サステナビリティ情報開示の転換期

SASB基準の適用と開示状況に対する調査

サステナビリティ情報開示の転換期

2021年11月にIFRS(国際会計基準)財団は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立を発表し、その後さらにCDSB(気候変動開示基準委員会)およびVRF(Value Reporting Foundation〈価値報告財団〉、IIRC〈国際統合報告評議会〉とSASB〈サステナビリティ会計基準審議会〉が合併し、2021年6月設立)との統合が発表されました。IFRSサステナビリティ開示基準の2つの草案はすでに公開されており、これらの組織統合も間もなく実施されます。これらの基準開発に関する進展は、企業のサステナビリティ情報開示に大きな影響を及ぼすでしょう。また、これらの新たな基準に適応することは、企業にとってもサステナビリティ情報開示を改善させるための大きな機会にもなると考えられます。

本調査の目的は、TOPIX100構成銘柄の日本企業の情報開示を対象に、各社の開示情報がSASB基準にどの程度適合しているかを調査し、日本企業のサステナビリティ情報開示の現状と課題を明らかにすることです。SASBのインダストリー別基準がISSBの基準開発プロセスに組み込まれつつある中、SASB基準にどれだけ適合できているかを明らかにすることは、つまりは今後策定されるIFRSサステナビリティ開示基準にどれだけ日本企業が適合できるのかを理解することにもつながります。本調査では、現在、SASB基準の観点から日本企業がうまく対応できている領域と、さらなる改善の余地がある領域に対して、その詳細の理解を深めることで、日本企業や投資家の皆さんが、今後の基準の変化に適応するための材料を提供します。

主な調査結果

TOPIX100の半分以上の企業がSASB基準を活用している

TOPIX100のうち51社がSASB基準に言及しています。

ただし、単にレポート作成において活用しているもの、マテリアリティ分析において参照しているもの、もしくは会計メトリクスまでを含むSASB対照表を作成しているものなど、基準の利用方法についてはセクターやインダストリーによって異なります。

SASB基準を活用している企業の数 (51/100)

TOPIX100のマテリアリティ分析において特定される課題とSASBが定めるインダストリーごとの開示トピックは概ね適合している

TOPIX100各社の情報開示において、 SASB基準の開示トピックが開示されている割合

TOPIX100の開示情報では、SASB基準で示された開示トピックの83%が何らかの形で言及されており、さらには開示トピックの71%がマテリアリティ分析において重要な課題として特定されています。SASB基準で示されている開示トピックが、必ずしも日本企業にとって重要課題として特定されなければならないわけではなく、また各社が独自の方法で中長期的な外部環境を分析したうえで重要な課題を特定することは極めて重要ではありますが、この調査結果より、SASB基準が示す各インダストリーごとの開示トピックと、日本企業がマテリアリティ分析を通して自ら特定しているサステナビリティの重要課題は非常に高い水準で一致していることが明らかになりました。

多くの会計メトリクスに関する情報開示は限定的であり改善の余地がある

TOPIX100の情報開示では、SASB基準によって開示が求められている会計メトリクスについて、全面的に開示されているのは9%、部分的に開示されているものは33%、全く開示されていないものが55%であることが分かりました。ただし、この結果はトピックやインダストリーによって大きく異なります。また開示ができていない指標については、その指標の持つ特性も影響があるようです。よって、日本企業があまり開示できていない領域についてはSASB基準をうまく活用することで、今後策定されるであろうISSB基準への適合への移行もスムーズになるものと考えられます。

TOPIX100各社の情報開示において、 SASB基準の会計メトリクスが開示されている割合

インサイト/ニュース

20 results
Loading...

サステナビリティー開示で求められる「保証」の実務上の論点:週刊金融財政事情 2025年4月1日号

2025年3月、サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ情報の開示基準を最終化しました。サステナビリティ開示を巡っては、開示情報の信頼性を担保するため第三者による保証が重要となります。保証計画の策定など、「保証」の実務上の論点について解説します。(週刊金融財政事情 2025年4月1日号 寄稿)

日本の強みを生かした新産業創造の必要性(後編) 国内二輪車メーカー4社が、水素エンジンの技術研究組合を組成。見据えるのは、産官学・サプライヤーとの連携

京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、産官学連携での水素エンジンの研究開発の重要性と、具体的な課題について議論しました。

Loading...

執筆者

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

ミンゲス デイビット

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

Email

ダウンロード

サステナビリティ情報開示の転換期SASB基準の適用と開示状況に対する調査
ダウンロード
[PDF 2,238KB]