創薬モダリティとはなにか?~その概要と現状・課題

概略

  • 製薬における「モダリティ」とは、医薬品の作られ方の基盤技術の方法・手段、もしくはそれに基づく医薬品の分類のことであり、近年のライフサイエンスの進化により数多くの種類が登場しつつあります
  • 開発過程(R&Dパイプライン)にある化合物数は過去20年で約2.5倍に成長しました。2021年において遺伝子治療および細胞治療はパイプライン全体の42%を占めるまでに至っています。今後5~10年において新規モダリティが商業的な成功の中心となることが予想されます
  • モダリティの多様化は単に基礎技術のトレンド変化ではなく、製薬企業に質的な変化を迫ることになります。製薬企業は、アンメットメディカルニーズの充足だけではなく、社会課題の解決、生産性の向上などが一般市民の認知のレベルにまで納得がいくような提案をしてはじめて、その治療が社会に受け入れられることになるでしょう

世界には希少疾患だけで約7,000種類が存在し、米国市民だけで推定2,500~3,000万人、およそ10人に1人が罹患していると言われていますが、これらの疾患のうち承認された治療薬が存在するのはわずか10%に過ぎず、極めて重要な医療ニーズ(significant unmet medical need)が依然として存在しています1

mRNAワクチンの短期間での開発と普及にみられるように、近年のライフサイエンスの進化により新しいモダリティが数多く登場し、治療のパラダイムを変革しつつあります。新しいモダリティによる治療薬は、このような従来治療が困難であったさまざまな病気の治療に革命を起こす可能性を秘めています。

その一方で、医薬品開発の難易度と不確実性は間違いなく高まり、モダリティの多様化は製薬企業に新たな課題をもたらしつつあります。製薬企業は生き残りをかけて、多様なモダリティの中から革新的な医薬品をいち早く患者に届けるエコシステムを形成する必要があります。

 1 RARE DISEASE FACTS. (2021). National Organization for Rare Disorders. 

創薬モダリティとは

製薬における「モダリティ」とは、医薬品の作られ方の基盤技術の方法・手段、もしくはそれに基づく医薬品の分類のことで、これらは「創薬モダリティ」ともよばれ、英語ではしばしば医学全般における治療などの手法(例えば「手術療法」や「放射線療法」など)を指す「modality(様式)」とは区別されます。本稿では創薬モダリティを7つに大別し、さらにそれらを「既存モダリティ」と「新規モダリティ」に分類しました。

1. 「新薬における創薬モダリティのトレンド」、「創薬モダリティ別医薬品開発パイプラインから見た新規医薬品の創製企業(Originator)に関する調査」を一部改変

2. 医薬産業政策研究所、「新薬における創薬モダリティのトレンド 多様化/高分子化の流れと、進化する低分子医薬」、政策研ニュース No.64 2021年11月

3. 医薬産業政策研究所、「創薬モダリティ別医薬品開発パイプラインから見た新規医薬品の創製企業(Originator)に関する調査」、政策研ニュース No.61 2020年11月

成長するR&Dパイプラインとモダリティ多様化

開発過程(R&Dパイプライン)にある化合物の数は過去20年(2001年~2021年)で約2.5倍に成長しました。注目すべきは、2014年から遺伝子治療および細胞治療のパイプラインが急速に拡大しており、2021年においてはパイプライン全体の42%を占めるまでに成長しています。mRNA医薬品は品目数としては少ないですが、2014~2021年(7年間)の成長率は51.9%であり、悪性腫瘍、呼吸器や内分泌系疾患など、感染症以外の疾患をターゲットとした開発が急速に進められ、すでに300を超える開発が進められています。今後10~15年で承認品目の相当部分をこれらが占めることになると予想されます。

※前臨床~申請前の研究開発段階にある化合物数。
出典:Citeline社「Pharmaprojects/Biomedtracker」データから集計(2022年 9月)

Citeline Pharmaprojects, September 2022. 前臨床から申請前の研究開発段階にある化合物数を集計した。組織工学品目は少数であるため細胞治療と合算して集計

モダリティ多様化が求める製薬企業の質的変化

モダリティの多様化は単に基礎技術のトレンド変化ではなく、製薬企業に質的な変化を迫ることになります。組織形成は外部パートナーとの協働を前提としながらも、組織内で眠っている断片的な知識やケイパビリティを発掘して、成果物をくみ上げられるよう、end-to-endで流動的な設計にすべきです。最終価値の創出については、表面上は高額にみえる薬価が正当化されるような高い効果だけでなく、社会課題の解決、生産性の向上などが一般市民の認知のレベルにまで納得がいくような提案をして初めて、その治療が社会に受け入れられることになるでしょう。

主要メンバー

堀井 俊介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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船渡 甲太郎

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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佐久間 仁朗

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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野田 明代

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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