
カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの出会い
マーケットでの競争が激化するなか、成功しているビジネスリーダーは、価値の創出には体験から得られるリターンが不可欠であると認識しています。本レポートでは、顧客と従業員の体験に焦点を当てて企業がとるべき対応策を解説するとともに、日本企業に向けた示唆を紹介します。
マーケティング担当者は、自らの創造性、好奇心に加え、革新的ソリューションへの見識に誇りを持っています。CMO(最高マーケティング責任者)は変革をリードすることを望んでおり、ブランドの差別化を進めて市場シェアを伸ばす必要性を認識しています。そして、そのために全社的な投資の拡大を進めています。しかしながら、CMOは同時に「CxOをはじめとしたステークホルダーからの期待のコントロール」の必要性を感じているかもしれません。例えば、2023年8月のパルスサーベイによれば、CMOの90%が新たなテクノロジーの導入によって創出された価値の可視化を課題に挙げています。
今日のように複雑化したマーケットでは、顧客に密着して良好な投資収益率(ROI)を確保するために、よりスマートでデータドリブンな意思決定が必要とされています。CMOは他のCxOと協力することによって、マーケティング機能の強化と事業全般の価値向上を実現する継続的なソリューションを見つけ出すことができます。
不透明な経営環境において、今後12~18カ月間でコスト削減を計画しているCMOは全体の21%にとどまります
CMOは、企業ブランドの番人として、常に変化する顧客の嗜好を理解する役割を担っています。そのために、マーケティングリーダーは、顧客を獲得して成長を図りつつ、顧客を維持することに投資のターゲットを絞ります。同時に、CMOには、より少ないリソースでより多くの成果を上げることが求められています。取締役の40%、CFOの37%が今後12~18カ月間でコスト削減を予定していると回答しています。つまり、CMOはROI志向を継続し、かつその成果を実証しなければなりません。
それは、顧客欲求の変化を捉え、パーソナライズされた顧客体験を提供することに注力し、顧客を獲得、維持していくことを意味します。しかし、このようなパーソナライズ体験の提供が顧客の獲得に実効を上げていると強く認識しているCMOは全体の35%、顧客の維持に実効を上げていると強く認識しているCMOは全体の49%に過ぎません。
新しいテクノロジーは決して特効薬というわけではありませんが、多くの企業において、将来の成長戦略に組み込まれています。マーケティング担当者にとっては、このような新しいテクノロジーへの投資により、顧客へのアクセスが容易になり、需要の創造、買収コストの低減、事業転換を進めやすくなります。CMOは事業改革には楽観的かつ前向きではあるものの、新しいテクノロジーに要するコストが変革を行う際の課題になるとするCMOは全体の90%に上っています。また、そのうちの63%は、新しいテクノロジーが採用されると、これまでのビジネスモデルが実情にそぐわなくなるだろうと指摘しています。これらのモデルの見直しを目的とする投資の増加を予定しているとの回答が57%を占めたのは、こうしたことに起因すると言えるでしょう。
マーケティングリーダーの間では、このような支出増とそこから得られるリターンのバランスを保つために、AIなどのテクノロジーを通じた効率性向上への期待がより高まる可能性があります。回答者の半分以上(54%)がマーケティングAIの利用に向けた投資を増加させています。また、回答者の43%は、今後12~18カ月のうちに、生成AIがマーケティング機能における新たなビジネスモデルのサポートに役立つだろうと強く考えています。事業環境の進歩に遅れないための変革は必須ですが、CMOはここで立ち止まって、自らの立ち位置(どのように求められるレベルのROIを実現すべきか)を再考する必要があるのかもしれません。
これは、自社のビジネスモデルに新テクノロジーを組み込むことが今後3~5年における最優先の戦略課題であると回答したCMOの割合です
テクノロジーの目覚ましい進歩に伴い、マーケティングの役割に無数の新しい可能性が生まれています。顧客戦略の転換に画期的な成果をもたらすためにはどのテクノロジーやアプリケーションに注力すればよいかを探り当てることは、CMOの手腕にかかっています。ある物語を捉えてからデータを分析するに至るまで、先端的なテクノロジーを利用すれば、これまでとは違う方法で、顧客ニーズに対処できるようになります。
今後3~5年間の自社の戦略的優先課題に関して、新たな収入源の確保(29%)に次いで、4人に1人のマーケティングリーダーが、新たなテクノロジーを社内に根付かせることと回答しています。またカスタマージャーニーの見直し(46%)、マーケティングパフォーマンスに関連したデータ分析と洞察(44%)、およびAIで実現できるデータ分析と洞察(40%)に新しいマーケティングテクノロジーをすでに利用しているとCMOは回答しています。
このようなテクノロジーによって、マーケティング担当者は、以下のようなことをより少ないリソースで行えるようになります。
成功のカギとなるのは、新たなテクノロジーに習熟したチームを編成することです。CMOの40%は、新テクノロジーに習熟するための研修を現在の従業員に施すことが今後3~5年間の重大なテーマになるだろうと回答しています。それにもかかわらず、その半数以上が、マーケティング人材、採用、スキルアップのための投資額が減額される(CMOの9%)か同水準にとどまる(同43%)予定であるとしています。CMOは、より少ない研修予算で、より多くの成果を上げることを求められています。
企業の重大な意思決定を下す階層(いわゆるマネジメント層)にまでマーケティングの価値が理解されていると強く考えるCMOは、全体の54%に過ぎません
過去のパルスサーベイで指摘されていた懸念が表面化しはじめているのかもしれません。2022年11月の調査では、他部署に先んじて予算を削られると予想するCMOが全体の89%に上りました。今回の調査結果をみると、このような予算削減が現実のものになりそうな気配です。さらに、CMOはこれに先行しようとしているのかもしれません。新規雇用の停止に加え内定の取り消しを、他のCxOメンバーのいずれにも増して実施しています。しかし、優秀な人材なくして改革に向けた態勢を整備することは困難です。
マーケティングリーダーは、自らの価値を実証していく必要性を強く認識しています。CMOはより幅広いCxOの理解を求めようとしているものの、マーケティングの価値が社内で重要な意思決定を下す階層にまで理解されていると強く考えるCMOは全体の54%に過ぎません。それと同時に、CxO全体との間で有意義な関係を構築できていると強く考えるCMOは全体の約半数(49%)です。
価値の実証に関していえば、CMOはCFOとの連携を考慮すべきでしょう。財務部門のリーダーは、長年にわたってテクノロジーを利用してROI改善を立証し、経費を節減し、効率性を高めてきました。現在では、最新のイノベーションをいち早く取り入れて、このような能力を強化し、さらにはコスト削減から価値の創造へと、事業の方向転換を果たそうとしています。CMOは、財務担当者から、より洗練された予算編成モデルを構築する方策についての知見を得ることができます。顧客はコストではなく資産であると考えることからCFOとCMOとの連携が図られ、企業の長期的な成功を約束するコンビネーションが実現します。ここから、顧客体験を維持しつつ持続可能な価値の創造につながる投資に注力できるようになります。
上記レポートにおいてマーケティングテクノロジーの導入に関する提言が多い一方、テクノロジーを導入するだけでは解決できないことがあると私たちは考えます。それはCxOへの説明責任を果たすことです。
上記数値からも見て取れるとおり、マーケティングは戦略的成長領域としてとらえられている中で、CxOにマーケティングの経済価値をきちんと伝え、CxOから理解を得る必要があります。
しかし、CxOに正しくマーケティングの効果を示せている企業や、説明責任を果たすためにすべきことが分かっている企業はわずかです。
これまで広告代理店と協働しテレビCMを打ち出すことが主軸だったのが、昨今はマーケティング予算が縮小する中、テレビCMの枠への投資をソーシャルメディアに分配し効果を出すことが求められるケースが多くなっています。テクノロジーの発展に伴い、従来より定量的に効果を測定できるようになったものの、実際にどの程度の効果が出ているのかを定量的に示すことができている企業はわずかです。
そのような状況下で、CxOにマーケティングの効果を示すには、2つの取り組みが必要と考えます。
第一に、ターゲット顧客を改めて定義し、顧客の優先順位を付け直し、そのターゲット顧客に合った戦略やアプローチを取っていくことが非常に重要になってきます。即ち顧客戦略の策定です。
第二に、マーケティングのプロトコルのみでCxOに説明責任を果たしてきた現状から脱却する必要があります。即ち、ビジネス指標とマーケティング指標を連動させたマネジメントの実現です。昨今では、高度なアナリティクスモデルを用いた手法としてMMM(Marketing Mix Modeling)が有望視され、一部の企業で導入が始まっています。これまでにないケイパビリティが必要となるため導入にはハードルがありますが、CxOへの説明責任を果たし、マーケティングによる更なるビジネス貢献を実現するために、このMMMの積極的検討を推奨します。
私たちは実際に複数企業の顧客戦略策定およびMMMの支援をしています。今回はそのうち3社の事例を紹介します。
上記事例のようにCxOに十分にマーケティングの経済価値を伝えるためには、どの顧客に(Who)、どの商品/サービスを売るために(What)、どういったコンテンツやメッセージで訴求すべきか(How)をあらためて定義すること。ならびにビジネス指標とマーケティング指標を連携させる必要があります。しかし、私たちの経験値から述べると、そういったことができている企業はわずかです。マーケティングテクノロジーに投資する前に、Who/What/Howを再定義し、どのようにビジネスのリターンを得ていくのかを可視化してみてはいかがでしょうか?
PwCが2023年8月1日から8日にかけて実施した最新のPwCパルスサーベイでは、フォーチュン1,000企業と民間企業のエグゼクティブと取締役609名を対象として、事業環境の現状、直面しているリスク、自社の戦略や優先課題について調査しました。回答者のうち、CMOは68名でした。
※本コンテンツは、Jon Glick、Samrat Sharma、CJ Bangahが執筆した、PwC米国『CMO and marketing leaders Latest findings from PwC’s Pulse Survey』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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