EU復興基金と英EU関係

2020-07-06

2020年6月19日、欧州理事会(EU首脳会議)がビデオ会議で開催されました。主要議題は、次期「多年度財政枠組み(MFF)」とそれに組み込む復興基金でした。欧州委員会の復興基金提案は総額7,500億ユーロを贈与分5,000億ユーロ、貸付分2,500億ユーロとするもので、EU加盟国から概ね歓迎されています。しかし、倹約4カ国(オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン)とフィンランドは、とくに贈与の部分に対し依然として慎重な姿勢を崩していません。このため、各国の意見の隔たりが大きく、ドイツがEU議長国の担当を始める7月17日から18日に欧州理事会を対面で開催し、ミシェル常任議長が妥協案を用意して政治合意を目指すこととなりました。

EU首脳会議の前日、メルケル首相は連邦議会において、反民主的勢力、急進的で権威主義的な集団が経済危機を政治的に利用しようとして待ち構えていると警告し、復興基金はポピュリスト勢力に対抗する政治的手段でもあると強調しています。他方、復興基金が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に関する危機のみを対象とした期間限定のものであること、欧州委員会が資本市場でEU債を発行するのは1回限りの措置であり、COVID-19危機に関連した贈与として配分するために使用されることを表明し、倹約4カ国の意向を反映した発言をしています。そのため、復興基金の問題は、贈与と貸付の割合を調整することで最終的に決着が着くと考えられます。

EU首脳会議で政治合意が成立すれば、その後欧州委員会の提案に基づき、閣僚理事会と欧州議会による多数の関連立法がなされます。特に2020年12月までに、次期MFF規則が閣僚理事会の全会一致および欧州議会の同意により採択されること、また、新たな固有財源に関する決定が(欧州議会の意見を受理した後)閣僚理事会の全会一致で採択され、かつ全加盟国の議会批准(国民投票の可能性もある)を経て発効することが必要とされます。

2020年6月15日に開催された英EU首脳会合については、英国が移行期間を延長しないことを前提に交渉を加速することで合意されましたが、先行きは依然不透明です。英国が交渉決裂に備えた対応を準備する一方、EUも交渉決裂のシナリオに備えている模様です。他方で、妥協の可能性はまだ残されています。

庄司 克宏

庄司 克宏

PwC Japanグループ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授(Jean Monnet Chair ad personam)
ジャン・モネEU研究センター長

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