福祉事務所における新たな支援に係るケースワーカーと関係機関との効果的な連携方策のあり方に向けた調査研究事業
生活保護制度においてケースワーカーは、関係機関との連携を図りつつ、各種調査や保護の決定実施に加え、被保護世帯への相談・助言や、指導・指示等を通じ、必要な各種支援やサービスが利用できるよう総合調整(コーディネート)する役割を担っている。
総合調整(コーディネート)にあたってはケースワーカーと関係機関との連携が必要であるが、社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会における「生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関するこれまでの議論の整理(中間まとめ)」(令和4年12月20日)では、連携に関する現状の課題として「他法他施策や関係機関との連携に当たり、必ずしも十分な協力が得られていないと感じているケースワーカーが多く、被保護者及びケースワーカーの双方が個別の専門的な支援の枠組みから取り残されてしまうおそれがある」や「被保護者に対する指導をケースワーカーのみが行うことを関係機関から求められることが少なくない」といった点が指摘されており、関係機関との間で多角的なケース検討に基づく支援の調整や情報共有を十分に行えるようにするため、会議体を設置できるようにする方向で検討を進めていくことが必要であるとされたところである。
以上の背景を踏まえ、本事業では福祉事務所におけるケースワーカーと関係機関との連携の実態を把握するための調査を実施する。また、上記調査結果を踏まえながら、効果的な連携方策のあり方(関係機関との間での支援の調整や情報共有を行うための会議体のあり方、関係機関間での役割分担を明確化した被保護世帯の援助に関する計画のあり方)を検討・整理する。
被保護者の居所不明を理由とした保護の廃止・停止に係る福祉事務所の事務取扱に関する調査研究
生活保護制度においてケースワーカーは、関係機関との連携を図りつつ、各種調査や保護の決生活保護受給者の中には、保護受給中に居所がわからなくなり、連絡が途絶えてしまうケースが存在することが確認されている。生活保護制度は、その制度的な位置づけからも、安易に停・廃止を行ってしまうと、たちまちにして生命の危機をもたらす恐れもあるため、停・廃止に際しては慎重な判断と、適正な行政手続きの実施が求められる。
生活保護法では、第二十六条で保護の停止または廃止を行う際には、「書面」による通知が必要と定められている。被保護者が申告している居所にいないことが明らかで、居所が不明となっている場合であっても、保護の停・廃止を行う場合にはこの条文が適用されるが、その具体的な通知方法に関しては、現行の生活保護法上では特別な規定は定められていない。そのため、居所が不明な場合であって、書面を対面で渡す・郵送で送付するなど一般的に想定される方法により通知を行うことができない場合の手続きとして、一般法である民法(民事訴訟法)の規定に基づく「公示送達」がある。
民法上の「公示送達」は、行政処分等を含む意思表示を相手方に到達させたいが、相手方の住所がわからないために、意思表示を到達させることができない場合に、その意思表示を到達させるための手続きであり、被保護者(世帯)の居所がわからない場合には、裁判所の掲示板に通知事項を掲示して内容を周知することによって、その内容が通知したい相手に到達したとみなすという「到達主義」を補完する仕組みである。しかし、その特性上、通知の送付対象(被保護者(世帯))の氏名とともに生活保護を受給しているという機微性の高い事実を掲示し、広く周知することとなるため、他に手段がないためにやむを得ず採用する方法とはいえ被保護者のプライバシー保護の観点で問題を有しているほか、自治体にかかる手続き上の事務負担が大きいことから、事務を預かる自治体が判断に窮している状況がある。
このような状況から、令和3年度の地方分権提案において、複数の自治体より居所不明となった被保護者に対する保護の停・廃止の通知方法の明確化、生活保護関連法令における「公示送達」の規定を設けることを含む諸措置を講じることを求める提案がなされ、閣議決定においては、居所不明の被保護者への保護の停・廃止の通知方法について、地方公共団体の事務の実態等に関する調査研究事業の結果を踏まえ、取扱いを明確化することを検討し、令和5年度中を目途に結論を得ることとされた。
こうしたことを踏まえ、令和4年度社会福祉推進事業(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/track-record/social-welfare2023.html)では、居所不明の被保護者に対する自治体の対応の実態を把握するための調査を実施し、今年度研究では、その結果を踏まえ、有識者いによる研究会での議論を通じ、望ましい通知のあり方について検討を実施した。
社会福祉連携推進法人制度の活用の促進に関する調査研究事業
社会福祉連携推進法人は、①社員の社会福祉に係る業務の連携を推進し、②地域における良質かつ適切な福祉サービスを提供するとともに、③社会福祉法人の経営基盤の強化に資することを目的として、福祉サービス事業者間の連携方策の新たな選択肢として、令和4年4月に創設された。
2以上の社会福祉法人等の法人が社員として参画し、その創意工夫による多様な取組を通じて、地域福祉の充実、災害対応力の強化、福祉サービス事業に係る経営の効率化、人材の確保・育成等を推進することとされ、社会福祉連携推進法人の設立により、 同じ目的意識を持つ法人が個々の自主性を保ちながら連携し、規模の大きさを活かした法人運営が可能となることが期待された。
令和4年4月施行の社会福祉連携推進法人(以下、「連携推進法人」という。)制度について、令和6年3月時点では20法人が設立されており、今後さらに事例を蓄積して普及していく段階である。
以上の背景を踏まえ、本事業は連携推進法人を含む社会福祉法人の連携・協働に係る具体事例を分析し、各地域における活用の促進に資する効果的な手法を検証することにより、国において連携推進法人を含む社会福祉法人の連携・協働の普及推進のための基礎資料として活用するとともに、法人や自治体において連携推進法人を含む社会福祉法人の連携・協働の検討に活用することを目的とする。
社会福祉法人の事業譲渡等のあり方に関する調査研究事業
社会福祉法人の合併、事業譲渡、事業譲受(以下「事業譲渡等」という。)については、厚生労働省が令和2年度に「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」及び「合併・事業譲渡等マニュアル」(以下「ガイドライン等」という。)を策定したが、新型コロナウイルス感染症や物価高騰の影響により、昨今、社会福祉法人の事業譲渡等の状況にも変化が生じているものと考えられる。こうした状況下においても、地域における良質かつ適切な福祉サービスの提供を継続するため、特に事業譲渡等を実施する際には社会福祉法人の設立意義や公益性・非営利性を担保した上で実施してくことが望まれる。
以上の背景を踏まえ、本事業ではガイドライン等を踏まえた法人の事業譲渡等並びに理事長交代の実態を調査・検証し、①合併・事業譲渡等の実施件数の推移の検証、実施目的の体系化、②適正な合併・事業譲渡等を行うためのガイドライン等の改正等に必要な対応の検討に資する情報を収集する。