ピープルアナリティクスサーベイ2021調査結果(速報版)

PwCコンサルティングは、ピープルアナリティクスにおける企業の取り組み状況、人材マネジメントに関連する人材データの利活用に関して、日本企業189社を対象にProFuture株式会社と共同調査を行いました。今回の2021年度の調査結果、および2016年から継続している同調査より、近年のトレンドについて6つのFindingsを抽出しましたので速報版として紹介いたします。

6 Findings

図1 Findings Pictogram

Findings1 人材データ活用動向:企業の人材データ活用への取り組みは、全体的に上昇傾向を維持

人材データの活用・分析の取り組み状況について「取り組みを実施している/実施した」「今後取り組む予定がある」と回答した企業は2016年と比較して全体で10ポイント増えており、全体としては人材データの活用が5割を超えて、上昇傾向を維持していることがうかがえます(図2)。また、産業カテゴリーごとの活用度では、70%の「通信・放送・情報系」を筆頭に、「金融・保険業」が63%、「メーカー」が58%と活用度が高い一方、活用度が30~40%に留まる産業もあり、人材データの活用度において差が出る結果となりました(図3)。

図2 データ活用の取組みに関する経年変化(トレンド)
図3 データ活用の取組みに関する経年変化(トレンド)

Findings2 活用データの種類:スキル情報、キャリアプラン、エンゲージメントなど個に焦点を当てたデータ活用の意向が高まる

活用している人材データの種類に関する今後の取り組み状況については、全体的に人材関連データの利活用のニーズが広がっていることがうかがえます。また、将来的(3年後)に活用したいと考えているデータとして、「スキル情報(マネジメントスキル・専門スキル等)」が62%で最も多く挙げられており、前回の調査から26ポイント増となりました(図4)。背景としては、国内企業でも大企業を中心にジョブ型制度の導入が浸透しつつある中、ポジションを担う人材要件を明確化し(ジョブディスクリプションなど)、スキルベースで適所適材を実現することが重要なファクターとなっていることが推察されます。加えて、中期経営計画や人材戦略実現のために、1年後、3年後の人材ポートフォリオを見据えた際、自社にとって必要な人材を明確化する手段としてスキルが注目されていることも挙げられます。

23ポイント増のキャリアプラン情報や、エンゲージメント(従業員意識調査、パルスサーベイ)への関心度も高い傾向にあり、個人に焦点をあてたデータ利活用の意向が高まっていると言えます。背景としては、コロナ禍以降、企業におけるリモートワークが進み、従業員の働き方に関する価値観の多様化とともに、マネジメントにおける個人へのケアが行き届かなくなった課題感を補完する意味合いが強まっているものと考えられます。

また、「ビジネスデータ(売上高や利益率等)」も15ポイント増となりました。人材データとビジネス関連データとの接続による分析においてはさまざまな背景や目的が想定されますが、特に昨今のトレンドである人的資本の財務的インパクトを把握する傾向が強まっていることが推察されます。

図4 データ活用および活用意向に関する傾向

Findings3 ツールの活用動向:BIツールと専門的な統計分析ツールおよびプログラミング言語の活用を中心としたアナリティクスツールの高度化・多様化が加速

「人材データ分析をするためのツール」としては、普段使い慣れている表計算ソフト・データベースソフトを77%が挙げており、活用度が依然として高い傾向にあります(図5)。一方、「データ分析をするために今後注力して使用したいツール」の回答では、「BI(データ可視化)ツール」が47%でトップ、続いて「人事基幹システムに付随しているツール(43%)」の活用意向が高まっています。特にBI(データ可視化)ツールの利用意向は、この3年ほどで大幅に増加しています。また、現在の活用度と比較して「専門的な統計分析ツール(20%)」「プログラミング言語(Python等)(16%)」の将来的な活用意向も高いことから、分析もより複雑化・多様化する傾向にあり、それに対応すべく、表計算ソフト・データベースソフト以外のツール活用度が高まっているものと想定されます。

図5 データ活用に係るツールに関する傾向

Findings4 ユーザーの広がり:人材データの利活用は本社人事から現場に拡大しつつあり、多様なユーザーに対応するべく、ユーザー視点の強化がツールにも求められている

人材データを活用するユーザーについては、従来は本社人事中心の活用に留まっている傾向でしたが、今回の調査では、マネージャー層で前年対比12ポイント増、次いで部門人事・事業所人事が11ポイント増、経営層および従業員本人で同6ポイント増となりました(図6)。本社人事以外のユーザーにおいてもデータ活用度が増加しており、人材データ活用が本社人事だけでなく経営層や事業サイドまで広がっているものと推察されます。また、データレイクなどのデータ基盤整備について「すでに構築し、活用している」「現在構築中または構築予定」と回答している従業員数5,000人以上の企業は79%に達しました(図7)。多様なユーザーへ展開するプロセスにおいて、ユーザーの利活用における親和性や利便性が求められる背景から、ユーザー視点の環境面の強化がデータレイクなどの基盤やツールにも求められていると考えられます。

図6 ユーザーの拡がりとデータ基盤構築の傾向
図7 ユーザーの拡がりとデータ基盤構築の傾向

Findings5 人材データ活用に向けた強化要素:人材データ活用に向けたデータの集約化、整備・標準化の要望が高まる

人材データの活用を想定した場合の強化すべき要素としては、「すでに強化に取り組んでいる/今後強化したい」と回答した項目の上位に「人材データの集約化(85%)」、続いて「人材データ項目の整備・標準化(83%)」「人事にかかわるニーズや課題の把握(82%)」が挙げられました(図8)。上位2つの要素については、データ利活用を促進するためのデータ整備の必要性が急務と言えます。特に人事関連データを活用した分析の現場では、人事関連システムやサービスが大小含めて複数存在しているため、特性や管理状態が異なるデータを都度収集、加工するなどの手間(部門間調整やデータの接合、加工、名寄せ等のデータクレンジング)が発生し、タイムリーで効率よいデータ活用ができないためです。ここで想定される課題は、さまざまなシステム、サービスに分散している人材データの活用を図るためのデータ統合(集約)・管理の実現、およびデータの可視化、分析等を進めるための構造化データの整備などが挙げられます。先述したスキル関連データの活用を例に考慮すると、構造化されたスキルリストと、定量化可能な方法でビジネス機能を識別するスキルタクソノミーの整備や標準化といった取り組みが、データ分析の環境整備の上で必要不可欠な要素になると考えられます。

図8 さらなるデータ活用に向けて強化すべき要素

Findings6 人的資本開示への取り組み:人的資本開示は上場企業でもいまだ情報収集の段階

ここまで解説してきた人材データの活用範囲については、社内的な活用に留まるものでしたが、近年、欧米をはじめとして高まりつつある人的資本に対する開示要請に向けた取り組みにも変化が生じています。国内でも人的資本開示への関心が高まっており、統合報告書を中心に目に触れる機会が増えています。一方で、人的資本開示を支える人材データの基盤整備という側面では、「情報を取得し、開示している」と回答した上場企業が14%、非上場企業は5%(「検討は進めていない(45%)」)と上場企業でもまだ一部に留まっていることが読み取れます(図9)。GRI(Global Reporting Initiative)やISO30414に代表される国際基準は整備されているものの、統合報告書等での人的資本開示に関しては義務化されておらず、あくまで企業努力に依存することから、具体的な取り組みは今後浸透していくものと推察されます。

図9 人的資本開示への対応状況

Findings Summary

今回の調査では、コロナ禍に伴う従業員エンゲージメント対応の強化、国内外での人的資本開示への要求対応など、人材にまつわるデータを軸とした企業としての課題がここ数年で加速度的に増加しており、人材データの利活用における多様化とともに、ユーザー層が本社人事から経営層、事業サイドのマネージャーおよび従業員まで拡大しつつあることがうかがえました。ピープルアナリティクスに関する企業の取り組みが、人事に限定されていた段階から、事業サイドも含めた実用化のステージに移行し始めたと捉えることができます。新たなピープルアナリティクスのステージに向けて、人材データの集約化や整備・標準化といった環境整備の強化も踏まえ、人材データの活用はさらに加速していくものと考えられます。このようなトレンドの中で、人材データの利活用に伴うデータマネジメントやセキュリティ、個人情報の取り扱いに関する整備の重要度は増していくものと想定されます。

執筆者

北崎 茂

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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齋藤 冠郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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野上 大

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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トリフォノフ デニス

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小山 遼

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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