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2017-10-20
メイ英国首相は9月22日のフィレンツェ演説で、加盟期間中の財政的コミットメントを順守すると表明する一方、Brexit交渉で英EU将来関係協定(特に包括的自由貿易協定)について協議するため移行期間を設定するよう提案した。これは、メイ首相がいわゆる「離脱清算金」を交渉チップとして将来関係協定の早期交渉入りを狙ったものと、EUでは受け取られている。
しかし10月12日、EU側のバルニエ首席交渉官は第5回交渉会合後の記者会見で、離脱交渉の主要項目(1.EU市民権の保全、2.北アイルランド国境、3.離脱清算金)に関して交渉の進展状況を明らかにした際、特に離脱清算金の問題で「行き詰まっている」とし、欧州理事会(EU首脳会議)で将来関係協定の協議入りを勧告する状況にはないことを明らかにした。
こうした状況を受けて、10月20日の欧州理事会でEU27カ国は、英国に対して二つのメッセージを送った。第一のメッセージは英国に対する警告として、全ての項目の離脱清算金について具体的な確約を行わない限り、将来関係協定の協議に入ることはできないこと(それゆえ、移行期間についても話し合うことができないこと)である。他方、第二のメッセージは、国内で強硬離脱派(保守党の中でEUとの協定がない離脱でもよしとする勢力)の攻撃にさらされて政権基盤が弱体なメイ首相を「援護射撃」するものである。すなわち、二カ月後の12月に再度、交渉状況を評価して「十分な進展」があれば、将来関係協定と移行期間に関する追加的な交渉指針を定めることを明らかにした。それは、バルニエ交渉官に新たな交渉マンデートを与えることを意味する。さらに、欧州理事会は交渉を加速化するため、閣僚理事会に対し、バルニエ氏とともに、内部的な準備協議を始めることも指示したのである。
Brexit交渉は、離脱協定の双方における批准を計算に入れると、離脱が起こる2019年3月30日0時0分の半年前である2018年秋が実質的な期限となる。そのため、実際にはEU側も、離脱清算金で重要な進展があれば、来年早々に英EU将来関係協定と移行期間の協議に入るものと思われる。メイ首相は、保守党内の強硬離脱派を抑えつつ、離脱清算金の問題でEU側とどこまで歩み寄ることができるかという正念場を迎える。
庄司 克宏
PwC Japanスペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授
ジャン・モネEU研究センター所長