自動車産業向け SAP JIS/JIT & REMとMES連携テンプレート

私たちの課題認識と解決策の提示

自動車部品業界のSCMに関して、これまで私たちコンサルティング業界やIT業界はSAPの製造指図方式をベースに課題解決に取り組んできました。しかし、実際の生産ラインではタクトタイムに基づくサイクルタイム生産が実行されており、製造指図方式とは大きな乖離が生じていたのです。この原因は、日本ではSAP JIS/JITとREM機能がほとんど知られていなかったことにあります。

また、ERPが上位の計画機能を担い、MESが下位の実績収集機能の役割であるという定式化のミスリードがありました。実際には、ERPで年度計画や3カ月内示など比較的長い期間のデータを扱い、出荷などの実行機能を担うこともあれば、MESでライン生産計画などの計画機能を担うこともあり、生産システム全体を相互補完的に構成するものであったのです。この原因は、現地現物でない、システム構造デザインの固定観念にあります。

こうしたSCMにおける認識ギャップを改め、SAP JIS/JIT & REMの機能を再研究し、真に役に立つ自動車部品SCMの課題解決策を追求していく必要があります。私たちは、SAP JIS/JIT & REM機能によるサイクルタイム方式と製造指図方式のマルチ・パス・ウェイを提案し、固定観念を打ち破るERPとMESの新しいシステム構造を提示することができます。

SAP JIS/JIT & REMとMES連携テンプレートの機能と意義

私たちは、SAP S/4HANAのSCM機能のうち、欧州自動車業界で幅広く活用されているJIS/JITとREMに注目してテンプレート化しました。

このテンプレートで提供できるサービスは、図表1のとおりです。

操作手順書やカスタマイズ定義書等の一般的なSAP設定リファレンスに、MESサンプルシステムおよび実業務経験・知見を具体化した「Find Fits指南書」という業務要件リストを加えました。SCMシステム構築の企画構想、PoC(Proof of Concept)、要件定義に取りかかるための「スターターキット」としての役割を果たせます。この活用により、高い品質と期間短縮の効果を得ることができます。

内示と納入指示は目的もデータ内容も大きく異なります。内示は柔らかい(確度の低い)発注ではなく、タクトタイム(必要生産速度・能力)を前工程(サプライヤーや内製工程)に示して十分な能力を準備してもらうための情報提供です。一方、納入指示は順序番号や時刻を伴った確定情報で、かつ、内示とは独立しています。SAP JIS/JITでは、分納契約機能の中で「内示」と「納入指示」のテーブルを分けるという明確な分離・独立形態を採っています(図表2)。

テンプレート化した自動車部品業界のサプライチェーンの作法では、「受注」という概念は用いません。量産業務では、内示と納入指示です。内示では「タクトタイムを確認」「翌月への構え立案=サイクルタイムによる稼働計画」「T2へ同期したタクトタイムを通知」を行い、納入指示で「順序と時刻を把握して生産・出荷」を行うという、自動車部品業界の作法に則ったプロセスをテンプレート化しています。

REM(繰返生産)は毎日毎時反復で生産すること、とも説明できますが、本来はもっと複数の視点があります。ある品番を毎日毎時繰り返すこと、同一ラインの複数品番の合計数を毎日等量で繰り返すこと(ライン総量の繰返しと言います)、タクトタイム統制のもとで等速(サイクルタイム)で繰り返すこと、です。

図表3の中で、FとGとHは同一生産ライン上で混流順序生産される類似・派生品番群です。上段では日単位で毎日ほぼ等量の内示が繰り返されていることが見てとれます。下段では同じ品番の連続まとめではなく、分単位で1個流しの混流順序生産が指示・計画されていることが分かります。このしくみをPAB(独:Produktionssynchrones Abrufe、英:JIT Calls with Production Sequence)といいます。

同時に、この繰返生産方式では日の切れ目やオーダーの切れ目は意味を失いますから、実績計上するタイミングは自由になります。毎日毎時複数品番の混流で切れ目がなければ、「締め」という概念ではなく、「累積」という概念を適用する方が理に適っています。これが製品原価コレクターの機能です(図表4)。

実際の生産システムを企画・構想・構築するときには、ERP(SAP)とMESの役割定義は重要です。まずは、ERPは上位計画系で、MESは下位実行系・実績収集系との固定観念を取り払うことから始めます。日単位で粗々の計画をしておいて、あとの細かいところはMESに任せるという雑な線引きは避けるべきです。

実際、私たちは、図表5のように、「ERP→MES」という計画→実行の上位下位概念と、「MES⇔ERP」という生産ライン中心の協調概念の2つがあることを知っています。生産技術や製造に関わっている方たちは、どちらかというと先に生産ラインをどのように動かすかに注目して生産システムを発想する、つまり、MESの機能を中心に考え始めるのではないでしょうか。

MESの機能は生産ラインの計画と実行統制、実績収集を、PLCとERP双方にまたがってつかさどるものです(図表6)。PLCへの再計画フィードバックは分・秒単位であり、ERPへは出荷ごと、あるいは、日単位で実績を転送します。期間と粒度の使い分けは重要です。

自動車業界出身者の経験・知見とSAP機能知見の融合により、新しい視点と価値を提供

PwC Japanグループでは、自動車業界で実務経験を積んできたメンバーが、100年に1度の大変革期において、日々想像力を動員して、自動車産業の未来を考えています。同時に、欧州をはじめとしたグローバルネットワークを駆使して、自動車のSCMにふさわしいSAPの利活用を研究しています。

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