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最初に海外事業の業績予想について質問しました。その結果、「増収」と回答したのは全体の20%、また「やや増収」と回答したのは全体の33%であり、過半数が増収傾向にあると回答しています(図表1)。COVID-19による影響の程度、ワクチン接種の状況は各国によってさまざまですが、一部の国でロックダウンとなった2020年の状況と比較して、ワクチンの普及が各国で進んだことで、経済全体が回復していることが1つの要因と考えられます。
図表1
質問:海外進出地域・国の売上高について昨年度と比較して今期業績予想は次のいずれに該当しますか。
パンデミックからの回復期である今、日本企業は今後3年程度の中期的成長という観点から、どのような展望を有しているのでしょうか。マーケットの中期的動向について、国内市場と海外市場を比較してどのような認識でいるか質問しました。その結果、全体の約3分の2が、海外市場を自社にとっての成長市場としてとらえていることが判明しました(図表2)。
また、海外事業の位置づけについて、強化・拡大しようと考えているのか、あるいは縮小・撤退しようと考えているのか質問したところ、海外市場を「強化・拡大する」と回答した割合は54%と過半数を超え、「縮小・徹底する」と回答した割合はわずか5%に過ぎませんでした(図表3)。
図表2
質問:中期的(今後3年程度)な貴社の成長マーケットについて教えてください。
図表3
質問:中期的(今後3年程度)な海外事業にかかる見通しについて教えてください。
今後有望と考える事業展開先について、国・地域を挙げてもらいました。その結果、第1位として最も多かったのは「米国」、次いで「中国」「インド」でした(図表4)。
続いて、その理由を質問したところ、「現地マーケットの今後の成長性」が最も高く、次いで「現状の市場規模」でした(図表5)。GDPで見ても米国および中国の規模は大きく、世界経済を今後もけん引していく市場への期待感が推察されます。また、有望国・地域として選ばれた上位10カ国・地域のうち7つがアジアであることから、今後の投資対象として多くの企業がアジアに注目していることが見受けられます。
図表4
質問:中期的(今後3年程度)に有望と考える事業展開先の国・地域を挙げてください。
図表5
質問:前問で当該国・地域を選んだ理由を教えてください。(複数回答)
今後3年程度の中期的将来にかけて、縮小・移転・撤退を検討している国・地域を挙げてもらいました。その結果、第1位として最多だったのは「中国」で、「韓国」「米国」が続きました(図表6)。
続いて、その理由を質問したところ、一番多かったのは「現地の政情・経済不安、社会不安」で、次いで「現地マーケットの現状規模が縮小傾向であり成長性がない」という回答でした(図表7)。事業展開先として有望である国・地域と、事業を縮小する予定の国・地域、そのいずれも中国が上位に挙がりましたが、この両面で中国が挙げられるという結果は、日本企業の多くが戦略的な事業ポートフォリオの見直しや、トランスフォーメーションの必要性を検討していることを示唆しています。そして、日本企業の中国市場の捉え方がこれまでと比べ、近年大きく変わってきていることも推察されます。以前は安価なコスト構造を前提に、中国は日本をはじめとする世界の製造工場としての役割を果たしていましたが、近年は消費地としての巨大市場と認識されており、多くの企業が調達・生産・販売を行うバリューチェーンへと構造の転換を図ってきていると考えられます。また、中国国内企業の技術力も競争力を増してきており、日本企業としてもそのような市場環境・競争環境の変化から付加価値の低い組立機能を東南アジアへ移転したり、事業ポートフォリオの見直しにより既存事業を縮小し、より高付加価値な製品・部品の製造、開発、設計機能へシフトしたりするケースが増えることが予想されます。その意味で、中国をめぐる動向については「戦略的な事業構造の転換」の色合いが濃いと考えられます。
図表6
質問:中期的(今後3年程度)に縮小・移転・撤退と考える事業展開先の国・地域を選んでください。
図表7
質問:前問で当該国・地域を選んだ理由を教えてください。(複数回答)
これまで見てきたように、多くの日本企業の中期的な成長にとって、海外市場は非常に重要であると考えられます。ここからは、COVID-19や米中デカップリングなどの影響を受けて、日本企業が海外事業を展開するにあたって現在直面している課題にはどのようなものがあり、その課題の背景には何があるのかについて考察します。
まず、海外事業における経営課題として、何が重要であると認識しているか質問しました(図表8)。
全体を通じて最も上位に挙がったのは「市場環境・競合環境の理解」、いわゆるマーケットインテリジェンスについての課題です。海外市場は、顧客や競合環境などが日本市場とは異なるため、その動向をいち早く察知するための機能を強化することの必要性がうかがえます。昨今関心が高まっている地政学リスクのモニタリングや調査については、単純に法令を遵守するだけでは不十分であり、その背景にある各国政府の関係性や、それに基づく動きについて把握する必要もあります。そのため、それらの情報収集の質を高め、戦略検討およびリスク分析に注力し、そのための支援情報を提供するインテリジェンス機能の強化に取り組む企業が多く見受けられます。
2番目に多い回答は「海外子会社や出資先の不正や横領リスクの早期発見・見える化」でした。この回答は、アジアをはじめとする新興国に事業展開している企業の方から特に多く得られました。新興国においては、現地の事業運営に際して不正行為や、横領をはじめとする違法行為がしばしば摘発されており、その予防や発見のための仕組みづくりに課題を感じているものと推察されます。
3番目に多かったのは「海外事業を推進するためのデジタル人材の確保・人材育成」です。地域としては、北米・中南米、および欧州における課題として強く認識されています。日本国内でもこの数年で、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉をメディアなどで目にする機会が急激に増え、日本国内でDXを推進している例は多数存在します。しかし、それをグローバルに展開することは至難の業であるようです。また、デジタル人材を育てるためのインフラ基盤は、現地の政策に影響を受けることから、各国・地域一律にデジタル化を推進するというわけにもいきません。
なお、「米中関係の変化によるサプライチェーン分断による生産・供給体制の構築」については後述の米中デカップリングに伴う課題として、さらなる関連調査の結果を踏まえて説明します。
図表8
質問:貴社の海外事業ではどのような経営課題が重要と認識していますか。最も重要であると考える項目を選んでください。(5つまで)
またこの調査結果から、地域ごとに経営課題の特徴が見て取れます。先ほど述べた上位3つの「マーケットインテリジェンス」「デジタル人材の確保・育成」「不正・横領リスクの見える化・早期発見」は各地域共通の経営課題として捉えられる一方、地域の特有の経営課題もあります。例えば北米・中南米では「戦略的なクロスボーダーM&A戦略の計画実行」、欧州では「買収後のPMI」が上位にランクインしており、M&Aに伴う経営課題が重視されていると考えられます。また中国を含む東アジア地域では「各国の法律・規制変更によるコスト増・コンプライアンス対応」が特徴的な経営課題となっています。
図表9
質問:海外事業の進出先ではどのような経営課題が特に重要であると認識していますか。地域ごとに最も重要であると考える項目を選んでください。
* 回答企業の進出先国・地域の違いにより地域間で回答数のばらつきがあることから、分析可能な回答数となるよう国・地域をまとめて集計しています。
米国と中国との間で、貿易、通信、データの保護・管理・取引などの分野で生じているさまざまな問題は、日本企業にとってどのような影響があるのでしょうか。米中デカップリングが企業活動に与える影響について質問したところ(図表10)、回答者の約半数が、米中デカップリングが企業活動に対してマイナスの影響を及ぼしている、または近い将来に影響を及ぼすものと考えていることがわかりました。
さらに、米中デカップリングの影響を受け、どのような経営課題を抱えているか質問しました(図表11)。その結果、「対応策・打開策を見いだせていない」という回答が28%、「どの程度のエクスポージャーであるのか自社では把握できない」という回答が26%に上りました。このことから、相当程度の企業がデカップリングに起因した課題に対して有効な施策を取れていないことが推察されます。その一方、「米国市場を重視したビジネスモデルの再構築」「中国市場を重視したビジネスモデルの再構築」が経営課題であるとの回答も、それぞれ20%弱ずつ存在します。これらの回答者が在籍する企業は、デカップリングへの対処方針がある程度明確化できていると考えられます。このことから、日本企業のデカップリングへの対応状況は二極化されていると言えるでしょう。
図表10
質問:米中デカップリングが貴社ビジネスにどのような影響を与えていますか。
図表11
質問:米中デカップリングの中で貴社ではどのような経営課題を抱えていますか。(複数回答)
また、米中デカップリングの観点から、海外事業におけるサプライチェーンの対応状況について質問しました(図表12)。この結果を見ると、米中デカップリングによってすでに米国、中国それぞれサプライチェーンを切り離している企業が少なからず存在していることがわかります。その一方で、未着手・未検討という企業は37%で、この点においても、日本企業の間でデカップリングへの対応が二分される状況であると言えるでしょう。
図表12
質問:米中デカップリングの観点から、海外事業におけるサプライチェーンの対応状況について教えてください。
ここまでは、日本企業の中期的成長という観点から海外事業の位置づけ、関連する課題および対応状況について調査し、その結果を考察してきました。ここからは、日本企業のグローバル戦略についての調査結果について考察を進めます。
日本企業が自社のポジショニング、とりわけ海外事業における競争力が中長期的に持続すると考えているかどうか、質問しました(図表13)。その結果、「そう思う」との回答は20%に満たず、「どちらかといえばそう思う」と「どちらかといえばそう思わない」といった不確実性を反映した回答が合わせて6割を超えました。これは、日本企業の技術面での国際競争力の低下といった側面だけではなく、かつてないスピードで変化が連続するVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))時代の不確実性を示唆した結果であるとも考えられます。
そのような不確実さが取り巻く海外事業において、企業として戦略推進にあたりどのような要素を重視しているのかについても調査を行いました(図表14)。50%超の回答者が、「自社だけでなくM&A含むアライアンスパートナーと組んだ海外事業展開」の重要性を認識しているとの結果になりました。これは、変化の激しい環境下において自社の強みである部分により大きな経営資源を投入し、アライアンスパートナーがその他を補うような相互協力的かつ柔軟な戦略へとシフトしていることを反映していると考えられます。
次いで多かったのが「外部アウトソース活用による海外事業オペレーションの効率化」です。これは近年コンプライアンスやITの領域を中心にスキルの高度化および専門化が進んでいることと、企業側が選択と集中の考えに基づいて全ての事業機能(とりわけルーティン業務を処理する機能)を内部で保持することに限界を感じていることを反映していると思われます。例えば、仕分け処理や税務申告などのルーティン業務を処理する機能や、現地特有の法制度に準拠しなければならないようなプロセスを一括してアウトソースすることによって、企業側は戦略的なプランニング業務に集中することが可能となり、同時に事業オペレーションの強靭化にもつながることが期待されます。
3番目に多かった回答は「ESGの取り込み」と「地産地消型バリューチェーンの構築」です。「ESGの取り込み」については後述しますが、この結果は前述のデカップリングについて検討した部分でも触れた通り、米国・中国・EU間による関税や制裁などの影響を回避、または最小化するための戦略として、「地産地消型バリューチェーンの構築」が有効であるとの考えの表れであるとも考えられます。自動車業界を中心に生産の現地化が進められてきたことは広く知られていますが、これまでにないレベルでの現地調達、例えばバイ・アメリカン法が適用される、または準用される米国連邦政府予算関連の案件に関わるような事業であれば、サプライヤー選定においては現地化の要素をより一層加味したサプライチェーン戦略が必要になるでしょう。
図表13
質問:中長期的に貴社の海外事業は国際競争力が持続すると考えていますか。
図表14
質問:今後海外事業を推進していくうえで、どのようなことが重要だと考えていますか。(複数回答)
同率で3位となった「ESGの取り込み」は、近年より一層重要性を増している経営課題の1つです。そこで、日本企業のグローバル戦略にESGの要素を取り込んでいるかどうか質問しました(図表15)。「未着手・未検討」という回答が25%となった一方、「すでに取り込んでいる」、または「取り込む方向で検討している」との回答が約7割存在しており、相当数占めていることが判明しました。
次に、なぜ海外事業にESG戦略を取り込む必要があるのか、その理由について質問してみました(図表16)。ESG投資などが近年重要視されているということもあり、「海外投資家との関係維持」が1位となっています。また、業界団体や顧客のESGに対する関心が高まってきたこと、ひいては競合他社や業界全体でESGに係る取り組みが進んでいるといった背景があるということも、結果から見て取れます。
図表15
質問:海外事業戦略立案に際してESGの要素を取り込んでいますか。
図表16
質問:海外事業戦略にESGの要素を取り込んでいる、あるいは取り込む方向で検討している理由を教えてください。(複数回答)
では、各企業はESGの要素をグローバル戦略にどのように取り込んでいるのでしょうか(図表17)。
まず、約7割の回答者がCO2排出量の削減をはじめとする「自然環境に対する配慮」を挙げました。今年は国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が英国で開催され、大きな注目を集めましたが、環境保全に対する世界の注目度は年々高まっており、企業の経営戦略にも大きな影響を及ぼしているのかもしれません。そして第2位には「地域社会への貢献」、第3位には「労働環境の改善」といった領域が続いています。
図表17
質問:具体的にESGについて、どの領域で注力していますか。(複数回答)
本レポートでは日本企業のグローバル戦略に係る課題、対応状況などに関する実態調査結果について考察してきました。その結果、多くの日本企業が中期的成長のために海外市場に注目し、海外事業の拡大を重要視しているということがわかりました。また、海外事業における現状の課題としては、外部環境の複雑化に伴ってマーケットインテリジェンス機能の強化、デジタル人材の確保・育成、デジタルトランスフォメーション、主に新興国における不正の未然防止などが強く認識されていることとともに、地域ごとの特徴も再確認することができました。米中摩擦のような問題においても、対処できていない日本企業が相当程度あることも理解できました。
さて、一歩引いて全世界をマクロ的な視点で見ると、下記の予測が示す通り、2032年には実質GDPの国別順位が変わっていることが予想されます。米国が世界最大の経済規模大国の座を中国に取って代わられることが予測されていますが、コロナ禍の影響によってはその時期は早まるかもしれません。また、インドも日本を追い抜き実質GDP世界第3位となることが予想されています。このように、今後10年間は経済規模の観点から、大きな変革期となることが予想されます(図表18)。
図表18
実質GDP予測(単位:億米ドル)
出典: IHS Markitのデータを基にPwC作成
そしてこのような大きな変革期の中で日本企業が海外事業を通じて成長していくためには、海外ビジネスモデルそのものを変革することが今まさに求められているといえるでしょう。では、海外事業を変革し、持続的に成長するためのドライバーとして何が必要だと考えられるでしょうか。それは本レポートの調査結果から特に以下の3つであると考察できます。
調査名 | 日本企業のグローバル戦略動向調査 |
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調査日程 | 2021年8月 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査対象 |
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サンプル数 | 305人 |
回答者属性 | 下記参照 |
注1)すべての数字の合計値が100%にならない場合があります。(上位回答のみを抜粋、パーセンテージの切り上げなど)
注2)本調査は個人を特定せずに実施しているため、所属企業については重複している可能性があります。