのベンチャー投資が減速していたとしても、ネットゼロへの移行に対する広範な投資は、テクノロジーへの投資を含めて資金需要が高まっていることを示しています。こうしたマクロトレンドの背景には、政策支援による気候テックスタートアップへの投資環境の整備や、民間のネットゼロソリューションに対する継続的な需要拡大といった、官民両セクターの変化があります。
公共セクターでは、政策立案者の間で気候の安全保障、エネルギーの安全保障、経済の安全保障はそれぞれつながっていることが理解されつつあるようです。実際、公共セクターが推進している気候関連の取り組みの多くは、ESG課題への対応を主軸にしたものではなく、経済成長を第一に据えたものとなっています。このアプローチは不安定な経済状況にもかかわらず、というよりはむしろ、不安定な経済状況だからこそ、政策立案者が公的支援を強化することを可能にしています。気候テックスタートアップにとって追い風となる可能性のある最近の動きには、次のようなものがあります。
一方、民間セクターでは「炭素の時間価値」、つまり短期的なネットゼロ対策と、長期的な排出量削減ソリューションのバランスが関心を集めるようになっています。後者については、First Movers CoalitionやFrontierなどのイニシアティブが登場したことで、気候テックを利用したソリューションに対する需要シグナルが強まり、投資家がスタートアップの成長に投資する機会が広がりました。投資家は、これらのイニシアティブによって気候テック投資が増加し、気候テックの成長が促進されることを期待しています。その効果が投資データにはっきりと現れるまでには数カ月を要するかもしれませんが、その兆しはすでに現れ始めています。
例えば、温室効果ガス排出量に関する投資家向けグレードのデータインテリジェンスについて考えてみましょう。企業の間では、こうしたデータインテリジェンスや各種ESG課題に対する関心が年々高まっています。これはESGデータに関する規制と投資家の期待の両方に対応できる企業向けソフトウェアソリューションへのニーズが高まっていることによるものと考えられます。温室効果ガスのデータインテリジェンスの分野には、活気あるスタートアップのエコシステムが存在し、温室効果ガス会計、サプライチェーンのトレーサビリティ、環境・健康・安全に関するレポーティングなどのソリューションが提供されています。2021年以降、PwCは300件近くの投資案件を確認しており、2022年の第1四半期から第3四半期までの投資総額は28億米ドルを超えました。
ただし、2022年第3四半期に投資件数と投資額が急激に減少したことには留意する必要があるでしょう7。これは大手テクノロジー企業の新製品発表の時期と重なったことが理由かもしれません。非財務データに関する規制報告要件の導入が世界中で進んでいることから、データインテリジェンスに対する顧客の需要は今後も高まると投資家は予想しています。
もう1つの例として、炭素の回収・利用・貯留についても考えてみましょう。この分野は長年、投資も成長も控えめな水準にありましたが、2022年の投資額は第1四半期から第3四半期までの合計ですでに2021年通年のほぼ2倍に達しています。2022年の投資件数は2021年より少なかったものの、レイターステージのベンチャー投資が増加しており、平均投資額も増えています。この成長を牽引したのは政策コミットメントと炭素市場の将来の規模に関する予測です。
しかし、炭素の回収・利用・貯留技術が二酸化炭素排出量の削減に貢献する可能性や、パリ協定の目標を達成するために科学者が必要だと考えている二酸化炭素の除去量を考えると、現在の市場規模は依然として小さいと言わざるを得ません。2022年第3四半期は投資案件が比較的少なかったことを考えると、このセクターの投資案件は増やしていく必要があります。
0社以上 追跡した気候テックスタートアップの数
0億米ドル以上 2018年第1四半期から2022年第3四半期に実施された気候テック投資額
0億米ドル以上 2022年第1~第3四半期の気候テックへの投資額
-0% 2021年第1~第3四半期と2022年第1~第3四半期の投資伸び率
0件以上 2018年以降に追跡した気候テック投資の案件数
0人以上 2019年以降に特定されたユニーク投資家
0 2018年以降の大型投資(1億米ドル以上)
0社以上 直近の取引日現在、評価額10億米ドル以上の気候テックスタートアップ
政府や民間の取り組みによって投資額は増える可能性がありますが、ネットゼロ気候目標の達成期限が迫っていることを考えると、特にアーリーステージ投資と、高い排出量削減効果が期待される技術への注目を高める必要があります。
第一の問題は、小型案件(主にアーリーステージ投資)の件数と総額が2021年以降、減少し続けていることです。その一方で、500万~10億米ドル規模の投資案件(主にレイターステージ投資)は好調に推移しています。その結果、気候テック市場とベンチャーキャピタル投資全体は停滞しているにもかかわらず、全体的な投資額と案件数はそれほど落ち込んでいません。
10億米ドル以上の大型案件は、2018~21年のほとんどを通じて、20億米ドルから50億米ドルの間で推移しました。今年は大型案件が減少し、上半期は1件もありませんでした。2022年第3四半期は案件数が急激に盛り返したものの、過年度と比べると、平均投資額は大幅に少なくなっています。株式市場全体が減速していることを考えれば、これは驚きには値しないでしょう。
この傾向は厄介です。ファンドのドライパウダー(まだ投資に回されていない待機資金)は依然として高い水準にあるものの、気候テックスタートアップへのアーリーステージ投資の案件が増えない限り、この資金が有効に活用されるかは分からないからです。PwCが話を聞いたあるファンドマネージャーは、初期の資金調達ラウンドを超えてレイターステージにまでたどり着く、投資価値のある質の高いスタートアップは十分に存在しない可能性を指摘しました。初期のプレシード期の投資と、シリーズA、Bレベルの投資の間にあるこの断絶を、PwCはアーリーステージのスタートアップの「死の谷」と呼んでいます。
その理由については、さらなる調査が必要ですが、投資家からはESGファンドのレポーティング要件の負担が大きいことや、初期の資金調達ラウンドを対象としたファンドは、取引コストをカバーできるだけのスケールメリットを実現できない可能性があるという指摘が繰り返し聞かれました。ある投資家の言葉を借りれば、「非倫理的(dirty)」な投資家はファンドを設立し、運用するだけですが、「倫理的(clean)」な投資家は膨大な数の規制や政策ガイドラインに目を通し、その遵守に時間とスキルを費やさなければならないのです。
2つ目の課題はインパクトに関するものです。PwCは、この課題を「セクター」「技術」という2つの観点から分析しました。セクターレベルでは、2021年のレポートで初めて指摘したように、気候テック分野の投資件数は今も各セクターが排出する温室効果ガスの量と比例していません。しかし緩やかながらも改善の兆しは見られました。
昨年の調査では、モビリティは世界の温室効果ガス排出量の16%を占めているにすぎないにもかかわらず、投資総額の61%を受け取っていることが分かりました。しかし最新の温室効果ガスの排出データによると、今年はモビリティが世界の温室効果ガス排出量に占める割合は15%だったのに対し、気候テック投資の総額に占める割合は48%でした。つまり、温室効果ガス排出量の残り85%を生み出しているモビリティ以外のセクターが、気候テックへの投資総額の半分以上を受け取っていることになります(昨年はわずか39%)。
セクター別の排出量と投資額の比較は直感的で有益な指標ですが、個別のソリューションの排出量削減効果、削減コスト、ベンチャー投資への準備度などは考慮されていません。技術の観点から見た場合も、状況はあまり変わりません。
技術の成熟度と潜在的な排出削減効果(すなわち将来的な気候インパクト)の比較結果は、この市場はまだ気候目標の達成に貢献できるだけの効率性を備えていないというイメージをさらに強めるものとなっています。食品廃棄物関連の技術や二酸化炭素を回収・除去するようなソリューションは、さまざまな理由から今も相対的に資金不足の状態にあります。パリ協定の目標の達成可能性を維持するためには、排出量を削減できる可能性が最も高い技術と、排出量に短期的な影響を与えられる程度に先進的な技術の両方に、資金が流れるような環境を整備する必要があります。
その区別は非常に重要です。ある投資家が指摘したように、リスクの上昇、外部性の価格、排出量の増加がもたらす悪影響を考慮に入れれば、二酸化炭素を今日1トン削減することが、明日1トン削減するよりも大きな影響をもたらすことは明らかです。核融合燃料や水素燃料のようなネットゼロ技術は究極の目標ですが、その効果はすぐには現れません。「移行技術」と呼ばれる技術、例えば炭素回収のような、間もなく成熟するとみられる技術、または成熟した技術、すぐに規模を拡大できる技術への関心を失うべきではありません。
社会が2030年までに排出量を半減させる方法を模索する一方で、公平かつ公正な移行を実現するためのソリューションや構造改革についても、さらに議論を重ねることが求められます。気候テック投資を拡大し、トップレベルだけでなく、さまざまなセクターやソリューション、さまざまな規模のスタートアップ、成熟度の異なる技術に広く投資していく必要があります。2022年第3四半期の投資の落ち込みを取り返すことができなければ、パリ協定の目標はすぐに手の届かないものとなってしまうでしょう。
短期間で高い削減効果を上げられる分野を中心に、気候テックへの投資を拡大する必要があります。今年の投資の落ち込みが、特にその長期的な影響を考えれば、懸念材料であることは間違いありません。しかし投資家や政策立案者、その他のステークホルダーが今も投資を加速させる意欲を失っていないことを示す兆しも存在しています。
[1] The six policy priorities of the von der Leyen Commission、欧州議会(2022年9月)
[2] China Is the Growth Engine of World’s Low-Carbon Spending | BloombergNEF、BloombergNEF(2022年2月)
[3] Three laws will triple US climate change spending over the next decade 、世界経済フォーラム(2022年9月)
[4] FACT SHEET: Biden-Harris Administration Proposes New Standards for National Electric Vehicle Charging Network | The White House、The White House(2022年6月)
[5] https://www1.nyc.gov/site/sustainablebuildings/ll97/local-law-97.page
[6] https://ww2.arb.ca.gov/sites/default/files/barcu/board/books/2022/082522/prores22-12.pdf
[7] データの収集に遅れが生じているため、現在記録されている2022年第3四半期の案件は、実際の市場活動よりも小さく見積もられている可能性があります。しかしデータセットの網羅性が高まっても相当規模のずれは残ると予想されます。
※本コンテンツは、Overcoming inertia in climate tech investingを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。