PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)は2024年7月、新たな経営体制を発足し、経営目標として「Trust and Transformation(信頼と変革)」を定めました。社会全体が大きな過渡期を迎えており、多くの企業がそれに対応するための変革に取り組んでいます。変革が起きるとき、これまでにはなかった概念や事象が発生しますが、それらが社会に受け入れられるためには「信頼」が必要です。私たちは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパス(存在意義)を掲げており、企業や社会に起きる変革を信頼に基づいたものにしていきたいと考えています。
外部環境の変化によって否応なく起きる変革に適切に対応し、自らの意思で起こそうとする変革の成果を真に社会に定着させるためには信頼が欠かせません。「Trust and Transformation」を定めた背景にあるのは、社会における不可避の大きな変化です。私たちはこの変化を長期的な視点で捉え、世界を変える大きな要因として5つの「メガトレンド」に整理しています。これは企業や社会に対してさまざまな変革を迫り、信頼構築の必要性を際立たせるものでもあります。
例えば「気候変動」。食料価格の高騰や自然環境の悪化といった形で問題が顕在化していますが、これに対抗するには国家という単位ですら足りず、文字通り地球規模での対策が必要です。それを実施するためには、国家や地域、そして個人の、イデオロギーや利害関係などを超えた信頼が基盤として存在していなければなりません。
生成AIや量子技術といった革新的なテクノロジーの相次ぐ登場は、「テクノロジーによるディスラプション(劇的な変化)」の象徴と言えるでしょう。その変化は非常に大きなものですが、間違った使い方をすれば、有害な結果もまた大規模にもたらされることとなります。使用に際してのルール形成などを通じて信頼が構築されているかどうかは、テクノロジーが社会に定着するための非常に重要なポイントになるでしょう。
「人口動態の変化」は、社会制度の破綻や重要分野での労働者不足の原因となる懸念があります。失業や不完全雇用の急増、社会的セーフティネットへの負担増といった問題につながれば、結果的に社会に対する信頼が揺らぐことになります。
地政学リスクの高まりとともに注視しなければいけない事象が「世界の分断化」です。影響力を求めて競い合う国家が増える一方、それに同調する国々や、世界情勢を不安定化させるような動きもあります。そうして国家や地域間での信頼が失われ始めれば、分断化はさらに加速することとなるでしょう。
そして、先に挙げた4つのメガトレンドは、最終的に「社会の不安定化」に帰結します。社会全体が不安定になり、信頼の失われた世界を想像してみてください。広範な社会制度から身近な衣食住、そして将来にいたるまで、「これは信頼できるのだろうか」と常に疑わなければいけない世界では、人々が何気ない日常を送ることすら難しくなります。
今世界で起きているさまざまな出来事は、1つ1つを見れば過去にも類似のものが発生しています。しかし、足元ではそれらが同時に起き、かつ複雑に絡み合うことで課題解決をさらに難しくしています。つまり、あらゆる場面で社会から信頼が失われ、当たり前の生活を当たり前に送ることができなくなる懸念があるのです。
では、こうしたメガトレンドを乗り越え、信頼の構築と変革の実現を可能にする存在となるには、私たちはどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。
PwC Japanには、会計・監査や税務、法務、経営戦略、リスク管理、テクノロジー、M&Aなどの幅広い専門家が所属し、そうした専門性を掛け合わせて、企業や社会における信頼の構築と複雑な課題の解決に取り組んできました。
これまでの取り組みをさらに強化し、信頼と変革を推進していくために欠かせない要素として、PwCグローバルネットワークで新たに定められた「組織基盤」と「戦略領域」を軸に考えています。
組織基盤とはPwCがプロフェッショナルとして業務に臨む際の姿勢であり、あるべき理想の状態について示したものです。これを「Trust」「Unity」「Focus」という言葉で表現しました。相互の信頼を礎とし、そこから組織の壁を越えて1つになり、取り組むべき領域に注力する、という流れでこれらの概念は連環しています。こちらは次章にて、PwC Japanグループ副代表の吉田あかねより詳細をご説明します。
戦略領域は、「社会は何を求めているのか」をまず考え抜き、そこを起点に私たちが重点的に取り組んでいくべきビジネスの領域をまとめたものです。こちらは第3章で、チーフ・ストラテジー・オフィサーの桂憲司が具体的なビジネスの展望と併せてご紹介します。
PwC Japanのビジネスは企業からの需要に応えて幅広い分野に広がっており、それに伴って当グループにはさまざまな分野の専門家が集うようになっています。多種多様なバックグラウンドを持つ人材が真価を発揮できるよう、どのように働きやすい環境を整え、その成長を後押ししていくのか。その仕組みづくりについてはチーフ・ヒューマン・リソース・オフィサーの後藤孝江が第4章にてご説明します。
信頼と変革の担い手となるためには、私たち自身が、信頼される社会的基盤であることが何より必要です。自らを律するための仕組みをどのように設け、まず私たち自身が社会や企業から信頼される存在であるために何をしているのか。第5章ではその観点からチーフ・リスク・オフィサーの和田渉がお話しいたします。
PwC Japanは業績、人員ともに着実な成長を続けています。その経営を担う者として、私たちにはまだ大きな成長の余地があると考えています。ただ、それは単にビジネスとして売上や利益だけを追求していくという意味ではありません。社会の複雑化によって難しさを増した課題が山積している中、私たちはそれらの解決に貢献し、結果として自らも成長していくことを目指しています。PwC Japanはこれからも、信頼の構築と変革の実現に総力を挙げて取り組んでいきたいと考えています。
PwC Japanグループ 代表
PwC Japan合同会社 代表執行役会長
PwC Japan有限責任監査法人 代表執行役
公認会計士、公認不正検査士(CFE)。2020年7月より監査法人の執行役副代表(アシュアランスリーダー/監査変革担当)を務める。 2024年7月にPwC Japanグループ代表に就任するとともに、監査法人の代表執行役を兼任。