{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)とはEUのサステナビリティ開示規制であり、2023年1月5日に発効しました。これにより、EU加盟国は2024年7月6日までにCSRDに定められた目標を達成するための国内法制化の措置をとる必要があります。また、CSRDは早ければ2024年1月1日に開始する会計年度から適用されます。
欧州委員会(EC)は欧州グリーンディールを背景に、EUにおける2050年の気候中立達成という最終目標や野心的なサステナブル金融戦略に向けて、CSRD提案を2021年4月に公表しました。本提案の公表後、数カ月にわたる政治的な三者協議を経て、欧州議会および欧州理事会は2022年6月に暫定合意に達しました。その後CSRD(DIRECTIVE(EU)2022/2464)は2022年12月16日にEU官報に掲載され、2023年1月の発効に至りました。
CSRDの目的はEUにおけるサステナビリティ報告の一貫性を高め、金融機関、投資家、そして広く一般の人々が比較可能で信頼できるサステナビリティ情報を利用できるようにすることにあります。
従来、EUではNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)により、一定の要件を充たす企業についてはサステナビリティ情報の開示が義務付けられてきました。この点CSRDは、より詳細かつ標準化された報告要件を提供することにより、サステナビリティ報告で開示が要請される項目を大幅に拡充しています。
また、CSRD自体は開示に関する規制ですが、本規制への対応を通じて企業の経営そのものが変化するきっかけとなるように設計されています。したがって、企業内外のステークホルダーの意識が高まり、開示のみならず、経営の変革とサステナビリティへの取り組みがさらに加速し、強化されることが期待されています。
CSRDはNFRDと比較して適用対象となる会社の範囲が拡大され、その対象となる企業はEU域内の5万社近くに上ると予想されます。加えて、EU域内企業のみならず、日本企業を含むEUで一定規模以上の事業を行っているEU域外の企業に対してもサステナビリティ情報の開示が義務付けられる可能性があるのがCSRDの大きな特徴です。
CSRDの適用対象となる企業、および適用開始時期は、図1のとおりです。適用開始時期は、企業形態により4段階に分かれます。
日本企業が留意すべきケースとしては、EU域内にNFRD適用対象でない大規模企業に該当する子会社がある場合が考えられ、2025年1月1日以降に適用開始となり、2026年には報告が求められます。また、上場中小企業に該当する子会社がある場合は、2026年1月1日以降に適用開始となり、2027年には報告が求められます。さらに、EU市場での売上高が大きいEU域外企業は、2028年1月1日以降に適用開始となり、2029年には報告が求められます。ただし、これはあくまでもCSRDに基づく簡便的な整理であり、EU加盟国の国内法に反映された際に各社ごとに判断をする必要があります。(図1)
企業のサステナビリティ報告の具体的な開示内容を規定することを委任された欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は2022年11月、欧州委員会に対し、12の基準により構成される欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)草案の第1セットを提出しました。CSRDは当該基準に基づき報告することを要請しています。
この第1セットの基準は業種を問わないもので、全てのサステナビリティ事項に適用される2つの横断的な基準(ESRS1、2)、環境(ESRS E1-5)、社会(ESRS S1-4)およびガバナンス(ESRS G1)をカバーする10のトピック別基準により構成されています(図2参照)。ESRS1では、全般的原則が定められており、ESRS2では気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の構造に類似する4本の柱(「ガバナンス」「戦略」「インパクト・リスク・機会マネジメント」「指標と目標」)を含む一般的な開示事項が定められています。
また、トピック別基準では、「環境」(気候変動、汚染、水と海洋資源、生物多様性、循環型経済)、「社会」(自社の従業員、バリューチェーンにおける従業員、影響を受けるコミュニティ、消費者)と、取り扱われているトピックが幅広いという特徴が見られます。
欧州委員会は2023年6月にNear Final版のESRSの第1セットを公表しました。4週間のフィードバック期間を経て、遅くとも2023年8月末までに最終化される予定です。加えて、ESRSの第2セット(業種別基準、EU域外企業向け基準など)の開発が進行中であり、一部の基準については2023年4月に最初の草案が公開される予定です。
またCSRDは、報告された情報の信頼性を高めるために、サステナビリティに関する情報について独立した第三者による保証義務が導入されます。当初は限定的な保証ですが、将来的には合理的な保証に水準を引き上げることが想定されています。
CSRDはEUの規制であることから、EU子会社による対応が必要となります。その一方、EUで一定規模以上の事業を展開している日本企業に対して連結ベースでのサステナビリティ情報の開示が義務付けられる可能性があることから、企業グループとしての対応も求められることになります。
また、CSRD/ESRSは非常に複雑で多岐にわたる内容であり、かつ保証も求められることから、各開示項目を適切に理解したうえで、情報収集や集計についても内部統制やシステム導入といった視点を持つことが必要となります。
想定される主な課題として、具体的には以下の事例が考えられます。
適用範囲の決定を含む影響度調査
開示までのロードマップの作成
情報収集の基盤整備
企業はこれらの課題を一つひとつ検討し、適用開始のタイミングまでに適切に対応することが求められます。
CSRDは開示規制に対するコンプライアンス対応であり、まずは規制に沿って開示することが必要最小限の対応として求められます。
図3は、CSRD/ESRS適用に向けたロードマップの一例となります。
このロードマップは大きく3つのフェーズに分かれます。
まずフェーズ1では、対応の方向性を検討するために、初期的評価や課題の整理を実施します。サステナビリティに関する広範なテーマに関する評価が必要となるため、専門家を交えた丁寧な議論が必要となります。同時に、親会社の役割の決定やグループ全体の内部統制の構築、リスクマネジメントの実施を含む重要な取り組みとなるため、経営層も巻き込み、将来を見据えて本質的な議論を行うことが求められます。
フェーズ2では、フェーズ1で定めた方向性に基づいた施策に実際に取り組みます。この施策は部門横断的かつ、システム対応も含めた領域横断的なものとなるため、タイムスケジュールも踏まえた詳細な実行計画の策定が重要です。
フェーズ3では、実際のレポーティング実務を想定したトライアルの実施をベースに、最終的な課題整理や報告体制のチェックを実施します。また、CSRDは第三者保証が必要となるため、重要であると想定される課題は、この段階で解決しておく必要があります。このトライアルを経て、実際に情報開示することとなります。
このように、必要最低限のコンプライアンス対応に限ったとしても、十分な準備期間と多大な投資、またさまざまな領域における専門的な知見が必要となります。従って、社内リソースだけでなく、外部のコンサルティングなどを適切に活用することが効率的かつ効果的な進め方であると考えられます。
また、ESRSは最も先進的なサステナビリティ開示基準の1つであることから、CSRDに対応することは、グローバル水準でのサステナビリティ経営を深化させることや、投資家をはじめとするステークホルダーへの情報開示を通じて企業価値を向上させることにつながるものと私たちは考えています。
私たちは、EUを含め世界中に展開をしているPwCのグローバルネットワークを通じてEUの規制動向や、その背景、現地での他社動向を迅速に把握することが可能です。また、PwCのネットワークを活用することで日本企業とEU子会社とのスムーズなコミュニケーションを実施し、クライアントの企業文化やスタイルに合わせたCSRD対応を支援します。
さらに、監査、保証の側面から「企業価値とは何か」という点を追求してきた100年以上の歴史と、60カ国、1,900名のサステナビリティプロフェッショナルによるサービス提供の実績を踏まえ、サステナビリティ経営の高度化と企業価値の向上に資するコンサルティングサービスを提供します。