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2020-08-11
2020年秋から年末にかけて、EUには2つの大きな政治課題があります。その1つは復興基金合意の実施確保、もう1つは英EU将来関係協定の合意確保です。
2020年7月17日から18日に開催予定だった欧州理事会(EU首脳会議)は3日間延長され、コミッションの復興基金提案は倹約4カ国に配慮して修正された形で政治合意しました。しかし、これで終わりではありません。その先には、第一に次期2021~27年の「中期財政枠組み」(MFF)を定める規則が閣僚理事会の全会一致および欧州議会の同意により採択されること、第二に新たな固有財源に関する決定が閣僚理事会の全会一致で採択され、かつ全加盟国の議会批准を経て発効することが必要です。第一の点について、拒否権を有する欧州議会は次期MFFの総額が要求を下回ったことなどで不満を持っているため、すんなりと同意するかはわかりません。また、第二の点では、27カ国の議会批准が必要であり、全ての国で確保できるかどうか予断を許しません。来年からの次期MFFと復興基金の開始に向けて残された時間はあまり多くありません。
次に、2020年6月15日の英EUハイレベル(首脳)会合では、英国政府が移行期間を延長しないことが確定する一方、交渉に新たなはずみをつけることが必要である点で意見が一致し、英EU首席交渉官に対して「可能ならば、合意の基礎となる諸原則について早期に了解を見出す」よう促しました。しかし、7月23日にフロスト英首席交渉官はそれが達成されなかったことを公式に認めました。英EU将来関係協定におけるEU司法裁判所の役割ではEU側が譲歩し、将来関係の運営と紛争解決手続では英国が譲歩するなどの進展がある程度見られたものの、バルニエEU首席交渉官は自由貿易協定における国家援助規制などの「同一競争条件」と漁業問題が最大の障害となっていることを明らかにしました。英国はこの2分野をEU離脱による国家主権回復の象徴と見なしており、EUルールの束縛が続くことを拒絶しています。交渉の山場は9月から10月と見られています。
以上のEUの課題2点では、閣僚理事会の議長国ドイツの手腕が問われています。第一の課題では、メルケル首相は欧州議会を説得する一方、各国議会の批准で取りこぼしがないよう目配りしなければなりません。第二の課題では、単一市場の一体性を守るために27カ国の団結を維持しながら、「同一競争条件」と漁業においてどのように妥協するのかをドイツが水面下で探りながら、バルニエEU首席交渉官を支えなければなりません。
庄司 克宏
PwC Japanグループ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授(Jean Monnet Chair ad personam)
ジャン・モネEU研究センター長