※本プレスリリースは、2022年1月17日にPwCが発表したプレスリリースの翻訳です。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します
世界のCEOは、いまだ終息しないコロナ禍に加え、加速するインフレ、サプライチェーンの分断、一部の国での大退職時代(Great Resignation)の到来といった市場環境からのプレッシャーに引き続き直面しています。こうしたさまざまな逆風が吹く中でも、PwCの「第25回世界CEO意識調査」に回答したCEOは、2022年の世界経済の回復について前向きな見方を示しており、その割合は過去10年で最高水準となっています。世界経済が改善すると予測しているCEOは全体の4分の3を超える77%を占め、減速するとの予測はわずか15%でした。
2022年について前向きな見方を示したCEOは、前年の76%からはわずか1ポイントの増加ですが、半数強(53%)のCEOが景気低迷を予測した2020年と比較すると、55ポイントも増加しています。世界89カ国・地域のCEO4,446名を対象に2021年10月から11月にかけて実施したPwCの「第25回世界CEO意識調査」では、こうした結果が明らかになりました。
2022年の経済成長見通しについて、CEOは概ね前向きな見方を示しているものの、国・地域によって大きな差があります。前向きな見方が特に多かった国の中でも、トップのインドではCEOの94%が2022年の世界経済の成長を予測しており、前年の88%から増加しました。日本のCEOの間でも前向きな見方が確実に強まっており(前年の67%から16ポイント増の83%)、英国でも増加傾向が見られました(5ポイント増の82%)。またイタリアとフランスでは、おそらく経済回復が予想を上回って堅調に推移した結果、前向きな見方を示すCEOが大幅に増え、イタリアでは89%(18ポイント増)、最も大幅な増加が見られたフランスでは85%(25ポイント増)となっています。
これとは対照的に世界経済に対して前向きな見方を示すCEOが顕著に減少したのは米国で、18ポイント減の70%でした。また、若干の減少がブラジル(7ポイント減の77%)、中国(9ポイント減の62%)、ドイツ(4ポイント減の76%)で見られました。この傾向にはおそらくインフレやサプライチェーンの制約がより重大な課題となったことが影響していると思われます。
米国のCEOは世界経済についてはあまり楽観的ではないようですが、自社の成長見通しについては比較的自信を示しています。2022年の収益成長の達成について「非常に自信がある」と答えたCEOは40%に上っています。また、インドのCEOも同様に自社の成長見通しに自信を持っています。
PwCグローバル会長のボブ・モリッツ(Bob Moritz)は、次のように述べています。
「昨年から新たな変異種の発生とともに引き続きパンデミックが影を落としていますが、そうした中でも前向きな見方を示すCEOが過去10年で最高水準になったということは、世界経済には力強さと回復力があり、CEOには不透明な状況の中でも経営手腕を発揮する能力があることを証明しているといえます。私たちがビジネスを行うこの世界は『ノーマル(普通の状態)』であるとはいえませんが、私たちはこの状況に慣れつつあります。CEOの自信の程度は国によって異なり、乗り越えるべき課題は尽きませんが、今回の調査に回答したCEOが概して2022年に明るい展望を抱いていることには心強さを感じます」
信頼の力
顧客の信頼は、企業の成功にとってかつてないほど重要性を増しています。しかし同時に、信頼の獲得と維持はこれまで以上に難しくもなっています。顧客の行動に関する一連の質問へのCEOの回答からは、顧客の信頼とCEOの自信の間には相関関係があることが明らかになりました。自ら認識している顧客の信頼において上位に入っている企業のCEOは、2022年の自社の成長見通しにより自信を持っています。顧客の信頼が上位の企業のCEOは71%が今後12カ月間の自社の収益成長見通しについて「非常に」または「極めて」自信があると回答しているのに対し、信頼が下位の企業のCEOでは47%に留まりました。
顧客の信頼はまた、ネットゼロへのコミットメントとも関連していることが分かりました。顧客の信頼において上位にランクインしている企業ではネットゼロへのコミットメントを表明している割合(29%)が、下位に属する企業(16%)よりも高くなっています。また、顧客の信頼が高い企業は、非財務的成果とCEOの報酬を連動させている傾向が強いこともわかりました。顧客の信頼が上位の企業を率いるCEOのほぼ半数が、顧客満足度(51%)や従業員エンゲージメント(46%)を評価基準としてCEOの賞与またはインセンティブプランに連動させています。
CEOの最大の懸念はサイバーリスクと健康リスク
CEOは概ね前向きな見方を強めていますが、その一方で今後12カ月間に自社に影響を与える潜在的な脅威についても十分に認識しています。
前年同様に、グローバルな脅威の上位を占めたのは、サイバーリスク(49%)と健康リスク(48%)でした。これにマクロ経済の変動が続き、43%のCEOが今後1年間のインフレ、GDPの推移、労働市場の問題が及ぼす潜在的な影響を「非常に」または「極めて」懸念していると回答しています。また、人材の獲得と維持も大きな関心事となっており、社会的不平等を懸念しているCEOの69%、健康リスクを懸念しているCEOの62%が、人材の獲得と維持への影響を懸念の背景に挙げています。
産業別では、金融サービス業のCEOはサイバーリスクをトップに挙げ、59%がサイバーリスクが脅威であると回答しました。注目すべきは製造業(40%)と消費財産業(39%)で、大規模なサイバー攻撃を受けやすい業界であるにもかかわらず、これらの業界のCEOの警戒心は金融サービス業を下回っています。このような比較的低い警戒心が今後覆ることがあるのか、注視していく必要があります。
当然のことながら、ホスピタリティ・レジャー産業ではCEOの多く(75%)が自社事業に与える影響として健康リスクを懸念しています。また、エネルギー・公益・資源関連企業のCEOの49%が2022年の最大の脅威として気候変動を挙げており、全産業の割合を15ポイント上回っています。
脅威に対するCEOの見方は地域によって差があります。アジア太平洋地域ではCEOの半数以上(58%)が今後1年、健康リスクについて「非常に」または「極めて」懸念すると回答しています(ただし中国は例外で、健康リスクに強い懸念を抱いているCEOは42%のみ)が、西欧では37%、北米では44%に留まっています。これとは逆の結果を示したのがサイバーリスクで、アジア太平洋地域ではサイバーリスクに強い懸念を示したCEOがわずか44%(例外はオーストラリアの71%)だったのに対し、北米(56%:米国は61%)および西欧(50%:スイスは66%)のCEOは、これを上回っています。
ボブ・モリッツはさらにこう述べています。
「今後12カ月間を見通す中でCEOは当然ながら、マクロ経済の変動やサイバーリスク、健康リスクなどによる混乱に起因する、短期的な業績への潜在的な脅威を懸念しています。一方で、気候変動や社会的不平等などの脅威の順位は低くなっていますが、こうした長期的な課題は、私たちが暮らし、次世代に引き継ぐ世界のあり方を左右することになるため、軽視しないことが極めて重要です」
世界のCEOにとって米国は成長に最も重要な市場
CEOは2022年の自社の売上成長に関して、自国以外では米国に最大の可能性があると見ています。今後12カ月間の自社の成長見通しの上位に米国を挙げたCEOは41%に上り、2021年の35%から増加しました。前年同様、中国(27%)が2位となり、これにドイツ(18%)、英国(17%、前年から6ポイント増加)が続いています。米国のCEOにとって、英国は今後12カ月の売上成長に重要な国であり、中国を挙げたCEO(26%)を上回る37%が英国をトップ市場の1つに挙げました。一方、中国のCEOは売上成長に最も重要な上位3カ国に米国(29%)、オーストラリア(24%)、同率でドイツ(23%)と日本(23%)を挙げています。
多くの企業で進まないネットゼロへのコミットメント
調査の結果、自社が温室効果ガス排出削減に取り組んでいると回答したCEOは3分の1に満たず、気温上昇を1.5℃に抑える世界目標を達成するためには一段と大きな前進が必要であることが明らかになりました。自社がネットゼロ*へのコミットメントを表明していると回答したCEOはわずか22%で、コミットメントを表明しようとしていると回答したCEOは29%でした。また、カーボンニュートラル**へのコミットメントを表明した企業も同程度の26%で、 コミットメントを表明しようとしているとの回答も30%でした。
今後1年間の懸念材料の上位に気候変動を挙げたCEOはわずか3分の1で、気候変動が短期的には自社の売上成長に影響しないという見解が反映されています。しかし、長期的には、ネットゼロへのコミットメントを経営戦略の中核に据えることが、気候変動リスクを緩和するだけでなく、顧客、投資家、従業員の期待に応えるという意味でも、極めて重要になるでしょう。
ネットゼロへのコミットメントを表明している企業は、炭素集約型企業や大規模企業に多い傾向が見られました。自社がネットゼロへのコミットメントを表明していると回答したCEOの割合が高いセクターは、電力・公益事業(40%)とエネルギー(39%)で、次いで多かった通信(24%)と銀行・証券(24%)よりも約15ポイント高くなっています。また、売上高が250億米ドル以上の企業の場合、約3分の2(65%)がネットゼロへのコミットメントを表明しているのに対し、売上高が1億米ドル未満の企業の場合には10%でした。
カーボンニュートラルまたはネットゼロへのコミットメントを表明していない企業のCEOの約57%が、自社は温暖化に影響を及ぼすほどの温室効果ガスを排出していないと考えていることが分かりました。この考えが特に多く聞かれたのはテクノロジー(74%)、ビジネスサービス(72%)、保険(71%)業界のCEOです。このような回答が多いのは、スコープ1(直接排出)およびスコープ2の排出量のみを考慮し、サプライヤーなどの取引先を含むバリューチェーン全体を対象とするスコープ3の排出量を考慮に入れていないためと思われます。
CEOは「気候変動リスクを軽減すること」をネットゼロ戦略に最も大きな影響を及ぼす要因と回答(63%が「非常に」または「極めて」影響力があると回答)していますが、「顧客の期待に応えること」(61%)がこれに続いており、気候変動に対応する行動をとることは企業のブランドと顧客への価値提供において中核となりつつあるという実情が見て取れます。
調査ではまた、脱炭素化へのコミットメントが強い企業ほど、経営戦略に排出削減目標を盛り込み、CEOの報酬とも連動させていることが明らかになりました。CEOが科学的根拠に基づくネットゼロ目標を設定していると回答した企業のうち、70%が排出削減目標を経営戦略に盛り込んでおり(目標が科学的根拠に基づいていない企業の場合は44%、ネットゼロまたはカーボンニュートラルへのコミットメントを表明していない企業の場合は9%)、科学的根拠に基づくネットゼロ目標を設定している、あるいはその目標に向けて取り組みを進めている企業の3分の1は、排出削減目標とCEOの報酬を連動させています(ネットゼロまたはカーボンニュートラルへのコミットメントを表明していない企業の場合はわずか1%)。
ボブ・モリッツは、調査結果を受けて次のようにまとめました。
「PwCは25年にわたって『世界CEO意識調査』を実施してきた中で、ドットコムバブルの崩壊から世界金融危機に至るまで、困難に立ち向かうCEOの姿を見てきました。今日、新たに浮上したコロナ禍と気候変動という問題によって、CEOはかつてないほどその手腕が試されています。しかし、どんな問題でもいつの時代でも、一貫して最も重要なのは信頼の構築です。本年の調査では、売上成長に対するCEOの自信も、企業のネットゼロへのコミットメントの有無も、全て信頼に結びついていることが分かりました。これからの25年を考えると、いずれ不測の事態や困難が間違いなく訪れることでしょう。しかし、信頼という強固な基盤の上に築かれた企業は決して揺らぐことがなく、CEOは長期的な発展に寄与する持続的な成功を確実に実現できるでしょう」
以上