サステナビリティの論点Ⅱ

2023年7月19日更新|アジア太平洋地域におけるサステナビリティ報告の状況

世界とアジア太平洋地域におけるサステナビリティ報告に係る要求事項とこれまでの道のりについての洞察

概要

緊急課題である環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組みを世界が続ける中で、投資家や規制当局をはじめとするステークホルダーから、サステナビリティ報告基準の透明性を高めるために「調和」を求める声が高まっています。

PwCの「サステナビリティの論点」第2弾では、シンガポール国立大学のガバナンス・サステナビリティ・センターと共同で実施した調査に関する分析を行っています。これは、アジア太平洋地域におけるサステナビリティ報告の全般的な状況と、サステナビリティ報告のさまざまなフレームワークや基準の適用・導入における顕著な傾向を分析したものです。

調査の範囲

  • アジア太平洋地域の14法域における、時価総額で上位50位の上場企業を調査対象としています。具体的には、オーストラリア、中国、香港特別行政区、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナムとなっています。
  • 11業界にわたる合計700社の上場企業が調査対象となりました。
  • グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)および気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の原則に基づいて、一般的なサステナビリティ報告の属性を分析しました。

サステナビリティ報告および保証に関するグローバルな進展

  • 2023年は「ビッグ3」による提案をはじめ、サステナビリティ報告の状況に大きな進展がありました。「ビッグ3」による提案とは、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の国際サステナビリティ開示基準、米国証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則案を指します。
  • 多くのステークホルダーが企業のサステナビリティ関連情報をより重視している今日、サステナビリティに関する保証の重要性はさらに増しています。 保証の取得は、ステークホルダーに提供するサステナビリティ関連情報の信頼性構築に役立ちます。
  • アジア太平洋地域全体で、規制当局のサステナビリティ報告への注目が高まっています。気候関連情報の開示に向け、TCFDの利用も増えています。

アジア太平洋地域におけるサステナビリティ報告の状況に関する洞察

  • 韓国と台湾を除き、アジア太平洋地域ではサステナビリティ関連情報の外部保証取得率は低いままです。また、合理的な保証を求める企業や内部保証を実施する企業もごくわずかです。
  • GRIフレームワークは調査対象企業の81%が適用しており、アジア太平洋地域において引き続き中心的なサステナビリティ報告基準となっています。一方で、現在、各法域がISSBの要求事項の採用・準備、あるいはCSRDおよび米国SECの要求事項への準備をどのように行っていくかに注目が集まっています。TCFDフレームワークの適用は21ポイント増加して57%となっており、気候関連のリスク・機会の開示に関しては2022年には88%に増えています。89%の企業が、気候シナリオ分析を実施しています。
  • 調査対象企業の80%が自社の排出量を開示しており、スコープ1および2の排出量測定は成熟期を迎えています。 日本を除き、アジア太平洋地域の大半の企業は、スコープ3の排出量測定に関する透明性と正確性を高めるために、さらなる努力が必要です。

サステナビリティ報告の課題への対応

  • まず自社のパーパス、より広範なESG戦略や報告の目標、その相関関係を理解することから始めると、バランスの取れた網羅的なESG報告を作成するのに有効です。
  • 意思決定者にとって有用な情報を提示するためには、質の高いデータが必要不可欠です。情報の収集・検証には労力を要するため、企業は報告書だけでなくシステムについて考える必要があります。
  • 報告の改善を通して事業戦略、リスク管理プロセス、業績測定にESGを組み込むと、コストの節約や長期的な価値創出につながります。

2022年サステナビリティ報告の地域別分析

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国・地域:

本報告書に貢献いただいたシンガポール国立大学(NUS)のガバナンス・サステナビリティ・センター(CGS)ビジネススクールと以下の皆様に深く感謝いたします。

代表執筆者

Lawrence Loh教授
シンガポール国立大学
NUSビジネススクール
ガバナンス・サステナビリティ・センター(CGS)所長


CGS研究プロジェクトチーム

Huang Minjun
シンガポール国立大学
NUSビジネススクール
CGS研究員
 

Sharmine Tan
シンガポール国立大学
NUSビジネススクール
サステナビリティ・リーダー

Soon Wan Yi, Sabrina
シンガポール国立大学
NUSビジネススクール
CGS研究員

Verity Thoi
シンガポール国立大学
NUSビジネススクール
CGS事業開発リーダー

サステナビリティの論点Ⅱ

インサイト/ニュース

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日本の強みを生かした新産業創造の必要性(前編) 採るべき戦略はマルチパスウェイ。多様化するエネルギー利用のなかで、水素エンジンが持つ役割とは

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主要メンバー

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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鈴木 邦宜

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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