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2020-10-22
2020年10月15~16日、ブリュッセルで開催された欧州理事会(EU首脳会議)は、英EU自由貿易協定締結のための交渉において、漁業権、国家援助規制や環境・労働者保護などにおける「同一競争条件」、紛争解決手続きなどで英国側に譲歩するよう求めました。これに対し、英国のジョンソン首相は強く反発し、EU側に交渉アプローチの根本的変更を要求しています。
EU側は条約ドラフトに基づいて交渉を継続する姿勢を維持していますが、現時点で英国側が現状の交渉に応じるかどうかは不透明なままです。自由貿易協定に関する合意なしとなることを回避し、2020年末の移行期間終了に間に合わせるためには、欧州議会の批准手続きなどを考慮すると、11月上旬までの合意がぎりぎりのタイミングと言われています。
今後の展望として、英EU間での自由貿易協定が年内に合意される可能性は高いと見られます。英国の対EU貿易依存度が高いことや、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の第2波により、欧州大陸だけでなく英国も深刻な経済的打撃を受ける見通しがあるからです。
現時点で予想されるシナリオとしては、第1に漁業権の問題で英国が単年度ベースではなく安定的な漁獲枠取り決めを認めてEUに譲歩すること、第2に「同一競争条件」でEU側が英国をEUルールで縛る程度を引き下げること、また、第3にその代わり紛争解決手続きでは英国の協定違反に対するEUの一方的制裁の余地を残すことなどにより、自由貿易協定の交渉が妥結することが考えらます。ただし、英国が国内市場法案にある離脱協定(北アイルランド議定書)違反の条項を撤回することが不可欠です。それがない限り、欧州議会は英EU間での自由貿易協定を批准しないという立場を表明しています。
また、EU側には2つの切り札が残されています。1つ目は、英国の金融サービスがEU単一市場にアクセスするための、金融規制の同等性認定(単一パスポートではなく、EUの個別法令に基づく認定)です。これは、EUが英国の規制がEU側と同等であるかどうかを評価することによって決まります。2つ目は、個人情報が英EU間で自由に移動するために必要な、EU個人情報保護規則(GDPR)に基づく十分性の承認です。英国の個人情報保護がEU離脱後もEUと同等であると、EU側が判断することが必要です。これらは両者ともEU側の単独の判断によるもので、自由貿易協定の交渉事項に含まれません。しかし英EU貿易と不可分であり、自由貿易協定の締結に及ぼす影響は小さくありません。
(2020年10月20日脱稿)
庄司 克宏
PwC Japanグループ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授(Jean Monnet Chair ad personam)
ジャン・モネEU研究センター長