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2022-10-18
価値観の多様化やデジタル化は人々の消費行動を大きく変容させ、保険業界の商品・販売チャネルを取り巻く環境にも大きな変化が生じています。そこで今回は、差別化された保険商品を主に代理店チャネルを通じて提供し、新たな販売ルートの開拓にも取り組むネオファースト生命の事例を紹介しながら、保険業界の未来を切り拓くヒントを探ります。過去・現在の取り組み、そして今後の戦略について、同社執行役員・久野剛史氏とPwCコンサルティング合同会社パートナー・田村公一が語り合いました。
対談者
ネオファースト生命保険株式会社/執行役員
久野剛史氏
PwCコンサルティング合同会社/パートナー
田村公一
※本文敬称略
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)田村公一、久野剛史氏
田村:
本日は代理店チャネルを主力とする生命保険会社として、ネオファースト生命が直面する継続的成長のための課題や、今後の方向性について意見を交換させてください。まず、保険業界内におけるネオファースト生命のユニークネス、強み、特徴についてお聞かせください。
久野:
従前、第一生命は営業職員チャネルを主力としている一方、代理店事業についても第一生命本体で運営されていました。ただ営業職員チャネルで提供する商品と、乗合代理店において他社と比較される商品ではお客さまへの受け入れられ方のギャップが大きく、第一生命グループとして、今後代理店事業にどのように取り組むべきかという課題がありました。
そして検討の結果、大規模なシステム、組織を抱える第一生命から独立させ、新たな保険会社を設立することとなり、2014年に買収を通じて、グループ内で代理店向けに機動的に商品を供給する戦略子会社という位置づけで、ネオファースト生命の設立に至りました。
ネオファースト生命の強みは、第一生命と比べてローコストで商品を機動的に提供すること。ただ、乗合代理店チャネルを主力とする生命保険会社各社は、それぞれ機動的に商品提供するという世界観を持っています。そのため、私たちとしては創業当時から「差別化」を追及し、これまで乗合代理店になかった付加価値のある商品をお客さまに提供したいという思いから、“「あったらいいな」をいちばんに”というミッションを掲げ、経営に取り組んでいます。
では、お客さまにとっての「あったらいいもの」とは何か。私たちは模索を続け、その結果「保険でお客さまの健康の後押しをしていこう」という1つの答えを導き出しました。この点が、私たちの特徴・強みのひとつだと思います。
田村:
実際、ネオファースト生命では、お客さまの健康意識を高め、行動変容を促すさまざまな保険商品を設計・提供することで、保険の新しい形を絶えず追求され続けていますね。
久野:
最近では比較的一般的になってきましたが、弊社はタバコを吸わない人は保険料が安くなる「非喫煙者割引」を、代理店向け商品としては生命保険業界で初めて終身医療保険に導入*1しました。また、持病・既往症のある方でも入りやすい引受基準緩和型の商品では、ご加入後5年間に給付金のお支払いがなければ、以後の保険料を割引く仕組みを導入しています。
そして私たち自身が最もエポックメイキングな商品だと考えている商品の1つとして、満年齢ではなく健康状態に応じた年齢で保険料を決める商品があります。通常、満年齢が上がると更新時に保険料も上がりますが、お客さまの健康状態に応じて保険料を維持できる、もしくはさらに割引きするという仕組みです。
健康をキーワードにするのみならず、しっかりとプライシングに落とし込む仕組みがあるのも弊社の強みだと考えています。
*1 生命保険協会加盟の生命保険会社が取扱う保険の中でのネオファースト生命の調べ(2015年6月29日現在)に基づきます。
ネオファースト生命保険株式会社/執行役員 久野剛史氏
PwCコンサルティング合同会社/パートナー 田村公一
田村:
非喫煙者や健康な人の保険料を割り引くという特徴的な商品であっても、代理店チャネルにおいては、どうしても他社の商品と比較されてしまうと思います。代理店チャネルがメインの御社としては、代理店チャネルを取り巻く環境の変化をどのように捉えてらっしゃいますか。
久野:
2016年に保険業法が改正されてきたことを踏まえ、代理店は類似商品がある場合には、お客さまに対して比較推奨が十分にできるよう、特に大手ショップを中心に、商品を効率的に比較できる仕組みをつくり始めました。全体的にどういった保障が必要なのか、入院・手術・通院などどれくらいの保障範囲を求めているのかをお客さまからヒアリングし、得られたキーワードをシステムに入力すると商品が自動的にリストアップされる仕組みです。
このような仕組みが一般化することで、商品の保障内容が類似してくるということが挙げられます。例えば、治療保障保険(治療にかかった費用を実損填補的に給付する保険)のような特徴的なメニューは、システム上で選ばれないという問題が起きました。弊社は乗合代理店の世界においては後発であり、特徴や強みを前面に打ち出す差別化戦略を掲げて参入しましたが、システム上の制限により、ユニークな商品が比較の俎上にすら上がらないというケースが起こったのです。そこで弊社としては、一定の特徴を意識しつつもシステムに載るような保障を具備することを考えざるを得なくなりました。
次に起きた変化は、類似した保障の中での細かいスペック、例えば給付水準、あるいは引受範囲などの競争です。加えて価格競争も激化してきました。弊社が参入した当初に想定していた環境からは大きく変化していると感じます。
田村:
代理店チャネルでは「比較」が一番のポイントだと思いますが、比較しやすさを追求するシステムや仕組みが保険商品の均質化を生むというのは、非常に興味深い指摘ですね。保険会社がユニークネスや強みを生かして開発した、エッジを立てた商品が、そもそもお客さまの目に触れない。さらに、商品の均質化はスペック競争や価格競争を招く。では、代理店チャネルを主軸とする御社では、保険を最終的に選ぶ「お客さま」の変化についてはどう捉えていますか。
久野:
代理店チャネルを通じて見えてくるお客さま像の変化は、現状ではそれほど顕著ではないように見えます。自動車保険とは異なり、生命保険や医療保険はお客さまが日頃意識しやすいリスクに対応する商品ではありません。どのような時に、どのような保障が必要かについては、代理店側がしっかり説明しなければなりません。お客さまが主体的に将来像を描いて選ぶということはなかなかできないので、代理店主導というイメージは今なお色濃いと思います。
ただし、お客さまのニーズも大きく変わってきていると思います。医療技術が進歩し、ビッグデータの活用も進み、お客さま自身が将来的に自分のかかりやすいと思われる疾病を比較的容易に知ることができるようになりました。また、余分な保障に保険料を払いたくないという意識も強まっています。今後お客さまは、自分がかかるリスクの高い疾病に対してスポットをあてるような保障を嗜好していくのではないかと考えております。
遠くない将来、弊社のみならず代理店も、顧客主導型に向かう流れに対応する必要性がより高まっていくでしょう。ネオファースト生命では変化に対応するため、比較の俎上に載せるための商品競争、あるいは価格・給水水準の競争から抜け出し、お客さまがスポットで選びたいと思う保障をラインナップしていくことを戦略の柱の1つとして打ち出しています。
田村:
お客さまの嗜好に沿う形で特定の保障を正しいタイミングで提供していくとなると、販売方法も重要になると思います。今後、御社が主力としてきた代理店チャネルとの関わり方にも変化が生まれるのでしょうか。
久野:
代理店チャネルは弊社の主要チャネルであり続けるでしょう。ただし、お客さまの情報リテラシーが高まり、お客さま主導で商品を選ぶとなれば、機械的に比較推奨するのではなく、個々のお客さまに見合う商品を選んで推奨していく流れが生まれると思います。さらに言えば、そういった流れを代理店が主体的に汲み取ることも重要となっていくと思います。代理店がお客さまの変化に応じた推奨の仕方を確立できるよう、弊社でもサポートしていきたいです。
田村:
生命保険業界において代理店チャネルはこれまで以上に影響力を持ち、お客さまの選択肢のなかで重要な地位を占めていく。だからこそ、代理店の方々の販売アプローチを一緒になって考えていきたいというのが御社としての立ち位置だと理解しました。お客さまの変化に応じて代理店チャネルの進化を目指す以外に、今後、御社が注力する方針・戦略についてもご紹介いただけますか。
久野:
保障の提供は生命保険会社の本来的なミッションであり、お客さまの嗜好の変化にしっかり対応していくことは基本となります。一方で、お客さまからは「生命保険はわかりづらい」との声が聞こえてきます。そのため、保障が必要なリスクに気付いてもらえるようなフックをつくりつつ、希望する保障をスポットで提供できる仕組みをつくることが必要だと考えています。
また弊社が重視する、健康への意識が高いアフィニティグループ*2や特定マーケット集団に対して、保障やその手前にある健康増進関連サービスを提供できるような仕組みがつくれないかと考えております。
アフィニティマーケットには、伝統的なものとして企業の従業員、あるいは企業が抱えているお客さまという考え方があります。一昔前で言えば、団体保険や職域保険などが具体例でしたが、例えば特定企業のカード会員やドラックストア会員など、もっと広い意味でのコミュニティーに向けて、アプローチの方法はさらに増えていくと思っています。
田村:
新たなアフィニティマーケットにおいて成約に近づけていくためには、協業先の方々だけでなく、協業先のお客さまを知るということも非常に重要なポイントになると思います。御社はこれまでもたくさんの共同取り組み型アフィニティモデルにチャレンジされてきたと思いますが、今後取り組みを加速させる上での課題についてはどのように認識されていますでしょうか。
久野:
課題は協業先に漫然と商品をご案内しても、簡単には受け入れてもらえないことです。例えば、保険商品のお勧めチラシを置かせていただくといったことだけでは、お客さまの関心をグリップすることができません。
また、お客さまに対するプッシュの方法も課題です。保険の必要性を理解していただきつつ、生命保険特有の難しさを乗り越え、後押しする何かが必要です。例えば、協業先と後押しする代理店を結びつけ、商品を提供することで、一緒に新しいマーケットを切り拓くことができるのではと考えています。
お客さまを知ることも非常に重要な課題です。先ほどドラッグストアを例として取り上げましたが、「ドラッグストアを利用するお客さまはこうだろう」という考え方は、多くのケースは想像や思い込み、先入観でしかありません。特定の集団のお客さまが具体的にどのような思考を持っているのか、しっかりリサーチをした上で保障やスキームを構築し、リーチしていくことが大きな課題だと捉えています。
*2 アフィニティグループとは、ここでは、特定の目的や共通性を持つ人々の集団を指しており、本文中に記載のドラッグストアのカード会員などを含みます。
田村:
多くの会員を有する異業種の方々との連携を密にするため、従来型の代理店販売モデルとは異なるスキームを生み出し、つなげることも大きなチャレンジとなりそうですね。今後、第一生命グループ内、そして生命保険会社業界において、御社が目指す方向性、長期的にチャレンジしていきたいことをお聞かせください。
久野:
お客さまに必要な商品を「Just In Time」で提案することを突き詰め、代理店チャネルにおける募集の方法も根本的に変えていきたいと思います。そのために、代理店が差別化された商品をしっかり理解し、その良さをお客さまに訴求してもらえるような取り組みを進めていきたいです。
また、一部開始している異業種との取り組みも加速していこうと考えています。相互のお客さまにそれぞれの商品やサービスを紹介し合えるような、Win-Winのパートナーシップの構築に注力していきます。最終的には直接的なパートナーシップをベースに、互いにマーケットを拡大できる戦略を展開できればと思っています。
田村:
PwCではこれまで、御社の商品開発のスピードを強みと感じ、世の中の最新動向を踏まえた生命保険会社が対応すべき保障領域の検討や、商品開発の方向性策定をご支援させていただきました。最後に今後PwCに期待する役割、その提供価値などについてお聞かせください。
久野:
異業種との取り組みにおいては、国内外含めた成功事例などの情報や、そこから得られる示唆の提供を積極的にお願いしたいです。さらに一歩踏み込み、異業種連携を成功に進めるためのプロセスや、お客さまを知るための助言にも期待しています。特にPwCにおけるお客さま理解に係るこれまでの蓄積は有用だと思います。一緒になってビジネスモデルを築き上げていくパートナーとして期待しております。
田村:
こちらこそぜひ引き続きご支援させていただければ幸いです。本日はありがとうございました。