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本稿では、PwCコンサルティング合同会社が実施した消費者サーベイ1の結果を踏まえて、今後発展が予想されるスポーツNFTの市場規模を推定し、スポーツNFTの活用拡大に向けた施策について考察します。
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、代替可能性のないブロックチェーン上で発行されるデジタルトークン(証票)のことで、アートやゲーム、スポーツなどの幅広いカテゴリーにおいて活用されています。中でも、ファンのエンゲージメントをテクノロジーによって促進する手段として、スポーツと相性が良いとされており、選手の写真や試合のハイライト映像などの形で販売されています。
PwCのグローバルスポーツビジネスリーダーを務めるDavid Dellea(PwCスイス、ディレクター(当時))は、スポーツNFTが注目を集める理由について以下のように述べています。
「Web2.0の世界では、デジタル世界において人々がアセットを所有すること、そして所有物を他者に認識してもらいたいという欲求を満たすことが困難でした。NFTは、人々が持つそのような欲求への解決策として注目を集めています。そしてWeb3.0の世界では、人々がより長時間、デジタル世界で過ごすことが予想されるため、スポーツ団体・組織は、NFTが今後のファンエンゲージメント戦略において欠かせないものになると考えているのです」
Technavioが2022年5月に発行したレポート2によると、NFTの市場規模は、デジタルアート作品等への需要の増加を背景として、2021年から2026年にかけて1,472.4億米ドル成長するとされています。実際に米国では、スポーツ団体・組織の他、テック企業など多様なプレイヤーがスポーツNFTに参入しており、その傾向は今後も拡大すると考えられます。
しかし昨今の米国での金融引き締めを受けて、デジタル資産の市場が不安定な状態となっているため、今後の米国におけるNFT市場の動向にも注視が必要です。
日本でも、著名人やアーティスト、企業などが続々とNFTに関わる取り組みを発表しています。スポーツNFTにおいても、プロ野球パ・リーグやJリーグ、Bリーグなどで参入が相次いでいます。
今後、スポーツNFTが拡大していくためには、法律・税制面での課題を解決する必要があると考えられます。すでにNFTが盛んな米国と比較すると、日本には特有の事情があることが分かります(図表1参照)。
これらの課題を解消することを目的として、自民党デジタル社会推進本部・NFT政策検討PTは「NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略5」を2022年3月31日に公表し、ルールの整備や規制緩和を急ぎ、NFTビジネスの成長を促す考えです。民間でも、スポーツベッティングやNFT等のデジタル技術を活用したスポーツ産業の振興とスポーツエコシステムの確立を目的として「スポーツエコシステム推進協議会」が2022年1月に設立され、9月20日には「NFTガイドライン6」が公表されました。このように、官民ともに国内のスポーツNFT普及に向けた動きが活発になっており、今後の成長が見込まれます。
PwC米国では、2022年3月に公表した「Sports Industry Outlook 20227」において、メタバースとデジタル資産を組み合わせることで、より多くのファン層に対して新たな市場を生み出すと述べています。
PwCコンサルティング合同会社が4月に実施したサーベイ(以下、本サーベイ)において、スポーツNFTに対する認知・関心度や購入実態などを聴取したところ、スポーツNFTに関心がある人は全体の5.8%、スポーツNFTを購入したことがある人は全体の2.0%であることが分かりました。この結果を踏まえて市場規模を算出したところ、スポーツNFTの市場規模は1,100億円程度と見込まれます。
スポーツNFTに似たジャンルとして挙げられるトレーディングカード市場は1,222億円8と言われていることから、おおむね同水準と考えられます。
本サーベイの結果より、スポーツNFTを購入した経験がある人は、今後も購入したいと考える割合が高いことから、まずは1回購入してもらうことが重要です。また、全体の3割超がスポーツNFTの「購入場所」や「購入手順」が分かりにくい点を課題として挙げていることから、こうした購入のハードルを下げていくことが求められています。
さらに回答では、「価格変動が起きやすく、適切な購入タイミングが分からない」「手数料が高い」といった金銭面での課題や、「納税や転売に関する法整備が不十分である」といった法規制での課題も挙げられています。そのため、スポーツNFTが普及していくためには、NFT初心者に対する入口の整備の他、懸念されるさまざまなリスクを解決し、誰もが安心して参加できる環境の整備が必要と考えられます。
今後スポーツNFTがさらに普及していくためには、現在の機能以上のものを追加していくことも一案です。実際、本サーベイでは「収集したNFTを共有できるコミュニティ等の場(オンライン)」があると良いと回答した割合が最も多く、オンラインコミュニティの実装が求められています。一例として、メタバースの活用が考えられます。メタバース空間で、所有するスポーツNFTを披露し合ったり、同じ趣味を持つ者同士が集まったりすることで、スポーツNFTはさらに普及していくでしょう。
このような施策を実施し、スポーツNFTに関心を持つ人の割合を高めていくことで、スポーツNFTの市場規模は、さらに広がる可能性があると考えられます。
本サーベイの結果において、スポーツNFTを購入後に「知らなかった選手やチームに興味がわいた」人が約7割、「もっとスポーツを観るようになった」人が6割超となったことから、スポーツNFTがスポーツに興味を持つきっかけとなっており、スポーツ産業そのものの活性化の後押しとなることも期待されます。
本サーベイの結果より、スポーツNFTを購入する目的から、
①「戦略的にお金を増やしたい」投機に興味がある人
②「流行や新テクノロジー大好き」新技術に興味がある人
③「集めて楽しみたい」NFTの収集に興味がある人
④「娯楽大好き」スポーツ・アート・ゲームに興味がある人
の4つのセグメントに分類し、セグメント別の傾向を分析しました(図表2参照)。
4つのセグメントの主な傾向として、投機に興味がある人は、
といった特徴が挙げられます。また、スポーツ・アート・ゲームに興味がある人は、
といった特徴が挙げられます。その他、新技術に興味がある人は他のセグメントに比べると将来の転売を見据えてスポーツNFTを保有している人が多い、NFTの収集に興味がある人はランダムパックではなく、自分が収集したいと思っている特定のNFTを購入したいという特徴が挙げられます。
前述の内容を踏まえると、スポーツNFTをより普及させるために必要と想定される施策は、セグメントによって異なることが分かります。
投機に興味がある人が抱える課題として、NFTの購入場所や手順が分からないことが挙げられていたことから、このセグメントにとってNFTに関する主な情報源であるスポーツ団体・組織のウェブサイト等において、NFTの購入場所や手順について発信することが、さらにスポーツNFTを購入するきっかけにつながると考えられます。
新技術に興味がある人は、正規ルートだけではなく二次流通・転売等を含めて購入したいと考える人が多いという特徴があることから、法律・税制面のグレーゾーンを解消し、スポーツNFTの二次流通や転売等のプラットフォームを整備していくことが重要と考えられます。
NFTの収集に興味がある人は、特定のNFTを購入したい割合が高く、他のセグメントに比べてランダムパックで購入したい割合が低いという特徴があります。自分が好きなスポーツ団体・組織や選手のNFTを収集したいと考えることから、このセグメントに対しては、特定のNFTを販売していくことが、NFTをさらに購入するきっかけになると考えられます。
スポーツ・アート・ゲームに興味がある人は、スポーツNFTの年間購入金額が他のセグメントに比べて低いという特徴があります。前述したとおり、1回でも購入した経験があれば、今後の購入意向が高くなることから、このセグメントには、初回の購入を促すような施策が重要です。例えば、投機に興味がある人と同じようにNFTの購入場所や手順について発信したり、金額が低いNFTパックを販売したりすることが考えられます。
また、このセグメントでは、購入したいスポーツNFTとして、試合中のハイライト映像の他、SNSでの二次利用・チケット機能等の付帯機能を持つものを回答する割合が高かったことから、スポーツNFTに付帯機能を持たせていくことも有効と考えられます。
現在、スポーツNFTはデジタルトレカのような形で所有権にのみフォーカスした取り組みが主流となっていますが、本サーベイにおいてスポーツNFTに追加されるとよい機能を聴取したところ、「収集したNFTを共有できるコミュニティ等の場(オンライン)」が最も多く挙げられました。その他の回答として、「他のテクノロジーとの融合(メタバース、ファントークン等)」も3割程度となっており、スポーツNFTとメタバース等を組み合わせた取り組みに期待する層が一定数存在することが明らかになりました。実際、海外を中心に、スポーツNFTを単なるデジタルトレカの形だけではなく、付帯機能を持たせたりメタバースと掛け合わせたりするなど、ファンエンゲージメント戦略に活用した取り組みも進められています。
さらにスポーツ産業以外の業界では、NFTの活用を通して、デジタル資産を増やせる可能性のある会員権やメンバーだけが参加できる仕組みが人気となっていることから、スポーツ産業においても、メタバースでインタラクティブなコミュニケーションができる場やファン同士でつながりが持てる場などを提供し、ファン目線での体験価値を向上させる施策への発展が期待されます。また、スポーツ団体・組織は、スポーツNFTを活用することで、紙のチケットでは把握できなかったNFT購入者のデータや履歴をトレースすることができるようになるため、データを収集・活用することで、ファンにさらなるホスピタリティを提供することが可能になります(図表3参照)。
スポーツNFTは、NFTを購入するファンにとっても、NFTを販売するスポーツ団体・組織にとっても、さまざまな効果が期待されるため、魅力的なコンテンツを保有し、ファンとのつながりを意識して展開していくことで、より幅広い活用が可能となるでしょう。
海外において、既存のコンテンツを中心としたスポーツNFTは、過度な期待が収束し、幻滅期に入りつつあると言われています。また、2022年6月には、世界のNFTの売上が、1年ぶりに低水準に急落したことから、「NFTブームは終わりを告げた」とまで言われました。
しかし、コンテンツの切り売りから発想を転換し、ファンのニーズを重視した真に先駆的なサービスへと進化させていくことで、今後のスポーツNFTの発展につながるものと思われます。ファンエンゲージメントの観点から、スポーツNFTのデータを収集・活用することで、スポーツ団体・組織は、ファンにさらなるホスピタリティを提供することが可能になり、ファンもその恩恵を受けることが可能になるでしょう。
また、異なるスポーツ団体・組織が連携してNFTを発行することで、ジャンルを越えた新たなファン層を獲得できるようになり、スポーツ産業全体の活性化につながるでしょう。
David Dellea(PwCスイス、ディレクター(当時))は、スポーツNFTの今後について以下のように述べています。
「NFTはスポーツ団体・組織のファンエンゲージメント戦略を変革するだけのポテンシャルを持っていると言えます。実際に、メタバースへの期待の高まりとそれに伴う先行投資として、過去1年にわたり欧米各国で非常に大きな注目を集めてきましたが、今後の中長期的な発展に向けては、スポーツ団体・組織が留意すべき点が2つあると考えます。
まず、スポーツ団体・組織は自身のマネタイズよりもファンにとっての体験や実用性を優先すべきです。マネタイズのみを目的とする場合、これまでスポーツ団体・組織が苦い経験をした数々の「商業的取り組み」と同様に、ファンからの批判にあうことは避けられないでしょう。
また、NFTならではの体験を創出することも重要です。現在主流のサービスとなっている試合中のハイライト映像をNFT化したサービスだけでは、中長期的にファンの心をつかむことは難しいでしょう。例えば、スポーツにアートやファッションの要素を掛け合わせるなど、NFTを活用してスポーツだけにとどまらないコンテンツを創出することが、中長期的なスポーツNFTの発展につながります。既存のスポーツNFTサービスにおいてハイプが収束しつつあることに鑑みれば、ファンのニーズを重視した真に先駆的なサービスが、今後のスポーツNFTのあり方を示すことになるでしょう」
1 PwCコンサルティング合同会社にて、日本全国のスポーツNFT購入経験者およびスポーツNFT以外のNFT購入経験者2,061人を対象として、スポーツNFTに対するニーズや利用にあたっての想定課題などについて、2022年4月に調査を実施した
2 https://www.technavio.com/report/non-fungible-token-nft-market-industry-analysis?utm_source=prnewswire&utm_medium=pressrelease&utm_campaign=Exp12.2-DVSG_wk30_2022_004_report&utm_content=IRTNTR73238(2022年5月 Technavio「Non-fungible Token (NFT) Market by Application and Geography - Forecast and Analysis 2022-2026」)(2022年10月31日閲覧)
3 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf(2021年8月20日 日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」)(2022年10月31日閲覧)
4 https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20220831/01.pdf (2022年8月 金融庁「令和5(2023)年度 税制改正要望について」)(2022年10月31日閲覧)
5 https://www.taira-m.jp/NFT%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E6%A1%8820220330.pdf(2022年10月31日閲覧)
6 https://www.c-sep.jp/wp-content/uploads/2022/10/C-SEP_NFT_guideline.pdf (2022年9月 スポーツエコシステム推進協議会「スポーツコンテンツを活用したNFTのパッケージ販売と二次流通市場の併設に関するガイドライン」)(2022年10月31日閲覧)
7 https://www.pwc.com/us/en/industries/tmt/library/sports-outlook-north-america.html (2022年3月 PwC 米国「Sports Industry Outlook 2022」)(2022年10月31日閲覧)
8 https://www.toys.or.jp/pdf/2021/2020_data_zenpan.pdf(一般社団法人日本玩具協会「2020年度国内玩具市場規模」)(2022年10月31日閲覧)