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自動車部品メーカーである株式会社フコクは既存製品で培った技術を生かし、医療機関での利用が想定される「迅速細菌検査キット」を2023年6月に上市したものの、予想以上に苦戦を強いられていました。将来を見据え、軌道修正を行わなければならないとの危機感のなかで、同社の課題を端的に整理し提示したPwCコンサルティングに支援を依頼することを決意します。フコクはPwCコンサルティングの支援によってライフサイエンス事業参入に伴う課題にどのように挑み、克服したのか、お話を伺いました。
出席者
株式会社フコク
マイクロTAS事業化プロジェクト
プロジェクトリーダー/技術開発本部マイクロTAS開発課マネージャー
御子柴 孝晃氏
株式会社フコク
技術開発本部 マイクロTAS開発課
係長
横幕 恭子氏
PwCコンサルティング合同会社
ヘルスケア・医療ライフサイエンス事業部
マネージャー
前田 洋輔
PwCコンサルティング合同会社
ヘルスケア・医療ライフサイエンス事業部
シニアアソシエイト
屋代 貴志
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。本文中敬称略。
(左から)前田 洋輔、御子柴 孝晃氏、横幕 恭子氏、屋代 貴志
屋代:
1953年の創業以来、フコクはゴム製品の素材・材料開発から設計・製造までを一貫して手掛けてきました。自動車用ワイパーブレードのゴム製品では国内市場をほぼ独占していますよね。そのフコクがなぜライフサイエンス業界に参入したのでしょうか。
御子柴:
自動車産業が大きな変革期にあるからです。フコクは従来のガソリン車のような内燃機関に関連するゴム部品の開発・製造を強みとしていました。しかし、電気自動車(EV)の台頭で、従来のビジネスモデルが将来的に縮小する可能性に直面しています。EVはエンジンを持たず、多くの従来型部品が不要になります。そうした危機感から自動車以外の分野に新たなビジネスの柱を立てるべく、新規事業を探していました。
フコクの創業の精神は「Yes, We Do!」(みんなで新しいことに挑戦しよう!)です。既存のコア事業であるモビリティ事業の収益拡大と同時に、将来に向けた種まきとして非モビリティ事業にも挑戦し、新たな価値創造に取り組んできました。迅速細菌検査事業も、その一環です。
屋代:
迅速細菌検査事業は、ゴムの技術力を活用したと伺っています。そのきっかけは大阪大学との共同研究でしたよね。
御子柴:
はい。2013年に当時の社長と中央研究所の所長が、大阪大学から「マイクロ流路(微細加工)の量産ができないか」という依頼をあるベンチャー企業経由で受けたことでした。それをきっかけに大阪大学とマイクロ流路を用いた細菌の迅速検査に関する共同研究を開始しました。フコクが既存事業で培ったゴムの技術を応用して新技術へと発展させ、新規事業化に向けて2014年度から本格的に始動しました。
屋代:
ゴムの技術をどのように応用したのでしょうか。迅速細菌検査事業の内容を教えてください。
御子柴:
長年のゴム部品製造で培った成型技術・接着技術・評価技術に対し、微細・クリーン・微量の要素を組み込み、高品位なマイクロ流路チップ「RaST-TASチップ」を開発しました。このチップは、これまで18時間を要していた耐性菌のスクリーニング検査を3時間にまで短縮できるものです。そして、2023年6月にRaST-TASチップ、専用顕微鏡、試験結果を自動出力する専用解析ソフトウェア内蔵PCを包含した「迅速細菌検査キット(以下、RaST-TASシリーズ)」の販売を開始しました。
屋代:
自動車部品で培った精密加工技術や材料技術が、まったく異なる分野で活用されるとは非常に興味深いですね。同事業を始めるにあたって、どのような課題がありましたか。
御子柴:
技術には自信があり、製品のターゲットとなる臨床検査技師の方々のニーズを伺い、それを基に製品を開発しました。しかし、当初は受注獲得に非常に苦戦しました。その背景には新規事業ならではの課題があったと考えています。具体的には、利益が出るまでに時間がかかることや、人材・資金の不足がありました。さらには、「先の見通せない事業にリソースは割けない」という厳しい声も挙がっていました。
まずは「迅速細菌検査事業は将来性のある事業である」ということを経営層に理解してもらう必要がありました。しかし、社内で議論を重ねても有効な結論が出ませんでした。そこで、医療のみならず経営的な視点を持つプロフェッショナルであるPwCコンサルティングの助けを借りるべく、方向を転換しました。
株式会社フコク マイクロTAS事業化プロジェクト プロジェクトリーダー/技術開発本部マイクロTAS開発課マネージャー 御子柴 孝晃氏
株式会社フコク 技術開発本部 マイクロTAS開発課 係長 横幕 恭子氏
屋代:
前田さんにお聞きします。迅速細菌検査事業支援プロジェクトでPwCコンサルティングは「戦略立案支援のフェーズ1」と「戦略実行のフェーズ2」に大別して支援を行いました。それぞれのフェーズでどんな活動をしたのでしょうか。
前田:
フェーズ1では「RaST-TASシリーズ」の売上拡大に向けて現状分析を行い、解決すべき課題や次のアクションプランを明確にしました。「RaST-TASシリーズ」は素晴らしい製品ですが、医療業界はよい製品を作っただけですぐに売れる世界ではありません。フコクは自動車業界では誰もが知るメーカーですが、医療分野では“新参者”で、会社自体を知らない医療従事者がほとんどでした。
そこで最初に、医療業界での自社の立ち位置を把握すると同時に、医療機関が抱えている課題を理解するための支援から始めました。そして「RaST-TASシリーズ」でその課題が解決できることを明確にし、想定ターゲットを特定したうえで、「医療機関全体にとってこの製品がどれだけ価値があるか」を裏付けるための外部データや現場の声を集めました。
御子柴:
医療機関の課題把握のために全国を回り、RaST-TASシリーズのユーザーである臨床検査技師に限らず、医師、看護師、薬剤師などさまざまな人にインタビューを行いました。現場の声を直接聞くことで、私たちも製品の価値や可能性を再確認でき、チーム全体のモチベーションが高まりました。
特に印象的だったのは、製品評価をお願いしている、とある病院で臨床検査技師の方から伺ったお話です。迅速細菌検査キットで素早くスクリーニング検査結果を得て抗菌薬変更を提案した結果、患者さんの命が助かったそうです。このお話を伺ったとき、心の底から嬉しかったと同時に、迅速細菌検査事業は単なるビジネスではなく、社会的な価値を創造する事業であると確信しました。
屋代:
フェーズ2ではどのような活動を行ったのでしょうか。
前田:
フェーズ2では、販売、武器構築※、開発、量産、プロジェクトマネジメントの各チームが役割分担し、プロジェクトメンバーが自律的に任務を遂行できる環境を整えました。マイクロTAS開発課の課題に対して、各チーム内およびチーム間で何をすべきかを自分たちで検討し、PDCAサイクルを素早く回しながら対策を立案して行動しました。
※武器構築:医療機関のニーズに応えるための製品強化および病院経営に働きかけるエビデンスの確立
横幕:
例えば、プロジェクトマネジメントチームは、新製品のプライシング、顧客ニーズ収集基盤の構築、体外診断用医薬品(IVD: In Vitro Diagnostics)申請に必要な基準確認と現状品質を調査しました。さらに、権限移譲と意思決定プロセスの明確化により、全体マネジメントの加速を図りました。
一方、販売チームは、代理店と協議しながらターゲット医療機関に対する現実的な活動順序や活動計画を策定しました。また、武器構築チームは薬事戦略を確定し、IVD申請に必要なエビデンスを取得するための委託研究やIVD取得プロセスを推進しました。なお、開発チームは、原価低減に向けた活動として新工法の技術検証や判定ソフトウェアの開発を行い、精度向上に努めました。
屋代:
プロジェクトの成果はいかがでしたか。
横幕:
フェーズ1で立案した各チームのアクションプランを遂行した結果、例えば、販売チームでは受注を獲得することができ、武器構築チームではIVD承認取得までのプロセスを明確に整理することができました。
さらに経営層に向けた最終報告会では、私たちが中心となって資料の準備と発表を行い、自律的に事業に取り組んでいる状況を説明しました。
その結果、経営層から事業継続の承認を得ることができました。
屋代:
PwCコンサルティングとの協働プロジェクトを経て、ビジネス戦略や考え方に変化はありましたか。
御子柴:
PwCコンサルティングから学んだ最大のポイントは、「ファクトベースで考える」重要性です。情報の出所と正確性、発言の背景にある意図も考慮し、必要に応じてセカンドオピニオンを求めてファクトの裏付けを取る必要性を学びました。さらに私たちの既存の知識や仕事の進め方も「それはファクトベースに則っているか」と見直すことで、多くの発見がありました。
もう1つは「視野を広く持つ“面”の考え方」です。例えば、以前の製品顧客セグメント戦略では、臨床検査技師のみをターゲットにしていました。「RaST-TASシリーズ」は細菌検査で利用するものなので、医療施設の検査室(臨床検査技師)にヒアリングや営業を仕掛けていたのです。いわば「ピンポイントの点戦略」です。
これに対しPwCコンサルティングからは医師、薬剤師、看護師、さらには病院の事務方まで、広く関係者にヒアリングし、「面としての戦略」でアプローチする必要があるとアドバイスされました(図表参照)。正直に言うと当初は「そこまでやる必要があるのか」と懐疑的でしたが、実際に実践し、その有効性を実感しました。この経験は私にとって大きな財産となっています。
横幕:
今でも覚えているのがPwCコンサルティングとの最初のミーティングで「RaST-TASシリーズ」の強みについて説明したところ、「それは本当ですか」と問われたことです。もちろん、大きくは間違っていなかったのですが、私たちの考えと医療業界の課題を含めて全体的に深掘りしたところ、まだ気づいていなかった部分がたくさんあることを知りました。
自分たちもこのプロジェクトを通じて、これまで訴求してきた優位性が、誰にどのような価値を提供できるのかを深く考えることができました。同時にメンバーたちの意欲も高まり、患者さんにとっての製品のメリットをより強く意識するようになりました。
屋代:
ありがとうございます。PwCコンサルティングはプロジェクトメンバーの皆さんが「自律・自走できる」体制の構築を心がけました。前田さん、この点についてはいかがでしょうか。
前田:
何をもって「自律・自走」というかは難しいのですが、私たちは最終報告時に経営層の方々から「プロジェクトメンバーがPwCコンサルティングの支援を受けなくても事業を継続できる」と認められるかを常に意識していました。最終報告会では、私たちではなくプロジェクトメンバーの皆さんが主体となって発表し、経営層との質疑応答も行いました。こうした姿勢が自律・自走したチームとして経営層の方々に認められたのだと考えています。
御子柴:
前田さんをはじめ、PwCコンサルティングの皆さんがプロジェクトを「自分ごととして考えてくれる姿勢」に感銘を受けました。短時間でフコクの一員となり、チーム全体を奮起させてくれました。特に印象的だったのは、顧問である著名な医師との面談時の対応です。想定外の展開にも十分な知識を持って冷静に対処してくれました。医療業界の確かな知見を基に、ロジカルに事業計画立案を支援してもらえたので、安心感がありました。
リーダーシップについても学びがありました。リーダーだけでなく、全員がリーダーシップを発揮する姿勢を示してくれました。強いリーダーがいると同時に、担当者も自律して動く重要性を実感しました。
横幕:
私はPwCコンサルティングの「ワンチーム」というアプローチが印象に残っています。私たちと同じ目線に立ち、常にフラットで濃密なディスカッションをすることで、「次に自分は何をすべきか」を自発的に考えられるようになりました。
PwCコンサルティングとの協働を通じてインタビューの設計や実施方法、情報収集・分析の手法など、多くのことを学べました。また、これまでは頭の中のイメージを言語化することが苦手だったのですが、情報を上手く構造化し、分かりやすく表現するアプローチも学びました。この経験を通じて、徐々に私たちもそのスキルを身につけることができ、個人の成長にもつながったと実感しています。
PwCコンサルティング合同会社 ヘルスケア・医療ライフサイエンス事業部 シニアアソシエイト 屋代 貴志
屋代:
最後に、迅速細菌検査事業の今後の展望を聞かせてください。
横幕:
RaST-TASの目指す世界観は、「国や地域の垣根を越え、RaST-TASシリーズを通じてすべての細菌感染症治療に貢献する」です。具体的には、AMR対策の普及・発展や菌血症患者の救命率向上に寄与していきたいです。PwCコンサルティングとの協働経験を活かしつつ、医療業界の課題やニーズの変化に対応できる製品開発にチャレンジしていきたいと考えています。
御子柴:
我々は迅速細菌検査事業の今後に自信を持っています。将来的にはRaST-TASチップを体外診断用医薬品として、専用顕微鏡や専用解析ソフトウェアを医療機器として承認を得ることを目指しています。これによって保険適用を含め、医療現場で使いやすい環境を整えることができると考えています。
屋代:
お話を伺っていると、今後もさまざまな挑戦がありますね。では、フコクが目指す未来に向けて求める人材像を教えてください。
横幕:
フコクは新しい挑戦を続ける会社です。ですから失敗を恐れず、自ら変化を作り出し、新しいことに前向きに挑戦できる人材を求めています。PwCコンサルティングとの協働で学んだ「ワンチーム」の精神を実践できる人、周囲の意見に耳を傾けて、互いに助け合って課題を乗り越えられる人材ですね。
御子柴:
創立70周年で設定したフコクの新たなバリューは「挑もう」「粘ろう」「誇ろう」「信じよう」「褒めよう」「話そう」です。このマインドに共感できる人材です。新規事業は予測が困難で次々と新たな難題に挑まなければならない世界です。そうした環境でも粘り強く取り組み、ワンチームでディスカッションを重ね、目標に向かって邁進できる人材を求めています。
屋代:
フコクとして既存のビジネスモデルを超越した価値の創造として新規事業創出が求められている中、この迅速細菌検査事業で培える経験、学びは新規事業創出のためのケイパビリティを獲得する貴重な機会であり、フコクの新たなバリューを浸透するための良い契機になると考えています。今後もPwCコンサルティングは本プロジェクトおよび求める人材像のキーワードにもなった「ワンチーム」を体現する圧倒的な当事者意識を自ら発揮し、迅速細菌検査事業の発展やフコクの新規事業創出といった観点で、またご一緒する機会があれば嬉しく思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。