ハウジング・建設・インフラ業界

ハウジング・建設・インフラ業界とネイチャーポジティブ

世界の都市人口は2030年までに50億人に達すると予測されていますが、それまでに都市化すると推測されている土地の 60%以上がまだ開発されていません1。そのため、今後も都市やインフラの開発は拡大すると想定されます。

ハウジング・建設・インフラ業界で最も分かりやすい環境への影響としては、土地や海域利用のための直接的な改変が挙げられます。他にも建築資材の調達では、木材生産に伴う森林伐採、コンクリートや鉄骨などの調達に伴う採掘による伐採や土地の改変、運搬や建設機械稼働に伴う温室効果ガス(GHG)の排出、建設工事や建設物利用に伴う大気・水質汚染、建設廃棄物の発生、意図的・非意図的な外来種の侵入などの影響が懸念されています。

自然の機能を利用したグリーンインフラストラクチャー(以下、グリーンインフラ)の導入、重要な生態系が存在するエリアを避けた立地、事業計画を撤回する「ゼロオプション」を含む検討、周辺に生息する生物や地形を考慮した設計、大規模な建設事業などでは、適切な環境影響評価の実施が求められます。

工事中においては、適切な汚染防止対策や建設機械稼働のカーボンニュートラル化、建設廃棄物の再利用、生物の生息・生育に配慮した施工が求められます。

建築物やインフラは供用後も、GHG排出や、人の活動による汚染、周辺生態系への影響が懸念されます。最近では、新築建設物への太陽光発電設備の導入義務化などの動きもあり2 、設計段階から長期的視点で影響を想定することや、継続的な管理を行うことが求められます。

また、建設・インフラ事業によって自然資本の消失が想定される場合、同質の環境の代償や再生活動によるオフセットも行われています。

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けたイメージ

ハウジング・建設・インフラ業界のネイチャーポジティブを考えるとき、「計画・設計」「調達」「施工・工事」「供用・廃棄」の各ステージで、SBTs  for Nature で提唱されるAR3Tフレームワーク(回避、低減、復元・再生、変革)の対応がとられていることが望まれます。

計画、設計

  • 回避
    • 重要な生態系、主要な繁殖地や餌場、移動経路などを避けた立地計画
    • ゼロオプションを含む環境影響評価
  • 低減
    • 自然の機能を活かしたグリーンインフラの導入
    • 周辺の生態系ネットワークを考慮した設計
    • LCAによる環境負荷算出と計画の比較検討
  • 復元・再生
    • エクステリアや緑地を活用した生態系再生
    • 自然再生事業の設計
  • 変革
    • 生態系バンクなど、オフセットフレームワークの確立・活用

調達

  • 回避
    • 違法な伐採や採掘による建築資材調達の切り替え
  • 低減
    • FSC認証の木材など、持続可能な建築資材の利用
    • リサイクル資材の利用
    • 国産材の利用など、建築資材の地産地消
  • 復元・再生
    • 鉱山開発などによる影響のオフセット
    • 自社林の持続可能な経営

施工・工事

  • 回避
    • 建設現場の近くに生息する貴重な生物の繁殖期を避けた施工
  • 低減
    • 工事中の適切な汚染防止対策
    • グリーンエネルギーで稼働する重機の利用
  • 復元・再生
    • 在来種を用いた植栽・緑化
  • 変革
    • 環境への影響の小さい工法の開発や、素材の開発

供用・廃棄

  • 回避
    • 建築物長寿命化、リフォームなど
  • 低減
    • 生物に影響が小さい街灯など
    • 建設廃棄物のリサイクル
  • 復元・再生
    • 屋上・壁面緑化
    • 周辺の生態系やエコロジカルネットワーク考慮した緑地の創出など
  • 変革
    • 建築物の木材ストックによるCO2削減効果の認証

また、ハウジング・建設・インフラ産業は、自然資源の再生回復に資する技術や資産を保有していると考えられ、積極的に活用することが期待されます。

例えば、地域の生態系やエコロジカルネットワークを考慮した庭づくりや、自然環境が有する機能を社会の課題解決に活用するグリーンインフラ3、過去に損なわれた自然を積極的に取り戻すための保全・再生・創出・維持管理活動である自然再生事業4、 5などが挙げられます。

自然環境が再生された土地は、OECM(Other effective area-based conservation measures)への登録6、他社との生物多様性オフセット利用など、今後整備が期待される枠組みでの活用が見込まれます。

このような取り組みは、国際自然保護連合(IUCN)と欧州委員会が提唱するNature-based Solutions(NbS)7、8に則した内容であり、ネイチャーポジティブへの貢献が期待されます。

※保護地域以外で生物多様性保全に資する地域。環境省は、2030年までに30%を保護地区とする30by30達成に向け、生物多様性に貢献するエリアを個別にOECMとして認定し、既存の保護地域とエコロジカルネットワークで繋ぐ仕組みを検討中9

ネイチャーポジティブな取り組みの事例

グリーンインフラ

  • 商業・住居エリアに環境に配慮した緑道を整備。環境配慮のほか、防災や心理的な安らぎの空間を創出
  • 市街地内に緑地や貸農園を整備。地域コミュニティの形成や防災などの機能が期待される

生物多様性バンキング

  • 希少生物の生息地の保護地をクレジット化

建設機械の脱炭素化

  • 建設機械を電動化

持続可能な建設資材の利用

  • 自社林の持続可能な森林経営
  • FSCなど認証木材を利用

PwCのサービス 

自然資本関連のアップスキリング

  • 自然資産関連の基礎研修・社内の理解浸透支援
  • 自然資本を巡る国内外の規制・イニシアチブ・企業対応の最新動向

自然資本に関するリスクと機会の評価

  • 自然資本への依存と影響の定性・定量分析
  • 自然資本関連のリスクと機会の分析・整理
  • 木材調達先の森林や自然再生地などのネイチャー関連評価

ネイチャーポジティブビジョン・戦略策定と実行支援

ビジョン・戦略策定

  • バックキャスティングでのビジョン策定
  • 経営戦略と整合するネイチャーポジティブ戦略策定

戦略実行支援

  • ネイチャーポジティブ戦略に基づく目標/KPI設定支援
  • 自然再生事業など、ネイチャーポジティブ戦略推進支援

自然関連情報開示支援

  • 国内外の先進開示の事例集とGap分析
  • TNFD開示案作成支援

 

1 Convention on Biological Diversity 2018
(2022年10月26日閲覧)
https://www.cbd.int/article/biodiversityforcities

2 東京都環境局HP
(2022年11月4日閲覧)https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/solar_portal/index.html

3 国土交通省HP
(2022年11月4日閲覧)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_mn_000034.html

4 国土交通省HP
(2022年11月4日閲覧)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000104.html

5 環境省HP
(2022年11月4日閲覧)https://www.env.go.jp/nature/saisei/contact/qa/qa1.html

6 IUCN WCPA Other Effective Area-based Conservation Measures Specialist Group
(2022年11月15日閲覧)
https://www.iucn.org/our-union/commissions/group/iucn-wcpa-other-effective-area-based-conservation-measures-specialist

7 IUCN Nature-based Solutions
(2022年11月15日閲覧)
https://www.iucn.org/our-work/nature-based-solutions

8 森林総合研究所  自然を基盤とした解決策(NbS)に関する国際的議論
(2022年11月15日閲覧)https://www.env.go.jp/council/06earth/220224_siryou2-4.pdf

9 環境省 第1回地域連携フォーラム OECMの現状と概要
(2022年11月15日閲覧)
https://epc.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/j-gbf_regional-forum01_220322_02-oecm.pdf

参考文献


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