
医彩―Leader's insight 第8回 病院長と語る病院経営への思い―小田原市立病院 川口竹男病院長―
経営改善を実現し、「改善を持続できる組織」に移行している小田原市立病院を事業管理者・病院長の立場で築き、リードしている川口竹男氏に、病院経営への思いを伺いました。
世界の製薬企業は、VUCA*1と称される不安定で不確実、複雑かつ曖昧な環境に直面しています。このような状況下で、製薬企業が安定した収益を確保し持続的な成長を遂げるためには、攻守のバランスが必要です。成長手段となる市場評価・規制動向の積極的な把握、イノベーション戦略の強化、戦略的なM&A、先端技術の積極的な活用、経営の持続的基盤となる効果的なコスト削減、そして信頼性の維持・向上が経営層にとって重要なアジェンダになると思われます。
特に日本の製薬企業は、低分子医薬品から抗体医薬品へのトレンドシフトにおいて後手に回り、さらに資本力と製造ケイパビリティを必要とする次世代モダリティの開発でも劣勢に立たされています。日本の製薬企業は国内市場だけでなく、米国市場を中心としたグローバルビジネスへ舵を切り、規制や市場環境に対応するためのアジェンダを理解するとともに、グローバル市場における企業間競争の中で得られる洞察を基に、M&Aを含めた事業ポートフォリオを立てることが急務です。加えて市場からの期待に応えるために、バリューチェーンの迅速化(生産性の向上)や事業規模に合わせた戦略的なコスト削減が求められています。これには、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の検討や新たな技術導入が不可欠であり、社内外の課題に対処しながら競争力を強化していくことが重要です。
本稿は、PwC米国法人が作成した「Next in Pharma 2024: Reinventing for Returns」を翻訳し、日米の外部環境の違いや日本企業独自の課題を踏まえて特に日本の経営層にとって再考が求められる主要な4つのテーマについて、追加の考察を行いました。
日本の製薬企業は、今まで日本的経営スタイル、すなわち経営体の維持繁栄を目的とした部門内最適化、現場からの積み上げによる目標設定、新卒一括採用・終身雇用・年功序列といった個々の能力や背景が異なることを前提としない人事制度、職務内容や責任が明確ではない組織構造であっても、長年国内市場で安定した成長を遂げてきました。しかし、グローバル市場の急速な変化の中で、これら日本的経営の特徴がイノベーションの障壁となりつつあるため、イノベーション戦略の再考が求められます。
日本の製薬企業は、次世代技術の獲得や研究開発力の強化を目的とした提携戦略、化合物のライセンスインや共同プロモーションなどの協業を積極的に進めています。一方で、グローバル企業と比較すると資本力やグローバルビジネスにおける経験が不足しているため、特に開発初期段階の製品パイプライン獲得を目的としたM&Aではしばしば買い負けてしまう現状があります。これらの課題を克服し、M&Aにおける競争力を高めるためには、企業間での再編含めた資本力強化が不可欠です。またM&A戦略の実効性を高めるために、経営層における意思決定の迅速化と権限の移譲の見直しについても早急に進める必要があります。
日本の製薬企業においても、バリューチェーン全体にわたるAI活用が推進されていますが、その進捗は企業ごとに異なり、大半の企業ではリサーチやセールスなど特定の部門での効率化にとどまっています。しかし、部分最適ではなく、バリューチェーン全体の最適化を目指すことが、これからの競争力強化には不可欠です。そのためには、ビジネス戦略の高度化・深化に向けてAI活用の強化領域を明確にし、バリューチェーンの全体最適に向けたAI活用ビジョンを策定するとともに、投資の優先順位を定め、実現可能なロードマップを作成して積極的に推進することが求められます。
日本企業が直面する主要な3つの外部環境変化には、国内市場の縮小、世界的な薬価引き下げ圧力による利益率の圧迫、ならびに研究開発費の高騰が挙げられます。特に中堅の国内製薬企業の多くは、予算および人的資源の配分が依然として日本市場に偏重しているため、各国・地域の事業規模に応じた再配分を通じて、コスト最適化を図る必要があります。さらに経営層が率先して「引き算」の施策、つまり選択と集中を徹底して進める必要があります。こうしたコスト削減によって得た資金は、グローバル事業や有望な研究開発領域への投資資源として活用することが求められます。
*1 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字をとった造語で、不確実な状態を指す
経営改善を実現し、「改善を持続できる組織」に移行している小田原市立病院を事業管理者・病院長の立場で築き、リードしている川口竹男氏に、病院経営への思いを伺いました。
埼玉県では令和6年度より看護業務改善のためのICT導入アドバイザー派遣事業を実施しています。本事業でアドバイザーを務めたPwCコンサルティングのメンバーが、取り組みの概要とともに、埼玉県が考える看護職員の就業環境改善に向けた支援のあり方について伺います。
製薬業界の未来を見据えた戦略的アプローチと必要な能力について論じる本稿では、2025年以降の変革的なトレンドや価値創造の方法を探り、特にAIの影響、バイオロジーの進歩、薬価引き下げの圧力、患者中心主義などに対応するための戦略を提案して います。
PwCコンサルティングが経営強化・業務改善支援を行っている北杜市立塩川病院・院長の三枝修氏および北杜市立甲陽病院・院長の中瀬一氏に、これまでのご御経験を踏まえて地域医療の魅力を存分に語っていただきました。