2017-03-29
英国のメイ首相がEU条約第50条を発動させる時、2年の交渉期間が開始します。ここでは、50条の発動が実務上何を意味するか、今後何が予想されるか、確認します。
EU条約第50条(以下50条)は、2007年に締結されたリスボン条約の一部で、EUを離脱するメカニズムについて規定しています。離脱を行うEU加盟国のみが50条を発動させ、離脱プロセスを開始することができます。
英国メイ首相がEUに対し、2017年3月29日に離脱通知を行い、EU条約50条の離脱プロセス、英国とEUが離脱協定について交渉を行う2年間が始まります。
50条は過去発動されたことがなく、実務上どのように機能するか、いくつか疑問があります。例えば、2年の交渉期間が離脱協定の交渉に限定されるのか、将来の貿易関係についての交渉も含まれるのか、などです。
次に、メイ首相の離脱通知に反応する形で、欧州理事会(EU首脳会議)は交渉規定を定めます。重要なことは、この時に、双方が各々の交渉上の立場を明らかにして公式協議を開始するということです。今までは、「離脱通知なしには交渉しない」が明らかなルールでした。
交渉に際して、可能な限りビジネスの確実性を担保することを、英国政府は公約しました。しかし、近いうちに核心的なアップデートがある可能性は低いです。離脱協定がEU加盟国と欧州議会に提出され承認される期間を考慮すると、2018年秋には離脱協定の形がわかるでしょう。
もし、英国政府が交渉に成功した場合、2年間という時間軸の中で、英国は離脱協定と将来の貿易協定を締結することになります。ビジネスと公共サービスが新しいモデルに適応するための移行期間は重要だと、英国政府は認識しています。移行期間は最長で2021年までは延長可能だろう、いくつかの業界は移行期間がないだろうと、ブレグジット担当大臣は発言しました。
新たな貿易協定なしに英国がEUを離脱してしまう、リスクが存在します。その場合は、WTO協定に戻ることになります。
タイムラインとマイルストンは以下のとおりです。
英国政府はEUとの新たな戦略的パートナーシップ、すなわち、他国に適応される他のどのようなモデルとも異なるオーダーメイド型の合意について意欲を見せています。最終合意はEU加盟国である27カ国による承認次第ですが、英国政府が発表した白書によると、以下について合意を目指しています。
|
‘ディール’‐包括的な自由貿易協定 |
‘ノーディール’‐WTOモデル |
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ビジネスと経済における混乱 |
中 |
高 |
単一市場へのアクセス |
なし |
なし |
関税同盟からの離脱と既存の自由貿易協定への影響 |
あり |
あり |
英国EU間における物の移動にかかる関税 |
原則なし |
あり |
サービスのEU市場への自由提供 |
一部あり、もしくはなし |
なし |
移行期間 |
EUとの合意により、あり |
なし |
英国はEUのルールと規制に従うか |
EU市場へのアクセスに同等性が必要な分野 |
EU市場へのアクセスに同等性が必要な分野 |
EU予算の拠出 |
可能性あり |
なし |
多くの人がハードブレグジット(WTOモデル)となるか、ソフトブレグジット(包括的な自由貿易協定について交渉期間中に合意する)となるか不安を抱いています。明らかなことは、人、物、資本、サービスの移動の自由が認められるEU単一市場から英国は離脱する見通しであり、これまでと根本的に異なる貿易関係を英国はEUと築くであろう、ということです。ハードブレグジットとソフトブレグジットの主な違いはビジネスと経済の移行をコントロールし、成長と貿易における混乱を最小化する十分な時間があるか、英国EU間で貿易やサービス提供の自由があるかどうかです。
英国政府は移行期間の交渉を行うとともに、現行のEU規定(アキ・コミュノテール)から英国法に置き換えることで、ビジネスに一定程度の法的安定性をもたらすことになります。これは、6月のエリザベス女王のスピーチにより法案提出される、「EU離脱法」を通して行われます。現行形式の労働者権利および環境基準の踏襲した法制度化となり、これらの分野における最小限の対応が必要となります。