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2023-03-06
広島銀行を中核とした「地域総合サービスグループ」を目指すひろぎんグループの持株会社である、株式会社ひろぎんホールディングス(以下、ひろぎんHD)は2022年10月1日に、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の準備が整っている事業者を経済産業省が認定する「DX認定」を取得しました。
グループ全体のDXに取り組む、ひろぎんHDのデジタルイノベーション部 デジタル戦略グループ デジタル戦略室 室長 石原和幸氏、デジタル戦略室 DX戦略・データ利活用統括担当調査役 大江拓真氏と、デジタルガバナンス検討・DX認定の取得を支援したPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)のマネージャー 小形洸介、アソシエイト 松江アレックスとの対談では、DXの攻めと守りの両面を推進するための1つの打ち手として、DX委員会を起点とする、絵に描いた餅にしない実効性のある内部管理態勢の重要性を考察しました。
※所属・肩書は当時のものです
(左から)石原和幸氏、大江拓真氏、松江アレックス、小形洸介
PwCあらた有限責任監査法人 アソシエイト 松江アレックス
松江
貴社の統合報告書2022では、新たにサステナビリティ経営を起点とした価値創出プロセスを打ち出し、そのマテリアリティとして「デジタルトランスフォーメーション」を掲げています。従前からのデジタル戦略と他の事業戦略が一体となった戦略と、DX管理推進態勢を打ち出したことが特徴的でした。「ステークホルダーとのお約束」の提示や「DX の対応領域」を3層で定義するなど、既に取り組んでいるDX施策の位置づけを整理する意味合いとして、DX戦略に関する社内向けメッセージも多く含んでいるように見て取れますね。
案件の立ち上げ時点で、DX認定取得を目的とせず、デジタルガバナンス・コード準拠に加え、デジタル戦略を磨きなおすこと、掛け声だけではない具体的なDX推進態勢を構築することなど強い想いをお持ちだったように記憶しています。いま振り返ると、さまざまな課題がある中でも一番の危機感はどういったところにあったのでしょうか?
大江
広島銀行がDXに本格的に取り組みはじめたのは2016年で、振り返ると6年もの間、DXにチャレンジしてきました。DXの位置づけや取り組み、組織体制・役割に至るまで変革の試行錯誤を繰り返しましたが、各事業部門、経営を含めた「共通認識の形成」に最も難しさを感じていました。総論としてのDX推進がOKでも、具体的な施策の企画・立ち上げがなかなか進まない状況にありました。
この原因は、社内で共通認識を持つための「モノサシ」がなかったことでした。そのため、新たにモノサシとなるべきデジタル戦略整備の必要性を感じていたところ、PwCあらたの皆さんとの意見交換の中で意気投合し、ともに検討した結果、2022年の6月に経営陣のコミットのもと、新デジタル戦略策定に至ることができました。
デジタル戦略策定にあたり、一番最初に取り組んだのがDX診断です。DX推進はそれなりに取り組んでいる自負はありましたが、DX診断では厳しい評価と現実を突きつけられました。DX診断を通じて、デジタルガバナンス・コードやDX推進指標を用いた公的なモノサシに加え、外部の客観的な知見・モノサシを活用することで、各論に対して具体的にどうしていくかに正面から向き合うこと、経営陣と同じ土俵で議論するための態勢が不足していたことに気づきました。特に「経営ビジョンから降りてくるDX戦略の戦略整合性」「DXの最終ゴールとしてのKGI・KPIの明確化」「それを推進・管理していくための具体的体制・プロセス」「社内はもちろんのこと社外に周知共有すること」はボトムアップでは限界があったのですが、DX診断によって、不足している取り組みについて経営陣に理解を深めてもらうことにもつながりました。
デジタルガバナンス・コードは、国が有識者の意見をもとに網羅的・体系的に整理し、銀行を含むさまざまなDX先行企業の成功・失敗事例を基にしたフレームワークです。必ずしもその全てが適用可能ではないにしても、少なくとも現時点で国内最高レベルの知見が詰まったものには間違いないと見ています。今までさんざん回り道をしてきた我々だからこそ言えますが、悩む前に最低限、デジタルガバナンス・コードに沿った整備をすべきだと考えています。
株式会社ひろぎんホールディングス デジタル戦略室 DX戦略・データ利活用統括担当調査役 大江拓真氏
PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー 小形洸介
小形
DX診断レポートが貴社の経営陣や関係部署との議論の起点となったことを嬉しく思います。その後のデジタル戦略のブラッシュアップでは、貴社の場合は既にDX施策に着手していたこともあり、ゼロベースからの戦略立案とは違い、個人・法人戦略などの事業戦略との連動性や、既存のDX施策の位置づけの可視化・再整理といった戦略の具体化と位置づけの社内議論を丁寧かつ多くの時間・パワーをかけて進めていることが印象的でした。社内のコンセンサス形成の観点では、気をつけていたことはありますか。
石原
デジタルイノベーション部(以下、DI部)は、HD社長直下の組織であり、トップとダイレクトにコミュニケーションをとっています。そのため、トップの考えはよく理解できていますが、DX方針の可視化・言語化が関係者の中でもなかなかできず、社内理解の進みにくさに悩みを抱えていました。また、DX自体は手段であり、それを起点としたボトムアップの戦略検討は現実的でないことも肌で感じていました。DXの戦略の再整理と、全社理解が得られるDX推進環境の構築に対する課題認識は社内でも非常に高まっており、経営者の言葉やスタンスからトップダウンで戦略ストーリーを可視化することの重要性を感じていました。そのような中、DX認定は、社外へのアピールに加え、社内コンセンサス形成にも有効に活用できる制度であると、経営陣を含めて気が付きました。それをきっかけに、DX認定取得を重要な取り組みと位置づけることができました。
DX認定を活用することで、DI部にとって悲願であったデジタル戦略の策定と態勢の再整理ができましたので、今後は戦略実現に向けてさらにDXの推進を図っていきたいと強く思っています。
株式会社ひろぎんホールディングス デジタルイノベーション部 デジタル戦略グループ デジタル戦略室 室長 石原和幸氏
出典:「ひろぎんホールディングス 統合報告書 2022 本編」
小形
DX認定事業者の実態として、経営管理やリスクマネジメント機能を有する「委員会」運営ではなく、箱だけの委員会・ワークショップのような会議体の設置、IT関連の上位会議体の鞍替え等のデザインにとどまる事例もまだ散見されます。国内企業の現状は、DX管理・推進に係る統括機能や、リスクマネジメントの観点での牽制機能を十分に発揮するための内部管理態勢の構築まで至っていないと感じています。
大江
同感です。DXというと推進面ばかりに目が行きがちですが、それも内部管理態勢がきちんと確保されていることが大前提になります。そこは、デジタルガバナンス・コードで強調されている点でもあると認識しています。忘れがちですが、デジタル技術起因のシステムリスクやサイバーセキュリティリスク、データの取り扱い等に代表される法律・権利や他社とのアライアンスの観点などに加え、定常的な人不足の中でのDX施策の推進リスクなど、DXにはリスクが伴います。我々のような、地元を中心としたステークホルダーからの信頼を礎とする金融機関を中核に据えた地域密着型総合サービスグループとしては特に、法令等の遵守、お客さま保護、情報管理、リスク管理等は、DXの文脈においても必須の事項となります。
小形
戦略立案では、戦術面の1つとして、DXに係る内部管理態勢、DX委員会の機能定義にも経営陣を巻き込んで力を入れておられましたね。リスクガバナンスの構造的な課題として、既存の組織構造の枠にとらわれて身動きがとれない企業も多いですが、どういった態勢づくりがポイントになりますか。
大江
そのような弊害は金融機関では多いと推察しています。当社グループでは「DX推進主体」と「DX統括・牽制機能」とを分離しました。前者は各事業部門が担いますが、後者は新たにDX委員会を組成し、DI部をその執行機関と明確に位置づけるところからスタートしました。DI部は、グループ全体のDX推進統括部署として事業部門をとりまとめ、経営戦略と整合したDXの推進に向けて強力にアクセルを踏んでいくとともに、牽制機能として一定のブレーキもかけています。両者をバランスよく実施していくプロフェッショナルな役割が求められます。特に我々のような地方の金融機関グループにおいて、高度で複雑な領域といえるDXを推進・管理していくためには、全てを各事業部門に委ねるのは得策ではなく、グループ内の知見・ノウハウを一定の統括・管理部門へ一元的に集約・蓄積していく必要があると考えます。一方で、希少なDX人財を地方地域で確保するには厳しい実態にあり、その知見を活用した人財のリスキリングも重要と捉えています。
小形
おっしゃるとおりですね。組織機能を含むガバナンスをドラスティックに変革するカルチャーと、そのような中でも経営基盤の土台を固める堅確な姿勢があるからこそ、経営から現場まで一体となったDX施策のスピーディな立ち上げにつながるものと理解しています。
貴社の場合、内部管理態勢の具体化を前提にDX委員会を組成しており、特に、「当事者意識」や「経営と現場のコミュニケーション」がキーワードとして浮かぶのですが、現在地点としてのDX委員会の整備・運営状況はいかがでしょうか。
石原
現在は準備期間にあたり、2023年4月からの本格的な運営開始に向けて必要な規定整備と段階的なブラッシュアップを予定しています。社長以下、各社各部の部長級が参画し、議題を明確にする前提で、自由闊達に意見交換してもらう場にすることがまず重要であると考えています。また、DX委員会と専門部会をDX推進・管理に関する全ての審議機関と位置づけ、「デジタル戦略の策定・見直し」「デジタルガバナンス管理」「DX案件の採否」「DX案件のPDCA管理」「グループ全体のDX KGI管理」といったあらゆるDX事項を審議する場としていきます。従来のDX部門は、あいまいな立ち位置と権限のまま、横から口を挟む程度の関与でしたが、委員会および専門部会の運営によって、必要なノウハウや情報を一元的に蓄積・管理し、グループ全体で論点を可視化させ、共通認識化を図っていきます。
大江
DXの実効性を担保するのは、結局、人財です。我々自身、試行錯誤しながら謙虚に柔軟に学んでいく必要があると考えています。現在は、形骸化しないための管理態勢に加えて、事業部門理解の推進、啓発も並行して進めています。特に、DX案件の採否基準の明確化として、KGI、KPIや投資対効果の具体化とモニタリングに加え、投資回収に蓋然性を求めすぎないことやリスク許容度の緩和、不作為により逸失するリスク(取り組まない場合のリスク)を考慮した案件採否など、チャレンジ要素を持たせる試行的な運用を検討しています。
小形
貴社はDXを起点とした施策を多く展開していて、直近ですと、Fintechプラットフォームを活用した法人向けサービスや、広島県内の地域中核企業との「広島オープンアクセラレーター2022」実証実験を軸としたイノベーション、「DX人財のリスキリング」など、次々と施策を進めておられます。そのような中で、DX施策全体を統括し、前に推し進める、あるいは一度立ち止まって見直し・軌道修正するなど、日々の細やかなかじ取りがますます重要になってきていると認識しています。この点は、経営リソースが限られる中、1線・2線の守備範囲を明確化しつつも、施策のドライブとリスクマネジメントが一体となった機能発揮が重要と感じますが、DX委員会のレベルアップとして取り組まれていることはございますか。
石原
当社は歴史があり、部門ごとの役割や責任への意識が極めて高いという特徴があります。これは良い点もありますが、DXの領域では、運営と一足飛びの変革が難しいのも事実です。従事者に浸透している意識やそれらをベースとした組織全体の風土・文化を明日から変えるということは難しく、現実的ではありません。したがって、最初からあるべき姿に一気に変えるのではなく、さまざまなDX施策を進めながら、まずは、ひろぎんの特徴に合わせ、良い意味でそれを活かしたDX委員会の運営が現実解であると心がけています。具体的な統制としては、DX委員会の役割・権限、その中のDI部の役割・権限の明確化・周知を図り、運営しながら関係者の意見を反映し修正を重ねていきます。スタート時点では、相当部分の推進・管理責任をDI部が持つことになりますが、DX推進の仕組みを変更すべきとの声が大きくなるのにあわせて、どんどん仕組みや所管を変えていくつもりです。意見する人が増えれば増えるほどDXの社内での理解・浸透が進むと考えていますので、DX委員会によって従事者の意識レベルにまでDXの価値が伝わることで、カルチャーも変わっていくと考えています。
小形
貴社では、地域総合サービスグループとして、金融・非金融の垣根を越えた新規ビジネス創出から、足もとのプロセス変革や改善まで、幅広くDXを展開していくため、適材適所のDX人財の配置とリスキリングが重要になると理解しています。DX施策の実行にあわせてOJTとしてリスキリングを促すほか、基本的なコンピテンシー向上としてITパスポート取得の奨励に取り組まれていますが、人財の確保・育成のポイントや今後の展望を教えてください。
大江
ご認識のとおり、DX推進のための重要な要素の1つに人財を掲げています。必要人財を6パターンに定義していますが、将来的にはスキル要件を詳細化し、現状とのギャップを埋める具体的な育成計画を策定し実践していきます。約4,000人を「ITパスポート」の取得対象者としており、現時点でそのうち85%が試験に申し込んでいます。今年度中にも前倒しでKPIが達成できる見込みであり、共通スキル要件の確保が順調に進んでいます。
「ビジネスとデジタル両方の知識を持った人間が、業務部門発でデジタル企画をできるようになる」ことが目指すところであり、業務に詳しい内部の人財のデジタルリテラシーを高めていくことで、業務効率化と推進力の確保に注力しています。各事業部門においてDX推進を主導するキーマンとして「DX推進責任者」「DX推進リーダー」を社内研修等により育成・任命し、グループ各社の各事業部門へそれぞれ原則1名以上ずつ(計80名程度)配置していく予定です。
ひろぎんホールディングス本社ビル1階「トゥモロウ スクエア」
石原
地域DXは構想段階にありますが、「地域プラットフォーム」といった漠然としたものではなく、顧客DXの地道な推進のプロセスや結果として、地域DXがあると考えています。当社の強みである「法人顧客コミュニティ」をうまく活用したDX推進は、「地域DX」の1つとして有望であると考えています。2024年度から開始する次期中期計画では、より上流の戦略策定段階から各事業部と連携するとともに、質的深化のみならず、地域総合サービスグループとして顧客DXや地域DXへの量的拡大を目指していきます。常にDXで実現すべきKPIを意識しながら、今後、しっかり議論を深めてまいります。
小形
さらなるDX施策の加速化と、地域総合サービスへと進化を続けていくためにも、DX委員会を起点とした内部管理態勢がますます重要になりますね。全社的なDX人財の育成とDXに取り組む風土の醸成などの中期課題についても、是非、伴走させていただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました。