テクノロジー業界

テクノロジー業界とネイチャーポジティブ

ネイチャーポジティブの取り組みには、各種テクノロジーの活用が期待されています。衛星やセンシング技術を用いた自然環境の観測、AIを用いた生態系サービスの解析やシミュレーション、大気・水質・土壌などの浄化技術、生態系復元技術などさまざまな場面での利用が考えられます。このようなテクノロジーの発展は、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させるというネイチャーポジティブの目標に向け、取り組みをより一層加速させるために不可欠であると考えられます。

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けたイメージ

自然資本は世界のGDPの50%以上に相当する44兆ドルの価値を生み出していると言われており、自然資本の喪失によるリスクを回避するためのネイチャーポジティブに係るビジネスによって2030年までに年間10兆ドル規模のビジネスチャンスが見込まれると言われています1。ネイチャーポジティブの実現に向け、テクノロジーの活用はあらゆる分野での需要の高まりが予測されます。

ビジネスとネイチャーの関係を把握するためには、地球レベル、国レベル、地域レベルなど、さまざまなレンジで自然資本や生態系の状態の見える化が不可欠です。衛星やセンシング技術の利用、ドローンなどによる人の立ち入りが困難な環境の観測などによって、ビジネスと関係の深い地域の自然資本状況を把握するとともに、実施したネイチャーポジティブの施策の効果を測るモニタリングが必要になります。

農林水産物などをはじめ、さまざまな商品は自然の恵みから調達されています。原料から製造、流通まで、持続可能な調達が行われていることを示す認証制度(FSC、MSCなど)が注目されていますが、持続可能性を担保するためには、正確なトレーサビリティの普及が重要です。ブロックチェーン技術などのテクノロジーは、セキュリティレベルの向上、効率化に貢献します。

情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)を用いたスマートシティ、スマートビルディングによる効率的なエネルギーや水資源の利用、グリーンインフラ技術の発展により、自然の多面的機能を活用した防災施設や社会資本整備が期待されます。農業の分野では、農薬や肥料、水資源の利用を最低限に抑えたスマート農業が普及し、バイオテクノロジーの分野では、代替肉やバイオ燃料の開発が進むことが期待されます。

ネイチャーポジティブな取り組みの事例

ICT

  • ICTを用いた農業、畜産業管理。農薬や肥料の効率的な利用
  • 森林内でのチェーンソーやトラック音等検知による違法伐採の摘発
  • スマートシティなど、都市や地域の効率化

AI

  • サプライチェーンライフサイクル全体でのESG側面でのデューデリジェンス
  • 生物多様性ビッグデータを活用した生物分布の変化予測とそれに応じた保全計画や国土の利用計画策定
  • 鳴き声などの音響解析による動物の生息状況の把握
  • 映像解析による動植物の生息・生育状況の自動判別

ブロックチェーン

  • ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーンのトレーサビリティ確保
  • NFT/Web3.0活用による消費者行動と連動させたカーボン・オフセットや自然資本の再生、幅広いステークホルダーの参画招聘

衛星技術

  • 衛星写真やリモートセンシングを活用した生態系の把握

ドローン

  • ドローンの自動運転による効率的な物流
  • 人の立ち入りが難しい環境の観測や、上空からの植生把握

バイオテクノロジー

  • バイオ燃料など、生物資源の活用
  • 微生物を利用した浄化技術
  • 環境DNA分析による生態系の把握
  • 代替タンパク(培養肉等)生産による飼料生産に向けた水・豊かな土壌への環境負荷の削減
  • 植物工場によって露地栽培の環境負荷(農薬・施肥・水・マルチ等)を切り離し生産性を向上
  • 微生物活用を伴う高機能バイオ炭の開発による環境負荷の低減と炭素貯留

バイオミミクリー

  • 生物・自然模倣(バイオミミクリー)による低環境負荷な建築・素材・街づくり・モノづくり

PwCのサービス 

自然資本関連のアップスキリング

  • 自然資産関連の基礎研修・社内の理解浸透支援
  • 自然資本を巡る国内外の規制・イニシアチブ・企業対応の最新動向

自然資本に関連するリスクと機会の評価

  • 自然資本への影響・依存の定性・定量分析
  • 自然資本関連のリスクと機会の分析・整理

ネイチャーポジティブビジョン・戦略策定と実行支援

ビジョン・戦略策定

  • バックキャスティングでのビジョン策定
  • 経営戦略と整合するネイチャーポジティブ戦略策定

戦略実行支援

  • ネイチャーポジティブ戦略に基づく目標/KPI設定支援
  • リジェネラティブ農業や自然再生事業など、ネイチャーポジティブ戦略推進支援

自然関連情報開示支援

  • 国内外の先進開示の事例集とGap分析
  • TNFD開示案作成支援

 

1 WEF The Future Of Nature And Business
(2022年11月7日閲覧)https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Future_Of_Nature_And_Business_2020.pdf

参考文献


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主要メンバー

齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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