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2022年4月1日、国内セメント業界のリーディングカンパニーであるUBE三菱セメント株式会社(以下「MUCC」)が営業を開始しました。MUCCは、UBE株式会社(旧宇部興産株式会社)と、三菱マテリアル株式会社が50%ずつ出資したセメント事業の統合会社です。また、販売・物流機能の統合会社だった宇部三菱セメント株式会社を吸収合併、両株主のセメント事業(生産機能)やその関連事業などを承継し、新たな事業体として誕生した企業です。
PwC Japanグループ(以下「PwC」)は、本経営統合の実現に向けて、統合事務局や各分科会に関する各種支援を行ってきました。今般、MUCCの常務執行役員 経営企画部の小野光雄部長と、執行役員 経営企画部 経営企画室の林聡久室長をお迎えし、統合を決断した背景、準備の過程で発生した課題、それをどう乗り越えたか、今後の同社の展望についてお話を伺いました。
話し手
UBE三菱セメント株式会社 常務執行役員
経営企画部長 兼 関連事業部長
小野 光雄 氏
UBE三菱セメント株式会社 執行役員
海外事業副事業部長 兼 経営企画部 経営企画室長 兼 海外事業部 海外部長
林 聡久 氏
聞き手
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
佐藤 稔
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
赤間 穏子
※本文敬称略
※法人名・役職などはインタビュー当時(2024年9月)時点のものです。
(左から)林 聡久氏、佐藤 稔、赤間 穏子、小野 光雄氏
佐藤:
UBE株式会社(旧宇部興産株式会社)と三菱マテリアル株式会社は、本統合にあたり、両社の経営資源などを国内外で成長が期待できる事業に集中的に投下することで、社会インフラの整備および循環型社会の発展に貢献する企業として持続可能な成長を目指されています。あらためて、本経営統合の背景と狙いについて教えてください。
林:
MUCCの前身の一つである宇部三菱セメント設立2年後の2000年当時、セメントの国内需要は8,000万トン程度ありましたが、2021年度には約半分の3,800万トンを切る水準にまで落ち込みました。需要減に加え、著しいエネルギー価格変動、カーボンニュートラルという課題も生じ、事業環境は大きな変革期を迎えておりました。従来の体制では、この環境変化に立ち向かうことは困難であるという両社の企図が一致したことが、統合を検討するに至った理由です。生産面を含めてバリューチェーン全体でシナジー効果を創出し、業界トップレベルの効率性と収益性を目指していく。そのうえで持続的な成長を実現することが最大の目的でした。
赤間:
本件は業界構造を大きく変える大規模な経営統合で、PwCはビジネス、統合事務局(PMO)・経理財務・人事・調達・内部統制・知財などのPMI、税務といった各種専門チームが一丸となって経営統合を支援させていただきました。経営統合にあたり、どのような課題があったかをお聞かせください。
林:
同業企業の経営統合ですから、当然ながら競争法などの制約があるなかでの交渉となりました。一方で同業同士とはいえ、部署ごとの業務所管範囲や業務プロセスの設計思想など、各社の独自性や違いがあります。これを新会社としての視点から、一つの基準を定めていくことへの難しさがありました。また、本件のような大規模の統合案件では、統合新会社として備えるべきコーポレート機能やガバナンス項目も多岐にわたります。PwCから、そうした課題に対するアドバイスをいただいたおかげで、統合新会社としての適切な“Day1”を迎えることができたと思います。
赤間:
実際、経営統合の交渉段階から必要となったビジネス、PMI全般――統合事務局、統合新会社の事業計画の策定、サプライチェーン、経理財務、人事、税務、内部統制、知財、産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定申請――と、複数機能にわたる支援となり、私たちもPwC Japanグループとして最適なケイパビリティをもつチームで体制を組み、PwCアドバイザリー合同会社のみならず、PwCコンサルティング合同会社、PwC税理士法人、PwCあらた有限責任監査法人、PwC社会保険労務士法人と法人格を超えた体制で支援させていただきました。
林:
本プロジェクトは、「未来志向の新しく“いい会社”を創造する、両社対等の精神のもと共創する、新会社を主語に考える」――といった“統合の精神”を掲げて具体的な検討に入りましたが、PwCのチームの皆さんが一貫してこの精神を最優先に考えてくれたことが、さまざまな課題の解決につながっていったと考えます。
PMI推進体制図
赤間:
経営統合にあたっては大小さまざまな課題・困難がありましたが、貴社にとって特に重要だった課題についてお聞かせください。
林:
大きく3つありました。1つ目は統合事務局の任務遂行です。我々両社の統合準備チームが事務局を担いましたが、これだけの大規模プロジェクトを進めていくこと自体、困難を伴います。幅広い分野での検討を統括していくこと、統合会社における機関設計など根底となる設計を行うこと、さらには理念の検討はもちろん、前述のような競争法対応の対応もありました。そのように膨大な課題対応に追われ、毎日があっという間に過ぎていく日々でした。なお、部署ごとの課題については、統合する3社のメンバーで複数の分科会を組成して、各種検討を進めていきました。
2つ目の重要課題は、その分科会の一つ、経理財務分科会およびITシステム分科会による基幹システム統合であり、会計領域における統合です。昨今、ERPの導入時にトラブルが発生し、事業運営に支障をきたすといったニュースをよく耳にしますが、当社では統合までの構築および稼働がスムーズに進み、現在まで滞りなく運用できています。まだまだこれから進化が必要な状況ではありますが、統合前に無事完了できたことに安堵しています。
3つ目は人事分科会で、統合会社としての人事制度を新たに作るという課題です。“統合会社設立にあたり従業員は全員転籍する”という大方針のもと、UBEと三菱マテリアル両社の人事制度や待遇面の差などを一つひとつ潰し、新たな人事制度を設計していきました。その内容を従業員へ説明し、転籍の同意を得て、従業員全員が希望をもって統合会社に来てもらえるように取り組みました。
そのほかにも各分科会でさまざまな準備検討を行ってきましたが、運営の観点で何よりも大変だったのは、統合準備期間中がコロナ禍だったということです。相互理解に向けたコミュニケーションが必須であるなか、フルリモートですべての協議を行わなければならない状況でした。これは本当に、当社にとってもPwCにとっても大変なことでしたね。顔を合わせたことのないメンバーが慣れないリモートミーティングで、あれだけの検討を毎日のように進められたのは、両社の橋渡しとしての役割をPwCがしっかりと担ってくれたからです。そのようなPwCの尽力があってこその、統合だったと考えています。
小野:
UBEも三菱マテリアルもセメント事業を展開している点は同じですが、UBEはナイロン・ポリマー・化学繊維などの化学分野に強みがあり、一方の三菱マテリアルは金属製品や材料分野でも大きく事業展開しているという違いがあります。統合前はセメント事業を扱う“似た企業”だと思っていましたが、経営統合の準備検討に入るとさまざまな違いが見えてきて、分科会内で意見が分かれるといったケースも多々生じました。そうした時は、赤間さんを筆頭にPwCのさまざまなチームの方が“間”を取り持ってくれ、結果として良い方向に導いてくれました。PwCの皆さんがいなければ、この統合は2、3年遅れていたかもしれない……。これが今の正直な私の思いです。
赤間:
私たちとしても、単なる3社調整や片寄せというようなアプローチではなく、幸いにも複数の機能を支援させていただいているからこそ、機能横断(新会社の部署横断)でプロセスを一貫して検討することができましたし、新会社としての全体最適を鑑みたうえで、常に“新会社として”という視点を掲げて最適解を追求するという姿勢を貫くことができたと考えています。それは、そもそも「新会社にとってどちらがいいか」という皆さんの判断軸がぶれることがなかったからだと思います。ですから私たちも、「新会社にとってどちらがいいか」をベースに議論を推し進めることができました。
また、林室長がお話しされたように、すべてをリモート会議で行いましたが、良い面としては、二重橋、浜松町、宇部と、ロケーションの異なる拠点の地理的制約に縛られることなく、頻度高く打ち合わせが実施できた点です。本件検討にあたり、私たちも東京に限らず、大阪、名古屋など所在地は異なるものの、担当領域において最適なケイパビリティをもったメンバーで支援させていただくことができました。
小野:
特に統合事務局に係る課題では、最後の2カ月は毎週3時間ほど集中的に討議しましたが、その時も含めて、本当に最初から最後まで一度も対面会議はなかったですね。私も赤間さんに直接お会いしたのは、経営統合後でしたから。リモートだから、うまくいったという面もあったかもしれませんね。
赤間:
公の場では立場上コメントしづらい、言いにくいといったこともありますので、オフラインでの会話や電話などのフォローを通じて、きめ細かなフォローを続けてきたことが、検討の方向性をそろえることに役立ったと考えています。とはいえファシリテートする身としては、カメラオフで参加される方もいらっしゃったため、今、どのようなお気持ちでいるかが窺い知れず、難しいと感じたこともありました。ただ、「リモートでなければあれだけ頻度高く討議できなかった」ということは、PwCのメンバーも皆口を揃えて話しています。
小野:
リモート会議には皆慣れてきていましたし、参加しやすかったのではないでしょうか。そのおかげで、PwCの多くの方々に支援していただけたともいえますね。
赤間:
ビジネス、税務、経理、人事、調達、事務局、内部統制、知財、海外チーム、および就業規則などを見てもらうためのPwC社会保険労務士法人のメンバーも含めて、延べ70名超、PwC Japanグループ内の5法人が法人の枠を超えて、本プロジェクトに参加させていただきました。時には見解に相違が出ることもありましたが、私たち自身も、「新会社にとって」という判断軸に基づいて、多くの事前協議を重ね、皆さまとの議論に臨むことができたと思います。
佐藤:
統合から丸2年が経過しましたが、ここまでを振り返っていかがでしょうか。
林:
初年度となる2022年度は周到な準備の甲斐あって、経営推進体制やガバナンスは順調に滑り出し、営業や諸取引も支障なく承継され、業務移管や融合も順調に進みました。一方で足元の業績については、ウクライナ紛争などに伴う原料高騰により、未曽有のコストアップに見舞われ大幅な赤字に。従業員は大きな不安を抱いたと思いますが、編成中だった2023年度から2025年度の「中期経営戦略(以下「中経」)」を前倒しし、生産体制の見直しや、二度にわたる大幅なセメント値上げなどの対策を実施しました。そのような“嵐のなかの船出”となったわけですが、入念な統合準備のおかげで、社内の統合・融和はむしろ早まったと思います。
中経を“2030年のありたい姿”に向けたファーストステップとして、現在、国内セメント事業の体質強化・コストダウン、米国事業の成長・新規拠点の探索、地球温暖化対策の推進を最重点施策に位置づけて取り組んでいます。各対策を前倒しした結果、業績面においては、中経初年度である2023年度で、2025年度目標を達成することができました。しかしながら現在の事業環境は、セメント国内需要の減少加速や円安など、中経戦略策定時と比べ、大きな乖離が生じてきており、物流の2024年問題などによる各種コストアップも当初の想定以上のものになると予想しています。このような難しい環境下ではありますが、MUCCとしてさらなる一致団結を促し、今後の方針や成長戦略を検討・実行していきたいと考えています。
小野:
業績以外は、ほぼ問題はありません。赤間さんに作成を支援いただいた各種の規程など、準備が非常に順当にできたおかげです。業績面で課題が残る状況下においては、“旧系列間”で軋轢が生じたりすることが常ですが、林が申し上げたとおり、軋轢が生じる余裕すらなかったのは不幸中の幸いといったところです。
赤間:
規程を作った後で、「このワークフローが抜けていた」など、実は慌てた場面もありました。皆さまの素案文面の背後にある考え方もご教示いただきながら、私たちもギリギリまでMUCCの法務メンバーの方からのアドバイスを参考に協議を重ねるといったこともありました。本プロジェクトに関わられた皆さまの結束感・団結感は最後まで素晴らしく、ご支援のしがいがありました。
佐藤:
最後に、今後の展開についてお聞かせください。
林:
先述した各種コストの上昇が大きな悩みの種ではありますが、2030年の目指す姿、「統合の深化により業界トップの技術力・収益力を誇るグループ」の実現のためには、中経のセカンドステップの前倒しが必要で、その検討準備に入ったところです。
小野:
林の言うとおり、課題は山積しておりますが、本プロジェクトに3年間携わってきて、「どのような課題も乗り越えられる」という自信がつきました。PwCの皆さんには多岐にわたってバックアップいただいていますから、これからもさまざまなお願いをしたり、頼ることもあると思います。引き続き支援をよろしくお願いいたします。
佐藤:
本日は、貴重なご意見をお伺いでき大変感謝いたします。ありがとうございました。経営統合の初年度は、“100年に一度”といった厳しい環境下での“船出”となりましたが、それを今このように乗り越え、しっかりとした収益基盤を作られており、さらなる飛躍・事業成長に向けてさまざまなビジネス・トランスフォーメーションに取り組んでいかれると理解しております。これからも、ビジネスコンサルティング領域やM&A、税務関連といった多方面からの支援を続けてまいります。