2022-12-28
PwCの成長戦略「The New Equation」では、多様なプロフェッショナルがそれぞれの能力や専門性を融通無碍に組み合わせて課題解決に取り組む「Community of Solvers」となることを目指しています。その実現に向けて、PwCのプロフェッショナルリーダーたちは、リスキリング/アップスキリングを通じた自己変革にいち早く着手してきました。2022年9月にはPwC Japanグループのパートナー11名が、ユニークな教育手法で高い評価を得ている教育機関・ミネルバ大学監修のリーダーシッププログラム「Managing Complexity」を修了しています。今回の鼎談ではミネルバ認定講師・黒川公晴氏を招き、PwC Japanグループ マネージングパートナーとして人材育成をリードする出澤尚と、同プログラムを受講したPwCアドバイザリー合同会社パートナー岩嶋泰三とともに、「Community of Solversに必要なリーダーシップとは何か」について議論しました。
ミネルバ認定講師/Leadership専門家
黒川公晴氏
PwC Japanグループ マネージングパートナー(オペレーション)
PwCあらた有限責任監査法人 執行役常務
出澤尚
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー
岩嶋泰三
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
※本文太字―インタビューアー
(左から)黒川公晴氏、出澤尚、岩嶋泰三
PwCが新たなグローバルの成長戦略「The New Equation」を掲げ、およそ1年が経過しようとしています。The New Equationは、多様な専門性を持つ人材と革新的なテクノロジーを融合することで、クライアントやステークホルダーの持続的な成長の実現および信頼構築を支援していくとする戦略ですが、その中でCommunity of Solversを促進しようとしている理由について解説いただけますでしょうか。
出澤:
PwCではThe New Equationを掲げるにあたり、まず環境・社会・企業が今何を求めているのかを考えました。
現在、テクノロジーが外部環境に破壊的な変化をもたらしており、加えて気候変動、地政学的な分断、新型コロナウイルス感染症などにより、深刻かつ複合的な課題が立て続けに生じています。複雑で予測不可能な変化を前提とした外部環境を背景に、企業に大きく2つのニーズが顕在化しているというのが私たちの考えです。
1つは将来にわたって持続的に成果や価値を生み出し続けること、すなわち「Sustained Outcomes」の実現。もう1つは、壊れやすくて獲得することが難しい信頼、すなわち「Trust」の構築です。これら2つのニーズを満たすプロフェッショナルファームになることこそ、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのパーパスの実現につながると考えています。
同時に、世の中には1人のプロフェッショナル、もしくは1つの領域における専門性だけでは解決できない課題が増えています。そのため、PwCの中に多岐にわたる専門性を持った多様な人材を結集させるだけでなく、時に外部の方々とも連携しながら大きなニーズや課題解決に取り組むことが不可欠となりました。それがCommunity of Solversを促進する理由です。
岩嶋:
私が国際ビジネス環境でクライアントサービスを始めた20年前と比べると、確かに難しく複雑なご相談が増えた気がします。企業を取り巻く環境が変わったことに加え、海外M&Aなどを通じて日本企業のビジネスの現地化が進むにつれて、企業のビジネスの在り方、進め方が高度化したという理由が背景にあるでしょう。
かつてはクライアントから頂戴するRFP(提案依頼書)は比較的シンプルで、どのようなソリューションを提供すれば問題が解決できるか、容易に結論が出せる性質のものが多かったように思います。しかし昨今では、クライアントからのご相談に対して単純に答えるだけでは問題は解決せず、課題の本質は何なのかを異なる多面的なアングルから考え、時にはRFPそのものをクライアントとともにリフレームしながら取り組んでいかなければならないことが多くなってきていると感じます。病院に来た患者さんが「捻挫した」「風邪をひいて熱がある」というような具体的な症状を訴えるケースが多かったのが、「なんだかすごく痛いのだが、どこが悪いかよくわからない」という相談に変化しているイメージでしょうか。
PwCではいろいろな分野の“医者”を取り揃えていますが、単純に「この症状だったら〇〇に担当してもらえばいい」という訳にもいかなくなってきており、みんなで一緒にじっくり話を聞いて、本当の問題がどこにあるのかを考えながら解決のための方向性を見出すべきという認識が高まっています。
より複雑な課題を解決していくためには、リーダーシップに求められる資質も変化してきていると思われます。PwCではリーダーシップにどのような変化を求めていますか。
出澤:
今、世の中で起きていることに答えや前例はありません。岩嶋さんが指摘されているように、相談する側からは「これは相談すべきか定かではないが、助けてくれませんか」というような曖昧なRFPも増えています。そんな複雑な課題を解決するためのリーダーシップには、いくつかの資質が必要になると考えています。
まず1つは「本質を見抜く力」です。世界や物事が不連続となる中で、前提を所与のものとせず、目の前にある出来事やリクエストされていること、または対処すべき問題の本質をしっかり見抜く力がリーダーには不可欠です。
2つめは「巻き込む力」。複雑な問題は自分だけでは解決できません。いろんな能力・視点を持った人たちのインクルージョンを推進していく力が必要になっています。
3つめは「失敗を恐れずに果敢に取り組む力」です。ベストプラクティスや前例がないとなると、とにかくやりながら習得していく姿勢が必須となります。もちろん致命的な失敗は避けるべきですが、リスクをコントロールしながら失敗を恐れず進んでいく資質がリーダーには求められています。
ミネルバ式リーダーシッププログラム「Managing Complexity」では、リーダーシップの要件についてどのように定義しているのでしょうか。
黒川:
お2人の話と深くシンクロするのですが、本プログラムは「複雑性」をテーマのひとつに掲げており、正解がない中で変化に適応しながら前に進んでいける「適応型リーダーシップ」の習得を1つの目標としています。このプログラムは、そのリーダーシップの一連の動作、例えばスポーツでいうところのフォームを1つ1つ意識しながら習得していくラーニングジャーニーだと考えています。
適応型リーダーシップの具体的な動作とは、混沌とした世の中で自分のパーパスを見つけ、コアバリューをしっかり打ち立て、それに沿って課題を正しく捉え、ソリューションを考え、誰の協力と信頼が必要かを見渡し、巻き込みながら決断していく、そして決断が間違っていれば戻ってまたやり直す、というものです。出澤さんがおっしゃる「本質を見抜く力」「巻き込む力」「失敗を重ねながらやり方を修正する力」という3つがまさにここに含まれます。
こうした要素を中心に、本プログラムではシステム思考やデザイン思考、感情知性、バイアスを回避する力、人を動かすコミュニケーション、意思決定力等、合計18から成る具体的なリーダーシップの資質を学びます。これらを私なりの言葉で凝縮して伝えるならば、「立ち止まって考える力」だと考えています。
例えば、「この課題は本当に解くべき課題なのか」「大きな目的との一貫性はどれだけ取れているか」「そもそもこの課題はなぜ生じたのか」「解決のために誰をどう巻き込むべきか」、あるいは「自分は今何をすべきでどういう目標を立てるべきか」「目の前にいる人が言葉の奥底で本当に求めていることは何か」、そういう瞬間々々発生する問いを自分に恒常的に突きつけること、また突きつけるだけでなくスピーディーに腹落ちできる解を見いだす思考習慣が「立ち止まって考える力」です。その力を身につけるのが、本プログラムの大きな方向性となっています。
ミネルバ認定講師/Leadership専門家 黒川公晴氏
今回、PwCのパートナーが本プログラムを受講しました。講師から見た印象はどうでしたでしょうか。
黒川:
正直、始まる前は私の方がかなり緊張していました。受講者は豊かな経験・経歴をお持ちの方々ばかりで、「今さら何を学ぶのか」と言われるかもしれないと想像していたからです。しかし、柔軟に学ばれている皆さんの姿を拝見しながら、毎回ありがたく思っていました。皆さん知的能力はさることながら、高い知的好奇心と学びへの謙虚さをお持ちで、こんなリーダーの周りで働いてるメンバーは、きっと仕事がしやすいだろうと感じました。また洞察力や思考の鋭さには感銘を受けましたし、ブレイクアウトでのディスカッションからは多くを学ばせていただきました。
一方、経験が豊富だからこそ、課題、原因、解決策にヒューリスティックに(経験則に基づいて)アプローチしてしまうという自己分析が多かったのが印象的でした。経験による直感は強みであり武器ですが、それが弱点にもなりうると皆さん共通して自己分析されていたのです。受講した皆さんから、目の前にいるクライアントの難題に寄り添いながらソリューションを考えていく際、1度立ち止まって考え直す思考習慣を身につけることができたという声をいただき、プログラムを提供している側からすると冥利に尽きる思いでした。
出澤:
PwCのパートナーはいずれも成功体験を持っています。特に今回は百戦錬磨の方々に受講してもらいました。その彼らがPwCブランドを背負ってアジリティある対応やコメントをしていたと聞くと、私もぜひその場に参加したかったという思いが強くなります。
PwC Japanグループ マネージングパートナー(オペレーション) PwCあらた有限責任監査法人 執行役常務 出澤尚
実際にプログラムに参加されてどのような学びや気づきを得ることができましたか。
岩嶋:
私はプログラムの冒頭で、黒川さんが参加者に対して「面白がり力を発揮して欲しい」と言われたのがとても印象的です。参加者には経験豊富であるとともに好奇心旺盛な人が多かったので、新しい方法論や人間性に触れることが楽しく、プログラムを走り抜くモチベーションになったと思います。
実際にプログラムを修了して得た最も大きな学びは、黒川さんからもお話のあった「立ち止まって考える力」です。経験豊富な人は、前例に基づいて、ついつい課題の解決方法を短絡的に考えやすい。プログラムの中では、直感的に問題を解決する思考法をシステム1とし、その上で物事をしっかり俯瞰して多様な視点から深掘りする思考法をシステム2として上位に置いています。プログラムを通じて、参加者たちは、日常業務の中で経験豊富であるがゆえにシステム1的な対応をすることが多かったと再認識させられました。また思考をシステム2に移行するためには「エンパシー」、すなわち他者への共感が重要だと一様に気づかされました。
クライアントにしろ、一緒に仕事する同僚にしろ、対峙するのはいつでも人間です。目の前にいる人の気持ちや個人のモチベーションを理解できないと、正しい解には辿り着けない。その共感のための方法論やツールも数多く教えていただきました。
「立ち止まって考えること」と「共感すること」の2つは、今後私が物事を考える上で大きなプリンシプルになったと思います。
出澤:
共感はひとつのキーワードですね。Community of Solversはまさにコミュニティを形作っていきますが、そこには多様な人材がいるだけでなく、結集させて化学反応を起こす必要がある。立派なリーダーが1人いれば化学反応がすぐ起きるかというと、そうではない。意見に耳を傾ける、共感することが重要ですよね。
黒川:
プログラムにはさまざまなテーマが散りばめられていますが、その1つが「多様性」です。これはCommunity of Solversにもつながるキーワードだと思います。「多様性がイノベーションや組織のパフォーマンス向上に直結する」という研究・実証は多いですが、もう1つの問いの軸が実は忘れられがちです。それは「なぜ多様性が表出しないのか」というものです。多様性は共感力を備えたリーダーシップがあればこそ、うまく表出させることができるのでしょう。
岩嶋:
その他にも、プログラムではリーダーシップにはさまざまなスタイルがあること、リーダーの判断を誤らせるさまざまなバイアスの種類、そしてリーダーシップの源泉となっているさまざまなパワー、すなわち影響力、知識、ポジション、オーソリティ、パニッシュメントなどがあることを学びました。それらを場面や相手に応じて使い分けることができなければ、真のリーダーシップは発揮できない。自分にはまだまだ足りない素養がたくさんあると痛感しました。
黒川:
リーダーシップを煎じ詰めていくと、その根底には「意識的に選択して行動すること」があると思います。外部環境に依存したり、上司に指示されて動いたりするのではなく、自分が全てを選択しているという意識で行動することが大事で、そこからさまざまな化学反応が起きるメカニズムが生まれます。
プログラムで習得するリーダーシップの18のコンピテンシーにはそれぞれラベルが貼られていて明確な定義もあるので、意識して実践しやすく、再現性も高まる。また共通言語化しやすいため、組織内にどんどん広がるという副次作用も起きます。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 岩嶋泰三
リーダーシップの根本に意識的に選択して行動することがあるというご指摘ですが、日本社会には積極的な発言や主体的な行動をためらう空気感があるのではないでしょうか。プログラムを実施する際にも、海外との違いは感じますか。
黒川:
そういった傾向は確かにあると思います。ただ私は発信側にのみ着目するのではなく、受け手としての器の大きさが非常に大事だと考えています。過去に学んだことをアンラーン(学習棄却、学び直し)したり、自分の経験則を脇に置いて対象を見聞きしたりするのもリーダーシップの1つの発揮の仕方だからです。プログラムでも自分自身を深く理解することを土台とし、無意識下でバイアスにとらわれていないか、思考訓練を繰り返します。意見を伝える・聞くという相互作用が大事で、受け手側の受容力があるからこそ多様性や集団の能力が表出するケースも多いと思います。
出澤:
なるほど。話すこと・聞くことの相互作用が大事であるという指摘は非常に興味深いです。ともすれば、日本社会において考えなければならないことは、「リーダーを育てることができるリーダーシップの在り方」だと私は思いました。能力を身につけさせるのではなくて、意見を促し、表に出させるリーダーシップです。それはインクルージョンを実現する力、もしくは巻き込む力の1つとも言い換えることができるかもしれませんね。
今後の展望についてそれぞれのお考えや目標を聞かせください。
黒川:
プログラムの観点からお話しするならば、短期的には受講したリーダーの方々がしっかりとビジネスの成果を出し、より良い人生を生きて欲しいと願っています。またプログラムではスポットで使うスキルというよりも、恒常的に引き出していけるタイプの思考習慣を養っていただいています。中長期的にはその成果が染み出し、企業や組織が強くなり、さらに会社という枠を超えて社会全体のリーダーシップが底上げされていくことを願っています。
さらにその先には、リーダーの素養をより具体的かつ明示的に語ることができる組織が増えることで、高校や大学など教育機関が反応し、企業や社会の意向を反映した教育プログラムを形作っていくというような変化が現れることが、私の最終的な理想です。
岩嶋:
リーダーシップはポジションではなく行動です。今の時代に必要なリーダーシップを身につけたCommunity of Solversが、大きく広がっていくことを願っています。特に若い人たちにプログラムを体験してもらい、新しいリーダーシップスキルの考え方をしっかり身につけていって欲しいです。
その意味で、先ほど出澤さんがおっしゃったように、これから日本にはリーダーを育てることができるリーダーがもっと必要であると思います。
出澤:
リーダーシップをどのレベルで醸成すべきかという私たちが対峙しているテーマは、多くの日本企業に共通したものとなっています。PwCのリーダーたちは、今回のプログラムを通じてさまざまな気づきを得て、自己変革を起こそうとしています。実際にその自己変革を起こすことができた時、私たちは自身の外に向けて良いアドバイスができる存在になれるのでしょう。
答えがない新しい課題が増え続ける中、自分たちがまずチャレンジしないと始まりません。挑戦を経験に変え、社会に必要とされるインパクトのあるプロフェッショナルファームとなり、社会に一大変化をもたらせるよう一歩々々進んでいきたいと思います。
本日はありがとうございました。