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大阪ガス株式会社は、顧客のニーズに合わせた冷蔵パウチ食品を消費者に届けるサブスクリプションサービス「FitDish」(フィットディッシュ)の提供を、2023年9月12日より全国を対象に開始しました。FitDishは「おまかせ診断」により、献立を考えるという負担の解消を目指すと同時に、得られたデータをもとに食の多様化に対応したパーソナライズ化されたメニューを提供し、今後は食品製造過程や製造後のフードロス削減にも挑戦していきます。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)ではFitDishのサービス戦略・テクノロジー・エクスペリエンスを、構想の初期段階から並走して支援しました。本対談では、プロジェクトを牽引した大阪ガス株式会社の藤田敦史氏、支援を担当したPwCコンサルティングの赤路陽太と八木大樹が、この新規事業に踏み切った背景やリリースまでの道のり、現況や今後の展望について語り合いました。
登場者
大阪ガス株式会社
エナジーソリューション事業部計画部
市場戦略チーム
藤田 敦史氏
PwCコンサルティング合同会社
Strategy& ディレクター
赤路 陽太
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
八木 大樹
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)赤路 陽太、藤田 敦史氏、八木 大樹
八木:
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
まずFitDishのサービスについてご紹介いただけますでしょうか。
藤田:
FitDishは「冷蔵おかずのおまかせ定期便サービス」です。ポイントは「冷蔵」と「おまかせ」の2点です。
まず「冷蔵」ですが、温め時間が短いことや長期間の保存が利くことに加え、保存しやすさも追求しました。近年の冷凍ブームで冷凍庫の容量が不足する「冷凍庫渋滞」に陥る人も増えています。そういったお客様のお困りごとを解決したいという思いから冷蔵食品にこだわりました。
また「おまかせ」については、市場調査を進めていく過程で、献立を毎日考えることへの負担、すなわち「献立疲れ」が多くのお客様に共通した悩みであることが明らかになりました。そのため、お客様がメニューを考える手間を省き、事前に診断いただいた結果をベースに、当社でメニューを全てお選びして食品をお届けするサービスとしました。
おまかせ診断のロジックは独自開発したものです。「家族構成」「好み」「アレルギー」「好き嫌い」などの情報を入力いただくと、お客様ごとに満足度が高いと推定されるメニューが選定されます。また継続的に利用いただくことでパーソナライズ性能が向上し、より満足度が高い商品を提供できるようになっています。
サービスの満足度向上を第一に考えて「おまかせ診断」アプリを設計
メニューの監修はDaigasグループの大阪ガスクッキングスクールが担当しました。現時点で和洋中、主菜副菜合わせて40種類以上を用意していますが、おまかせ診断やユーザー評価をベースに順次増やしていく計画です。
八木:
サービスリリース同日に、大阪ガスのショールーム「hu+g MUSEUM(ハグミュージアム)」で記者向けの発表会も開催されたと伺っております。リリース後の反響はいかがでしょうか。
藤田:
発表会には多くの記者の方々に来ていただきました。その後、関西圏を中心に、テレビニュースにも取り上げられ、良いスタートが切れたと感じています。
サービスを準備していた段階では、仕事や家事、子育てをしている世帯を中心にアプローチできると想定していましたが、実際は、30代から70代まで幅広い年代、世帯の方にお申し込みいただきました。年齢問わず受け入れていただいている状況で、当社にとっては“うれしい誤算”となっています。
八木:
食は好みが分かれやすい分野ですが、あえて“選ばない”というのはとても斬新なサービスですね。実は私もFitDishの商品を60代の母に試してもらったのですが、「料理の種類が豊富」「量もちょうどよい」などポジティブな反応でした。
藤田:
八木さんのお母様と同じような反響を多数いただいております。ご両親だけでなく、離れて住むお子様などに送る方もいらっしゃるようです。今後は、お客様からFitDishを遠方に送られるなど、当社では想定していなかった活用方法に対応した仕組みを整えるなど、より使いやすいサービスとしてブラッシュアップしていきたいです。
赤路:
PwCコンサルティングでは今回、FitDishの構想初期段階からご一緒させていただきました。「献立疲れ」は一部表面化していたものの、どこかアンタッチャブルな課題にされてきました。FitDishはその手つかずの課題に真摯に取り組み、PoC(概念実証)やアンケートなどを積み上げて、お客様の声、反響、そして手応えをしっかり掴みながらつくりあげてきたサービスです。
日本では高齢化や未婚率の上昇で、1人暮らし世帯が増えています。1人では食事をつくるのも食べ切るのも大変です。FitDishはもともと家事や育児に追われる共働き世帯が増えるなか、日々の食卓に彩りを添え、生活の一助になりたいとう思いから始まりましたが、1人暮らし世帯の悩みや困りごとにも応じていけそうですね。
藤田:
サービスリリース以前、ご高齢の方々にはお弁当タイプの宅食サービスの方が需要として大きいのではないかという仮説も立てました。ただ実際に意見を伺うと、「宅食サービスは利用するものの、他のサービスも併用して使ってみたい」という声を多数いただきました。食に画一的な需要はありません。違うものを食べたい日もあれば、メニューを一品追加したい時もあります。
FitDishも毎日食べる前提のサービスではありません。多様な食の需要にFitDishがどのようにパーツとしてはまっていくのか。シチュエーションや事例などお客様の声を集めることで、サービスの幅や利用者も増えていくと想定しています。
継続的にお客様の声に耳を傾けることが最も重要だと考えており、サービスをご利用いただいたお客様へのインタビューも定期的に実施していく予定です。
大阪ガス株式会社 エナジーソリューション事業部計画部 市場戦略チーム 藤田 敦史氏
八木:
今回、PwCコンサルティングはどういうサービスを立てつけるかという「戦略軸」、サービスに必要なシステムや業務の準備などを行う「テクノロジー軸」、お客様との接点となるデザインやコミュニケーションの設計などを行う「エクスペリエンス軸」の3軸で支援しました。戦略支援に関しては赤路が担当しましたが、特に意識した点はありますか。
赤路:
食に限らず、昨今ではどのような商品・サービスもすぐにコモディティ化しがちですが、既存の商品やサービスが解決できていない困りごとは必ず存在します。また、不満として表出せずとも、お客様が妥協しているだけというケースも少なくありません。
私はビジネスにおいて、解決されていない困りごとや妥協点こそ捉えるべきポイントだと考えています。そこを逸れたサービスはお客様に選ばれないからです。そのためFitDishの戦略を支援する際には、お客様の声に徹底的に耳を傾けて、困りごとをクリアに捉えるという点を意識しました。
一方、困りごとを解決すると同時に、「対価を払ってもよい」と思ってもらえるサービスでないとビジネスとしては成立しません。「手を伸ばしてお買い上げいただけるものは何か」「お金を払っていただけるものは何か」ということを突き詰めながら、戦略策定やビジネスプランニングを支援しました。
八木:
今回、相当数のインタビューやアンケートを実施しましたが、具体的にはどのようにお客様の声を集めたのでしょうか。
赤路:
個人もしくはフォーカスグループへのインタビュー、オンライン上でのアンケート調査など複数の方法でお客様の声を聞かせていただきました。最終的にオンラインベースで実施したアンケートや調査のサンプル数は1,000件以上です。
サービスリリース前には有償のPoC(概念実証)も実施しましたが、応募いただいた方々に対して、購入理由、商品が届いた際の感想、使用感などのステップに分けたアンケートも実施しました。お客様の体験につながる各タッチポイントでどのようなインタラクションが発生し、感覚としてどのように捉えられたか、また最終的な満足感まで細かくヒアリングさせていただきました。
八木:
戦略軸では徹底的にお客様の声を聞きながらも、対価を払っていただけるサービスを突き詰めていったというお話ですが、藤田さんはプロジェクトを進めながらどのような印象を抱かれましたか。
藤田:
大阪ガスは生活基盤を支えるインフラ企業であり、新規事業の構想に際しても、長期にわたり使い続けていただけるサービスをつくりたいとの思いがありました。PwCコンサルティングの皆さんには、将来的な社会動向の見通しを含めたお客様のニーズの広がりについて、データとお客様から聞いたファクトをうまく掛け合わせて提示いただいたと思っています。
また、誰もが納得できる提案や根拠を示していただき、私たちプロジェクトチームだけでなく、社内全体の理解構築もスムーズでした。総じて戦略面でしっかり支えていただいた印象です。
一方、お客様の口に入るサービスであるため、安全面には相当な時間をかけて議論を行い、その点もしっかり担保されたサービスとなりました。
赤路:
三顧の礼ではないですが、社内の皆様にご理解いただくために藤田さんと一緒に誠心誠意ご説明させていただきましたね。そしてそのプロセスは、個人的にはとても有益だったと感じています。インフラを支える大企業であるからこそ高い安全性を求めており、それは食に関する新規事業も例外ではない。企業文化に即した徹底的なリスク分析は、サービスの信頼性を高める一助になったのではないでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター 赤路 陽太
赤路:
なおテクノロジー軸のご支援は八木さんが担当されましたが、今回のプロジェクトではどのような点を意識しましたか。
八木:
おまかせ診断を実現するためには、従来のECとは異なるロジックが必要となりました。そこでPwCコンサルティングが全体のアーキテクチャ設計および各システムの要件整理を担当させていただきました。
私たちが強く意識した点は大きく2つです。1点目は安全性です。大阪ガスはインフラ企業であるため、データ管理やシステムの置き場所に関しても厳しいルールが設けられていました。そのためIT部門の方にも会議に同席していただき、サービスの特性を理解していただけるよう努めました。
2点目は「いかに早くつくれるか」という視点です。求める機能の全てをシステム化していくと膨大な量になりますし、開発の終わりが見えなくなります。戦略サイドでユーザーの伸び率などをシミュレーションしていたので、ある種の割り切りを意識して「初期フェーズは手作業で良い」「ここはシステム化が必ず必要」など細部を見極めていきました。
藤田さんはシステム開発の進め方についてはどのような感想を抱かれましたか。
藤田:
おまかせ診断のコンセプトは良しとして、リリースするタイミングでお客様に受け入れられる仕組みであるかどうかは、私たちも手探り状態でした。私たちがベンダーに直接発注して開発していくとなると、相当ハードルが高かかったでしょう。
PwCコンサルティングの皆さんには「戦略軸」「テクノロジー軸」の両面からきっちりロジックを組み立てていただきました。リリースのタイミングに合わせて、一定ラインまでしっかり完成度を引き上げていただき、本当にありがたかったです。
なお、おまかせ診断以外の機能については、どこまで開発するか、MVP(Minimum Viable Product:顧客が価値を体感できる必要最小限の機能を有したプロダクト)を意識した議論がありました。機能に関しては、業務を走らせて初めて得ることができる気づきや改善点もたくさんあります。リリース段階までの開発に適切な線引きがあったことで、全体のスケジュールも含めて無駄のない筋肉質な計画に基づいて進められました。
MVPの姿をプロトタイプで早期に見える化
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 八木 大樹
八木:
私たちが戦略、テクノロジーと並行して支援させていただいたのが「エクスペリエンス軸」です。例えば、おまかせ診断で100問聞けば精度は上がりますが、お客様の立場からすればそれは負担でしかありません。ユーザーが答えられる範囲で、ユーザーの期待に応える商品を選定する。そんな要件を持った機能を実現するために、テクノロジーチーム、UXデザイナーが一丸となって伴走支援いたしました。
藤田:
すでに数千人のお客様におまかせ診断を受けていただきました。パネル分析を行ったところ、おまかせ診断を最後まで回答する、通過率が非常に高い。事前の組み立てがきっちりと生きていると実感しています。
診断機能には回答完了までに「たった2分」という見出しを添えてあります。短すぎず、長すぎず、2分という絶妙な時間設定ですが、実際にデータを集計すると1分40秒ほどでした。数千人の平均値が理想の時間に収束するという点からも、非常に丁寧につくり込まれていると思います。
八木:
エクスペリエンスに関しては、戦略を反映させたデザインにすることを強く意識しました。忙しい世代を支えたい、食卓を温かくしたいというポリシーを徹底的に突き詰めてきましたので、それを形として再現する段階では表現に迷うことはありませんでした。
藤田:
デザインは検討し始めたらきりがありません。全体として納得できる結論を出すことは容易でなく、時間がかかるケースがほとんどです。しかし今回は戦略を踏襲した力強い提案をいただきました。例えばデザインの中で重要なロゴに関しても、2回の会議でスピーディに決定することができました。
「忙しい世代を支えたい」という思いを込めてネーミングとロゴを設計
ロゴのデザインに関しては、FitDish以外の業務でも検討する機会がありますが、食品のパッケージの検討は全く初めてでした。提案いただいたパッケージは評判が良く、「PwCの皆さんはパッケージまでデザインできるのか」と驚きました。
パッケージに窓をつけて、中身を見えやすくしていただきましたね。食卓に並べる際に、想像していた商品と食器に盛り付けた商品が異なると、お客様の満足度は下がってしまいます。ユーザー視点を理解し取り入れていただいたおかげで、パッケージの見栄えだけでなく機能面においても満足度を高めることに成功しました。
温め方や、開け方がわかりやすい機能性にも配慮したパッケージデザイン
八木:
大阪ガスでは今後、FitDishの事業展開についてどのような構想をお持ちでしょうか。
藤田:
現時点では日常食や平日の夕食をメインに考えていますが、お客様の好みを把握しながら、朝食やランチから、ハレの日の料理、デザートなど幅広くメニュー範囲を広げていきたいと考えています。根拠を持ってお客様の声に応えていけることこそデータの強みであり、他社にはできない事業の広げ方になるはずだと確信しています。
またフードロスという社会課題にも向き合っていきたいです。食品業界にとっては、「製造後のロス」はもちろん、「製造過程でのロス」も大きな課題です。おまかせというコンセプト、そしてオペレーションがかみ合えば、製造過程や製造後のいずれのシーンにおいて「フードロスゼロ」を目指す仕組みにもなり得るでしょう。世の中に価値を提供するための新しいモデルの1つとして、FitDishのサービスを成長させてくことが当社の目標です。
赤路:
コンサルティングファームの新規事業支援サービスは世の中にたくさんありますが、結果として形にならないこともあります。今回はアイデア出しから事業化まで、ワンチームで並走させていただけたと自負しております。FitDishの成長、そして大阪ガスのさらなるサービス拡充という観点で、またご一緒する機会がありましたらうれしく思います。