保有株式等にかかる当局報告体制高度化支援

資産運用ビジネスを取り巻く規制環境の変化とガバナンス態勢の構築、高度化の必要性

2023年12月に日本政府は、家計金融資産の投資への流れを促進し、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることでさらなる投資や消費に繋がる「成長と分配の好循環」を実現を目指した「資産運用立国実現プラン」を掲げました。

本プランにおいて大手金融機関は中核的な役割を担っていることから、大手金融機関グループを中心に、運用力向上やガバナンス改善・体制強化についての要請を含めた「政策プラン」が策定されています。このような期待の高まりを受け、国内の金融機関においても、資産運用ビジネスが中長期的な成長戦略の一つとして捉えられるようになってきています。

このことは、今後資産運用ビジネスを拡大する金融機関のグローバルマーケットにおけるプレゼンスのより一層の高まりを示唆しています。同時に、グローバルに拡大したエクスポージャーは各法域の当局に対する開示報告の蓋然性を高めることとなるため、金融機関においてそれぞれのエクスポージャーに合わせたより綿密な規制管理およびモニタリングが必要不可欠となります(図表1)。

また、顧客への情報開示の促進の他にも、発行体への開示が必要となること、投資法域における各種当局対応が拡大すること(法改正)が想定されます。

資産運用ビジネスの高まりと共に、デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業経営における不可欠な要素と位置づけられている中、PwCは、テクノロジー活用を前提とした効率的なモニタリングと、その実効性を担保するコンプライアンス態勢の構築、高度化の実現をサポートします。

規制当局における近年の動向

度重なる金融危機を受けて、各国当局はより厳格で広範な開示報告を、特にマーケットへの影響力を有する投資家に対して要求するようになってきました。加えて、テクノロジーの発展、金融商品の複雑化、利害関係者の多様化といった近年の社会的変化を背景に、報告方法、報告対象、報告要件などの各法域における規制要件は、企業内でのより高度なエクスポージャー管理を前提とするものへと転換しています(図表2)。

例えば、大量保有報告を例に取ると、API(Application Programming Interface)経由でのデータ連携の普及によってイベント発生からより短期での報告が容易になったほか、より汎用性の高い標準化されたデータに対する需要が高まったことでXML(Extensible Markup Language)などのデータ形式での提出の重要性が増しています。また、取引される金融商品が多様化・複雑化しているため、実態の伴ったより透明性の高い開示内容が要請されるなど、規制面でさまざまな影響が出てきています(図表3)。

さらに、開示報告が求められる要件や報告時の対応などは法域ごとに幅広く異なっているため(図表4)、企業の投資対象法域における包括的なコンプライアンスモニタリングがより一層困難になっています。

例えば、運用株式・債券の増大を通じて運用資産ビジネスの拡大を図る企業を想定した場合、一例として図表5に示すような検討事項が生じることが予想されます。

金融機関に対する影響とコンプライアンス態勢の高度化における課題

上述のような状況を踏まえると、今後さらなる資産運用ビジネスの拡大を目指す金融機関は、各国における複雑な規制体系を網羅的に把握し、適時適切なモニタリングを可能とする高度なコンプライアンス態勢を構築する必要があります。

同時に、不十分なコンプライアンス態勢の下では、法域によっては許容できない違反リスクを生じさせる可能性があり、結果として企業としての投資可能法域を狭めざるを得ないことも考えられます。

このことからも、資産運用ビジネスの拡大を目指す金融機関においては、既存のコンプライアンス態勢の高度化が急務となりますが、その過程には図表6に示すような課題があります。

図表6:コンプライアンス態勢の高度化における課題の例
法令管理
  • 投資対象法域における規制要件を定期的に確認するフローが存在しない
  • 法改正の内容を適時に検知できておらず、規制変更管理で把握した規制要件の変更を即時に既存のデータに対して適用できない
  • 投資対象である各国の主要規制を一元管理できていない
  • 法域ごとの特異性を考慮したうえでのリスク評価・リスク低減が実施できていない

データの所在

  • そもそも規制遵守に必要となる情報がデータ化されていない
  • フロント部署においては情報がデータ化されているものの、データが蓄積されている先が不明もしくは不在
  • システムがサイロ化していて、横断的にデータの所在を把握することが困難
データの適切性
  • 法域ごとの規制要件の相違点を加味したデータ加工および集計ができていない
  • サイロ化されたシステムごとに同一であるはずのデータ定義が異なる
  • 蓄積されているデータが標準化されておらず、その後の集計・加工が困難
レポーティング
  • データの集計や報告のための情報収集を属人的なマニュアル作業によって行っているため、レポーティング作成までに時間を要する
  • 機械可読形式でのフォーマット作成が内製化されていない
規程類策定、更新
  • グループでの規程体系図(上位規程、下位規程に該当する文書が不明、関係性も不明)が定まっていない
  • リスクオーナーシップ、役割定義が不明確であるなど、管理態勢が定まっていないため、あるべき規程が整備されていない

レジリエントなコンプライアンス態勢構築に向けたPwCのサービス

PwCは、より強靭なコンプライアンス態勢を実現するため、コンプライアンス態勢の診断、あるべき姿の検討から、プロセス/ツールの導入や業務改革、モニタリング支援に至るまで、コンプライアンス業務のライフサイクル全般にわたるサービスを提供します。

具体的には、以下の6つの観点、進め方でコンプライアンス態勢の構築、高度化の実現をサポートします(図表7)。

  1. 事業戦略に則した運営モデルの策定(投資実績、頻度、ビジネスニーズの明確化)
    • 態勢の構築、高度化を行う前に、まずはグループ全体でどの国に対してどれくらいの頻度で、どのような取引形態で、どのような資産の投資を行っているのか、または行う予定なのかを明確にし、コーポレートガバナンスに紐づいた運営モデルを策定することが重要です。例えば、当局報告の頻度が多く、短期間での報告が求められる国への取引が高頻度な場合は、より迅速かつ正確な報告書作成が求められることから、グループ全体でのテクノロジー活用が望ましく、場合によっては報告書提出に際して、海外拠点への権限移譲といったグローバルでの態勢構築を手段の一つとして検討することも必要となってきます。
    • 2023年12月に内閣官房の資産運用立国分科会は各課題とそれに対して講じる諸施策を「資産運用立国実現プラン」として公表し、各金融機関に資産運用ビジネスの経営戦略上の位置付けの他、運用力向上やガバナンス改善・体制強化のためのプランの策定・公表を要請しています。このような時代の潮流を受けて、経営戦略に基づきどのように態勢を構築、高度化していくのか、運営モデルを最初に策定することがより一層重要となります。
  2. コンプライアンス面における継続的なリスク評価(モニタリングとテスティングによるリスク低減)
    • 運営モデルを明確にすると共に、現状グループ全体でどのようなリスクが顕在、潜在しているのかといったリスク評価を行うことで、リスクを棚卸し、リスクベースアプローチで優先順位を付けながら、どのリスクに対してリスク低減を行っていくのかを明確にすることが重要です。
    • リスク評価の結果を踏まえて必要なリスク低減策を策定し、それを実行します。リスク低減策が適時適切に行われているのかを継続的にチェックする機能を確立すると共に、5W1H(誰が、いつ、何を、どこで、何のために、どのようにして)を明確にすることで、モニタリング態勢をグループ全体で構築することが重要です。
  3. リスク評価に沿ったグループ共通ポリシー・手続き策定と理解促進
    • グループ全体でのリスク評価結果に基づいて策定したリスク低減策を、グループ共通のポリシーに反映します。グループ全体での方針を遵守するため、ポリシーと共に下位の規程類の策定も必要になります。
    • グループで統一した規程類の理解促進のため、説明会や教育・研修プログラムに盛り込むことや、リスクの高さによっては規程類の方針そのものが適時適切にグループ全体で遵守されているか、社内でのセルフチェックを行う態勢を構築することも、規程遵守のための企業文化を醸成するには重要となります。
  4. 規制変更管理(RCM)の高度化によるリスク検知
    • 前述のとおり、金融危機以降、機関投資家のエクスポージャーに対してより広範囲で迅速なレポーティングを求める法域が増加しており、より厳格なコンプライアンスを要求する法改正も各国で以前より頻繁に行われています。こうした変化を踏まえると、手動でインターネットから法令を検索して、法令の内容や都度行われる法改正の内容を調べることには限界があると想定されます。
    • 法令や法改正の内容を適時に検知し、理解するためには、規制情報ベンダーなどのサービスを活用することが一案として考えられます。サービスを通じた即時の規制アップデートにより、既存ビジネスにおける影響範囲の特定や影響の精緻化を図ることが可能となります。また、リスク低減策の一環として、検知した法令の内容を策定した規程類に適時に反映させ、グループ全体で法令遵守の文化を促進することが緊要です。
  5. グループで一元的なデータ把握と利活用
    • 直近では、米国証券取引委員会(SEC)は規則13D/Gにおいて、報告期限の短期化、XML形式での提出の義務化を要請しています。機械可読形式での提出が今後の標準となる中で、スプレッドシートでのデータ管理はますます現実的ではなくなってきます。
    • 一方で、スプレッドシートを用いて、メールベースでグループ間でのデータの授受を行っているケースがよくあります。しかしながら、スプレッドシートで使用するマクロや式が正しいか分からないという精度問題(品質問題)や、データが多いと集計結果が出るまでに時間がかかり、集計ミスが発生するリスクが増大するといった問題など、さまざまな課題を内包しています。
    • このような課題を解決するためには、標準化されたパッケージソフトウェアの利用やクラウド基盤の導入が変革要素となります。テクノロジーの活用により、手作業で行っていた集計作業時間を短縮し、インプットデータを基にシステム内の法令要件に基づいたルールエンジンを適用することで、集計ミスを軽減し、適時適切な集計を行うことができるようになります。また、グループ会社および部門間でのデータ一元化、グループ本社からの網羅的なデータ把握も可能にします。
  6. データ品質基準(正確性、適合性、網羅性等)の設定、データガバナンス態勢高度化
    • 前述の通り、スプレッドシートを用いてメールベースでグループ間でのデータの授受を行っているケースでは、データの諸元やデータのインプットからアウトプットまでの一連の流れが不明確であり、データ統合や管理一元化の過程において「データに関する明確な管理ガイドラインや指針がなく、データの質に対する説明ができない」といった声が挙がっています。特に、データ管理の継続に困難を感じている企業は多く、大きな課題となっています。適切なデータ管理を継続していくためには、データガバナンスの強化と実行が重要です。
    • このような課題を解決するために、まずはデータフローを明確にすることから着手し、諸元データ作成、データ加工、データ利用にかかる役割・責任を明確化したうえで、データ品質基準(正確性、適合性、網羅性など)の設定とデータ品質担保の方策を規程類に反映することが必要です。

テクノロジーを活用したコンプライアンス態勢高度化を支援するPwCのサービス

PwCは、各種レグテックベンダーなどの提供する規制報告に対応したクラウドシステムの選定から導入、導入後の効果的な運用、さらには継続的な改善に至るまで、あらゆる段階でクライアントを支援してきた実績があります。PwCはクライアントがテクノロジーの活用により最大限の利益を享受できるようにサポートし、GRC(ガバナンス・リスク管理・コンプライアンス)領域の専門知識を活かしてクライアントのニーズと課題に最適なソリューションを提供します。

テクノロジーを活用したコンプライアンス態勢高度化

保有株式等にかかる当局報告では、システム導入によって図表8に示すような各種業務プロセスを高度化できます。

保有株式等にかかる当局報告態勢高度化についてご質問やご相談がございましたら、ぜひお問い合わせください。

主要メンバー

村松 毅

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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小山 英恵

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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田川 一

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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