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2023-04-10
2022年10月3日、愛知県最大の地域金融機関である株式会社あいちフィナンシャルグループ(以下「あいちFG」)が誕生しました。愛知銀行と中京銀行の経営統合により設立された持株会社で、傘下の2行は2025年1月に合併を予定しています。
経験豊富なメンバーを有するPwC Japanグループ(以下「PwC」)は、基本合意後の2022年1月から円滑な経営統合に向けて、統合事務局やガバナンス、リスク管理、経理・財務などの各種支援を行ってきました。今般、同社伊藤行記社長と小林秀夫副社長をお迎えし、統合を決断した背景、準備の過程で感じた課題や統合を進める上での要諦、今後のあいちFGの展望についてお話を伺いました。
話し手
伊藤 行記 氏
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役社長
株式会社愛知銀行 取締役頭取
小林 秀夫 氏
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役副社長
株式会社中京銀行 取締役頭取
聞き手
佐藤 学
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー、公認会計士
※本文敬称略
※法人名・役職などはインタビュー当時(2023年2月)時点のものです。
(左から)小林秀夫氏、伊藤行記氏、佐藤学
佐藤:地域金融機関を取り巻く環境は決して好ましいとは言えない状況ですが、両行は経営統合というご英断によって、次の飛躍に向けた新たなチケットを獲得したと感じています。あらためて経営統合の背景について教えてください。
伊藤:銀行は規模の利益が効く業態です。愛知銀行は単独で規模の拡大を行って、収益力を強化してきました。そうした中で課題となったのが人財の獲得です。法人と個人のニーズが多様化・高度化している中では、以前のように預金を預かって貸し出すだけではなく、さまざまなコンサルティングサービスを提供することが求められます。その分野でサービスを展開していく上で愛知銀行単体では人財獲得が十分とは言えず、約1年前から他行との業務提携や経営統合を検討してきました。また、統合するならば、同じ地域における銀行との経営統合によって地域シェアを拡大し、営業基盤を強化することが最適ではないかと考えていたところ、同じ思いの中京銀行とニーズが合致しました。
小林:中京銀行では2021年度から3カ年の中期経営計画(第18次中期経営計画CXプラン)を通じた構造改革を実施してきました。このプランでは「金融機能を有する地域貢献型コンサルティング会社へ」を掲げ、金融機能とコンサルティング分野でのソリューション提供と、経営資源の凝縮による筋肉質な経営への変化を目指していました。ただ、CXプラン後は規模のメリットの獲得が課題だと認識していまして、そのような時に経営統合の話が持ち上がり、CXプランの早期実現につながると判断しました。
伊藤:地域経済の状況も影響しています。日本は全国的に人口減少と高齢化が進んでいますが、私たちの顧客基盤である愛知県は人口減少も緩やかで、むしろ優良企業が多い肥沃なマーケットといえます。だからこそ規模拡大によって基盤を強化する意味が大きく、生き残りのための経営統合ではなく、攻めの戦略的経営統合実現を目指したのです。
佐藤:業務提携もご検討されたということですが、経営統合の決め手はどのような点だったのでしょうか。
伊藤:業務提携は過去に経験もありますが、メリット、特にシナジー効果が限られると感じていました。経営統合は、労力やコストもかかりますが、得られる効果が大きい。この3年ほどは業績が良かったこともあり、行内では「わざわざ良い時に経営統合しなくてもよいのではないか」という意見もありました。しかし、私の考えは逆です。業績が悪くなってしまうと経営統合する体力もコストを負担する能力も残っていないでしょう。経営統合のシナジーを出せる形にしておけば、地域でのシェアが高まって基盤も強化されます。
佐藤:米国金利も上昇し、日本経済も転換点を迎えていますが、景気循環は必ず起こるので、次のダウンターンまでに経営を強化し、次のステップへのチケットを得るのが重要ですよね。
伊藤:だいたい10年くらいでやってくる不景気の波に備えるという点でも、今統合をすることで、その頃にはさらに強固な基盤が作れているだろうと思っています。
小林:両行とも愛知県が基盤であるため、経営統合のメリットが出しやすくなります。例えば、銀行業は人と店舗とシステムが大きなコスト要因ですので、同じエリア内で店舗網を見直せることは経営統合の大きなアドバンテージと考えています。統合を決断する判断の上でも重要でしたし、これからも活きてくると思います。
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役社長 伊藤 行記 氏
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役副社長 小林 秀夫 氏
佐藤:先ほどお話のあったように、統合は体力を使います。基本合意をしたのが2021年12月。私どもがサービスインしたのが2022年の1月4日。5月に最終合意し、10月に持株会社を設立。これは他の統合と比べても短いスケジュールで、サポートする側としてもチャレンジングだったのも事実でした。日頃の仕事をこなしながらの力技になるので、不安はあったのではないでしょうか。
伊藤:不安はなかったですし、統合効果を早く出そうと強く思っていました。私は昔システム部門にいたので、システム統合には3年かかると知っていました。基本合意から3年。統合から2年でできるかなと勝手に思っていました。ベンダーには相談していないですが、それが最短と考えていました。
ただ、スケジュール的には大変でしたよね。お正月が入ったし、ゴールデンウィークも入りましたし。
小林:正直なところ、私はもう少し後ろにずらしてもいいかなと思っていました。ただ、チャレンジングなスケジュールという認識がありつつ、時間のコントロールや重要なポイントについてPwCにアドバイスをいただけたことが大きかったと思っています。両行とも経営統合の経験がありませんので、リード役を担ってくれたPwCに短期間で経営統合を進めていくためのターゲットポイントをしっかりと絞っていただきました。
伊藤:統合に伴う交付金の手続きを経営統合直前の9月までに終わらせる必要がありました。これは作業という点では負担が大きく、PwCにサポートしていただき助かりました。
佐藤:私たちはアドバイザーとしての経験から、プロジェクト管理や肝になる手続き面でのご支援ができたと思っています。ただ、最終判断は当事者である皆様に行っていただくため、限られた時間の中で的確にご判断いただけたのは、非常に有難かったです。
伊藤:両行でのやり取りでは、基本合意の時に「システムは愛知銀行に合わせる」と中京銀行に合意していただき、システム面の負担を引き受けてくれたことがハイスピードで経営統合を進められた要因の1つだと思っています。どちらか片方に寄せることでリスクが小さくでき、期間もコストも抑えることができました。この合意が難航していたら1年は遅れていたでしょう。
小林:規模の差があることは認識していましたので、システムの検討をする際にも顧客が多い方に合わせることが合理的だと判断しました。初期の段階で大まかな骨格を具体的に決め、要諦を抑えることでその後をスムーズに進めることができました。
佐藤:お客さまに貢献するために、なるべく早く統合し、なるべく早くシナジーを出していくのは重要ですよね。大変ですけど。他に重要な論点はありましたか。自己査定や人事面はいかがでしたか。
伊藤:これらは、持株会社設立までに大筋は合意し、詳細は銀行合併を控え、これからになります。他の点では、ロゴマークやCMなどブランディングに関する部分は時間が足りなかったと感じています。商標確認など手続き面で時間がかかるものもありました。
小林:統合の論点の中で、引当基準や格付基準の統一の話はありましたが、今回は攻めの戦略的統合であったため、不良債権など後ろ向きの話はなかったことも大きなポイントでした。
佐藤:景気が悪くない時に統合の決断をするというタイミングの重要性を実感しますね。
佐藤:GEの元CEOのジャック・ウェルチ氏は、「CEOはChief Meaning Officerだ。人は変化を好まない。役職員になぜ変化する必要があるのかを伝えるのがCEOの役割だ」と言っています。今回、役職員に経営統合の理解を得る、組織のベクトルを合わせていく、また、お客様にご理解を頂くという点での大変さはありましたか。
伊藤:お取引先や役職員には当初から私たちが目指す姿を理解してもらえたと感じています。そのポイントとなったのは基本合意を公表した時のマスコミ各社の報道でした。「愛知県ナンバーワンの地域金融グループが誕生する」と紙面をさいて報じていただいたため、地域全体が前向きに捉えてくれましたし、期待感を持っていただけました。
小林:ナンバーワンの待望論は強いと私も感じています。愛知県にはかつて地域のベンチマークとして東海銀行がありました。そのような存在を期待するお客様の声が実際大きいです。私たちはまだ「ing」(進行形)の状態ですが、将来的にそのような存在と役割を担ってくれる銀行が誕生したと思ってもらうことができました。
社内に関しては、我々はパーパス、ミッション、バリューを定めていますが、両行の融合という点でも愛知県のナンバーワンを目指すというミッションが大きな視点で物事を考える際の指針になっていると感じます。私たちは今まで地域のライバル銀行でしたので、議論の過程では軋轢も生まれます。しかし、ナンバーワンを目指すという目標を共有することによって、「別々の会社」という意識が「1つの組織」という意識に変わったと感じています。
佐藤:パーパス経営の重要性が指摘されていますが、統合において役職員の心を1つにするという点で、パーパス、ミッションが経営のアンカーになっていますね。
伊藤:両行の従業員のモチベーションが上がっています。「愛知県ナンバーワンを目指す。それに向けて頑張らないといけない」ということでモチベーションが上がって、「自分もレベルアップしたい」という気運が全体にみなぎっています。
シェアで愛知県ナンバーワンの地域金融グループになりましたが、規模の利益の面では十分ではなく、将来的には少なくともシェア20%には引き上げて行きたいと考えています。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 佐藤 学
佐藤:2022年10月3日の持株会社設立を経て、統合効果を出していくステージに入りました。システム統合を進めつつ、一方ではすでに共同店舗化やローンアドバイザーの協業などが進んでいます。今後の展開をお聞かせいただけますか。
伊藤:10月3日に持株会社で第1次中期経営計画を公表しました。そこに載っていることが全てで、2年後に傘下の銀行が合併します。
システムを統合しないと本格的に物事を進めにくいのは事実ですが、まずは、それに関係なくできるところからやろうということで、共同店舗化、ローンアドバイザーの協業などを進めています。また、コンサルティング・ソリューション型ビジネスモデルを目指すということで、2022年10月早々にM&Aでは、中京銀行のお客さんをトスアップしてもらったり、広域ビジネスマッチングなどできることは何でもやっていっています。
小林:セミナーの共同開催などもあります。あいちFGは会社設立からの6カ月間で集中して取り組む6つの施策を掲げています(プロジェクト「6」)。従業員の融和は6つのプロジェクトの1つですし、グループ機能の融合では、中京銀行から愛知銀行のリース子会社へのトスアップや、愛知銀行にない集金代行サービスを提供するといった融合を進めています。
伊藤:カード会社で住宅ローン保証を愛知銀行ではやっていなかったので、それを中京銀行の知見に基づいてやってもらおうかとか色々検討しています。できることはとにかく早くやる。
10月初めから、近隣の支店同士の交流もしています。支店長だけではなくて、一般の行員の人もお互いに近隣の店舗に訪問して会話したり。
両行の共同研修も行いますし、階層ごとの交流づくりや、入行年度が同じ人たち同士の交流づくりもスタートしました。また、交流などの催しを行った場合にはその様子や内容などを「あいちFGトピックス」としてまとめ、参加者の声などを役職員向けに発信しています。加えて、私から直接両行の全役職員向けに月4回ほど社長通信をメールで送るなど、できる限り情報を開示しています。なお、社長通信では職員の関心が高い「健康経営(注)」も積極的に取り上げ、経営として推進しています。
(注)健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。健康経営は政府の日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの1つ。
伊藤:2年後の合併後はコンサルティング・ソリューション型ビジネスモデルへ本格的にシフトします。店舗再編により人財の捻出はできますが、ただ捻出しただけではコンサルティング・ソリューション型ビジネスモデルの展開はできません。全員がソリューション提供できる体制を合併前に作ることが最大のテーマだと思っています。会社として求める人財像を提示し、全社説明会などを行いながら人財育成の準備しているところです。
小林:あいちFG本部内や社内における縦と横のつながりはもちろんのこと、近隣の店舗同士のコミュニケーションも重要になるでしょう。グループ意識を高めることが融和の推進につながると思っています。
佐藤:適切な情報を開示しながらコミュニケーションを促進し、役職員のエンゲージメントを高めること、これがソフト面の要諦ですね。
本日は、スピード感を持って経営統合を進めていく上で役立つ考え方やキーワードを多くいただきました。貴重なご意見をお伺いでき大変感謝いたします。どうもありがとうございました。引き続き、私たちにできることあればがサポートさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役社長
株式会社愛知銀行 取締役頭取
1980年中央相互銀行(現・愛知銀行)に入行し、事務統括部システム企画グループリーダー、名古屋駅前支店・東京支店の支店長、事務統括部長、取締役業務監査部長、取締役証券外国部長等を経て、2017年に常務取締役に就任。2019年より代表取締役頭取に就任した。2022年10月には愛知銀行と中京銀行の共同持株会社として設立した、あいちフィナンシャルグループの代表取締役社長に就任。
株式会社あいちフィナンシャルグループ 代表取締役副社長
株式会社中京銀行 取締役頭取
1984年中京相互銀行(現・中京銀行)に入行し、岡崎支店・東京支店含む複数店舗での支店長、執行役員名古屋営業第三本部長、取締役執行役員営業統括部長を経て、2019年より取締役常務執行役員に就任。2021年より代表取締役頭取に就任した。2022年10月には中京銀行と愛知銀行の共同持株会社として設立した、あいちフィナンシャルグループの代表取締役副社長に就任。