2017年イギリス総選挙とBrexit交渉の展望

慶應義塾大学教授 庄司 克宏氏

保守党政権は、キャメロン前首相が仕掛けた2016年国民投票に続いて、今回の総選挙でも「オウンゴール」で敗北した。メイ首相は、Brexit交渉に強い立場で臨むことができるよう安定過半数を期待して解散総選挙を行ったが、結果は裏目に出た。6月8日イギリスで実施された下院総選挙は、保守党が318議席、労働党が262議席となり、選挙前の保守党大勝の予想に反して、過半数(650議席中326)を制する政党が存在しない「宙ぶらりん」(hung)な議会という結果となった。総選挙後のイギリス政治は、リーダーシップの不在に悩まされるかもしれない。

メイ首相は続投するか否かにかかわらず、保守党にとって選択肢は、10議席を獲得した民主統一党(DUP、イギリスへの統合を望む北アイルランドのプロテスタント強硬派、ハード・ブレグジットに反対の立場)などとの連立政権、または、単独の少数与党政権のいずれかしかない。労働党との大連立や、労働党主導の他の小政党の連立政権は実現の可能性がないように思われる。いずれにせよ、短命政権となる可能性が高く、早ければ年内にも再度解散総選挙があるかもしれない。

EU側としては、メイ政権が総選挙で勝利して安定多数を獲得する方を期待していたかもしれない。そうなれば、Brexit交渉でメイ首相は保守党内の強硬派を抑えることができたかもしれない。なぜならば、メイ首相は元々EU残留派であり、単一市場と関税同盟からの離脱などハード・ブレグジットを掲げる一方で、EUとの自由貿易協定で実質的に単一市場や関税同盟に近い形の関係を追求するなど、柔軟な離脱を模索していたからである。

しかし、過半数を失った今、メイ首相の政権基盤は弱体であり、保守党内強硬派に引きずられる形で、EUと協定がないままBrexit交渉期限が終わって、最もハードなブレグジットという最悪のシナリオが待っているかもしれない。

2017年6月9日執筆