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不要不急の外出を控え、人と交流する際はマスク着用と十分な距離を確保すること⸺。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を席巻した2020年から2021年にかけて、ロックダウンほど強固ではなかったものの、日本でもまた、緊急事態宣言によってそれまで当たり前だった社会的つながりが制限される事態が生じました。自らの選択ではない、半強制的隔離生活が続くことで、多くの人が、同居人の有無に関係なく、孤独感に襲われたのではないでしょうか。
孤独が単身生活者だけのものではないことを経験したことで、社会に暮らす私たちは皆一様に、人生から完全に孤独を締め出す術がないという事実と正面から向き合う機会を得たのかもしれません。
2018年度実施の内閣府調査によると、「趣味の用事の時だけ外出する」準ひきこもり群と、「近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」狭義のひきこもり群を合わせた広義のひきこもり群の数は、61.3万人と推定されています1。
また、2022年度中の自殺者は、その数21,881人で前年比4.2%増となっており、男女別では、13年ぶりの増加となった男性の自殺者数は女性の約2.1倍、女性は3年連続の増加との公式発表が出ています2。
さらに、孤独死については、2015年4月から2022年3月までの調査結果では、平均死亡年齢が約62歳と男女ともに平均寿命より大幅に若い段階で死を迎えており、かつ、全体の4割が現役世代にあたりました3。
他にも、2021年度に全国225カ所の児童相談所が対処した児童虐待相談件数は207,660件で、過去最多を記録した4、というデータがあります。
ひきこもり、自殺、孤独死、虐待。これらの要因の1つに、孤独・社会的孤立があると考えられています。この他にも、健康被害や悪徳商法被害、薬物依存等などの原因の一端に孤独・社会的孤立があるとされています。
こうした状態に該当する人数の合計値を考えたとき、多少の重複を差し引いて考える必要はあるにしても、孤独・社会的孤立にどれほどの人が該当するのか、その規模が見えてきます。
孤独・社会的孤立は、人類が安全性や効率といった暮らしやすさを求めて他者と協働する集団生活を選択した頃からあるとする説があります。つまり、社会の誕生と同時に、社会課題もまた生まれてきたのだと考えられるのです。性別や年齢、社会的ステータスといった固定概念にとらわれることなく、全人類に関わる課題として孤独・社会的孤立と向き合う。そのシンボルとして、人類の歴史を象徴する地球をシリーズ第1回目の表紙に選びました。
本シリーズでは、孤独・社会的孤立に対する理解を深め、その状況緩和にビジネスがどのように関わることができるのかについて、数回にわたって検討していきます。
なお、本シリーズでは国連・EUに倣い、孤立については「社会的」孤立という表現を用いています。
孤独や(社会的)孤立という言葉は広く知られています。では、人々の考える「孤独」や「社会的孤立」は、果たして全て同じものでしょうか。
2022年12月に内閣官房が実施した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」5の結果によると、「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」という直接的質問に対して孤独感が「ほとんどない」「決してない」と回答したのは全体の約6割でした。
一方で、「人との付き合いがないと感じることがあるか」「取り残されていると感じることがあるか」「他の人たちから孤立していると感じることがあるか」といった間接的質問に対しては、「ほとんどない」「決してない」と、全体の約5割の人が回答しています。この結果の差異が意味するところは、聞き方次第で回答が変わるほどに、個人の「孤独・孤立」に対する理解が曖昧であるということです。
加えて、回答する時点で孤独・孤立を感じているかどうかもそのときの回答に影響すると考えられ、孤独感が「ほとんどない」「決してない」と回答した人が過去や未来においても同様の状態であるとは限らず、逆に今回「常にある」「時々ある」と回答した人が過去や未来においては孤独をあまり感じない日常を過ごしている可能性もあり得るのです。
「孤独」や「社会的孤立」について、世界の公的機関がその言葉を定義していますが、実は世界共通の確固たる定義があるわけではありません(図表1)。
それでも、各定義にはいくつかの共通概念が含まれており、ゆえに、これら2つの言葉は概ね以下のようにまとめることができるのではないでしょうか。
孤独(Loneliness)とは:
その人が希望するよりも社会的接触が少ないことによって生じる主観的状態
社会的孤立(Social isolation)とは:
社会的な接点の数によって判断できる、測定可能な客観的状態
すなわち、孤独とは、あなたがどう感じているかであり、あなた以外の人間が「あなた」の孤独を判断することはできません。孤独かどうかは「あなた」が決めることなのです。
一方で、社会的孤立とは、測定可能である点で他者によって計測される「状態」を指します。あなたがどう感じようと、定められた測定条件に当てはまらなければ、あなたは社会的に「孤立」していないこともあり得るのです。
よって、孤独と社会的孤立は相互に関係はあるものの、必ずしも付随するとは限らない、つまり、「社会的に孤立している人は全員、孤独を感じている」もしくは「孤独な人は全員、社会的に孤立している」わけではない、と考えられています。
なお、政府もしくは公的機関がその定義を定めているものをオンライン上で確認できたのは、日本を含め4カ国2機関にとどまりました。これらの国や地域や組織は、1)個人の人権意識が高い個人主義、2)経済活動を重視する資本主義、であるが故に、孤独や社会的孤立がもたらす社会的インパクトに敏感だと考えられます。
孤独や社会的孤立は、今後さらに世界で注力される研究テーマだと言えます。既に、孤独や社会的孤立が精神的・肉体的健康に悪影響を及ぼすことは周知の事実であり、健康を害している人ほど孤独を感じやすいということは、さまざまな国で実施された同様の調査結果から確認することができます。
近年はさらに幅広い学問分野で孤独や社会的孤立の研究が始まっており、例えば、孤独や社会的孤立が引き起こす経済的損失を算出する研究や記事も発表されています。
2017年、英国の雇用主は孤独に関連した費用として年間およそ4,508億円(25億ポンド)7を負担している、とのレポートが発表されました8。また、米国では、雇用主は年間約21.7兆円(1,540億米ドル)9以上のコストを推定で負担しており、孤独な従業員はそうでない従業員と比較して年間約5.7日多く欠勤する、というレポートもあります10。
孤独の増加が社会全体の経済活動にマイナスの影響を及ぼすことは近年知られるようになってきましたが、とりわけCOVID-19をきっかけに関心が高まっています。
こうした中で、英国は2018年1月に孤独担当大臣を任命し、10月に最初の孤独政策11を発表しました。これによると、英国では、2023年までに全ての一般開業医(GP)が孤独を感じている患者を地域活動やボランティアサービスに紹介できるようにするとし、国民保健サービス(NHS)の需要を減らすことで患者の生活の質向上を目指します。なお、この取り組みに対しては、約38億円(2,180万ポンド)を計上するとしており、以降、各省連携の下に取り組みは続けられています。
日本では、2021年に世界で2例目となる孤独・孤立担当大臣を任命し、世界がその動向に注目しています。
本シリーズ1回目では、「孤独・社会的孤立」に該当する国内のおおよその人数と言葉の定義、英米でのビジネスにおけるインパクトの規模を通じて、その社会課題の深度について考えました。
第2回は、「孤独と社会的孤立の要因・結果と官民の取り組み」と題し、「孤独・社会的孤立」をもたらす要因と、「孤独・社会的孤立」がもたらす結果についての各国・機関の見解を学ぶとともに、国内外の官民の取り組みを紹介します。
1 内閣府「特集2 長期化するひきこもりの実態」(2023年5月29日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_2.html
2 厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課「令和4年中における自殺の状況」(2023年5月29日閲覧)
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R05/R4jisatsunojoukyou.pdf
3 日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会「第7回孤独死現状レポート」(2023年5月29日閲覧)
https://www.shougakutanki.jp/general/info/2022/kodokushi.pdf
4 厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」(2023年5月29日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/001040752.pdf
5 内閣官房孤独・孤立対策担当室「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和4年)調査結果のポイント」(2023年5月30日閲覧)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r4_zenkoku_tyosa/tyosakekka_point.pdf
6 内閣官房孤独・孤立対策担当室「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和4年)調査結果のポイント」(2023年5月30日閲覧)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r4_zenkoku_tyosa/tyosakekka_point.pdf
日本:内閣官房「孤独・孤立対策の重点計画」(2023年5月31日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000885368.pdf
WHO:World Health Organization「Social Isolation and Loneliness among older people」(2023年5月31日閲覧)
https://www.who.int/publications/i/item/9789240030749
欧州:<孤独>European Commission「Defining loneliness」(2023年5月31日閲覧)
https://joint-research-centre.ec.europa.eu/loneliness/defining-loneliness_en
<社会的孤立>eurostat「Social participation and social isolation」(2023年7月3日閲覧)
https://ec.europa.eu/eurostat/documents/3888793/5847145/KS-RA-10-014-EN.PDF.pdf/e9a887c8-1b36-43cf-bb63-1bd62ac87ed8?t=1414779640000
英国:Age UKは、1940年に個人のグループ、政府/ボランティア組織が集まって状況の改善について議論したことで誕生した老人福祉委員会を起源とする。
Age UK「Loneliness and isolation - understanding the difference and why it matters」(2023年5月31日閲覧)
https://www.ageuk.org.uk/our-impact/policy-research/loneliness-research-and-resources/loneliness-isolation-understanding-the-difference-why-it-matters/
米国:Centers for Disease Control and Prevention「Loneliness and Social Isolation Linked to Serious Health Conditions」(2023年5月31日閲覧)
https://www.cdc.gov/aging/publications/features/lonely-older-adults.html#:~:text=Loneliness%20is%20the%20feeling%20of,lonely%20without%20being%20socially%20isolated.
オーストラリア:Australian Institute of Health and Welfare「Social isolation and loneliness」(2023年7月4日閲覧)
https://www.aihw.gov.au/reports/australias-welfare/social-isolation-and-loneliness-covid-pandemic
7 1ポンド=180.34円で算出。
8 NEW ECONOMICS FOUNDATION, 2017.「THE COST OF LONELINESS TO UK EMPLOYERS」(2023年5月31日閲覧)
https://neweconomics.org/2017/02/cost-loneliness-uk-employers
9 1米ドル=140.93円で算出。
10 emerald insight「Loneliness influences avoidable absenteeism and turnover intention reported by adult workers in the United States」(2023年5月31日閲覧)
11 GOV.UK「PM launches Government's first loneliness strategy」2018年10月、
https://www.gov.uk/government/news/pm-launches-governments-first-loneliness-strategy(2023年6月1日閲覧)
12 NEW ECONOMICS FOUNDATION, 2017.「THE COST OF LONELINESS TO UK EMPLOYERS」(2023年5月31日閲覧)
https://neweconomics.org/2017/02/cost-loneliness-uk-employers
シリーズ2回目では、各国の公的見解や研究論文を基に、孤独や社会的孤立に陥る要因と、深刻な状況に陥った場合の社会的リスクについて掘り下げます。また、日本や他国の政府・民間団体が現在この社会課題にどのような形で向き合っているかを見ていきます。