PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

欧米のインフレ鎮静化・中国経済の回復期待・日本の緊縮政策に潜むリスク (2023年1月)

  • 2023-02-02

I.2023年1月のまとめ:欧米のインフレ鎮静化・中国経済の回復期待・日本の緊縮政策に潜むリスク

1月の海外経済の動きをみると、米国については、2022年10-12月期(Q4)の実質GDPは前期比年率+2.9%と高めの成長にみえるが、詳細をみると消費の伸びの鈍化、在庫増加など内容は良くない。また、労働市場の逼迫は継続している。米国の労働市場では、歴史的に平均すると職探しをしている人1人当たり0.6人分の職しかなく、COVID-19前のピークは1.2人分だった。それがCOVID-19後に一時2人分まで上昇し、直近(2022年12月)でも1.8人分となっている(算出方法)。つまり労働市場では、空前の売り手市場(求職者有利)が継続している。足元のインフレ率のプラス幅縮小で、インフレに対する警戒が和らいでいるが、こうした状況は賃金上昇を通じて物価の押し上げ圧力として継続し、今後の金融引き締めにも影響を与えるであろう。

ユーロ圏については、2022年10-12月期の実質GDPは、前期比年率+0.5%とかろうじてプラス成長を保った。ドイツ(前期比-0.2%)、イタリア(同-0.1%)はマイナス成長に陥っており、プラス成長を保ったフランス(同+0.1%)、スペイン(同+0.2%)も低水準となっている。こうした主要国の不振を、高成長を保っているアイルランド(同+3.5%)が押し上げた模様で、内容は良くなかったといえよう。暖冬とそれによるエネルギー価格の低下によって楽観的な見方も出ていたが、成長ペースは鈍化している。こうした成長の鈍化にも関わらず、食料・エネルギーを除く欧米型コアのインフレ率は、プラス幅の拡大が続いており、物価が 2%へ回帰するにはさらなる利上げが必要となろう。

中国経済は、12月7日のゼロコロナ政策の緩和以降、急激な回復期待が高まっている。昨年(2022年)は、中国のゼロコロナ政策による中国経済の鈍化、供給網の遅延が世界経済の下押し要因となっていただけに、政策の撤回に加えて足元のCOVID-19感染者数の減少を好感している模様だ。しかし、そもそものワクチンの有効性や医療体制の不安などは短期間では解消されづらいであろう。また、中国の構造的な二極化問題(富裕層vs貧困層、都市部vs地方部、壮年層vs若年層)や人口減少が経済成長に及ぼす影響も懸念材料となろう。

日本経済は、生産や設備投資で弱い動きがみられるものの、国内旅行・インバウンド需要の拡大に伴う消費・輸出の伸びに支えられて緩やかな回復傾向にある。また、物価は欧米と異なり、ヘッドライン・コア・欧米型コアの3つで上昇が継続している。インフレによる実質所得の低下に対して、賃上げを実施する動きにも広がりがみられる。こうした日本経済の持続的な成長に向けた好ましい動きは、2013年の政府・日銀による共同声明、その後の大規模金融緩和の実施・継続による成果だとみている。しかし、足元ではそうした認識が十分でないまま、共同声明における物価目標の達成時期の長期化、防衛費・少子化対策増額のための増税など、引き締め的な政策議論が多くなっている。こうした政策が実施されれば、2%の物価目標到達前に、再びディスインフレ・デフレの状況に後戻りするリスクが高まるとみている。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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