気候変動への対応支援(移行計画の策定・推進)

企業に求められる気候変動の現在地

企業による気候変動への取り組みは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく情報開示などを通じて、着実に浸透・拡大してきました。TCFDの枠組みに沿って、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標の4つの観点を軸に、対応の基盤を整備し、具体的な施策を推進しようとしている企業も数多くあります。

そのような中、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるという国際的な目標を踏まえ、これに整合する水準での温室効果ガス(GHG)削減の自社目標を設定する企業も増えてきました。機関投資家や国際機関・NGOなどの関心も、これまでは企業が目標を設定しているか否かに向けられていましたが、この目標をどのように達成するのか、そこに実現性や将来性があるかを見極めることへ移り始めました。このような情報は「移行計画」としてとりまとめることが求められています。

移行計画とサステナビリティ情報開示義務の関係

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した基準(IFRS S1号、同S2号)に基づき、各国でサステナビリティ報告の義務化、もしくは今後の義務化に向けた検討が進んでいます。日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が導入する基準がISSB基準の日本版に当たります。また、欧州では企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく開示基準に沿って義務化が始まっています。

これらの規制や基準では、企業に経営戦略と整合したサステナビリティ戦略を策定し、実行することを求めています。あらゆる企業において重要課題となる気候変動への対応においては、移行計画を策定し、計画に沿った取り組み状況を開示していくことが求められているということです。

しかし、自社戦略と整合した移行計画を策定できている企業はまだ多くはありません。サステナビリティ情報開示義務化の流れとあわせて移行計画への関心は高まりつつありますが、企業は何を定め、開示すればよいのか不明瞭な面もあるため、多くの企業が手探りの状態となっているところです。

移行計画の策定・推進上のポイント

移行計画への対応においては、例えば以下のようなポイントが挙げられます。

1. 移行計画に関する外部要請を踏まえているか

  • ISSB/SSBJやCSRDなどの義務との関係:各規制の気候関連開示基準の内容とあわせ、ISSBが2024年6月に枠組みを整合させる方針を示した英国の移行計画タスクフォース(TPT)の内容を踏まえることが重要となります。
  • 国際イニシアティブとの関係:トランジション・パスウェイ・イニシアティブ(TPI)やアクセラレート・クライメート・トランジション(ACT)など、移行計画の実効性や進捗を評価する国際イニシアティブが示す評価基準を踏まえることも重要となります。これらは、機関投資家向けのスキームとも関わっています。例えば、TPIはクライメート・アクション100プラス(CA100+)や、ESG投資インデックスなどのグローバルなベンチマークに関連し、ACTも企業のSDGsへの貢献度を評価するワールド・ベンチマーク・アライアンス(WBA)と関係しています。

2. GHG削減目標が適切に設定できているか

  • 1.5℃水準へ整合的な目標の設定:移行計画の土台として、GHG削減目標が1.5℃水準(いわゆるネットゼロ目標)として適切であるかが重要となります。例えば、Science Based Targets(SBT:科学的根拠に基づく排出削減目標)での認定取得などを通じて、その適切性を示すことが一般的です。
  • GHG排出量の算定基盤の整備:GHG削減目標やその進捗の適切性を示すには、そもそものGHG排出量が正確に算定されているかが重要となります。サステナビリティ情報開示義務化の流れにおいては、GHG排出量の第三者保証取得が必要となることもあり、算定自体を正確に行うことに加えて、それを実現するために必要となる体制や情報管理の仕組みといった内部統制の整備も求められます。
  • 実効性ある削減アクションの策定:1.5℃水準の目標達成は容易なものではなく、野心的な削減アクションの策定が不可欠です。一方で、それが理想論に留まらないようにするためには、脱炭素関連技術の開発・市場化のトレンドや、事業展開地域におけるエネルギー市場環境の将来予測などを基に、説明性ある検討が重要となります。また、会社が投資判断を行うにあたり、インターナルカーボンプライシング(ICP)など、既存の財務指標に加え、削減アクションを推進できる判断基準を導入することも必要となります。

3. 事業戦略・財務計画と移行計画が整合しているか

  • サステナビリティ経営との整合性:サステナビリティ経営(環境・社会・経済の持続可能性に配慮し、事業の持続可能性向上をはかる経営戦略)の実現に向けては、重要課題(マテリアリティ)の特定および優先度の決定や、マテリアリティに沿ったKPIの設定を行うことが一般的です(これは、サステナビリティ情報開示義務化への対応においても重要なプロセスとなります)。気候変動への対応に関するKPIが、移行計画を構成する要素とも整合的であり、この推進を通じてKPIも達成できるようにすることが重要です。具体的には、サステナビリティ関連の長期ビジョンなどで掲げた方針やKPIと整合的な移行計画とすることが必要となります。
  • 中期経営計画との整合性:実効性ある移行計画とする上では、中期経営計画などと整合的なものとすることが有効です。特に、移行計画の推進のための財務計画(投資計画)の具体性は、機関投資家などからも注目されやすいものとなります。

4. 自社の取り組みを正しく伝える開示内容となっているか

  • サステナビリティ情報開示基準に沿った開示対応:移行計画への対応や進捗に閉じず、気候変動への対応として重要な事項について、開示基準の要請を読み解きつつ、開示対応を行うことが必要となります。特に、開示義務化の観点では、開示内容の信頼性が担保できているかが重要となります。
  • サステナビリティ格付への対応:気候変動への対応状況が評価されるサステナビリティ格付で、自社の取り組みが適切に評価されるように対応することも、外部ステークホルダーとの関係においては重要となります。

PwCによる支援

移行計画の策定・推進のポイントとして上記に示したように、気候変動および移行計画への対応においては考慮すべき事項が多岐にわたり、また1つ1つ非常に深い検討が求められるところです。また、戦略の検討、施策の実行、進捗の開示と一貫性ある対応も重要となります。

PwC Japan有限責任監査法人では、気候変動への対応に関して、長年にわたり、さまざまな業種の企業への支援を行ってまいりました。当該領域における専門性に加え、サステナビリティ情報開示ならびにサステナビリティ経営の推進に対しても専門性と多くの支援実績を有しています。また、気候変動/サステナビリティ領域における外部ネットワークも有しています。

私たちは、このような専門性や経験値、ネットワークを最大限に活かし、クライアントの気候変動対応を推進するとともに、サステナビリティ経営の実現や適切な情報開示まで幅広くサポートします。

主要メンバー

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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石川 剛士

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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横田 智広

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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