
医彩―Leader's insight 第8回 病院長と語る病院経営への思い―小田原市立病院 川口竹男病院長―
経営改善を実現し、「改善を持続できる組織」に移行している小田原市立病院を事業管理者・病院長の立場で築き、リードしている川口竹男氏に、病院経営への思いを伺いました。
愛媛県では、2022年から3年間にわたって、県、地域の金融機関、商工団体、そしてコンサルティングファームが連携し、県内の企業経営を支援するポストコロナ経営力強化支援事業を行ってきました。この事業は、県内の中小企業向けの一元的な相談窓口を設けるとともに、ポストコロナを勝ち抜いていくための企業の自己変革と自走化による成長を中長期的に促進するものです。
この事業にて、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、経営支援ノウハウと、DXやSXといった新たな社会課題に関する知見を提供してきました。また、地域の中小企業では人手不足が深刻化し、その解決策となる生成AI活用のニーズが高まっています。そこで、2024年度は、地域の複数の企業を対象として生成AIの導入と活用を支援し、業務効率化や経営力強化につなげるアドバイスを行いました。
本記事では、ポストコロナ経営力強化支援事業における、総合経営支援拠点「CONNECTえひめ」(以下、「CONNECTえひめ」)の取り組み内容と、生成AI活用が地域にもたらす成果への期待について、事業関係者である愛媛県の有田尚文氏、株式会社いよぎんデジタルソリューションズ(以下、IDS)の小野和也氏、株式会社コラボハウス(以下、コラボハウス)の松坂直樹氏とPwCコンサルティングの担当者が語り合いました。
登場者
愛媛県 経済労働部 産業支援局 経営支援課 課長
有田 尚文 氏
株式会社いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長
小野 和也 氏
株式会社コラボハウス 代表取締役
松坂 直樹 氏
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
山田 大輔
ファシリテーター
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
大木 美紀
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時(2025年1月)のものです。
(左から)有田尚文氏、松坂直樹氏、小野和也氏、山田大輔
「CONNECTえひめ」の取り組みについて教えてください。
有田:「CONNECTえひめ」の支援はプル型とプッシュ型があります。プル型支援は、地域の支援機関との連携促進を担う公益財団法人が中心となり、県内事業者がどこに相談したとしても、適切な支援が受けられる環境を構築するとともに、各企業に応じた支援プランを作成し、支援機関と連携したサポートを行うものです。過去3年間では、経営力強化のセミナーや支援機関向けの勉強会を行いながら支援力の底上げを図ってきました。プッシュ型支援は、SX・DX、生成AIなどの最新知見を有するPwCコンサルティングと地域金融機関が連携し、地域経済を牽引する中核企業への個社支援と、そのノウハウを地域金融機関などへ移転することを目指してきました。また、3年目となる2024年度は生成AIをテーマとし、サプライチェーンを構成する他の県内企業へも横展開が期待できる生成AI活用の取り組みを支援しました。
支援対象である県内企業はどのような課題を抱えていますか?
松坂:私たちを含む県内の事業者は、人口減少、人手不足や人材不足、内需の縮小が構造的な課題だと感じています。地域で生まれ育った若年層が都市部へ流出し、専門分野に特化した情報やノウハウが不足することにより、地域経済の成長力にブレーキがかかり各種技術の継承が難しくなっています。
小野:人口減少トレンドが進む中で、人手不足の緩和と企業の持続的な成長を実現していく有効な手段として注目されているのがDXや生成AIなどデジタル活用です。私たちIDSは、地方銀行が持つ地域内ネットワークを強みとしてデジタル活用の伴走支援をしていますが、県、地域金融機関、そしてPwCコンサルティングのように生成AI分野の専門的な知見を持つ3社が連携できたことによって、「CONNECTえひめ」では、より高度な支援体制が構築できたと思っています。
山田:私たちPwCコンサルティングは、DXやSXの推進といった業界横断型のテーマで大企業向けの支援実績があり、生成AI活用に関しても、競合他社に先駆けて専門知識を結集する組織を立ち上げて知見を蓄積してきました。地方自治体、地域の金融機関グループ、コンサルティングファームがそれぞれの強みを持ち寄った地域企業の支援事業は全国的にも先進的な取り組みで、「CONNECTえひめ」は、私たちが持つケイパビリティを役立てることができる良い機会だったと感じています。
愛媛県 経済労働部 産業支援局 経営支援課 課長 有田 尚文 氏
株式会社いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長 小野 和也 氏
事業3年目となる2024年度のテーマに生成AI活用を選んだ理由を教えてください。
有田:地域企業の重要な経営課題である人手不足を対処していくためには、デジタル活用による業務効率化が求められ、その中でも生成AIは企業の関心が高まっている分野です。将来的には業務効率化の枠を超えたさまざまな活用も期待できると考えました。
山田:私たちが地域の中小企業に経営課題のヒアリングを行う中でも、最も悩みの声が多かったのが人手不足や人材不足でした。その打ち手として、生成AIは日常業務を効率化するだけでなく、一定の専門知識を短期間で習得する手助けにもなりうると考えました。大企業のみならず、先進的な考えを持っている中小企業ではすでに生成AIの導入が進んでいます。各企業からの相談内容や関心事項も「生成AIは何者なのか?」という初期フェーズから「導入成功の要諦がどこにあるのか?」といったビジネスシナリオに即したテーマへと変わってきています。
小野:県内企業との面談の中では、生成AIが話題に上る機会が増える一方で、「難しそう」「うちとは縁がなさそう」といった声もあります。積極的に活用を検討する企業がまだまだ少ないのが実態ですが、実際に使ってみることによって価値を実感し、「面白そう」「こんなことに利用できそう」といった声に変わることもあります。まずやってみる姿勢が企業の新たな変化につながるのではないかと期待しています。
生成AIの導入と活用を実証する企業の選出では、IDSからコラボハウスを推薦していただきました。その理由を教えてください。
小野:私たちは以前からコラボハウスのデジタル活用を支援してきました。その中で、従業員に若い方が多く、積極的に新しいことに挑戦する企業風土が強みの1つであると感じていました。生成AIの実証は新しい取り組みであり、コラボハウスの企業風土ときっと親和性が高いだろうと考え、大きな効果が期待できると考えました。
生成AI活用の実証はどのように進めたのですか?
山田:4つのステップに分けて実行しました(図表1)。1つ目は、インプットセッションです。コラボハウスをはじめとする支援先企業の社員に向けてPwCコンサルティングの専門家によるセミナーを行い、生成AIの機能、利用にあたっての留意点、他社の取り組み事例などを紹介し、生成AIについての理解を深め、業務で活用するイメージを高めてもらいました。また、セミナー後に行ったワークショップでは業務効率化の対象とする業務のフローを可視化し、生成AIが活用できそうな作業を協議しました。
2つ目は、実証方針の検討です。ここでは、生成AIを取り入れた業務フローを検討しました。実証は通常業務と並行して行うため社員の負荷が大きくなります。そこで、作業頻度が高く、従事する社員の数が多い効率化効果が大きい業務では、「カスタマイズ生成AI」を制作するなどの工夫を行いました。
3つ目は、生成AIを活用した実証です。コラボハウスをはじめとする複数の県内企業で実証とフィードバックを短期間で繰り返しながら、支援先企業の習熟度に応じたサポートを行いました。また、実証前後でアンケートを実施し、生成AIによる業務効率化の結果を定量と定性の両面で検証しました。
4つ目は、実行計画案の策定です。支援先企業の社風、企業文化、ニーズ、リソースなどに配慮しながら、生成AIの本格導入に向けたアクションプランをまとめました。さらに、生成AI活用が支援先企業にとってどのような経営力強化をもたらすかを仮説として提示しました。
地域にて注文住宅事業を手がけるコラボハウスは、実証のフェーズにてどのような業務を生成AI活用の対象としたのですか?
松坂:注文住宅事業は、設計、顧客対応、マーケティングなどの業務が特定の個人のスキルや経験に依存しやすく、属人化するほど業務の進捗や品質が偏ってしまいます。この問題を解消していくことに重点を置き、SNS記事の作成、ルームツアー(内見)動画の台本作成、リクルートサイトの原稿作成などで生成AIを使いました。
生成AI活用にどのような効果を期待していますか?
松坂:2つの活用方法を視野に入れています。1つ目は、生成AIによって設計士の思考の幅を広げ、より多様で創造的な提案を行うことです。例えば、過去の設計データや最新の建築トレンドの学習と分析を生成AIに任せることで、設計士が見落としがちなデザインのパターンや思いつかないような間取りのパターンなどのアイデアを引き出すことができます。2つ目は、マーケティングの効率化と質の向上です。顧客の行動履歴や嗜好の情報の分析などは従来型のAIで行っていますが、生成AIを加えることでよりパーソナルライズされた広告やSNSを量産できます。このような活用によって顧客の価値観に寄り添った提案ができるようになり、それが納得感や満足感を高めていくことに直結すると考えています。
株式会社コラボハウス 代表取締役 松坂 直樹 氏
図表1:生成AI活用支援の4つのフロー
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 山田 大輔
本事業におけるPwCコンサルティングの評価をお願いします。
有田:地域経済の構造や事情を分析し、各企業の事業環境や業務内容に応じた生成AI活用の方法を提案してもらえたことが良かったと感じています。その結果、生成AIによる業務効率化の効果を多くの企業に訴求でき、支援企業においても半数以上が生成AIを導入することとなりました。
小野:地域企業のデジタル化支援を行う私たちにとっては、「難しそう」「大変そう」といったネガティブな先入観を持たせないコンサルティングの進め方が大変参考になり、大きな学びの機会になりました。本事業での連携から習得した伴走支援のノウハウは、地域企業の生成AI活用と地域経済の発展を加速させる要素になると思います。
松坂:実証では、ワークショップを通じて業務プロセスを可視化することができ、各人の取り組み内容や実証結果も認識しやすかったと感じます。業務の進め方に関しては、課題に紐づく打ち手を考え、タスクに落とし込んでいくフローが大きな学びとなりました。こうした頭の使い方や考え方のアプローチは、仕事を進める上での良い刺激になったと思っています。
「CONNECTえひめ」を経て、次にどのようなことに取り組んでいきますか。
有田:地域企業が抱える経営課題への支援は中長期的な取り組みであり、直ちに目に見える成果が出るものばかりではありません。本事業はここでいったん一区切りとなりますが、PwCコンサルティングから得た支援ノウハウを県内の企業支援ネットワークにも広げ、DXやSX、そして生成AI活用といった課題に取り組み続ける機運を高めていきたいと考えています。
小野:生成AI活用によって多くの作業負担を軽減することができます。一方、その先で求められるのは地域企業の新たな価値の創出です。これは難しいテーマで、そもそも価値は企業や個人によってそれぞれ異なります。その多様性も踏まえた上で、私たちは豊富な経験をもって伴走に取り組んでいきたいと考えています。
松坂:この事業では、生成AI活用の効果が具体的に分かり、社内に暗黙知が蓄積されていることも確認できました。今後は、それらを組織の集合知としていくために、企業内で学びと実践の場を作りたいと考えています。従業員一人一人が新しい技術に主体的に向き合っていく企業文化を醸成し、家づくり事業を通じて地域の発展に貢献していきたいと思っています。
本事業の生成AI活用支援を踏まえて、今後はどのような広がりが期待できますか?
山田:生成AIの活用は、日常業務の効率化によって人手不足の解決策となるだけでなく、中小企業にとってシンギュラリティ(AI技術が急速に進化して、人間の知能を完全に超越し、私たちの生活や仕事の在り方を大きく変えることになる時点)への重要な備えになると考えます。日々の定型業務をAIに任せることで、生産性が向上するとともに、捻出された時間をリスキリングに充てることで成長に必要な領域の専門人材を育成するなどの施策を講じることも可能です。これらの取り組みの結果、企業の経営力強化だけでなく、地域経済の活性化につながるものと考えています。
最後にPwCコンサルティングが目指す地域企業支援の方針を教えてください。
山田:「CONNECTえひめ」がスタートした2022年、偶然にも私たちは「地域共創推進室」を設立しました。この組織は課題の解決策やソリューションを「地域と共に創る」ことを掲げるもので、リスクのない立場で外部からアドバイスするのではなく、地域に泥臭く入り込み、多様なステークホルダーを結びつけながら地域の成長と発展に貢献します。今後も現場に寄り添いながら地域の課題の解像度を上げ、PwCのPurpose「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」を体現していきたいと考えています。
山田 大輔
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
経営改善を実現し、「改善を持続できる組織」に移行している小田原市立病院を事業管理者・病院長の立場で築き、リードしている川口竹男氏に、病院経営への思いを伺いました。
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