PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

過去最長となった円安局面が日本経済に与える影響(2024年5月)

  • 2024-05-29

過去最長となった円安局面

足元では為替レートが一時160円を突破し、34年ぶりの円安となっている(図表1)。5月に入り、米雇用統計や物価統計において、米国の経済・物価がやや落ち着きをみせた。これにより米国の利下げ期待が高まり、米長期金利が低下して155円程度まで円高・ドル安となっている。日米の経済・物価動向、それに基づく日米の金融政策によってドル円相場が大きく変動している。

米国経済を巡っては、一時9%まで上昇したインフレ率が3%台までは低下したものの、3%を割り込むまでには至っていない。労働市場の逼迫度は緩和されたものの、歴史的にみると依然として良好な状態にあり、所得・消費を支えている。このため、金融市場で高まる利下げ期待に対して、FRBは利下げ実施に対して慎重な姿勢をみせている。

一方、日本経済は2023年1月の自動車の認証問題を受けた生産停止を受けて、消費・設備投資・輸出が大幅に鈍化し、2024年1-3月期のGDPは、前期比年率-2.0%へと落ち込んだ。また、自動車の認証問題を除いても、昨年の春闘の賃上げ率の高さをもってしても毎月勤労統計の所定内給与の伸びは2%に満たず、物価上昇率がそれを上回ることから実質所得がマイナスとなっている。先行きは、春闘賃上げ率の高さ、それを受けた名目賃金の上昇、さらに6月から始まる定額減税の効果によって所得が押し上げられて回復に向かうことが期待されている。しかしながら、所得と支出の好循環が生じるかは、不透明な情勢となっている。

為替相場の動向は様々な面で日本経済に影響を与えるため、円安を巡る議論が活発となっている。本レポートでは、足元の円安が日本経済に与える影響を考えていきたい。まず、為替レート動向、足元の円安局面の特徴を確認しておこう。一般的には、米国やそれ以外の地域との貿易に用いられるドル円レートに最も注目が集まる。しかし、それ以外にも日本経済は欧州や中国、アジア、中東といった国・地域等との貿易も行っている。このため、為替レートが日本経済に与える影響を考えるには各国・地域との貿易量や為替レートを考慮した名目実効為替レートの動きが重要となる。そこで同レートとその前年比をみたのが図表2である。また、過去の円安局面の時期や継続期間、下落率をみたのが図表3である。円安局面は、月次の名目実効為替レートが前年比で5か月以上減少、つまり円安となった場合、と定義した。これによると、足元の円安局面は、2021年2月に始まり、2024年4月まで少なくとも39か月継続している。この時点で、2012年9月から2015年10月までの38か月間の円安局面を超えており、さらに2024年5月も円安となる公算が大きく、40か月以上となろう。今回の円安局面は、上記の定義でみて過去最長の円安局面となっている。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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