SEC気候関連開示規則案:銀行が注目すべき10の要点

2022-05-27

米国証券取引委員会(SEC)は、3月21日、気候関連開示規則案を公表しました。本規則案は、銀行を含む上場企業に対し、温室効果ガス(GHG)排出量や、気候関連リスク、そのリスク管理方法等の開示を求めるものです。本提案は、気候関連リスクの増大や低炭素経済への移行に関する企業の対応状況を把握したいという投資家からの要請の高まりを受けたもので、SECの関連対応としては初めてのものになります。本提案によって、気候関連リスクは、現行の任意開示から強制開示となり、企業にとって規制上の義務が強化されるものと言えます。

現在、金融機関は、気候変動の影響への対応を求めるさまざまなステークホルダーからのプレッシャーを受けてすでに取り組みを始めており、グラスゴー・ネットゼロ・フィナンシャル・アライアンス(Glasgow Financial Alliance for Net-Zero : GFANZ)において450以上の金融機関(資産合計130兆米ドル超)がGHG排出量ネットゼロの取り組みにコミットしています。米国におけるグローバルなシステム上重要な銀行(GSIB)の大半も、2030年までに自行のGHG排出量を削減し、2050年までには投融資先の排出量も削減するというイニシアティブに署名しています。本規則案では、GHG排出量ネットゼロの目標を達成するための戦略を説明し、その目標達成に向けた進捗状況を年次で開示することが要求されていますが、(前述のような)GHG削減へのコミットメントを公表している機関にはさらに高い要求が課されることになります。

本規則案における銀行の開示項目は、気候関連リスクが銀行の戦略、ビジネスモデル、財務予測に与える影響、およびそれらのリスクを管理するためのガバナンス態勢・プロセスです。また、より先進的な気候関連リスク管理体制が整備されている銀行に対しては、定性的な情報開示に係る期待がより高く、例えば、シナリオ分析を行っている場合はシナリオ分析手法・分析結果の詳細を開示することが求められます。このように詳細な内容を公表することが期待され、他行と比較されることになると、気候関連リスク管理のさらなる強化に動き出す銀行もあるかもしれません。一方、母国の規制当局が関連規制を整備していない場合には、当該国の銀行各行は高まるプレッシャーを踏まえつつ、どこまで対応するかについてバランスを取る必要があるでしょう。

なお、本規則案によると、SECは2022年の年末までに最終規則を発効させることを目指しています。その場合、2024年には、GSIBのみならず多くの大手地方銀行を含む「大規模早期提出会社」は気候関連の開示を行うことが義務付けられることになります(本規則案が提示する各種期限の概要は本書の付録をご参照ください)。本規則案においては対応負荷が軽くない要求事項もありますが、提案されている時間軸では準備期間が比較的短いため、金融機関はなるべく早く対応に着手すべきです。

本レポートでは、SEC気候関連開示規則案において銀行が注目すべき10の要点をまとめました。

  1. 気候関連リスクとGHG排出量の開示要求の強化
  2. 多くの銀行がScope3に該当
  3. Scope3のセーフハーバールール
  4. GHG削減の先進企業への要求の高まり
  5. シナリオ分析の問題
  6. リスクの統合・ガバナンスの具体化
  7. 銀行の裁量による時間軸の決定
  8. 保証の義務付け
  9. 気候変動による財務影響の分析は困難
  10. 次のステップ

First take:

First TakeはPwCの金融規制担当チーム発行のレポートです

※本コンテンツは、PwCが2022年3月に発表した「First Take: The SEC’s climate disclosure proposal: 10 key points for banks」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

加藤 雅也

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