新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が小売・流通業、消費財メーカーに与えた影響と今後備えるべきこと

2020-09-10

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下における市場変化

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、日本の小売・流通業、消費財メーカーに大きな影響を与えました。2020年1月、国内で初めて感染者が発生してから現在に至るまで、各業態やカテゴリーにどんな影響があったかを4つのステージ(期間)に区分し、振り返ります。

ステージ(期間)別トピックス・動向

  • マスクの需要が爆発し、全業態でマスク売上が大幅に増加
  • 中国における感染拡大でインバウンドの顧客数が減少
  • 百貨店やショッピングセンターなどインバウンドの顧客比率が高い業態に打撃が出始める
  • 2月27日の休校要請を受け、第1次パニックが発生
  • 生活必需品を買い求め、小売店に顧客が押し寄せた
  • 特に品薄状態となったのが「トイレットペーパー」
  • スーパー・ドラッグストアなどが大きな売上の山を作る中、コンビニエンスストアだけが低迷
  • 休校延長・緊急事態宣言を受け、長引く「在宅生活」を楽しむスタイルにシフト
  • 「お菓子作り商材」の売上が急上昇する一方、「化粧品」「日焼け止め」などが外出機会の減少を受け不調
  • 節約意識も高まり、ドラッグストアの「食品」売上が増加
  • ゴールデンウィークは多くの人が家で過ごした
  • 「アルコール」や「菓子」、「携帯型ゲーム機」など、家での生活を楽しむ商材が好調
  • 巣籠期に入り、他業態の売上増加の勢いが弱まる中、ECのみが大幅に伸長
  • 消費マインドはゴールデンウィーク中にプラスに転じ、そのまま上昇を続け、緊急事態宣言解除後にピークとなった
  • 5月末の緊急事態宣言解除を受け、低迷していた「化粧品」「アパレル」も回復傾向に
  • 「新たな生活様式」へ消費が動き始め、「フェイスシールド」や「自転車」といった商材の売上が増加

市場・業績動向の変化を示すキーワード

休校や在宅ワークの推進・外出自粛要請を受け、生活者の購買行動は変化し、小売・流通・消費財メーカーの業績に大きな影響を与えました。売上増減に影響を与えた要素として、特にインパクトが大きかったのが「買い物の仕方」の変化です。品薄品やお買い得品を求め、各業態で顧客が流出入しました。また、感染予防対策として、非接触型のEC利用=「ECシフト」や、買い物頻度を減らすための「生活必需品の買い込み(まとめ買い)」の傾向は、今後も「新たな買い物スタイル」として定着する推測されます。

市場・業績動向の変化を示すキーワードに対する直近の動きと今後の見通し(2020年3~5月のCOVID-19流行期からの変化予測)

(1)ECシフト

  • EC利用率はCOVID-19流行以降伸長を続けた
  • 緊急事態宣言解除以降も高い伸び率を維持
  • 店舗の品薄品を買い求める傾向が高く、今後のEC利用意向も高い

(2)ドラッグストア(DgS)のスーパーマーケット(SM)・コンビニエンスストア(CVS)化(食品購入機会の増加)

  • 備蓄期に「食品」買い込み先としてDgSの利用が増加
  • 緊急事態宣言解除後も「食品」売上は前年比110%程度の水準をキープ
  • 節約意識が高まるとさらに伸長の可能性あり

(3)CVSの低迷・客足減少

  • CVSは一人負け状態だったが、直近では回復傾向(一部のCVSは6月には前年超)
  • 在宅ワーク推進は今後も続くため、回復はするものの、成長拡大は困難と推測

(4)感染予防商材の欠品・品薄

  • 5月以降マスクの供給量増加により品薄状態は解消
  • ハンドソープ、除菌薬はいまだ品薄状態
  • 今後も感染者の推移次第で、急激な需要増による品薄・欠品が発生する可能性あり

(5)「生活必需品」の買い込み(まとめ買い)

  • 休校・外出自粛要請後、買い物頻度が減少し、食料品をまとめ買いする傾向が強まった
  • 緊急事態宣言解除後も感染リスクを鑑み、まとめ買い意識は継続

(6)「化粧品」「アパレル」の縮小

  • COVID-19流行後、大幅に減少
  • 直近においては上向き
  • 外出自粛解除により外出機会は増加するも、在宅ワーク推進は続くため、流行前までは戻らないと推測

(7)飲食店の顧客数・売上大幅減少

  • COVID-19流行後、大幅に減少
  • 直近においては上向き
  • 外出自粛解除により外出機会は増加するも、流行前までは戻らないと推測

(8)テイクアウト・デリバリーの需要増加

  • 巣籠期に特にファストフードや寿司などで売上が増加
  • 在宅ワーク推進は続くが、継続利用の意向はさほど高くなく、今後は弱まると推測

ウィズコロナ時代に小売・流通業や消費財メーカーが備えるべき4つのこと

2020年7月に入ってからさらに感染者数が増えており、感染への警戒感は解消されていません。感染者数の増減はCOVID-19の予防方法が確立するまで一進一退しながら続くと予測され、感染リスクに配慮しながら生活をする「ウィズコロナ」の状況が続くと想定されます。こうした状況下では、需要がCOVID-19流行前の水準に戻るには1年以上かかると予想されます。

一方で、企業側、特に小売店・飲食店は最大限の感染防止策を取り入れているものの、多大なコストと作業負荷がかかり、運営コスト増、生産性の低下を招いています。これらの施策を数年間続けることは、大多数の企業にとって困難です。この「ウィズコロナ時代」を乗り切るためには、以下の4つのことに取り組む必要があると私たちPwC Japanグループの消費財・小売・流通インダストリーチームは考えています。

  1. 持続可能なCOVID-19感染防止対策を採用する
    • 顧客と従業員の安全性を確保しながら、業界団体と連携し、作業負荷増、コスト増、売上減を許容範囲内にとどめる「着地点」を見つける
  2. 耐性の高い財務体質にする
    • 損益分岐点を下げ、売上減少に耐えうる体質に変える(日本の大手小売業の損益分岐点比率は特に高く、90%台が多い。最低でも85%、理想的には80%まで下げることが必須)
    • 財務的健全性をさらに強化する
  3. 事業ターゲット・ドメインを再確認する
    • 特に、遠距離、オフィス需要、仕事需要、消費を楽しむ、と言ったニーズに対応する事業
    • 需要がCOVID-19前の水準に回復するまで持ち耐えられるかを検討する
  4. 小売業では来店前のカスタマージャーニーの把握に努める
    • 計画購買比率の向上、オンラインシフト、消費意欲の低迷により、来店する動機が薄れていることを前提とする
    • 来店する前に勝敗は決まると認識する

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主要メンバー

小林 保之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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谷口 寿洋

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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山田 祐介

パートナー, PwC税理士法人

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杉本 究

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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矢矧 晴彦

マネージングディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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