
LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年6月1日~7月15日)
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
カナダ銀行間取引金利(CDOR)の管理者であるRefinitivは、2024年6月28日以降、同レートのすべてのテナーの計算と公表を停止すると正式に発表しました。国際スワップデリバティブ協会(ISDA)は簡潔な声明の中で、この発表が金利指標の停止イベント(index cessation event)に相当することを確認しました。公表停止により、ISDAのIBORフォールバックの対象となるデリバティブ契約における参照金利指標は、CDORの推奨代替金利指標であるスプレッド調整したカナダ翌日物レポ平均金利(CORRA)に置き換えられることになります。ISDAの計算代理人であるBloombergは、公表停止に係る発表日時点で確定している各種テナーのスプレッド調整値を記載したテクニカルノートを公表しました。ISDAは、CDORの将来の公表停止に関するフォールバックプロトコルの適用についてさらに詳しく説明した追加ガイダンスを発表しました。
カナダ代替基準金利ワーキンググループ(CARR)は、Refinitivの発表を歓迎し、最新の移行ロードマップおよびマイルストーンを発表しました。市場参加者は、2023年6月30日までに新規デリバティブ契約の大半をCDORから後決めCORRAに移行し、2024年6月28日の公表停止日までに全ての商品をCDORから他の金利指標へ移行することが期待されています。
これと並行して、CARRは市中協議文書を公表し、特定のヘッジおよびローン契約におけるCDORに代わるフォワードルッキングなターム物レート、すなわち、ターム物CORRAの必要性について意見を求めています。協議の結果次第では、CARRは、そのようなターム物レートの公表を2023年第3四半期末までに開始する可能性があることを示唆しています。意見提出期限は2022年6月13日となっています。
金融機関監督庁(OSFI)は、CDORからの移行に対する期待について声明を発表し、「移行準備の評価に基づき、適宜、監督上の措置を取る」と警告を発しています。
この発表により、カナダ市場はCDORとその代替金利指標が並存するマルチレート環境へと移行する可能性があるという疑念は払拭されました。
ただし、カナダドル変動金利に係る今後の商品構成の行方について市場参加者には大きな疑問が残っています。CDORの公表停止により、Bankers Acceptance(BA)商品の形態は終了するか、少なくとも大幅に変更されると予想されています。短期で高品質な流動性のある投資手段を求めるバイサイドにとって、その穴を埋めることが最大の課題となり得ます。一方、企業の財務担当者は、キャッシュフロー管理戦略を進化させる必要があります。
市場におけるターム物CORRAへの期待によって、他の通貨におけるLIBOR移行で見られたのと同様の議論が再び起きる可能性があります。米ドル市場は、担保付翌日物調達金利(SOFR)の深く流動的なデリバティブ市場を活用し、フォワードルッキングなターム物SOFRを構築し、ローン契約に広く採用することができています。しかし、スイスフラン市場では、デリバティブの取引量が限られているため、ターム物スイス翌日物平均金利(SARON)を構築することはできないと判断されました。英国はその中間を採り、ポンド翌日物平均金利(SONIA)デリバティブ市場の流動性はターム物SONIAを開発するのに十分であると考えられましたが、ターム物SONIAの使用は市場の一部に限定されています。
カナダドルのデリバティブ市場は米ドルや英ポンドよりもスイスフランに似ているため、ターム物レートを開発する取り組みが最終的に成功するかどうかは定かではありません。とはいえ、今回の協議は、キャッシュフローの簡素化を求める市場参加者の強い要望が、少なくとも検討の動機付けになったことを明確に示しています。
CDORの公表停止に向けた準備は関係者全員にとって大きな負担になると思われますが、米ドルLIBORの公表停止が予想される日の1年後に公表停止日を迎えることで、米ドルや他通貨における移行から学んだ教訓を適用する十分な時間が確保できるはずです。グローバルなエクスポージャーを持ち、過去のLIBOR移行に対処しなければならなかった金融機関は、システムやプログラムの更新、金融契約の分析、新商品の開発においてその経験を活用できる立場にあると思われます。一方、CDORのバイサイドは、未知の領域に足を踏み入れることになるかもしれません。しかし、その負担に関して緩和要因もあります。
CDOR参照商品のグロス国内価値の97%はデリバティブに集中しており、したがって、デリバティブの清算機関により準備される措置や、明確な移行経路を提供するISDAの2020 IBORフォールバックプロトコル等から恩恵を受ける態勢が整っています。
LIBORの公表停止は、他の商品においても頑健なフォールバック条項を持つことの重要性を浮き彫りにしました。CARRはすでに変動利付債についてCDORに特化した条項を推奨していますが、ローン契約に関する同様の条項は現在も開発中です。その間、市場参加者は修正タイプ(amendment type)のフォールバック条項を含めることを選択する可能性があります。既存のローン契約においてしばしば見られる高度にカスタマイズされたオーダーメイドの条項と相まって、既存の契約の解釈と修正は、他の通貨におけるLIBOR移行におけるケースと同様に、困難で時間のかかるものとなり得ます。
今回、CDORには将来がないことが明確になりました。しかし、疑問も残っています。LIBOR移行の一環として、市場参加者が同じような疑問に対する答えを探していたとき、その答えがどうあるべきかについて、多数の関係者の間で必ずしも合意が得られてはいませんでした。場合によっては、金融機関は一貫性のないガイダンスや競合する利害の間を行き来することにさえなりました。CDORの公表停止に係る発表においては高度な調整が行われたため、今回は移行の取り組みをより緊密に連携させることができたと思われます。
ロンドン・クリアリング・ハウス(LCH)は、2023年6月末の米ドルLIBORの公表停止前に、米ドルLIBORスワップをSOFRオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)契約に事前転換する計画の詳細を示す市中協議文書を公表しました。2021年末の同様の取り組みでは、さまざまな中央清算機関(CCP)が、スイスフラン、英ポンド、日本円、ユーロLIBORに結びついた商品を、LIBORに代わるそれぞれのリスクフリーレート(RFR)に基づく市場標準のOIS契約に事前転換していました。これは、ISDAが開発したフォールバックを先取りすることを意図していましたが、結果として、現在のOISの市場慣行とは異なる慣行を用いたスワップを生み出し、取引を分岐させ、運用の複雑さを生み出すことになった側面もあります。
LCHの提案は、昨年行われた他通貨の事前転換とほぼ一致していますが、いくつかの相違点があります。米ドルLIBORスワップの量がかなり多いことを考慮し、転換は2023年4月と5月の2回に分けて実施され、米ドルLIBORの公表停止前に、不測の事態に対応するための時間が確保されています。LCHは、2023年4月22日の週末に米ドルLIBOR/フェデラルファンド金利ベーシススワップ、可変想定元本スワップ、ゼロクーポンスワップを転換し、残りのすべての契約は2023年5月20日の週末に転換する予定です。昨年とは異なり、転換に先立ってベーシストレードの事前分割を義務付けることはありません。
LCHの提案は、昨年の他の4つのLIBOR通貨の転換イベントで成功裏に採用された手法をほぼ踏襲しています。提案された手法が意味しているところは、米ドルLIBOR契約の商品範囲の複雑さがさらに増し、米ドルエクスポージャーの規模が著しく大きくなっていることを反映しています。米国代替参照金利委員会(ARRC)によれば、米ドルのエクスポージャー(全商品)は、英ポンド、ユーロ、スイスフラン、日本円の合計の約150%に相当すると推定されます。
米ドル清算金融商品へのエクスポージャーを持つ市場参加者は、清算機関に当該エクスポージャーが残った場合、その取引がどのように変更されるかの詳細を確認して正確に理解する必要があります。これには、特に、異なる商品が転換されるタイミング、代替取引のためのLCH契約IDの変更、転換から公表停止までの間に残る代表的なLIBORフィキシングに対処するための追加のオーバーレイスワップの設定、現金補償額などの微妙な差異が含まれます。
清算金融商品を他の金融商品の経済的または会計的ヘッジとして使用している場合は、代替商品の条件がフォールバックとどのように異なるかについて特に注意する必要があります。
※本コンテンツは、PwCが2022年5月に発刊した「LIBOR Transition Market update: May 1-31, 2022」の一部を抜粋し翻訳したものです。
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。
今号では米国におけるLIBOR法案の可決と、米国フェデラルファンド(FF)金利の引き上げによるSOFRレートの動き、ISDAのイベントにて業界関係者より発信された米ドルLIBORの公表停止に向けた対応などにかかるコメントを取り上げます。