新リース会計基準案(リース会計基準の改正)の導入支援サービス

企業会計基準委員会(ASBJ)は2019年3月に、借手の全てのリースについて、資産および負債を認識する会計基準の開発に着手することを決定しました。その後、ASBJは関連する業界団体からの意見を取りまとめ、各論点について検討し、現行のリース会計基準の改正を目的として、2023年5月2日に以下の公開草案(以下、これらを併せて「新リース会計基準案」)を公表しました。

  • 企業会計基準公開草案第73号「新リース会計基準案」
  • 企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」ほか

ASBJは2007年3月、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、これらを併せて「現行のリース会計基準等」)を公表しました。これにより、リースに関する日本の会計基準は当時の国際的な会計基準と整合的なものとなりました。

しかし、その後2016年1月に国際会計基準審議会(IASB)が国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、「IFRS第16号」)を公表し、同年2月には米国財務会計基準審議会(FASB)がFASB Accounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 842「リース」(以下、「Topic 842」)を公表しました。

これらの会計基準は、借手の会計処理に関して、費用配分の方法が異なるものの、原資産の引き渡しによりリースの借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティングリースも含む全てのリースについて資産および負債を計上することとしています。この結果、日本の会計基準とは、特に負債の認識において違いが生じることとなり、国際的な比較において議論となる可能性がありました。

この状況を踏まえ、ASBJは財務諸表作成者および財務諸表利用者から幅広く意見を聴取したうえで、借手の全てのリースについて資産および負債を計上する会計基準の開発に着手することを決定し、検討を重ねて本会計基準案等を公表しました。本会計基準案等は、現行のリース会計基準等を置き換えるものとして、新リース会計基準案を公表しています。

新リース会計基準案はいつから適用されるのか

新リース会計基準案では、具体的な適用時期は示されていません(2023年8月時点)が、以下のように、最終基準の公表から2年程度経過した日を想定している旨が示されており、早期適用を認めることが提案されています。

  • 20XX年4月1日[公表から2年程度経過した日を想定している。]以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用する。
  • ただし、20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から本会計基準案等を適用することができる

また、新リース会計基準案に関連すると考えられるIFRS第16号の経過措置を取り入れるとともに、実務上の負担に対応するために日本特有の経過措置を設けることが提案されています。

新リース会計基準案の内容

新リース会計基準案において、借手はオペレーティング・リースを含む全てのリースについて、原則として、現行のリース会計基準におけるファイナンス・リースの会計処理に類似する会計処理を行います。

[借手の会計処理のイメージ]

貸借対照表
【リース取引開始時】

借方 貸方
使用権資産*1 リース負債*2

*1:リース負債の金額に所定の項目の金額を加えた金額を使用権資産として計上
*2:支払リース料総額の現在価値をリース負債として計上

損益計算書
【その後】

借方 貸方
償却費用*3 使用権資産
利息費用*4
リース負債
現預金等

*3:リース期間等にわたって、定額法等(注)で償却。
*4:リース期間にわたって、原則として利息法で会計処理(利息費用を計上し、リース負債を減額)。

(注)使用権資産の償却方法について

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース:原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定。
上記リース以外のリース:定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定。

新リース会計基準案の借手の主要な業績指標への影響

現行のリース会計基準上の借手のオペレーティング・リースがオンバランス処理され、関連する償却費用および利息費用が計上された結果、以下のような借手の主要な業績指標が影響を受ける可能性があります。

  • EBITDA(利息、税金、減価償却費考慮前利益)の上昇、営業利益の上昇
  • 負債資本比率(D/Eレシオ)の上昇
  • 総資産利益率の低下
  • 自己資本比率の低下など

新リース会計基準案への対応のポイント

①リースの識別

リースとは「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分」であると定義されています。具体的には、下図の「リース判定Step」に示すように、契約において「特定された資産」が存在し、特定された資産の使用期間全体を通じて、①顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんど全てを享受する権利と②顧客が特定された資産の使用を指図する権利の両方を有している場合に、当該契約はリースを含むと判定されます。

同じような契約であったとしても、契約条件が少しでも違うと、契約がリースを含んでいるかどうかの判定結果が異なる可能性があるため、契約がリースを含んでいるかどうかを判断するには、契約条件を詳細に検討する必要があります。したがって、実務対応上は、リースを含んでいる契約をどのように洗い出していくかが課題となると考えられます。例えば、リースを含んでいる契約が紛れている可能性のある一定金額以上の勘定科目に着目して、リースを含んでいる可能性のある契約書(不動産賃貸借契約、運送業務委託契約、IT業務サービス契約など)を絞り込んでいく方法や、契約書のひな形の一覧からリースを含んでいる可能性のある契約書を絞り込んでいく方法など、リースを含む契約を洗い出すための適切な方法を模索する必要があると考えられます。

②リース期間

新リース会計基準案では、リースの延長または解約オプションの対象期間について企業の合理的な判断に基づき、資産および負債を計上することが財務諸表利用者にとって有用な情報をもたらすこと、また、IFRS第16号におけるリース期間の定めと整合させない場合には国際的な比較可能性が大きく損なわれる懸念があると考えられることを理由として、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間、および借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定することを提案しています。

借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産および負債の金額に直接的に影響を与えるものであり、借手の会計処理上、重要な要素として位置づけられます。そのため、リース期間の決定に重要な影響を及ぼすことになる当該オプションの行使可能性の評価(すなわち、当該オプションを行使するまたは行使しない可能性が「合理的に確実」であるかどうかの判断)が重要な検討ポイントになると考えられます。

③契約条件の変更

新リース会計基準案では、IFRS第16号におけるリースの契約条件の変更に関する定めを取り入れることが提案されており、下記の3つのパターンに分類したうえで具体的な会計処理を示しています。

まず、リースの契約条件の変更が次の2つの条件のいずれも満たす場合には、実質的に変更前のリースとは独立したリースが生じるものと考えられるため、当該リースの契約条件の変更を独立したリースとして取り扱い、変更前のリース開始日の会計処理と同様の会計処理を行うこととしています。

① 1つ以上の原資産を追加することにより、原資産を使用する権利が追加され、リースの範囲が拡大されること

② 借手のリース料が、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること

次に、上記の判定の結果、独立したリースとして会計処理されないリースの契約条件の変更のうち、リースの範囲が縮小されるもの(例えば、リースの対象となる面積が縮小される場合や契約期間が短縮されるもの)については、リースの契約条件の変更前のリースの一部または全部を解約するものと考えられるため、変更後の条件を反映してリース負債を修正するとともに、リースの一部または全部の解約を反映するように使用権資産の帳簿価額を減額し、これらの差額を損益に計上する会計処理を行うとしています。

最後に、前述した独立したリースとして会計処理されないリースの契約条件の変更のうち、リースの範囲が縮小されるもの以外のもの(例えば、リース料の単価のみが変更される場合や契約期間が延長される場合)については、変更後の条件を反映してリース負債を修正し、リース負債の修正額に対応する金額を使用権資産に加減する会計処理を行うとしています。

新リース会計基準案への対応ロードマップ概要案

2027年度から適用の場合

2027年度から新リース会計基準案が適用される場合には、準備期間として3年程度あります。しかし、新リース会計基準案の適用にあたり、会計方針・注記の検討に加え、リースの網羅的な情報収集、計算プロセスの構築も必要となることから、プロジェクトの対応フェーズを4つに分割して、しっかりと対応していく必要があります。

事前検討フェーズであるPhase1(~2024年度上期)では、現状分析や影響度調査を実施した上で会計方針や業務システムの課題を識別し、システム対応要否のための予備検討を進めていく必要があると考えられます。

新リース会計基準が公表された後は速やかにPhase2(~2025年度)に移行し、会計方針や注記方針を決定したり、業務プロセスの構築を進めたりする必要があると考えられます。さらに、システム対応が必要と判断する場合にはベンダーを選定したうえで、システム要件定義などに着手する必要があると考えられます。

適用準備フェーズであるPhase3(~2026年度)では、適用に向けた準備として、本番と同様の水準でのドライランを実施(新リース会計基準を適用した場合のBSやPL、注記を作成)したり、ドライランと並行してシステム操作に関するトレーニングなどを行ったりして、2027年度からの本番適用(Phase4)に備えることが望ましいと考えられます。

PwCがお手伝いできること

IFRS第16号「リース」適用支援実績を豊富に有するメンバーが、新リース会計基準案の適用に向けた会計方針の策定から、表示・開示の検討、業務プロセスの構築まで包括的に支援します。

IFRS第16号「リース」適用支援実績

新リース会計基準案と類似したIFRS第16号「リース」適用時に、幅広い業種に多数の適用支援を行った実績があります。

業界知見×会計専門性

金融・事業会社それぞれの業種に知見を有するメンバーが多数在籍しており、業種特有の会計論点検討にも高い専門性をもって支援可能です。

包括的かつOne Stopでのサービス

PwCネットワークを活かして、会計論点整理から業務プロセス構築、システム導入まで包括的にワンストップでのサービス提供が可能です。

新リース会計基準案(リース会計基準の改正)の導入支援サービス パンフレット

主要メンバー

上村 哲司

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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杉田 大輔

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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稲田 丈朗

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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山田 哲也

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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本村 憲二

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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增田 裕一

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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