LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年4月1日~4月30日)

今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。

1.会計上の救済策:より長期に、より広範に、より早く、より強く

何が起きたのか?

米国財務会計基準審議会(FASB)は、(i)ASC Topic 848で過去に提供されたLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日(sunset date)」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、(ii)ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利(タームSOFRなど)を追加する提案の公開草案を発表しました。本提案は、米ドルLIBORの将来の停止日の変更と、現在市場で利用可能なフォワードルッキングなターム物SOFRの採用が増加していることを反映したものです。意見提出期限は2022年6月6日となっています。

Topic 848のもと、FASBはLIBORを参照する契約の修正またはヘッジ関係の変更に起因する、潜在的に負担の大きい会計上の影響を軽減するために、金利指標改革にのみ由来する結果であることを条件に、一時的な救済措置を提供しています。米ドルLIBORの公表停止が当初予定されていた2021年12月31日の期日を大幅に超過し、2023年6月まで継続的に公表される予定である中で、サンセット日の延長が必要となりました。

2018年にSOFRが米ドルLIBORに代わる好ましい金利指標として推奨されたことを受け、その時からFASBは金利指標のリストにSOFR OIS Rateを追加していました。その時点では、フォワードルッキングなターム物SOFRは存在していませんでした。現在は、CMEがターム物SOFRの公表を開始しているほか、代替参照金利委員会(ARRC)も同委員会が推奨するフォールバック文言を含む米ドルLIBORベースの契約における代替金利指標としてターム物SOFRを支持しており、市場参加者は現物とデリバティブ商品の両方でこの金利指標の採用を始めています。FASBが提案したヘッジ目的に係る金利指標の拡張は、こうした動きを反映したものです。

PwCの見解

本修正は、市場参加者にとって明らかに有意義なものです。米ドルLIBORの公表が2023年6月まで継続される予定であるため、既存のLIBOR参照契約の修正はその日まで継続されると考えられます。米国の監督当局は一貫してLIBORに関するエクスポージャーの積極的な削減を推奨してきていますが、英ポンドなど他の通貨における経験から、LIBORからの移行には時間がかかることが明らかになっています。

(会計上の)金利指標に該当する金利が拡大されたことにより、特定のSOFRベースのヘッジ関係(例えば、ターム物SOFRを参照する金利スワップを使用したヘッジ関係)が有効であるとみなされる機会が増えるでしょう。ヘッジ関係が有効であると判断される機会が多いほど、Topic 815に基づくヘッジ会計処理が適用される可能性が高くなります。

今回の変更で最も恩恵を受けると思われるヘッジ関係は2種類あります。まず、公正価値ヘッジの場合(例えば、固定利付資産または負債を対象として固定対ターム物SOFRスワップでヘッジする場合)、ヘッジ関係がより効果的になれば、収益の変動幅が小さくなります。また、特定の取引(例えば、フォワードスタートの固定vsターム物SOFRスワップを用いて発行予定の固定利付債や取得予定の固定利付資産をヘッジする場合)においては、キャッシュフロー・ヘッジ会計の適用が容易になります。

現在、ターム物SOFRを参照するローンが増加しており、ターム物SOFRを参照する線形および非線形のデリバティブ取引も増加しています。しかし、ディーラーがターム物SOFRデリバティブを利用するには制約があるため、ターム物SOFRベースのデリバティブは、(清算済みデリバティブの慣例である)翌日物SOFRに基づく後決め金利に連動するものよりも割高になることが多いです。その結果、一部の借手は、金利リスクを管理するための代替的な手法の有効性、およびそれに伴う運用上の課題を評価することになるかもしません。原債権や負債証券およびそのデリバティブを用いたヘッジ関係においてSOFRに関する異なるコンベンションの使用を検討している市場参加者にとって、FASBが提案する、異なるコンベンションを横断したヘッジ関係についての柔軟性の向上は、有益と言えるでしょう。

※本コンテンツは、PwCが2022年4月に発刊した「LIBOR Transition Market update: April 1-30, 2022」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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