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欧米においては既に市場として確立しているLife Settlement(保険の買取ビジネス)が、近年、日本でも事業として始動しています。例えば、がんと診断された患者を対象として、解約時に得られる返戻金よりも高い金額で生命保険を買い取ることで、患者の治療費や生活の質向上にあてられるという価値・選択肢を消費者に与えるもので、保険という商品・価値の流通促進が期待されます。
日本においてはまだ黎明期と言えるこうしたビジネスも、将来的には、ブロックチェーンをはじめとしたWeb3.0(本レポートでは「Web3」と同義。以降、「Web3.0」とする)関連技術などの活用により、個人・事業者間で自由に保険が売買されるマーケットプレイスが誕生し、既存のビジネスモデルを変革する可能性があります。
本レポートでは、このような変革の機会を見据え、改めてWeb3.0に着目し、今後の活用に向けた論点を解説します。
経済産業省※1によると、Web3.0は「ブロックチェーンによる相互認証、データの唯一性・真正性、改ざんに対する堅牢性に支えられて、個人がデータを所有・管理し、中央集権不在で個人同士が自由につながり交流・取引する世界」と定義されています。
Web2.0では各種SNSの登場により双方向コミュニケーションが可能となった一方、プラットフォームをベースとした中央集権型のため個人のデータはプラットフォーマーに集中しています。
対して、Web3.0はブロックチェーンをベースとした非中央集権型であり、個人同士が自由につながって交流・取引することができる次世代のインターネットと捉えられています。ブロックチェーンは低コストで高い安全性・可用性・正当性を確保することができ、現在プラットフォーマーに集中しているデータの所有権を個人へ移行する流れにおいて、個人のデータ所有権の証明を技術的に支えています。
図表1 Web2.0とWeb3.0の違い
PwCでは、Web3.0を構成する要素のうち、DeFi、NFT、DID、DAOの4つをキーテクノロジーと捉え、動向に着目しています。
金融サービスを非中央集権的に提供するサービスを指します。銀行等の仲介者が介在する従来の金融サービスに対して、個人間で直接価値のやり取りが活発化すると想定されます。ブロックチェーン上のデジタル通貨である暗号資産の利用が前提となります。
ブロックチェーン上に記録され売買可能なトークンを指します。各トークンが一意に識別可能で代替が不可能という特徴を持ち、偽造不可な鑑定書および所有証明書のような役割を果たします。プラットフォームを跨った利用が可能で、二次流通時の著作権者(音楽・絵画等)への収益還元、ゲーム上で取得したアイテムの売買など、さまざまな機能をプログラムすることが可能です。
個人を一意に特定するための識別子について、国や企業などの管理主体が介在せず、個人自らが管理できるものを指します。
中央集権者が存在せず、ブロックチェーン上に記載されたルールに基づく合議により運営される組織を指します。
※1 出典:経済産業省「第30回産業構造審議会総会 資料」https://www.meti.go.jp/press/2022/07/20220715003/20220715003-a.pdf
ブロックチェーンは保険業界にもさまざまな影響をもたらします。保険のバリューチェーンごとに、ブロックチェーンを活用した業務プロセスの自動化や、保障対象・決済手段・運用資産として暗号資産を導入するといった活用機会が考えられます。
図表2 保険バリューチェーン別の活用機会
日本をはじめ、世界各国・地域の企業でブロックチェーンを保険ビジネスに組み込んださまざまな事例が登場しています。前掲の保険バリューチェーン分類と紐づけて紹介します。
誰でも自由に保険を作成し、購入者や引受者となることができる仕組みをブロックチェーン上で実現することで、保険の設計・申込・引受を効率化しています。具体的には、DeFi関連サービスにおけるハッキング被害等への補償を提供しています。
NFTに関する補償を提供した初期事例としては、NFTマーケットプレイス(NFTを作成、取引、保管することができるプラットフォーム)への出品者向け専用保険が挙げられます。第三者の不正アクセスによりNFTの所有権が改ざんされた場合の損害を補償するものですが、Web3.0の技術を直接活用した事例ではありませんでした。そういった事例の1つとして近年、暗号資産やNFT等のデジタル資産を安全に保管・管理するデジタルウォレット、およびウォレット内の資産をサイバーリスク等から守る保険サービスの検討が進められています。
暗号資産で保険を購入できるDeFi保険プラットフォームとの提携を通じて、ブロックチェーン上での取引手数料をユーザーが負担することなく、暗号資産による保険購入が可能となりました。保険料の支払手段として暗号資産を受け入れる保険会社の数も増加しています。
保険業界向けにブロックチェーンプラットフォームを提供する企業と提携し、基幹保険契約管理システムをローンチしています。
フライトが一定時間以上遅延した場合、人間による審査や検証を行わず、スマートコントラクト※2を活用して自動的に保険金が暗号通貨で支払われます。
大手生命保険会社によるビットコインへの投資以降、米国の保険会社を中心にビットコイン市場への参入が続いています。
※2 契約内容を電子化し、定められた取引内容を自動的にブロックチェーンで履行する仕組みを「スマートコントラクト」と呼びます
出典:PwC「NFT(非代替性トークン)を活用したデジタル世界の未来【前編】」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/blockchain-featured1.html
今後Web3.0が新たな経済活動のフロンティアとして発展していく中で、保険会社が検討しなければならない観点には、ビジネス、技術、法制度の3つが挙げられます。
ビジネスの観点では、Web3.0がバリューチェーンにもたらす影響やマネタイズ方法が、技術の観点では、データ改ざんリスクへの対応方法や処理能力の問題が、法制度の観点では、消費者保護、課税、および会計監査の問題などが主な論点になると考えられます。
データ所有と管理の主権が個人となることで、データを活用している保険会社のバリューチェーンに変更すべき箇所があるか?
(例:引受に健康診断情報以外を活用できるなど)
どのようにマネタイズするか?マネタイズに際しては、保険会社独自のトークンを発行し、保険料収納・保険金支払もトークンで完結させるべきか?
ブロックチェーンを構成するノード(ネットワークに参加しているコンピュータ)の過半数を悪意ある第三者に支配された場合、データが改ざんされるリスクがあるが、このリスクにどう対処するか?
保険会社が日々行う多量の取引(引受、保全、保険金支払など)をブロックチェーンで処理できるか?
NFTの不透明な法的権利(所有権)、製作者による承諾無しでのNFT流通(著作権)など、消費者保護の観点で法制度が十分に整備されていない領域にどう対応すべきか?
日本の税制では、事業者は期末の保有トークンの時価評価に課税されるが、それでもビジネスを展開するメリットがあるか?暗号資産(トークン)を有する企業が会計監査を受けられないケースにどう対応すべきか?
Web3.0の進展に伴い、保険業界は新たなビジネスモデルや技術の導入を通じた業務変革のチャンスを迎えています。ブロックチェーンなどの技術活用により、保険業務の効率化や、新たなサービスの提供による顧客体験の向上が期待されます。
一方、ビジネス、技術、法制度などの観点で解決すべき課題も多く存在します。保険会社はこれらの課題に対処しつつ、Web3.0のポテンシャルを最大限に活用することで、自社の競争力が維持・強化され、持続的な成長を実現する可能性が高まるでしょう。
PwCコンサルティング合同会社は、クライアントのブロックチェーン導入支援に特化したBlockchain Laboratoryや、保険業界の課題解決に特化したInsuranceチームを有しています。
約150カ国に広がるグローバルネットワークと多数アライアンスパートナーとの連携、ブロックチェーンに関する専門知見、保険業務に対する理解や保険業界の課題解決の実績などを強みに、保険業界においてブロックチェーン導入の効果を最大化するための支援を提供しています。
Blockchain LaboratoryはWeb3.0に関するさまざまなテーマや業界動向をめぐるレポート、解説コラム、有識者との対談を発信しています。
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