
これからの病院経営を考える 【事例紹介】北杜市立甲陽病院:看護業務の見直しが生んだ職員の意識改革
山梨県北杜市の市立甲陽病院では、総看護師長のリーダーシップの下、看護業務の見直しを進めています。このプロジェクトを支援したPwCコンサルティングとともに取り組みを振り返り、現場からの声や成功の秘訣について語りました。
全国と比較して少子高齢化の進展が速く、医師少数県でもある新潟県では、在宅医療の強化が重要な検討事項となっています。需要の増加が想定される在宅医療について、県としてどのような対策を打つべきなのでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、新潟県の依頼を受けて、在宅医療提供基盤強化プロジェクトを推進するために、50件におよぶ医療機関等へのヒアリングを実施、医療従事者の意見を聞き地域の実情に合わせた具体的な解決策を検討しました。担当したPwCコンサルティングのメンバーが、本プロジェクトでの経験を踏まえ、新潟県の担当課の方にプロジェクトの背景や今後の展望について、お話を伺いました。
登壇者
新潟県 地域医療政策課 課長
浅見 裕之氏
新潟県 地域医療政策課
高畑 慶一郎氏
新潟県 地域医療政策課
武田 南氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
増井 郷介
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
植田 賢吾
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)植田、武田氏、浅見氏、高畑氏、増井
植田:
本日はありがとうございます。まず、新潟県では医療提供体制についてどのような課題感をお持ちであったか教えてください。
浅見:
新潟県は全国と比較して少子高齢化の進展が速いこと、政令指定都市である新潟市等の都市部と中山間地域など性質の異なる地域を内包していること、医師少数県として医師数が全国最下位クラスであることなどの特徴があります。これに加えて県の面積は広く、医療資源が分散しているという状況もあり、持続可能な医療提供体制の構築に向けては、医療機能の分化と連携強化が課題とされており、地域医療構想の議論においては、その解決策として再編・集約の必要性について現在も議論を進めています。
増井:
これまでの地域医療構想は主に入院機能に焦点が当たっていましたが、今回の「在宅医療基盤の戦略策定」についても地域医療構想の検討が契機になっているのでしょうか。
浅見:
はい。医療機能の再編・集約に関する地域医療構想調整会議の議論が背景になっています。地域医療構想の検討において、新潟県では2025年のさらにその先を見据え、本県独自に地域医療構想のグランドデザインを策定し、これに沿った議論をしてきました。
その議論の中で、少子高齢化・人口減少といった人口構造の変化を踏まえると、中高年・若年層が多かったこれまでは、治療・手術が地域の病院に求められる主要な機能であったが、高齢化が進むと、手術などの必要性が下がっていき、高齢者に特有の疾患、または複数疾患への対応など地域の病院に求められる機能が変化していくだろうとの問題意識がありました。
新潟県においては、すでに中山間地・離島といったエリアで、患者の高齢化・患者減少が加速しており、また、医師をはじめとした医療の担い手側の確保も厳しさを増しています。そのような中で、地域で一定の医療アクセスを保っていくためには、手術や救急医療など多くの医療資源を必要とする急性期機能を地域の基幹的な病院に集約するとともに、急性期を脱した後の回復期を担う病院の機能も充実・強化していくといった役割分担と連携が重要になっていきます。そして、この役割分担と連携の取り組みは、今後増えていく高齢患者を踏まえると、在宅医療や介護施設なども地域における“治療後の療養の受け皿”として、一連で考えていくことが効率的で効果的な解決策になっていくと考えたところです。
こうして地域の医療機関が連携し合って医療機能を保っていく取り組みこそが、持続可能で質の高い医療を将来にわたって地域に残していくことにつながっていきます。
植田:
現在検討されている2040年に向けた地域医療構想の議論でも在宅の対応が取り上げられていますが、それを見据えたプロジェクトだったのでしょうか。
浅見:
正直にお話すれば、最初から考えがまとまっていたわけではありません。地域医療構想においても、高齢化が進展していく中では在宅医療の役割も一連の解決策として重要となっていくといわれておりましたが、新潟県は全国に比べ介護施設の整備が進んでいる一方で、在宅医療の提供基盤が十分でないといった特徴があります。
高齢患者が増加していく中、この先何もしなければ、現在、在宅医療の中心を担っている医師をはじめとした医療従事者も、高齢化や新規参入者不足により減少していくと、在宅医療ニーズに対応できなくなるといった問題意識はありましたが、地域医療構想と在宅医療それぞれをどのように連携づけて政策を考えていけばよいのか、モヤモヤしたものを抱えていました。
そのような中、上越医療圏における地域医療構想の議論が進み、役割分担と連携の具体化に向け、さまざまな定量調査・分析と具体的な解決策の検討を本格化させていく過程で、少しずつ理解が進み、入院医療だけでなく外来医療、在宅医療・介護施設までを一連として課題解決に含めていくことの解像度が上がってきたということだと思っています。
その意味で、国の定めた地域医療構想の考えに沿った検討によって在宅医療提供体制の強化が必要と導き出したというよりも、現場で解決策を考えていく中で、今回のプロジェクトの必要性につながっていったという形が近いです。
在宅医療提供体制の強化に向けた取り組みもそうですが、本県が目指す持続可能で質の高い医療提供体制の確保に向けた考え方としている「将来を見据えて早めに立ち行かなくなる前に手を打つ」、「地域全体で考える」ことの重要性を再認識しました。
新潟県 地域医療政策課 課長 浅見 裕之氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 増井 郷介
新潟県 地域医療政策課 高畑 慶一郎氏
新潟県 地域医療政策課 武田 南氏
植田:
担当者の目線では、在宅医療の推進についてどのような部分に課題や難しさを感じられていたでしょうか。
高畑:
当県では、在宅医療の連携拠点となる「在宅医療推進センター」を複数設置し、県内全ての郡市医師会ごとに在宅医療基盤整備に向けた事業を推進いただいています。センターを設置して9年経過しますが、供給状況は右肩下がりとなっていることに課題感がありました。当然、センターの各職員には頑張って取り組んでいただいていると認識しているのですが、現在の打ち手は提供量の増に必ずしも結びついていない可能性があると考えていました。最前線で働かれている先生方からお話を聞いて、現場は何に困っていて、どのような支援を欲しているのか、在宅医療推進センターを含めた各ステークホルダーはどのようなアクションを取るべきなのかを整理する必要があると思いましたが、自分たちには医療の知識がなく適切なヒアリングが難しいのではないかと思いました。そのため、コンサルティング会社という外部の専門的な人たちの助力を得ることとしました。
植田:
プロジェクトを推進していく中での気づきやプロジェクトの独自性などがあれば教えてください。
高畑:
データに基づいて、地域別の分類と施設の類型ごとにヒアリング対象をPwCコンサルティングに絞ってもらいました。50件近い医療機関等へのヒアリングについて、われわれ、PwC、保健所、在宅医療推進センター、場合によっては市町村の医療政策課担当にも参加いただいたことは非常に価値があったと思っています。先生方からのご意見も重要でしたが、医療提供体制を支える各ステークホルダーが自分の耳で最前線にいる先生方のお困りごとを聞いた、目線を合わせられたという事実が重要であり、今後の推進に向けたエンジンになっていくのではないかと思っています。
武田:
在宅医療推進に向けた打ち手は、「ICTの導入促進」、「診療所間の連携強化事業」などの施策メニューを作って、各医療機関に手を挙げてもらうという、施策ありきの形が一般的だと思います。当県で策定した戦略では、在宅医療推進センターが、「自分のエリアの医療機関では在宅医療基盤整備に向けて、どのようなお困りごとがあるのか」という情報を収集し、「それはどのような施策で解決していくのか」という企画能力を基に担っていくことに独自性があると思います。これはヒアリングを通して、地域や訪問診療を実施していない施設と在宅支援診療所など、医療機関の在宅医療の取り組み状況ごとに課題や求めている支援が異なることが分かったからです。そのため、各地域で「手触り感のある」施策が講じられるようにというコンセプトで戦略を作っていきました。
増井:
この戦略立案を通して、次に必要なことはどのようなこととお考えでしょうか。
高畑:
短期的には戦略を実行に移すところに苦労しています。在宅医療推進センターも長年の業務があり、そこに新たな業務をどのように入れていくべきなのか、という整理が必要になっています。また、今後は在宅医療推進センターのコーディネーターが各医療機関の先生方にお困りごとをヒアリングする必要がありますが、先生方の真のお困りごとを聞き出せるスキルアップも必要であろうと思います。その点でも、今回PwCコンサルティングの方々がヒアリングしている姿・スキルを参加者が学べたことも本プロジェクトの副次的な価値だったと思っています。
植田:
新たな地域医療構想・かかりつけ医機能制度等、新しい取り組みも今後進んでいく中での本取り組みの推進の形・イメージを教えてください。
浅見:
“現場に立脚していること”、“地域の実情に合わせた方向性を地域自ら選択していくこと”が私たちの基本的な戦略であり、「在宅医療の提供量を増加させれば解決する」という形にはしていません。
今回、本県が先んじて検討した在宅医療に関する課題と対応の方向性をまとめた戦略は、国で検討が進む新たな地域医療構想で議論されている「在宅医療圏」や「協議の場」の方向性とも整合していけるのではないかとも考えています。そのため、2026年度に策定することとなる新たな地域医療構想やかかりつけ医機能制度への対応においても、今回のプロジェクトで方向づけた戦略の展開の中で解像度を高めたことが活かされてくると考えています。在宅医療だけでなく、医療介護連携なども切り離せないキーワードになってくると想定していますが、“現場に立脚していること”、“地域の実情に合わせた方向性を地域別に決めていくこと”という軸をぶらさず、整理して取り組んでくことが重要であると考えています。
増井:
新たな地域医療構想でも在宅医療需要が増加することは見通されていますが、供給面への対応を現場課題に立脚して検討されている自治体は多くないと認識しています。新潟県の在宅医療基盤整備の考え方を他自治体も参考にしながら、日本全体の医療提供体制の拡充に寄与できればいいと思いました。本日はありがとうございました。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 植田 賢吾
山梨県北杜市の市立甲陽病院では、総看護師長のリーダーシップの下、看護業務の見直しを進めています。このプロジェクトを支援したPwCコンサルティングとともに取り組みを振り返り、現場からの声や成功の秘訣について語りました。
PwCコンサルティングは、新潟県の依頼を受けて、在宅医療提供基盤強化プロジェクトを推進するために、医療機関等へのヒアリングを実施し、地域の実情に合わせた具体的な解決策を検討しました。プロジェクトの背景や今後の展望について、新潟県の担当課の方にお話を伺いました。
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