PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

2024年の経済展望-所得と物価の好循環が成立するための条件-(2024年1月)

  • 2024-01-10

2023年の干支は「癸(みずのと)卯(う)」。日本経済の動向をみると、ようやく長期停滞という「寒気」が緩み、30年ぶりの物価上昇率、春闘賃上げ率、株価、設備投資といった形で、長期停滞を脱する萌芽がみえた年であったとも言えよう。もっとも、萌芽がみえたとは言っても、それが所得、支出、物価上昇の好循環を伴いながら安定的な成長に移行できるかは定かではない。2024年の干支は「甲(きのえ)辰(たつ)」。萌芽がみえた2023年の動きをさらに発展させて、成長経路を本格的なものにし、飛躍の1年とすることが必要である。以下では2023年の日本経済を回顧しつつ、2024年の経済を考えるにあたりどのような点がポイントとなりうるのかにつき議論していくことにしたい。

2023年、物価上昇率の減速が進んだ米国・ユーロ圏、日本は2%以上の伸びが続く

まず日・米・ユーロ圏の物価動向から振り返ろう。図表1左図は日・米・欧の消費者物価指数(CPI)の前年比を比較している。図表からわかるのは、米国・ユーロ圏の物価上昇率は大きく伸びを弱めた一方で日本の物価上昇率は(特殊要因を除けば)ほぼ同じ伸び率で推移したということだ。具体的にみると、米国の場合2022年6月に全ての品目を含むベースで前年比+9.1%を付けたのち、2022年12月には同+6.5%となった。そして2023年11月は同+3.1%とさらに伸びは緩やかなものとなっている。ユーロ圏の場合は米国からやや遅れて2022年10月に前年比+10.7%とピークを付けたが、その後の物価上昇率の減速ペースは米国よりも大きく、2023年 11月には同+2.4%となった。こうした物価上昇率の減速は食料・エネルギー価格の低下が主な要因ではあるものの、これらの価格変化を除いた需給変化をより反映しているベースでみても、米国は前年比+4.0%、ユーロ圏は同+3.8%と、6%弱の物価上昇率であった状況からは明確に減速している。一方、日本の場合は、全ての財を含むベースで2023年1月に前年比+4.3%を付けた後、政府のガソリン補助金といった特殊要因の影響もあって3%台前半で概ね推移した。食料・エネルギーを除くベースでも2%台後半の物価上昇率を維持した。

以上のように、米国・ユーロ圏と比較した2023年の日本の物価の1つ目の特徴は、米国・ユーロ圏の物価上昇率が2023年は大きく減速したのに対して、日本の物価上昇率は全ての品目を含むベースでは3%台、食料およびエネルギーを除くベースでは2%台半ばを概ね維持し、物価上昇率の減速は生じていないということだ。

米国・ユーロ圏と比較した2023年の日本の物価の2つ目の特徴は、米国・ユーロ圏と比較して、日本の場合は総需要の拡大が物価に及ぼす影響が弱いということだ。図表1右図は2023年11月のCPI前年比とその寄与度を比較している。先ほど、米・ユーロ圏の物価上昇率は伸びを弱めていると述べたが、それでも、食料・エネルギーを除く物価上昇率は米国の場合は前年比+4.0%、ユーロ圏の場合は同+3.8%であり、日本の同+2.7%を上回っている。

日本の物価と所得を巡る好循環達成は道半ばである。2024年は物価と所得の好循環達成において大変重要な1年となるはずだ。この点にふれる前に、まず海外経済動向について簡単におさらいしておこう。


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執筆者

片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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