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PwC Japanグループは2024年7月23日、教職員や自治体関係者を対象にした次世代教育に関するセミナーを東京・大手町で開催しました。「テクノロジーが加速度的に発展する中で、私たちは次世代の教育とどう向き合うべきか」をテーマに、デジタル時代を生きる子どもたちが持つべきスキルやマインドセットについて理解を深め、これからの社会に求められている教育環境について議論しました。
セミナーでは、教育分野の有識者やPwCの専門家が、自主的な学習能力や対話力、問題提起能力の重要性など、次世代教育のあり方について、座談会形式で活発な意見交換を行いました。また、PwCのTechnology LaboratoryでVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの最新テクノロジーを体験するセッションや、参加者どうしのワークショップも開催し、次世代教育について考察しました。
社会の変化に対応するため、教育現場ではテクノロジーを活用した新しい学習方法の導入や、未来を見据えたスキル育成の重要性が高まっています。テクノロジーの進化が加速の一途をたどり、過去に重視されたスキルの陳腐化が容易に起こる時代です。今回のセミナーは次世代育成に求められているものは何か、テクノロジーの専門家と人材育成の専門家、教育関係者がそれぞれの視点から議論を深め、教育現場での実践に向けた具体的なアプローチを共に考えました。
第1部の体験セッションはPwCの施設の一つである「Technology Laboratory」で実施しました。Technology Laboratoryは先端技術に関する幅広い情報を集約した施設で、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府機関の産業政策や技術革新を総合的に支援することを目的としています。
体験セッションでは「ハプティクス技術を利用した遠隔操作」「ハッキングされた車のドライビング体験」「VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を応用したレジリエントオフィス」の3つを体験しました。
ハプティクス技術は触覚を利用したフィードバックや情報伝達を可能にする技術で、振動や力などを通じて、ユーザーに触覚的な感覚を提供します。具体的な活用例としては、ロボットアームによる遠隔医療や危険な場所での無人作業などが挙げられます。例えば都市部の専門医が過疎地の患者に対して手術をしたり、ロボットアームとハプティクス技術を組み合わせて触診をしたりすることが可能になります。
自動運転技術の普及に伴い、車載システムを狙ったハッキングのリスクも増加しています。Technology Laboratoryでは車載ネットワークのセキュリティ実証実験プラットフォームを用意しており、ドライビングシミュレーターでハッキングされた状況を体験できます。実際に体験した参加者からは「突然ハンドル操作が効かなくなった場合、『ゆっくりブレーキを踏んで路側帯に停止する』と頭でわかっていても、パニックになってハンドル操作で何とかしようとしてしまう。実際の道路でハッキングが起きたら恐ろしいですね」という声が上がりました。
VRゴーグルを利用したレジリエントオフィス体験では、Technology Laboratoryで火災が発生した状況を構築し、ARで表示された経路に沿って避難する訓練を体験しました。小学校の教員である参加者は「学校でも定期的な避難訓練はしていますが、実際に避難する場合、どこで人流が滞るかは把握できない部分もあります。VRやARを使ってよりリアルな状況を想定できれば、万が一の際にも落ち着いて誘導できると思います」と学校でも利用してみたいと語りました。
第2部のセミナーでは文部科学省総合教育政策局の濵健志朗氏、名古屋市教育委員会事務局の畑生理沙氏、埼玉県久喜市立久喜小学校教諭の林大輔氏をお招きし、「テクノロジーが加速度的に発展する中で、私たちは次世代の教育とどう向き合うべきか」をテーマに、座談会を実施しました。
座談会冒頭、PwCコンサルティング合同会社執行役員でパートナーの三治信一朗が「テクノロジーの現在地点」と題し、テクノロジーの重要性と教育現場における活用について現状を説明しました。
三治は「1960年代のアポロ計画以降、工学分野の人材が増加し、さまざまな産業に波及したことで経済成長が促された」と説明。生成AIなど、最新テクノロジーの基礎には数学や算数の考え方があり、これらを教育することが重要であると強調しました。また、量子コンピュータや核融合など今後注目されるテクノロジーを理解して共存していくには、テクノロジーの利用環境の変化に迅速に対応し、社会受容性の高いテクノロジー活用を創造できるような人材の育成が重要だと強調しました。
続いて登壇したPwC Japanグループ チーフ・カルチャー・オフィサーの佐々木亮輔は「イノベーティブな人材とは、育成するために必要な環境とは」をテーマに、テクノロジーの進歩が仕事に与える影響について、PwCが実施した調査結果を紹介しながら説明しました。
PwCが2021年にグローバルで実施した「デジタル環境変化に関する意識調査※」によると、日本は多くの人がテクノロジーの変化に不安を感じているものの、スキルを身につける機会が少ないことが示されました。例えば、「職場に導入される新たなテクノロジーに順応できる」と回答した比率は、米国が40%、ドイツが34%だったのに対し、日本はわずか5%でした。
※https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2021/assets/pdf/hopes-and-fears-jp2021.pdf
佐々木はこの調査結果などを踏まえ、今後求められる人材像について、「今後はテクノロジーを前向きに捉え、理解・活用できる人材、さらにテクノロジースキルだけでなく、対人スキルやイノベーション力のある人材が求められます」と述べました。また、テクノロジーが発展するからこそ、人には対人スキルや経験の共有能力、多様な考えをまとめるリーダーシップが一層重要になると強調しました。
三治と佐々木の説明を受け、最初のディスカッションでは「これからの社会(10年後の世界)を生き抜くために、テクノロジーを作る・使いこなすスキルが必要だとした場合、どのようにそれを学校現場で育成できるか?」をテーマに登壇者が考えを述べました。
議論の出発点として、現在の子どもたちとテクノロジーとの関係性が話題に上がりました。林氏は「子どもたちのテクノロジーとの距離感は確実に縮まっていく」としたうえで、「テクノロジーとの距離感には個人差があり、それぞれの特性に応じた教育アプローチが必要です。学校という組織でテクノロジーを使える人たちが増えることで、他の子どもたちの興味関心も高まっていくでしょう」と述べ、多様性を認めつつも、テクノロジーへの親しみを深めていく環境づくりの重要性を指摘しました。
こうした観点から「テクノロジーを活用した体験学習の場」は今後ますます重要になると登壇者は一致して指摘します。畑生氏は「テクノロジーの学習は座学ではなく実際に触れて経験することで理解が深まります。体験を通じて『楽しい』『使えそうだ』と感じることが、学習意欲につながります」と、体験型学習の効果を強調しました。
また、畑生氏は名古屋市の先進的な取り組みとして、市立中高へのキャリアナビゲーターの全校配置や、キャリア教育推進センターの事例を紹介しました。名古屋市ではキャリア教育推進センターを通じて、企業と学校のニーズをマッチングする仕組みを構築しています。畑生氏は「この取組にはPwCをはじめ、多くの企業が参画しており、子どもたちが本物の職業人と触れ合える機会の創出に協力してくださっています」と説明しました。
一方、濵氏は体験型学習の一例として、京都府京丹後市の副市長時代に取り組んだSTEAM教育(※)を紹介しました。濵氏は体験学習で重要なのは「境界線をなくすこと」だと指摘します。学校と地域社会の境界を取り払い、教科横断的な学びや地域と学校の連携を通じて、社会全体を学びの場にすることを目指したといいます。
※STEAM教育……Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)を統合的に学ぶ教育アプローチ。これらの分野を横断的に学ぶことで、創造性、批判的思考力、問題解決能力を育成する。
「中高生と大人が同じ目線で地域の課題に取り組み、繰り返しニーズ調査を実施して何が求められているのかを明確にします。そして(課題解決施策の)プロトタイプを作成し、既存の枠を超えて徹底的に実践して実際に試行錯誤を重ねています。」(同氏)。
さらに、「重要なのは”Thinking out of the box””(既成概念にとらわれないこと)と、失敗を恐れないことです。失敗してもいいから、前向きに挑戦しよう」という姿勢と、子どもも大人も同じマインドセットとして取り組むことです。その結果が、それぞれの新たな発見につながっていきます。」と濵氏は締めくくりました。
こうした観点から「テクノロジーを活用した体験学習の場」は今後ますます重要になると登壇者は一致して指摘します。畑生氏は「テクノロジーの学習は座学ではなく実際に触れて経験することで理解が深まります。体験を通じて『楽しい』『使えそうだ』と感じることが、学習意欲につながります」と、体験型学習の効果を強調しました。
また、畑生氏は名古屋市の先進的な取り組みとして、市立中高へのキャリアナビゲーターの全校配置や、キャリア教育推進センターの事例を紹介しました。名古屋市ではキャリア教育推進センターを通じて、企業と学校のニーズをマッチングする仕組みを構築しています。畑生氏は「この取組にはPwCをはじめ、多くの企業が参画しており、子どもたちが本物の職業人と触れ合える機会の創出に協力してくださっています」と説明しました。
一方、濵氏は体験型学習の一例として、京都府京丹後市の副市長時代に取り組んだSTEAM教育(※)を紹介しました。濵氏は体験学習で重要なのは「境界線をなくすこと」だと指摘します。学校と地域社会の境界を取り払い、教科横断的な学びや地域と学校の連携を通じて、社会全体を学びの場にすることを目指したといいます。
※STEAM教育……Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)を統合的に学ぶ教育アプローチ。これらの分野を横断的に学ぶことで、創造性、批判的思考力、問題解決能力を育成する。
「中高生と大人が同じ目線で地域の課題に取り組み、繰り返しニーズ調査を実施して何が求められているのかを明確にします。そして(課題解決施策の)プロトタイプを作成し、既存の枠を超えて徹底的に実践して実際に試行錯誤を重ねています。」(同氏)。
さらに、「重要なのは”Thinking out of the box””(既成概念にとらわれないこと)と、失敗を恐れないことです。失敗してもいいから、前向きに挑戦しよう」という姿勢と、子どもも大人も同じマインドセットとして取り組むことです。その結果が、それぞれの新たな発見につながっていきます。」と濵氏は締めくくりました。
では、こうした環境を構築するために、教師をはじめ教育に携わる大人は何をすべきなのでしょうか。林氏は「以前の教育現場と比較すると、現在は教師の役割が変化しています」と指摘します。「これまでは教師が一方的に教える立場でしたが、今後は子ども中心の学びの環境を構築し、自立的な学び手を育てることに重点が置かれます。正解を教えるのではなく、適切な問いかけをする力を養うことが重要です」と述べ、教師がファシリテーターとしての役割を担うことの重要性を指摘しました。
「教師の役割は、子どもたちと対話し、その願いや思いを尊重しながら、チャレンジを応援していくことです。そのためには、教師自身も社会の変化に対応し、前向きに捉える姿勢が必要です」(林氏)
登壇者が一様に指摘したのは「教科横断的なカリキュラムの設計」です。その背景に、Society 5.0時代に向けて総合的な学習の
時間を活用し、教科横断的なカリキュラムをデザインすることで人間としての強みを育成する必要性が挙げられました。林氏は「各教科の本質を理解し、それを日常生活と結びつける視点を持つことで、子供たちの学びがより深まります。例えば、ペットボトルを題材に、社会科では物流の観点から、理科では化学的な視点から学ぶなど、一つの題材においても、捉え方は教科によって変わります。総合的な学習の時間では、教科で学んだ知識を活用して、子供たちに身近な学習対象を多角的に捉えることで、探究的な学びが充実していきます。」と説明しました。
畑生氏はキャリア教育の本質は「基礎的・汎用的能力の育成」だと指摘します。そのためには「人間関係形成」「自己理解」「課題対応」「キャリアプランニング」の4つの能力を育てることが重要であるといいます。さらにこれにプラスして子どもの発達段階に応じて、体験の幅を広げていくことも重要だと説きました。「例えば、3Dプリンターなどの最新技術に触れる機会を設けたことで、子どもたちの興味を広げることにつながった事例があります。本物の体験は、課題対応能力やキャリアプランニング能力の育成にも役立ちます」(同氏)。
さらに畑生氏は、こうした体験を通じて育まれる共感力の重要性も指摘しています。「さまざまな背景を持つ子どもたちが時間と場所を共有し、体験を通じて互いの違いを認め合う。そうした“共感力”を育むことが重要です」と付け加えました。
教育の本質的な価値について三治は、ロボット工学の世界的権威である米国カーネギーメロン大学の金出武雄氏から「良いパンは良い麦からというように、良い教師から良い人材が生まれます」という助言をいただいたエピソードを紹介しながら、「テクノロジーで生産性を上げることも大切ですが、人材育成に携わる教育者が教育の本質的価値を忘れてはならない」という考えを強調しました。
最後は、PwC Japanグループが中学生向けの探究授業プログラムとして開発した「未来のしごとワークショップ」を、参加者に体験してもらいました。同プログラムは、現存する仕事にテクノロジーを掛け合わせながら、今はまだ予測のつかない未来の仕事について、生徒たちがディスカッションすることで、未来に向き合うマインドセットを育成することを目的としています。
あるグループは、「教師」というしごとの未来についてディスカッションしました。現在の教師が抱える課題の洗い出しでは「教師数の減少で仕事の負担が増加する」「生徒一人ひとりに寄り添えていない」「最大公約数の対応しかできていない」「異常気象により登下校の安全確保が難しくなった」「保護者対応が多い」といった、さまざまな課題が挙げられました。
こうした課題をテクノロジーで解決するには、どのようなアプローチがあるのでしょうか。ディスカッションでは「AIや自動化でこれまで把握できていなかった生徒の行動を記録し、評価の参考にする」「保護者の相談事をデータベース化して分析し、効率的な対応を目指す」といったアイデアが語られました。そして、教師の未来像として、生徒が直面するさまざまな課題を理解し、適切な支援をする「インキュベーションコーディネーター」の役割を担う存在になるとの結論に至りました。
参加した教師からは「課題の洗い出しではメンバーの話に共感したり、悩みを深掘りしたりできました」「生徒を進路指導する場合でも、自分が新しい職種を知らなければ相談にも乗れません。教師のスキルアップという観点からもとてもよい機会になりました」といった感想が聞かれました。
テクノロジーの進化は今後ますます加速し、新たなスキルやこれまで存在しなかった仕事が生まれることは間違いありません。急速に変化する時代だからこそ、多様性を理解し、コミュニケーション能力や共感力を育むこと。そして、新技術の活用能力と人間ならではの創造性や問題解決能力を伸ばしていく教育が求められています。これらを実現するためには、教育関係者、企業、地域社会が連携し、従来の境界を超えて取り組むことが不可欠です。
今回のセミナーは、このような次世代教育の実現に向けた具体的な方策を考える機会となりました。ある参加者は、「他者への共感は体験から生まれると思います。自分もTechnology Laboratoryの体験を通じて『体験学習』の重要性を再認識しました」と感想を語ってくれました。
PwC Japanグループはこれからも、「Human-led, tech-powered(人ならではの発想力や経験と、テクノロジーによるイノベーションとを掛け合わせる)」を体現できる、次世代の育成に貢献してまいります。
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