「合意なき離脱」に備え、どのような緊急対策プランが必要か

2018-12-19

英国が正式にEUから離脱するまで、残りわずか数カ月です。2019年3月29日に向けてカウントダウンが進む中、合意に至るシナリオが合意なき離脱シナリオよりも有力視されています。しかし、交渉の中でまだ解消されていない複雑な問題もあり、英国議会でも意見が分かれているため、EU・英国間で合意された協定離脱案が否決される可能性も排除しきれません。最終的な結果が判明する時期が遅くなることで、企業が十分に準備できる期間が少なくなっており、「合意なき離脱」によってもたらされるリスクは増しているとも言えます。

PwCはここしばらく、企業の皆様に対して、後悔しないための意思決定の検討をお勧めしてきましたが、離脱が数カ月に迫った今、「合意なき離脱」となった場合の短期的な混乱から事業を守ることを真剣に検討しなければなりません。そのために、今すぐ取り組んでいただける緊急対策プランを紹介します。この内容は、英国政府のガイダンスと一貫性を保ち、これまで企業規模を問わずあらゆる業界のビジネスを支援してきたPwCの経験に基づいています。

注力分野:

  • 貿易と関税
  • 人材と人の移動
  • 戦略とビジネスプラン
  • 規制とイノベーション
  • ガバナンスとレポート

これらの分野における「合意なき離脱」の実質的な影響を理解することで、最も緊急に対応すべき事項を把握することができます。緊急対応策の検討にあたっては、最も影響を受け、かつビジネスにとって最も重要な分野に注目すべきですが、「合意なき離脱」となった場合にビジネスを維持できるよう、十分に幅広く、きめ細かく設定されなくてはなりません。これらの対策は、適切な規模で、リスクベースで必要に応じて実行される必要があります。正しいガバナンスも重要です。判断や計画のオーナーシップや責任を明確にし、「合意なき離脱」における業務に対する支障や責任のなすりあい、そして不要な緊急対策の実行コストを未然に防がなくてはなりません。

合意なき離脱に向けた6つの緊急対策

上記を踏まえた上で、合意なき離脱に向けた実用的な準備対策を6つ掲げます。これらはあくまで例であり、最終的な緊急対策やアクションの必要性は、個別のビジネスモデルや影響度、企業それぞれのリスクアペタイト(リスクを進んで受け入れる水準)によって異なります。

在庫の確保を検討する

英国が合意なくEUを離脱して国境が混雑した場合、どれぐらい予備の在庫を確保するべきでしょうか?私たちのクライアントの中でもいくつかの高級小売店は、最低でも1カ月分の在庫を予備に抱えることにしています。しかし、このような対策はスーパーマーケットのように陳列期間の短い商品を並べる小売店や、自動車や航空機業界のようにジャストインタイムのオペレーションを稼働している企業には適しません。そのような場合、代理の調達や流通の手段を検討する必要があります。他にも低レベルですが重要な取り組みがあります。例えば、自社の契約やインコタームズ(INCOTERMS)で、貴社は「輸入者」として定義されていますか?そうでない場合は、在庫の輸入すらできないかもしれません。

サプライチェーンを理解する

私たちがクライアントへ勧めている8つの「後悔しないための」意思決定の1つとして、自社のサプライチェーンを把握することが挙げられます。サプライヤーと連携し、彼らのサプライチェーンやBrexitに対する準備度を確認しましょう。この情報を活かして自社のサプライチェーンリスクを評価し、必要な変更事項を検討しましょう。サプライヤー1社のみに依存している場合、今後必要な製品やサービスを入手できなくなる可能性があります。サプライヤーを多様化することによりリスクを軽減できるかもしれません。

個人情報の移転可否について確認する

英国が合意なしでEUを離脱する場合、EUが英国のデータの適切性を認定する可能性は低いと考えられます。その場合、EUに本拠地を持つ企業は、モデル条項や拘束力のある企業規約などGDPR(EU一般データ保護規則)に準拠した取り組みがない限り、EUの個人情報を英国に移転することができません。これには会社内および会社間のデータが該当し、データセンターを含みます。米国などの他国と英国の間で個人情報を移転する場合にも、類似の制約が適用される可能性もあります。もし貴社のビジネスが個人情報の移転に依存する場合は、適切な規定とモデル条項が適用されていることを確認しましょう。

適切な認可を取得する

規制された事業分野では、適切な認可と免許を取得することが、「合意なき離脱」の際に重要となります。法律や技術の側面から、離脱後の要件に適合できるようにどのような体制を築くべきか考えましょう。例えば、英国の金融サービスは単一パスポートルールに基づき、EUでの業務が認可されていません。2019年3月29日から、金融サービス企業はEU各国で業務を続けるために、27の異なるライセンスを取得する必要があるかもしれません。他にも医薬品など規制の多い分野では、EU内である程度の制限を受けることが想定されます。

今すぐ歳入関税庁(HMRC)に認定を申請する

自社ビジネスに必要な場合、保税倉庫や認可事業者(Authorised Economic Operator :AEO)を含む義務化された制度に沿った正しい認定を申請しましょう。例えば、2重関税やその他のコスト回避を目的として自社以外のスペースを必要とする企業が増えているため、倉庫スペースの空きは急速に無くなりつつあります。自社で認定を取得するプロセスには12週間以上を要することもあるため、今すぐに開始する必要があります。認可事業者(AEO)制度の認定の申請も半年以上かかることが多いため、「合意なき離脱」の場合は今から申請しても離脱の初日に間に合わない可能性があります。

労働力とシステムを確認する

適切なスキルを持った人材を十分に確保できていますか?労働力を強化する必要がある場合、優先して対応しましょう。例えば、これまではEU加盟国として、英国では関税と消費税に対応する人材があまり必要とされていませんでした。これらの人材は既に確保が困難となっており、企業はEU外からの適切な人材の確保を急いでいます。人材確保の範囲は自社にとどまりません。私たちの経験では、労働力をめぐる最大のリスクは重要なサプライヤーから間接的に生じます。例えば、ロジスティックス、運搬、建設の分野では人材リスクが高く、派遣労働力に依存している企業は特に注意が必要です。また、自社の人材がEU内でどのように移動しているかにも注意が必要です。もし自社のビジネスモデルが英国とEU間での人材移動に依存している場合(特に有料や規制されたサービスを提供している場合)、ビジネスビザが導入され、共通の認定された在留資格がない状況下で英国での業務を続けることは難しいかもしれません。

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